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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
57/71

57 暇つぶし+真っ黒

 ◇


 会場の調査は、裕也とセリアに任せて、僕は僕の仕事を進めている。

 向こうの世界では休日となり、この異世界では闘技大会の決勝トーナメントだ。

 予選は、一応、すべて終了している。一応というのは、穏やかではない結果も含まれていたからだ。案内をしてくれるスタッフに大会の様子を聞いた時の話では、どうやら、けが人が出たりしていたらしい。予選を途中で棄権している参加者も少なくないと言う。

 先日、観戦した時は、そこまで激しくなるような競技だとは思わなかったが、一部の参加者がかなり危うい手段を使って、勝利を得ていたと言う。ルール上は、特に問題のない行動だったということで、特に罰則は与えられていない。その参加者には、裏で注意はされたと言うことだが、その参加者の他にも危険な行動に出る参加者がいたため、なかなか収まらなかったようだ。

 僕たちが観戦した競技も、強引な手段を取る参加者がいたのは事実だ。ただ、あの程度ならば、魔法で防ぐこともできるはずだ。注意を受けた参加者は、それよりもひどい手段だったのだろうか。

 なにはともあれ、予選を勝ち抜いた十六名が、今日から始まる決勝トーナメントに挑む。

 僕が審査員として参加するのは、今日と明日の二日で、それぞれ一戦ずつだ。

 観戦するのは、今日は一回戦の第五試合、明日は二回戦の第二試合だ。最初でも最後でもない、何とも中途半端な時間帯を設定されている。

 今日は、早朝から皆でセリアに異世界へ連れて来てもらっていた。皆というのは、僕、光、裕也、テンカの三人と一体である。

 テンカは、僕と行動を共にするが、光と裕也は、僕とは別行動だ。

 光は、ヘレの屋台を手伝いに向かった。先日の手伝いで、トトクとロワが、かなり忙しくしている様子を見たためだ。

 精霊の作る料理というのは、かなり珍しい物らしい。

 普通の精霊は、食事に対して、こだわらない。食事を取る精霊は、少数派だ。そして、作る方になればさらに稀となる。

 そんな珍しい精霊の料理が、食べられる屋台。それだけで十分な宣伝効果があった。ヘレが、人型になって呼び込みもしているため、物珍しさも手伝って、最初から客足は良かったらしい。

 さらに、そこに新メニューが追加される。光が教えた、焼きそばと焼きそばパンだ。

 大会開催中に出された新メニューは、異世界では珍しい食べ物である。そして、ヘレの屋台の味が、かなりうまいと噂されていた所に、このメニューが現れた。タイミングが良かったため、客の気を一気に持っていくことになった。

 その結果、屋台は、一気に忙しくなる。

 時間は限られるが、光が援軍として加わるのは、かなり安心できるだろう。

 裕也は、セリアと組んで、ショウグンの調査を引き続き行なっている。

 光には未だ詳しいことを秘密にしているため、観光もしながら探すということになっていた。確信を得られる情報はまだないが、いろいろと情報は集まって来ているらしい。

 今日からは、現場で得られた違和感と把握しているデータを照らし合わせる作業をするという。かなり細かいところまでデータを見るから、朝早くから行なっている。

 そんなわけで、朝から皆は、それぞれ忙しくしていた。

 対して、僕とテンカは、暇を持て余していた。皆と一緒に来たために、朝早くから会場に何をするわけでもなくいた。

 現在の時刻は、昼少し前と言ったところだ。今は昼休憩の時間で、大会は一段落を付けている。

 昼休憩の後に、僕の観戦する第五試合が開始される。そのため、昼食は早めに食べてしまった。審査員として参加するまでの時間は、まだある。

 無駄に待ち時間が長いのも考えものだ。

 僕とテンカは、会場内を当てもなくさまよっていた。さまようと言っても、本当に迷ってはいない。ただの暇つぶしに出歩いているだけだ。

 暇つぶし場所として定めたのは、関係者用通路だった。関係者用通路を選んだ理由として、ショウグンのことが影響しているのは、否定できない。少しでも何か手掛かりを探したいと思っている。

