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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
53/71

53 号砲+無色


 ◇◇


 学校から帰宅すると、セリアが待っていた。わざわざ外で待っていたので、すぐに浩一の家へ案内する。

 セリアが来た理由を私は、闘技大会の詳しい日程が決まったのだと思ったのだけれど、それだけではなかった。

「ごはんー!」

 そんな言葉が、私に向かってかけられたのは、玄関の扉を閉めて、すぐのことだった。

 セリアの背後、フードの中からヘレが現れ、私に向かって飛び出してきた。

 少し驚いたけれど、飛び出したヘレを何とか受け止めて、安堵の息をつく。

「ヘレも来てたの?」

「ええ。久しぶりね、光」

 私は、ヘレのスプリングのような体を両腕で抱いて、再会を喜んだ。

 だけど、すぐにその気持ちは、胸の底に沈んだ。

「と、言うわけで、お願いします」

「いきなり、と言うわけって言われても、何のことだかさっぱりなんだけど?」

 本当に、会って早々に、私とヘレはそんなやり取りを開始した。ヘレの言っているのが、何のことなのかは予想が付くけど。

「屋台のことに決まっているでしょ!」

 ヘレは、私の鼻先にまで顔を伸ばして、言い切った。

 私としては、決まっていて欲しくないのだけど。

「その話は、断ったでしょ?」

「だから、直々にお願いしに来たのよ」

 ヘレは、私の話を聞いてくれないみたいだ。

 そんな言い合いを始めたところで、浩一の声がリビングから聞こえてくる。

「立ってないで、こっちに座ったら?」

 浩一は、いち早く家に上がり、リビングにお茶を準備していた。

 浩一の言うことももっともだ。素直に従って、リビングに入りソファーに腰を下ろす。腕に抱いていたヘレは、ローテーブルの上に静かに置いた。

「ありがとう」

 お茶の準備をしてくれた浩一に、一言お礼を伝えた。

 セリアもリビングに入り、好きなところに腰かける。背後のフードからはキュピも現れ、セリアの肩の上に落ち着いた。

 そんな様子を目の端に入れても、私にセリアたちに気を配っている余裕はない。今から、目の前にいるヘレを諦めさせなければならないのだから。

「屋台の件だけど、いくらヘレが来ても無理なものは無理なの」

「無理じゃないわ。光だったら、絶対大丈夫!」

 ヘレは、瞳を輝かせて息巻いている。

 別にヘレの太鼓判を疑っているわけではない。むしろ、そうやって喜んでくれていることは、少なからず自信にもなるし、うれしく思っている。でも、それとこれとは話が別だ。

「私にもこっちでやることがあるんだから、そんなにかかわっていられないの!」

「それは、大丈夫」

 ヘレが、にやりと口角を上げて笑った。

「ちゃんと考えがあるのよ。お前たち!」

 ヘレが、背筋を伸ばすように首を上げて、声を張り上げた。

 すると、セリアのフードから二つの影が飛び出した。

 二つの影は、それぞれ部屋の中を縦横無尽に数回、高速で飛び回った後、ヘレの左右に音を立てずに着地する。

「お呼びですか! あねさん!」

 ヘレの左右に着地したのは、見覚えのない卵型の精霊だった。

 右にいるのは、虎柄の配色で、猫のような三角な耳を備えた丸い顔と、細長い尻尾を巻き付けた丸い体を持つ精霊。長い猫のような髭が、縦方向に小刻みに跳ねている。

 左にいるのは、全身真っ黒な、犬のような直立した耳を備えた丸い顔と、ふわりとした柔らかそうな毛を生やした尻尾を伸ばした丸い体を持つ精霊。全身の毛が、つややかに光っている。

 その二体の精霊の動きに、満足そうにヘレが頷いた。

「光、この子たちが、あなたの仕事を手伝うから、あなたの労力は、限りなく少なくなるわよ」

 要するに屋台を出すための作業員ということだと思う。この二体の精霊が、サポートしてくれると。それは、とりあえず理解した。

 私は、ヘレから目を逸らした。逸らした先は、セリアへと向く。

「セリアも、グルだったの?」

 まだ名前も知らない二体の精霊は、セリアの外套のフードの中から飛び出して来た。もともと、そこに待機していたことになる。

 キュピが、呼ばれていないのにフードから出てきたのも、窮屈だったからだと思う。普段ならば、呼ばれるまで出てこない。

「なんか、断りきれなくてね……」

 セリアが浮かべる表情は、苦笑い。

 私は、セリアに非難の目を向けてしまう。自分の体から、熱が引いていく感覚が上がって来た。体の芯を冷たく感じる。

 傍から見ているだけの浩一が、一瞬、震えた。

 何を思ったのか知らないけれど、そんなことに気を回してあげる余裕は、私にない。どうしてやろうかと考えを巡らせていると、ヘレの右にいる精霊が言葉を発した。

「光さん!」

 大声で自分の名を呼ばれて、私は思わず視線を向けてしまった。

「よろしいでしょうか!」

 その精霊は、目線を下げて、畏まっている。ほぼ二頭身の体では、首を少し下げている姿勢だ。いちいち大声で話すのは、この精霊の個性なのかな。

「な、何が?」

「自己紹介をさせてください!」

「は、はい」

 私は、勢いに押されて二度頷いていた。

 精霊は、下げている目線を、首を下げることでさらに下げて、顔を伏せる。

「あっしは、《号砲の雷鳴》、トトクと申します! あねさんの下、日々精進しています! 今回は、光さんを徹底的に手助けするため、全力を尽くします! どうぞ、よろしくお願い致します!」

