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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
46/71

46 十二月+準備

 十二月に入り、気温が本格的に下がって来た。陽光に照らされた、晴れた日が続いているが、気温は日に日に下がっている。

 そんな中で、この場所は、一つの熱気にさらされていた。

 場所は、道乃森高校の生徒会室である。

「さあ、今日もやるわよ!」

 気合を入れて声を上げているのは、寺井涼子。生徒会室で誰よりも早く、真っ先に声を上げるのに彼女以上にふさわしい人物はいない。

「絶対に成功させるのよ」

 今の生徒会で話に上がっているのは、十二月に行なうイベントの件だ。十二月のイベントと言えば、定番と言える日付がある。

「せっかくのクリスマスなんだから」

 校内には、すでにイベントの告知は済ませてある。生徒たちからは、イベントを歓迎する声が聞こえてきていた。

「準備は、順調に進めている」

 涼子に答えているのは、平野正道だ。この時期に三年である正道が、まだ生徒会にいる必要はないのだが、会長の強権により、無理やり手伝わされていた。

 涼子と正道のほかにこの場所にいるのは、書記である嶋川春美のだけだ。他の役員は、イベントに向けて、それぞれに作業をこなしている。

「よしよし」

 涼子は、順調という言葉を聞いて、何度も頷いている。

「それじゃあ、後は高戸君のほうをどうにかすればいいわけね?」

「あれを、どうにかできるのか?」

「大丈夫。手は打ってあるから」

 涼子はそう言って、一つウィンクを飛ばし、急いで廊下へ出て行った。

「すみません、先輩」

 残された春美が、正道に頭を下げている。何度も繰り返し頭を下げていた。

「別にいいさ。会長のわがままは、今に始まった事じゃない」

「でも、先輩も忙しいんじゃないですか?」

「このぐらいなら、影響はない。まだな」

 そう言って正道は、書類のチェックを行なっていた。

「それよりも、会長を一人にしておいていいのか?」

「はっ! そうでした」

 春美は、また頭を一度下げて、涼子を追いかけるために急いで出て行った。

 それを見送ってから正道は、再び書類に目を通していく。

 それから、ほとんど時間が経過することなく、新たな人物が入って来た。

「あっ、お疲れ様です」

 入って来たのは、もう一人の副会長、浜野誠二だった。

「お疲れ。浜野は、どこに行っていたんだ?」

「クリスマスパーティーに参加する部の申請書類集めです。これで全部集まりました」

 誠二は、自分の席に集めて来た書類の束を重ねて置き、すぐに分類を始める。

「そうか。特に問題になりそうなものはないか?」

「ぱっと見は、そうですね」

「では、順調だな」

「あっ、でも、高戸君がいろいろ聞いてきましたね」

 その言葉に正道が、ピクリと反応する。作業の手を止めて、誠二へ目を向けた。

 書類の確認のために視線を下げている誠二は、正道が見つめていることに気づかず、言葉を続けた。

「クリスマスパーティーの状況とか、いろいろ聞かれましたね。うまく宣伝してくれるみたいです」

「おまえは、少し警戒心を持った方がいいな」

 正道は、誠二から視線を手元に戻して、作業を再開する。

 その反対に今度は、誠二が作業の手を止めて視線を上げた。

「何でですか?」

「高戸が、善意だけで調べ回っている可能性が低いからだ。何か別の狙いがあるはずだ」

「ん〜、そんな感じはなかったと思いますけど」

 誠二は、首を傾げて、視線をあちこちに飛ばして考え込んでいる。作業をそっちのけで、その時の様子を思い出そうとしていた。

「考えても仕方がない。それよりも、作業の手が止まっているぞ?」

 正道の指摘と注意に、すぐに誠二は謝罪して作業を再開させた。

 それから、黙々と作業を続け、その話は一切出ていない。だが、涼子の言う、手は打ってあると言うのは、ほとんど効果を発揮していないようだった。それだけは、今の会話からはっきりしている。


 ◇◇


 中央校舎、四階、普段ならば特に何もない部屋。そこは今、作業部屋という戦場になっていた。色鮮やかな紙で作成された飾りやキラキラと光を反射するモール、何に使うのか良く分からない箱のような物体などが、至る所に詰め込まれている。