「すみません、すみません」

 ショウグンは、何かと謝罪をする。

「大丈夫ですよ」

 僕は、何事もなく通路を見て回っていた。

「ま、慣れればどうってことないんだろ」

 テンカが、宙を浮きながら、僕の隣を進んでいる。

 ショウグンに取りつかれてから、速くも十日が過ぎ去っていた。幸いなことに、僕の体に目に見えるような変化は出ていない。体の調子は、本調子とは言い難いが、問題のない範囲だ。取りつかれている影響が判明して以来、テンカとショウグンの模擬選も行なっていない。無事に今回の件は乗り切れると思っている。

 それでも、ショウグンは、日に日に謝る回数が増えていた。何か、感じることでもあるのだろうか。単純に居心地が悪いだけかもしれないが。

 気にしても仕方がないことなので、この話は、その場その場で対処している。基本的には、細かく取り合わない。ショウグンが何を言っても、たいした反応を返さないようにしている。

 そうやって進んでいくと、テンカが、別れ道で左右に視線を振った。

「あんま進み過ぎて、迷うなよ」

「分かってる」

 僕は、頭の中の地図と現場の様子を確認して、進む先を決めていく。

 道順は、会場内をかなり歩き回ったため、だいぶ覚えている。裕也と一緒にすべての所を見て回ったのが大きい。歩きまわるのには、不安がなくなっている。

「後、あんまり選手と接触すんなよ」

「分かってる」

 審査員という立場から、参加者との接触は、基本的に認められていない。

 これは、そこまで厳格なものではない。長話や特別な交流がなければ、問題はない範囲だ。できる限り公正であるように、ということだろう。

 その辺りは、気を付けていれば大丈夫だ。歩いてすれ違うぐらいならば、問題ないと教えてもらっている。

「あんま、人がいねえな」

 僕たちは、かなり歩き回っている。だが、まだこの通路で誰とも出会っていなかった。

 この前、裕也と歩き回った時は、集団とぶつかることも多くあった。そのほとんどは、会場を移動する参加者だったが、大会を運営する作業員とも多くすれ違った。

「予選で、かなり人が減ったから」

 決勝に残っている参加者は、十六名。予選の時の三百名と比べれば、その減少は顕著だ。

 参加者が減れば、全体的な作業量も予選の時と比べれば、明らかに減る。作業量が減れば、自然と作業員の数も少なくなる。

 そして、関係者用通路を利用する者も減少する。

 人と会わないのは、予選の時と比べて数が減っているからで、自然な流れと言えなくもない。

 ただ、今は昼休憩の時間だ。試合が開催しているのならば、誰にも会わないのは、試合に人手が割かれているからという理由がつけられるが、今はその理由が見つからない。数が減っただけで納得して良いものか。

