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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
55/71

55 大玉+「!」

 ◇


 会場内を一通り見回った後、僕たちは、スタジアムの中に落ち着いていた。会場内のスタンド席は、それなりに埋まっているが、場所さえ気にしなければ、席を探すのにそこまで苦労はしない。

 僕たちがいるのは、スタンド席の上段のほうだ。応援するわけでもなく、真面目に観戦するわけでもないからちょうど良い席だ。

 これからスタジアムでは、何度目かになるか分からない、予選の種目が行なわれる。

『さあ、こちらのスタジアムでは、ただいまより予選第二十七組のゲームが行われます』

 場内アナウンスが、大きく響き渡っている。

 予選は、参加者がそれぞれ十人ずつの組に分けられ、競技を行なっていく。組数は、三十まであるということなので、単純に参加者は三百人に上る。

 競技は、個人戦の時もあれば、団体戦の時もある。

 メンバーは、分けられた組の中で、運営側の選別で組み合わされる。個人戦はともかく、即興でペアやチームを組むのは、なかなか難しい。この予選は、相性や運なども必要になる。

『現在は、ゲームの準備が行なわれております。観戦される皆さまは、スタート時間までもうしばらくお待ちください』

 スタンド席から見下ろしたグラウンドのように広い競技場は、運営スタッフが忙しく競技設備を既定の位置に設置していた。

「なあ、タケ」

「何?」

「あれって、あれだよな」

 裕也は、競技場に設置されていく物体を示していた。

 裕也の示している「あれ」とは、とても大きな物体だ。大人の身長をゆうに超える。その正面に立てば、反対側のことは何も見えなくなるだろう。

 そんな物体が、横一列に五個、競技場に並べられていく。

「あれでいいと思うよ」

 僕は、裕也の言葉の中に秘められた答えに同意した。

 並べられている物体は、僕たちの世界でも似た物体が存在する。機会がなければ目にする物ではないが、その名前を挙げれば、皆が同じ物体を思い浮かべるだろう。

「それで、あれをどうするんだ?」

「転がすんじゃないのか?」

「押す場合もあるだろ?」

 細かいルールを知らない僕と裕也では、物体から予想できる内容に限られてしまう。

 競技場内は、運営スタッフが散らばり、参加者が所定の位置に付いていた。

 参加者は、横一列に並ばされている。思い思いに体を動かし、リラックスしているようだ。だが、皆が一様に前方の物体に視線を浴びせていた。

『長らくお待たせしました。どうやらゲームの準備が整ったようです。プレイヤーの皆さまも気合十分でしょうか?』

「おっ、始まるみたいだな」

『さて、ここからは真剣勝負となります。観客の皆さまもスタートまでは、お静かに願います』

 アナウンスに従って、スタンド席で起こっていたさざ波が、静かに引いていく。だんだんと競技場の参加者たちへと視線と注意が向いていっている。

 静まり返った競技場内で、一人の運営スタッフが、横一列に並んだ参加者たちの前に出てきた。

 スタッフは、片手を高く上げる。

 それに合わせて、参加者たちは構えた。片足を一歩後ろへ下げ、やや腰を落としている。すぐにでも走りだそうとしているようだ。

 スタッフの高く掲げられた片手が、大きな動作で真下に向かって振り下ろされた。

 それと同時に、スタジアム内に響き渡る笛の音が鳴り、参加者たちが一斉に動き出した。

『さあ、始まりました。予選第二十七組の大玉運搬戦です。いったいどのペアが、最初に大玉をゴールまで運ぶことができるのか!』

「あー、やっぱりそうなんだな」

 裕也が、場内アナウンスを聞いて納得していた。

 競技場に設置されていた物体は、大玉だった。鉄色に渋く光る大玉が、横一列に置かれている。

