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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
58/71

58 実況者+審査員

 ◇


 会場内には、多くの人が集まっていた。スタンド席は、ほぼ満員の観客で埋まっている。熱気のような盛り上がりは感じられないが、何かを期待するような雰囲気に包まれていた。

『こちら、実況席です』

 そんな会場内にアナウンスが、聞こえている。

『一回戦、第五試合は、間もなく行なわれます。観客の皆さまは、今しばらくお待ちください』

 昼休憩も終わり、第五試合の開始は、刻一刻と迫っていた。

『本日の第五試合は、特別ゲストを呼んでおります』

 アナウンスを聞いているのか、いないのか、会場内のざわつきに変化は感じられない。大会を観戦しに来たのだから、ゲストが誰であろうと特に意味はないのだろう。アナウンスが、ほとんど耳に入っていない人もいるかもしれない。

『特別ゲストは、審査員席で審査員として参加していらっしゃいます』

 会場内には、実況席と審査員席が、それぞれ個別に作られていた。観客のいるスタンド席とは混ざらないように、石壁で仕切られている。戦闘の行なわれるグラウンドからは、少し高い位置で、中二階といったところだろう。

『その特別ゲストとは、十年戦争を独自のやり方で終結へ導いた、かの英雄。どの勢力にも属さず、真っ向から世界と戦った、武野浩一様です』

 アナウンスが、いろいろと余計なことを話し出した。

『その当時、最強としてうたわれた光の加護を持つ者、勇者。その双璧として、同じく最強と言われた闇の加護を持つ者、覇王。その両者が、壮絶な最期を遂げた時、異世界より現れた英雄、その人です。その英雄が、今、ここに現れました』

 アナウンスを聞いて、観客の反応に少しずつ変化が現れ出した。会場に運ばれてくる声を拾おうと、おしゃべりをやめて空中に意識を向ける者が、少しずつ現れてくる。審査員席から見て、そう感じるだけだから、意識を向けている者は、かなりいるかもしれない。

『戦争終結後、長らく行方不明となっておりましたが、この度、その無事を確認することが出来ました。英雄様は、異世界に戻っていたのです。御自身の役割を終えて、何も残さずに立ち去るとは、さすがとしか言いようのない行ないです』

 実況者が、淡々と語っていく。

 何かが、違う。僕の意思とは関係なく、話がされている。

 昼休憩で落ち着いた観客の気持ちを、少しでも盛り上げようとしているのだろうが、事実と反することを口にされては、困る。話している内容は、事実を元にしているから、全くの嘘というわけではないが。

 それにしても、どこからこんな情報が流れているのだろう。

『忙しい中、せっかくお越しいただいていますので、始まる前に一言いただきましょう』

 実況席から審査員席へ、話が振られた。

 僕の目の前にある石が光り出す。

 審査員席は、一人一人個別に設備が準備されている。机と椅子が用意され、机の上に茶碗のような形をした集音装置があり、手元には三つの鉱石の埋め込まれた箱型の装置がある。ちなみにテンカは、その机の片隅でおとなしくしていた。

 準備された各装置を簡単に説明する。

 集音装置は、文字通りのマイクである。

 鉱石の埋め込まれた箱型の装置は、マイクのスイッチ、審査ランプの点灯スイッチ、実況席との連絡用スイッチだ。

 現在光っているスイッチは、そのうちの実況席との連絡用である。これを押せば、実況席と会話ができるようになり、同時に僕の声がグラウンドとスタンド席に響き渡る。

 僕は、観念して、光るスイッチに触れた。マイクに向かって言葉を放つ。

「……こんにちは。武野浩一です」

 僕の声が、会場内に拡散する。自分の声が、自分の口以外から聞こえてくる。傍から聞いていると、変な感覚だ。さっさと終わらせてしまおうと思った。

「……しっかりと見させていただきます。参加者の皆さんは、悔いの残らないように頑張ってください」

『はい、ありがとうございました。特別ゲストの武野浩一様でした』

 僕のコメントを受けて、会場の様子は、あまり盛り上がっていない。ささやき声でかわす話題を提供したぐらいだ。

 そのことは、実況者も感じているのだろう。さっさと次へと進めていく。

『本日、及び明日の第二試合は、英雄様が審査員として参加されます。今後も、特別ゲストはいらっしゃいますので、こちらもどうぞ、ご期待ください。さて、長らくお待たせいたしました。間もなく、プレイヤーの入場です』

 特別ゲストの紹介の間に、すべての準備が整ったらしい。実況者が、うまく時間を繋いでいた。

 盛大な音楽が、会場に響き渡った。吹奏楽だろう、会場内で音楽を奏でている一団がいる。グラウンドからは、最も離れた場所だが、しっかりと会場内に響いている。

 音楽に押されるように、グラウンドで動きがあった。

 グラウンドに通じる出入り口から入場する者がいる。対面の出入り口から一人ずつ、計二人の参加者が、観客たちの前に現れた。

 一人は、普通の体格の普通の人間。自身の身長よりも長い棒を一本持っている。その側には、卵型の精霊もいる。

 もう一人は、巨体を誇る精霊。全体的に赤みのかかった体をさらしている。対戦者とは倍以上の体格差があるようだ。

『さあ、入場して参りました。西から来たのは、予選をトップのポイントで通過した、今大会優勝候補筆頭、レンロク=モーク選手! パートナーとの鮮やかな連係は、一瞬たりとも見逃せません!』