 もちろん、関係者用通路を外れた場所には、大会の観戦に来た方々や応援の方々が詰めかけている。一歩出れば、人の波を見る事が出来るだろう。

 通路の先からは、人々や精霊たちの喧騒が聞こえている。

「そんなもんかねえ」

 テンカの口調は、納得していないことを伝えていた。

 僕自身も、すんなりと受け入れられていないのだから、テンカの疑問をぬぐうことはできない。

 そんな、疑問を得てから歩いていると、人が近づいてくる気配がした。

 前方を注意深く見ると、比較的暗いこの通路の中で黒ずくめの人物がいた。黒い外套を羽織って、黒いフードをかぶっている。外套は、足元まで隠すほどに長い。

 そんな真っ黒な人物が、ゆっくりと真っ直ぐに歩いて来ていた。

 今、僕たちが歩いている場所は、直線の通路だ。横道にそれることはない。このまま歩けば、真っ黒な人物とすれ違うことになる。

「……」

 誰は、何もしゃべらず、口をきつく閉じた。

 僕の足は、ただ前に進み、同じように真っ黒な人物も前に進む。

 僕が一歩進めば、真っ黒な人物も一歩進む。

 二人が進めば、歩く速度の倍の速度で距離が縮まる。

 すぐに、綺麗な立ち姿の黒い柱が、僕の目の前に現れた。

「……」

 二人は、何事もなく、すれ違った。

 僕は、すれ違った後、思わず後ろを振り返ってしまった。

 振り返った視界の先には、黒いフードが動いていたのが見て取れた。僕と同じく、振り返っていたのか。

 真っ黒な人物は、歩く速度を変えずに、前を向いて立ち去っていく。暗い通路の先に影も残さず、消えていく。

 その人物から、完全に離れただろうと思った時、テンカが口を開いた。

「ありゃ、何だったんだ?」

 疑問というよりは、茫然とした口調だった。

「気になるのか?」

 テンカが、戦闘以外で興味を示すのは珍しい。そんな珍しい事態に直面したのかと思うと、かなり意外だ。

「ああ、気になるね」

「何が気になるんだ?」

「あいつの、強さだ」

「……」

 テンカが、戦闘以外で興味を示すのは珍しい。つまり、興味を示したからには、戦闘に関係している。

「強いことは、何となくわかるんだが、それ以外がわからなかった」

「そうかい」

 僕には、どうでもいい話だった。

「なんだよ、それは。ほんとにわからなかったんだぞ」

「普通は、分かるものなのか?」

「正確じゃないが、何となくはわかるぞ」

 戦闘のことになるとテンカは、真剣さが増す。語調を少し強めて、訴える。

 テンカほどではないが、ショウグンも戦闘にはこだわる精霊だ。そんなショウグンの反応が気になり、視線を向けて見た。

「……どうしました?」

 ショウグンの雲状の体が、明らかに変化していた。平べったくなって、雲状の体が広がり、小刻みに振動していた。

「……」

 ショウグンは、明らかに動揺している。

 何を聞いても、何もしゃべらず、ただ体を震わせていた。

「こりゃ、何かあるぞ」

 テンカが、真っ黒な人物の消えた方向を見つめて、呟いた。

 その声は僕の耳に届いていたし、言葉の意味も納得できた。だが、今はそんなことよりもショウグンのほうを何とかするのが重要だ。

 僕は、ショウグンと僕の首を繋げている紐に手を乗せた。

「何をする気だ?」

「魔力をこっちから流してみる」

 ショウグンは、この紐を通して僕から魔力を得ている。魔力に得ることによって、ショウグンは、声を発するようになった。ならば、今の状態も魔力を供給すれば変化を起こせるかもしれない。

 テンカが、僕の手の上に乗った。僕に正面から向き合う形だ。

「……止めるなよ」

「止めねえよ」

 テンカは、不敵に言った。

「俺様も協力してやる」

 そう言ってテンカは、体を反転させて、ショウグンへと向きを変えた。

「ちょっとばっかし、きついかもしれねえが、気付けにはちょうどいいだろ」

 テンカの体が、淡い光で包まれる。

「同時に行くぞ。三、二、一っ!」

 テンカのカウントで、僕とテンカは、同時に魔力を流し込んだ。紐を通して、ショウグンに魔力が流れる。

 与えられた魔力を受けて、ショウグンの体があやしく輝いた。流した魔力が、しっかりとショウグンの体に届いた証だろう。

 光が収まると、平らに広がっていたショウグンの体が、元の形に収束していく。

 無事に元の姿に戻ると、テンカがショウグンと同じ高さまで浮かび上がった。

「大丈夫か?」

 テンカの問いにショウグンの輪郭が、やや膨らんだように見えた。

「……私は?」

 どうやらこちらの声が、届くようになったようだ。

「さっき、変な状態になってたんだぞ」

 テンカが、説明になっていない説明をする。

「すみません、それは本当にすみません」

 それでショウグンも、先ほどのことに思い至ったのだろう。いつも通りの謝罪を繰り返した。

「大丈夫ですよ」

「どうってことねえ」

「すみません、すみません」

 この場は、いつも通りのやり取りで済ませた。通常運転をできるのが、一番いい事だ。

「……もうすぐ、試合の時間だろうから戻ろうか」

「おう」

 僕の足は、会場に向かって進んでいく。

 それでも、心は先ほどの出来事で占められていた。一体、何が起こったのだろうか。

 裕也に報告するべきことが出来たようだ。


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