 参加者たちは、スタート直後に、その大玉めがけて走っているのだ。

 そんなコース上で、動きがあった。

『ああっと、ここで早くも動いた!』

 参加者たちが走るコースの前方、大玉と参加者の間、地面に大きな亀裂が走った。亀裂は、コースを横断して、全参加者を巻き込んで砂煙をあげる。

『このゲームは、魔法による進路妨害が認められています。直接プレイヤーを狙ってはいけませんが、コースに仕掛けるのはオッケーです!』

「これじゃあ、障害物競争だな」

 亀裂の入ったコースから、二人の参加者が、いち早く大玉へとたどり着いた。

『最初に抜け出して来たのは、白のペアだ!』

 二人が大玉に手を付けると、鉄色だった大玉の色が、白く変わった。

『大玉を手に入れた後は、二つのチェックポイントを通過して、ゴールへ向かう!』

「チェックポイントってのは、あれか?」

 競技場内には、三つの門が設置されている。スタート地点を含めたそれらの四点は、長方形を形作っていた。

 おそらく、コースの形は、コの字型をしているのだろう。スタートしてから大玉に辿り着き、そこから一番近くの門が、一番目のチェックポイントだと思われる。

『プレイヤーたちが、続々と大玉を手に入れていく!』

 参加者が触れるごとに大玉の色が、赤や青など、カラフルに変化していく。色が変わることで、どのペアの大玉なのか、瞬時に判断できる。

『最初のチェックポイントまで、参加者皆さまが、一斉に大玉を転がしていくぞ! 後続は、ほぼ横一線だ!』

 最初のチェックポイントを通過すると、次のチェックポイントに向かうために、約九十度、進路を変更しなくてはいけない。

 先を進む白のペアが、チェックポイントを通過して、進路変更に入った。

『おおっと、一足早く進んでいる白のペア、大玉のスピードを落とさずに曲がっていく!』

 大玉の進路を注意して見てみると、何やら地面が動いている。

『どうやら地面の形を変えて、大玉の動きを操っているようだ! これは、ほとんどスピードを落とさずに次のチェックポイントまで到達できそうだ!』

「うまく、カーブを描いて曲がってるな」

『最初のチェックポイントに近づいてきた後続も、それぞれ曲がるためにスピードを調節しているようだ!』

 後続との距離は、そこまで差は付いているようには見えないが、速度を落としていては、先を進む白のペアに追い付けない。

『おおっと、速度を全く落としていないペアがいるぞ! 赤のペアだ! 最後尾から一気に追い上げようというのか! だが、これは危険だ!』

 確かに進路を変えるために速度を落としている中、逆に加速しているようにも見える速度で突き進む大玉がいる。

 その大玉は、チェックポイントを通過したすぐ後、前を走っていたペアに勢いをつけたままで衝突した。

『ああーっ、これは痛い! プレイヤーにもろに当たった! 大玉の重さは、約百キロ! 大丈夫なのか!』

 当てられたペアは、大きくコースを外れていく大玉を残して、両者共にコースに倒れてしまった。

 当てたほうは、勢いの止まった大玉をその場で進路変更し、次のチェックポイントに向かって直進する。

『プレイヤーが倒れた! それでも、ゲームは進められる! 非常に非情な展開となっているぞ!』

「おいおい、いいのかよ?」

『この予選第二十七組は、こういう展開が多くなっております!』

 どうやら若干乱暴な手段に訴える人物が、大会に混ざっているようだ。

『他の後続は、先を行った大玉の通った後をトレースしているようだ! 形の変わった地面をそのまま利用している! 地面の形を変えたのが、後続の助けになっている! これは、うまい!』

 他の二組のペアは、先を行く白のペアの後を綺麗に追っている。だが、追うだけでは抜くことはできない。何か手があるのだろうか。

『さあ、次のチェックポイントが近づいて来たぞ! 一位を走る白のペアは、正面からゲートに向かうようだ! そして、それを文字通り横からぶち当てようとするペア、先ほども衝突をしている赤のペアが来る!』