 すべての言葉を伝え終わると、トトクは首を上げた。反動で横に長く伸びた髭が、上下に揺れる。

 トトクの自己紹介が終わると、続けて左の精霊が小さく跳ねて、前に一歩出た。

「自分は、《無色の疾風》、ロワであります。トトクと共に、あねさんに仕えております。以後、お見知りおきを」

 ロワは、口数少なく自分を語り、静かに自己紹介を終えた。その後、二歩下がって、ヘレよりも後ろへ下がる。

 それを見たトトクも、ロワと同じ位置まで下がった。

 自己紹介の態度しか見ていないけど、すごく温度差のある二体だ。それはともかくとして、私も自己紹介をした二体の精霊に答える。

「あ、うん、よろしく……」

「と、言うわけで、よろしくね」

 ヘレが、どさくさにまぎれて言質を取ろうと割り込んだ。

「……しないって」

 危なかった。これに答えたら、なし崩し的に了解させられそうだ。トトクとロワのおかげで、少し緊張が緩んでいたかもしれない。まさか、そんな姑息な手段に出るなんて。少し考えが甘かったかな。

「本当に光お嬢さんは、協力してくれないのですか?」

 ロワが、真摯な瞳で私を見上げていた。

「あっしらは、何でもしますぜ!」

 トトクが、前に出たそうに顔を上げる。

「そう言われてもね」

 私には、トトクトロワ、ついでにヘレを喜ばせる返事は出せない。心苦しくは思うけれど、無理をするつもりにはならない。

「光が、直接来なくてもいい方法もあるのよ」

 ここでヘレが、譲歩を始めた。自信の満ちた表情でいる。それは、最初からか。この話に自信があるから、一度断られた話でも諦めていないのかもしれない。

「この子たちを鍛えてくれればいいのよ」

「鍛える?」

「そう。この子たちに光の料理を教えて欲しいの。私としては、光に直接来てほしいんだけど、それは無理なんでしょ?」

「うん。ちょっとね」

「だから、この子たちが料理を覚えて、その覚えた料理を屋台に出すの。これだったら、光はこっちで料理を教えるだけだから、余計な移動はないし、最低限の時間ですむと思うんだけど、どう?」

 ヘレは、すがるように一歩前へ出て、私に近づいた。どうしても、こっちの世界の料理を屋台で出したいみたいだ。

 そこまでして出したいと思っていることは、正直うれしく感じている。感じてはいるのだけれど、私の本音としては、そこまでして売るような料理だとは思っていない。私の作る料理は、あくまで普通の料理でしかない。

 少し悩んでいる私の隣から、浩一が口を挟んだ。

「……協力してもいいんじゃないか?」

 浩一の言葉は、ヘレを助ける発言になる。

「どうして、そう思うの?」

「光の料理をどうこう言うつもりはないんだけど、光が頑張っていることが認められるのは、他人ごとながらうれしいと思う」

「がんばってるって、いつも、少しだけやっているだけだよ?」

「それは、謙遜だと思うよ?」

「うーん」

 そう言われれば、そうなのかな。私としては、謙遜をしている気はないのだけど。

「このまま断り続けても、ヘレはしつこく来るだろうし、仮に引き受けるなら、光のサポートは全力でしてくれるんだろ?」

 今度の浩一の問いは、前半は私に、後半はヘレに向かっての確認だ。

「もちろん」

 ヘレは、浩一の問いに胸を逸らすように、バネ状の体を逸らして断言する。

「それに料理を教えるのって、こっちの世界で、になるわけだろ?」

「ええ、そのつもりよ。トトクとロワに覚えてもらうつもりだから。こっちとあっちを行き来するから、セリアにはかなり負担をかけちゃうんだけどね」

「私のほうは、気にしなくていいよ。行き来する用事は、いろいろあるしね」

 セリアは、笑顔で答えていた。

 浩一の関係でセリアには、かなりお世話になっている。そのセリアも、中立の立場ながら、この話を悪い話だとは思っていないみたいだ。

 私の周りには、反対をする人物はいないらしい。私一人が、意固地になっている。

「はあー、仕方ない」

 私は、覚悟を決めることにした。

「教えられることは、教えます」

「いえーい!」

「あねさん、良かったっす!」

 ヘレが、ローテーブルの上で何度も飛び跳ね、それを見ながらトトクが、涙を流している。ロワは、何も言わずに側に佇んでいた。トトクの様子は、ちょっと大げさな気がする。

「それじゃ、こっちの話も進めつつ、いろいろ話を詰めようか?」

 ここまで成り行きを見つめていたセリアが、居住まいを正しながら話を続ける。

「闘技大会のほうは、浩一の理想通りの日程になったわ」

 浩一の日程、審査員としての参加は、テスト期間が終了してからになった。闘技大会の予選が、テスト期間とかぶっているから、自然に浩一の参加する日も後になる。その間は、しっかりと学生として頑張ってもらう。

 浩一は、ただでさえ『認定試験合格者』としていろいろしているから、こういう時にしっかりしてもらわないと後々大変になると思う。いろいろしているのは、裕也の影響が大きいのだけれど。

 私は、そのテスト期間中にトトクとロワに料理を教えることになった。闘技大会の予選の開始が、明日からということなのも影響している。

 屋台で出すメニューは、仮に私の協力が得られない場合も考えて、すでに決めているらしい。なので、それを私が味見してから、何を教えるのかを決めることにした。私は浩一と違って、テストと並行して行なうことになるから、そこまでの時間はかけられない。教えるのは要所に押さえて、基本的にはトトクトロワの個人練習にする方針となった。教えたことを各自で復習してもらって、予選の間に新メニューとして屋台に出す。新メニューを出せるかどうかは、トトクとロワのがんばりにかかっている。

 詰めの話は、大体そんなところで落ち着いた。けれど、今回の話は、浩一が少し積極的だった気がする。その浩一の様子が、私は少し気になった。


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