 一人が紹介されれば、対戦すべきもう一人が続いて紹介される。

『対して、東から入場して来たのは、その巨体にものを言わせた真っ向勝負、どんな壁も正面から吹き飛ばす、《堅牢の赤土》フィーズ選手! パワー溢れるその体から、どんなアタックを仕掛けるのか! 注目です!』

 実況者の言葉から簡単に判断すると、両者は正反対な性質を持っているようだ。片方は連携重視、片方は力技重視。それぞれに長所短所が存在する。

 そんな両者が、相対することになった。

「あんま、面白味がねえな」

 テンカが、上から覗き込むように審査員席の端からグラウンドを見下ろしている。

「……そうなのか?」

「ああいうのは、単純に隠し持っている手札の数で勝負が決まるからな。決まる時はあっという間だし、決まらない時はグダグダと長引く。見ているだけじゃ、面白くもねえ」

 テンカは、退屈そうに丸い体を机の上で横に転がした。言外に、見ていたくないと言っているように感じる。

 テンカとしては、参加する方が良いのだろう。だが、今回は、戦わせてやるわけにはいかない。この決勝は、予選を突破した人たちが参加している。テンカには、その機会がなかったのだから、その時点で諦めてもらうしかない。もっとも、参加する理由がないため、最初から参加を許可しなかったと思うが。

 参加者が、グラウンドに設けられた待機場所へと移動した。

 それに続いて、さらに運営スタッフが入場してくる。今回の対戦を取り締まる審判員だ。主審が一人と副審が二人の計三人である。

 審判員たちが、定位置へと付いた。そこから対戦する参加者二名を呼んでいる。

 主審の元へと参加者、および副審が集まった。

 そこで何やら話がされている。ルール確認などをしているのだろう。

 話し合いは、すぐに終わった。参加者は、副審に連れられて、それぞれが、対戦の開始地点へと誘導されていく。

 それら一連の流れを静かに見守っていたのだが、沈黙していた実況が、ここから再び動き出した。

『準備が整ったようです! スタートの合図まで、いよいよです!』

 実況の声に従ったように、観客で埋まった会場が静寂に包まれる。

 それを見計らったかのように、審判が動いた。下ろしていた両腕を空に向かって、勢いよく振り上げる。

 会場全体に響き渡る、ブザー音が鳴る。

 それが、開始の合図だった。

『さあ、始まりました! 決勝トーナメント! 一回戦、第五試合!』

 実況が激しく始まったが、同様に、対戦も激しく始まっている。

 最初に動いたのは、フィーズだ。巨体に見合った巨木の幹のような腕を下ろして、グラウンドに両手をついた。

『おーっと、フィーズ選手が、先制! 足下から土の塊が飛び出す! 無数の弾丸が、レンロク選手を襲う!』

 フィーズの足下の地面から、土塊がレンロクに向かって何発も飛んでいく。レンロクの動きをけん制するのが目的だろう。

 レンロクは、開始早々に足を止められた。フィーズに向かって前屈みに進んでいたのを急停止し、右へと大きく飛んで進路を変える。

『レンロク選手、大きく迂回してこれを回避する! そのままフィーズ選手へと接近して行くぞ!』

 土塊は、直線的に機械的に飛ばされているようだ。動き続けているものを追尾するような魔法ではないらしい。

 レンロクは、迂回して土塊の飛来する範囲から無事に逃げ切った。そのまま、フィーズへと向かって走り、手に持つ棒を勢い良く回転させて行く。その手には、青い光が集まっていた。