 この部屋で行なっているのは、本番で体育館のアリーナを彩るための飾りの作成だ。基本的にボランティア(暇な有志)が集まっての作業である。

 僕は、作業員として、ここに割り当てられていた。

 時の始まりは、つい先日のことである。

 僕たちは、岩の里と森の里のいさかいで悩んでいた。二つの里の衝突を避けるために考え込んでいた。その時に、涼子から案を貰ったのだ。精霊の事を話すわけにはいかなかったので、内容をぼかして相談したのだが、荷詰まっていた頭には思いのほか良案をいただいた。

 良案をいただいたその時、涼子から、代わりにイベントに協力するように言われ、それを了承したのだ。それが、今の状況を作り出していた。

 僕は、延々と花を作っていた。

「……」

 僕は、延々と花を作っているのである。

「……」

 薄紙を数枚重ねて、それを山折りと谷折りを繰り返して波状に折り、棒状になったそれの中央を固定し、両端を広げて、重ねた薄紙を一枚ずつはがして作る花である。

 別に一人で作業を始めたわけではないのだが、今日は、なぜか誰もいない。何かしら用事があり、顔だけ見せて去っていく人ばかりだ。

 また一つ、花飾りが出来上がった。

「……つまらん」

 久しぶりに、心の底からそう思っていた。

「自業自得だな」

 ここには、僕一人しかいない。だが、僕の呟きを聞き、それに応じた者がいる。厳密に言えば、人ではないのだが。

 壁に立てかけられた鞄に付けられた、キーホルダーに偽装しているテンカだ。

「分かってる」

 テンカの言葉は、僕としても良く理解していた。自分で宣言したことなのだ。自分が責めを追う以外に道はない。ただ黙々と作業を進めるだけだ。

「ま、頑張れよ」

 テンカもそれだけ言って、沈黙する。逆に言えば、テンカには、それしかできない。

 本当に誰もいなければ、テンカに手伝ってもらう手もあるが、扉を抜けた先にはまだまだ生徒が残っている。何かの拍子にテンカを見られないとも限らない。そんな危険を冒すわけにもいかず、また、それをテンカも理解しているため、一言二言で話を切り上げる。

 少し廊下の様子が気になり、そちらに注意を向けると、突如として扉が開いた。

 あまりにもタイミングが良すぎたため、僕は手を止めて、何も反応を返せなかった。

「えっと?」

 扉を勢いよく開けて現れた人物は、涼子だった。

「武野君だけ?」

 涼子としても開けた先に待っていたのが、僕だけだったために反応に困っているようだ。

「そうです」

 尋ねられて、そのままでいるわけにもいかず、端的に答える。

「そうみたいね」

 涼子も部屋を見渡して、僕の言葉を確かめている。確かめるのに時間はかからないが。

「加賀さんは、どうしたの?」

「家の手伝いです」

 この作業部屋で働くボランティア(内申点アップを狙う、暇な有志)の一人として、いつもは光も作業を手伝っていた。それを涼子も知っている。

 涼子は、いろいろは場所を見て回って、準備に参加しているメンバーをおおよそ把握している。こうやって突然訪れるのも初めてではない。

「光に何か用事ですか?」

「そういうわけじゃないけど、高戸君は?」

「裕也は、どこかで情報集めです」

 場所ははっきりしないが、クリスマスパーティーの宣伝をすると宣言していたから、裕也が情報屋として活動しているのは間違いない。もしかしたら、校外へ足を広げているかもしれないが。

 涼子は、部屋の中をもう一度見渡した。

「状況を見るに、かなり進んでいるみたいだから、今日は、ここはいいわ。一人で黙々やるのも疲れ……、ないかな? 武野君は」

「まあ、そうですけど」

 僕は、人差し指で頬を掻いた。

「ともかく、今日はここまででいいよ」

「じゃあ、どこをやりますか?」

 僕は、ここをやらないなら別の所と思い、床に下ろしていた腰を上げた。

 涼子は、目を見張ってこちらに視線を固定した。その後、にやりと笑う。

「帰って良いって言うつもりだったけど、そんなに手伝いたいなら付き合ってもらいましょう」

 ふむ、どうやら僕はいらぬセリフを口にしたようだ。

「さあ、行くわよ! ついてきなさい!」

 涼子が、先陣切って作業部屋から出陣していく。

 仕方なく、僕もその後をついていった。


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