49 幽霊+眼鏡
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放課後。
昨日、闘技大会の審査員として参加する話をセリアに了承したが、一日ですぐに話が動くわけがない。だが、いずれは詳しい話が、回って来るだろう。それまでに、できる事をしておきたいと思っている。
僕は、生徒会室へ向かって足を進めていた。審査員の話は、涼子と交わした約束をたがえる可能性も少なくない。それを謝罪しに行く途中だ。
何事もなく到着し、生徒会室の扉をノックする。
中から返事はないが、勝手に扉を開けた。生徒会室は、生徒が誰でも利用できるというのが涼子の論であり、別に返事がなくても勝手に入って良いと言われている。ある程度信頼をされているからだと思うが。
「失礼します」
扉を開けて、僕は素早く入室した。
そこにいたのは、副会長の正道と裕也だった。二人は、応接用のソファに座って、対面している。
「おっ、タケ。遅かったな」
ひょうひょうとした様子を見せる裕也と、憮然とした様子を見せる正道。以前に見たことがあるような構図だ。
「どうした?」
そう聞いてくるのは、正道だ。裕也との話を中断して、こちらに意識を向けている。裕也との話は、平行線をたどっているのだろうか。
そんなことを考えても仕方がない。僕は、僕の用事を口にする。
「会長に話があって来ました」
「一足違いだったな。会長は、いつもの見回りに行った後だ。どうしても会いたいならば、少し時間をつぶして来るといい。一時間もすれば、戻って来るだろう」
なるほど。そうなると、正道の言葉に従って待つべきか。
「丁度いいな」
そう口にしたのは、裕也だった。ソファから立ち上がって、こちらに、生徒会室の出入口に向かって歩いてくる。
「ちょっと、手を貸してくれ」
「ああ」
僕は、特に考えずに了承した。裕也が手を貸せと言うのだから、僕がいないと駄目なことなのだろう。
「待て、高戸」
「もう少し調べたらまた来ますんで、そん時に再びよろしくお願いします」
裕也は、正道の制止を聞かずにさっさと生徒会室から出て行った。
僕は、話の流れが分からないため、何も聞かずに裕也の後をついて行くしかない。裕也に続いて生徒会室から出ると、廊下で裕也が待っていた。すぐに追いつき、そのまま二人並んで歩いて行く。
「それで、どこに行くんだ?」
「西校舎だ」
僕は、説明を求めて、裕也の話の続きに耳を傾ける。
「なんかな、最近、幽霊が出るんだとさ」
幽霊とは、また季節はずれな単語が出てきた。
「幽霊ってのは、そう言っている人が多いからそう言っているだけなんだが、どうも暗くなり始める時間帯に目撃されてるみたいなんだ。俺が最初に聞いたのは、不審者ということだったんだが、話を集めていくと、不審者よりも幽霊のほうが表現としては合ってる」
「……で、その目撃場所が、西校舎?」
話を集めている裕也が、人物でなく場所を往き先として指定している。ならば、現場が特定されたということだ。
「話を統合すると、そうなる」
裕也は、話を続けるが、自分の考えに浮かない表情を浮かべた。
「そうなるんだが、どうにも西校舎の話が集まらなくてな。何か、気になるんだよ」
渡り廊下を渡って、中央校舎から西校舎へ移る。
裕也は、すぐ近くの階段へ足を向けて、下の階へ向かって降りて行った。向かう先は二階だと言う。
「気になるって、何が?」
「ちゃんと自覚をしている人数が、少ない気がするんだ」
「自覚をしてない?」
「してないってわけでもないんだが、部活なんかで遅くなって、校舎の外から幽霊を見た話よりは、断片的な話になってるんだよな」
「……」
そこに、どんな意味があるのか。
外にいる人よりも内にいる人のほうが、距離的に近いはずだ。何かしらの現象を体験したのならば、普通は外よりも内のほうが、詳細なことが分かる。それが、逆になっている。ならば、内にいる人は、何かしらの現象を体験していないのか。外にいれば観測できて、内にいると観測できないのだろうか。
「そんなわけで、ちょっとタケの力を貸してくれ」
「調べるわけか」
「そういうこと」
階段を下りて、西校舎の二階へたどり着いた。教室が並んでいるだけの、特に目立った変化のない階だ。
廊下を歩いて、さらに先に進む。ここからは、僕が裕也の前を歩く。
周囲に人がいないことを確認して、手にレーダーを作り出した。何か変化を感じ取れるとしたら、僕のほうが裕也よりも可能性が高い。
後を付いてくる裕也は、懐から眼鏡を取り出していた。《色の記憶》という魔法アイテムだ。何か変化があれば、それで裕也にも『見る』ことが出来るだろう。
まずは、広い範囲から確認していく。レーダーの範囲を西校舎全体に設定。全体から何か気になる反応がないかを確認する。
果たして、見つかった反応は、二階の教室の一つにあった。
念のためにその反応を中心に範囲を縮めて、その変化を見てみる。
「……」
間違いない。
思ったよりもかなり簡単に見つかった。校舎内に人がいる以上、反応自体はいろいろな所にあるのだが、明らかに人とは異なる反応がある。
その反応の明らかな違いとは、天井付近に漂っていることだ。人であれば、床から少し上ぐらいに反応が出るのだが、この反応は、床からかなり高い位置にあり、明らかに宙を浮いている。
「これかな?」
僕は、裕也にレーダーで特定した地点を確認してもらった。
「さすがだな。仕事が速い」
裕也は、まだ何も見つけられていないらしい。
日が沈むには、まだ早い時間帯であり、生徒の反応もちらほらと見られる。あまり大事にはしないほうがいいだろう。まだ、何も確認できていないのだ。変な噂が流れても困る。
「まずは、見てみるだけだな」
それには、裕也も同じ考えのようだ。
僕は、裕也に一つ頷いて、反応のある教室へ足を向けた。
気になる反応は、教室の後方、窓際の天井付近を漂っているようだ。
目的の教室まで到着し、まずは廊下から一睨みして見る。
「……」
僕の目には、特に何も見えなかった。
レーダーと実際の場所を何度も見比べて、間違いがないことを確認する。特に見当はずれな所を見ているわけではない。
「なんか、霧みたいなのが出来てるな」
裕也には何か見えているようだ。さすがは、見ることに特化した《色の記憶》である。
「僕は、何も見えない」
「そうなのか」
裕也は、廊下から離れた宙空を睨むように見つめている。
「んじゃ、いったん戻るか?」
僕は、裕也のその問いに頷いた。
それを見た裕也は、引き返すのではなく、そのまま教室を横切っていく。
僕もその後に続いた。用が済んだので、すぐにレーダーを消す。
「人気がなくなったら、後でもう一度確認に来ないとな」
「そうだね」
これだけでは、何も分かっていないのと変わらない。姿を確認しているのは裕也だけだし、普通には何も見えていない。
「レーダー内の反応は、藍色だったよな」
「そうだと思う」
「藍色は、氷の属性だっけか?」
「確か」
魔力には、色がある。その色を見れば、多少の傾向は判断できる。判断できるのは主な系統だけなので、それですべてを決定するのは難しいが。
「寒いのは、今の季節だと当たり前だし、見えないってのは証明するのがきついな」
裕也は、考えを口に出しながら、思考をまとめに入っているようだ。
とりあえず、今はここまでかな。
僕は、クリスマスパーティーの手伝いのために中央校舎へ、少し遠まわりをして戻った。