「このまま進むと、ぶつかるな」

 裕也の呟きは、僕から見ても同意だった。だが、そう簡単にはいかない。やっていることはともかくとして、大陸中から集まった猛者が、参加しているのだから。

 ぶつかると確信した時、大玉と大玉の間で地面が大きく隆起した。

『地面が飛び出した! 大玉を遮るように、地面が盛り上がったぞ! 向かい来る赤の大玉を見事ブロックした!』

「まあ、そうなるわな」

『赤のペアは、はじかれた! その隣を白のペアが、悠々と通過する! ここのチェックポイントでも一位は変わらない!』

 これで一位の単独は、ほぼ決定的だ。

 その理由は、二番目のチェックポイントである門の半分を地面がふさいでしまったからだ。大玉一つ分の間隔は、なんとかあるが、速度を落とさずに進むのは難しいだろう。

 ちなみに乱暴な進路を取った赤のペアの大玉は、チェックポイントの門柱と隆起した地面に挟まれて、身動きが取れない。

『さあ、後続が近づいて来たぞ! おっと、ここで加速した! な、なんと、炎に包まれたぞ!』

 続いて来た黒のペアは、魔法の効果であろう、大玉を炎で包んで加速した。

 その加速した黒の大玉は、地面の壁を軽々と粉砕してチェックポイントを通過する。

『何という勢いだ! 邪魔な壁などなかったかのように速度を上げている!』

「おっ、いけるか?」

 その勢いは、止まらずゴールまで一直線に進む。

『何という追い上げだ! これは白のペアに追い付けるんじゃないのか!』

 先を進む白のペアも必死に大玉を転がしているが、追いかける黒のペアの速度のほうが早い。みるみるうちに、差が縮まっていく。

『これは、ゴール前の熾烈な争いとなるぞ!』

 どちらが勝つのか、誰もがかたずをのんで見守る中、まだ食らいつく者がいた。

 グラウンドに突風が吹いた。

 現象としては、それだけのことだが、何によってその突風がもたらされたのかが問題だ。

『何だぁー! 何が起こったぁー!』

 コース上の最後の直線、そこを青の大玉が飛んだ。

『大玉だ! 青の大玉が飛んでいる! 先を進むペアを突き抜けて、大玉が飛んだ! 飛んだ青の大玉は、ゴールへ吸い込まれたぞ! 続いて、残りの二組もゴールした! これは大番狂わせだぁー! 一着は、青のペアだぁー!』

「何が起こったんだ?」

 騒ぐアナウンスに対して、裕也はコースを睨んでいた。どこを睨んでいるのかは、はっきりとしないが、おそらく、いろいろな状況を裕也なりに見ているのだろう。

 二番目のチェックポイントの近くには、青の大玉の持ち主である、一位となったペアが立っている。

「簡単に言うと、魔法で大玉だけを飛ばしたんだね」

 セリアが、隣から解説をしてくれる。

「白と黒のペアの後ろから、そこまでの差を開けずに青のペアもついて行った。あのペアにとっては、それで良かったんでしょう。あれを使えば、ゴール前の最後の直線で追い抜けるからね」

「最初から、あそこで仕掛ける気だったんすか?」

「そうじゃないかな。魔力の感じも、そんな感じだったし」

 そう考えると、あれは最初からあの位置を狙っていたということになる。

「まあ、チェックポイントを半分ふさがれた時は、焦ったでしょうけどね。あれは、かなり精密なコントロールができないと前にいる選手に当たっちゃうし、コースを綺麗にしてくれた黒のペアには感謝してるんじゃないかな」

「それじゃ三位になった黒は、わざわざ破壊しなくても良かったってことになるっすね」

「でも、そうしないと一位を狙えなかったから、あの場合は仕方がなかったと思うよ」

 セリアは、淡く笑みを浮かべていた。

 まあ、そういう見方もできる。仮に黒のペアは、一位ではなく、二位狙いだったら、無事に二位でゴール出来たかもしれない。一位を狙ったから三位になったわけだが、そこは結果論でしかないため、あの場では、他に方法はなかっただろう。

『予選第二十七組の大玉運搬戦が、終了しました。次のゲームは、グラウンドの整備が終了次第、行われます。応援や観戦でいらっしゃっている皆さまは、整備終了までお待ちください』

「なんか、運動会みたいな大会だな」

 裕也が、端的な感想をもらしながらスタンド席から立ち上がった。

 それに続いて僕も席を立つ。

「予選は、人数を減らすのが目的だから。団体でできる競技が、多くなってるかな」

 セリアが、多少は内情を知っているからこそのフォローをする。

「まあ、ただの暇つぶしで覗いただけっすから、その辺は後で詳しく聞きますよ」

 懐から眼鏡を取り出しながら、裕也は振り返った。その眼鏡、《色の記憶》を装着する。

「さて、それじゃあ、改めて会場内の変化を探しに行きますか」


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