 そのまま進むレンロクと迎え撃つフィーズ。二人が、対峙した

『両者、接敵! レンロク選手の棒が、煌めく! フィーズ選手に向けて、乱れ打ちだ!』

 先に動いたのは、レンロクだった。回転させるように棒を回して、魔法によって強化を施された棒の先をフィーズに向かって、打ち付けていく。

 巧みな動きで、前後左右、フィーズの目の届かないような場所にも打撃が舞う。

 フィーズの巨体は、目標物として容易に捕らえられる。その体には、何発もの打撃が打ち込まれていく。

『フィーズ選手、防戦一方! レンロク選手の攻撃を巨腕で迎え撃つ!』

 フィーズの足下には、茶色に輝く魔法陣が描かれていた。

 フィーズは、その上にどっしりと構えて立ち、素早く放たれるレンロクの打撃を凌いでいた。

 体格的な問題で言えば、フィーズのほうが圧倒的に有利だ。ここで場が、こう着するようならば、レンロクに勝ち目はない。

 そう思いながら観戦していると、レンロクの振るう棒が、空振りをした。

 フィーズの巨体を狙っていた攻撃が、フィーズの足下を打ち付けた。その瞬間、レンロクの棒の先で魔法陣が描かれる。

『爆発した!』

 フィーズの足下で爆発が起こった。

 レンロクが、攻撃に変化を付けるために起こした爆発だ。

 その爆発により、二人の対峙する一角に白煙が広がる。

 白煙が、二人の姿を覆い尽くす。

 あまり威力のある爆発ではないだろう。接近しているレンロクが、防げるだけの威力に抑えられているはずだ。目隠しの役割が強いかもしれない。

 だが、何の準備もなく受けたフィーズにとっては、そうではない。脅威に感じるには十分な変化のはずだ。

『レンロク選手、攻撃が変化する! これに対して、フィーズ選手は……』

 白煙の中からフィーズが、飛び出した。上空に向かって、大きく跳んでいる。

『飛び出した! たまらずに距離を取ったのか!』

 上空に逃げ出した形になったフィーズは、かなり高い位置にいる。

 そこに、追いかけるように、白煙の中から水の矢が飛び出した。

 水の矢は、放たれた数は少ないようだが、確実にフィーズの位置を捉えている。

 フィーズは、空中にいながら、それを横に移動して回避する。

『空中で避けたぞぉ!』

 フィーズの足が曲げられ、空中で力強く踏み込まれる。その度に、フィーズの体が移動する。踏み込まれた足とは逆の方向に、地面を踏み込むのと同じように、空中で体を移動できている。

 水の矢は、軽々と回避されてしまった。

 フィーズは、さらに空中で体を縮こまらせて、真下の白煙に向かって、突き進んだ。

 フィーズの着地と同時に、地面の上で新たな爆発が起こる。爆発により着地地点の地面が、弾け飛んだ。

 白煙が、散り散りに吹き飛ばされる。

『吹き飛ばされた! あの巨体による落下は、一溜まりもない! 周囲の地面も形を変えている!』

 魔法の力もあるだろうが、確かにグラウンドの地形を変えるだけの爆発を引き起こしている。フィーズの落下の衝撃で地面がめくれあがっていた。

 そこに漂っていた白煙が晴れ、視界を遮るものはない。

 それなのにレンロクの姿は、見当たらない。

 いや、正確には視界を遮るものはあった。グラウンドに立つ巨体、フィーズの体だ。

 フィーズの背後で、白い光が輝き出した。フィーズの背後に隠れて、レンロクが、棒を回転させて円を描いている。

 白い光が、輝きを増す。そこにあるのは、魔法陣だ。

 フィーズも、その存在に気付いただろうか。だが、気付いたところで、背後から即座に放たれた魔法に対処することは難しいだろう。

 一瞬のうちに白い光の帯が、フィーズに向かって放出された。

『魔法が放たれたぁー!』

 光の奔流にのまれて、フィーズは、グラウンドの端まで吹き飛ばされた。

 光の奔流の消え去った後には、うつ伏せに倒れ込んでいるフィーズだけが残っている。

『フィーズ選手、倒れたまま動かない!』

 主審、および副審の一人が、急いで倒れているフィーズの元へ向かった。

『審判が確認に向かいました。このまま、審判が対戦続行不可能とみなせば、勝敗が決定します』

 実況の声が、落ち着いた調子に戻っている。実況から見ても、かなりの大技だったようだ。普通に考えれば、これで勝敗は決定するのだろう。

 フィーズの近くに跪いて、確認をしていた主審が、両手を上げて、それを大きく交差させた。何度も振って、両腕を交差させる。

『続行不可能です! 審判、続行不可能と判断しました!』

 実況者が、状況を言葉にすると、その声を遮るように、観客から大きな歓声が起こった。そのほとんどは、レンロクに対する称賛だ。盛大な拍手が送られている。

『決勝トーナメント一回戦、第五試合、勝者は、レンロク=モーク選手です。皆さま、選手に惜しみない拍手をお送りください』

 実況者に言われるまでもなく、会場は、拍手が鳴り続けていた。それでも、締めの言葉として、実況者が選んだのが、これだったのだろう。

「……これで、終わりかな」

 僕は、無事に終わったことを安堵していた。コメントを求められるのかもしれないと言われていたことも、多少不安に感じていたのだ。

 試合の内容は、特に特筆するようなことはなかったと思う。定番、教科書通りと言って良いのではないだろうか。一回戦ということもあり、手の内を明かすような戦い方はしていないから、そういう戦闘になったのだろう。

 運営スタッフが、僕の座っている席へ近づいてきた。そのスタッフは、僕に終了を告げて、退席を促す。

 この後もまだ大会は続く。審査員も人員を交代することになるため、移動は速やかに行なう必要がある。

 僕は、迷惑がかからないようにさっさと立ち上がって、足取りも軽く歩き出した。向かう先は、すでに決まっている。


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