46 十二月+準備
十二月に入り、気温が本格的に下がって来た。陽光に照らされた、晴れた日が続いているが、気温は日に日に下がっている。
そんな中で、この場所は、一つの熱気にさらされていた。
場所は、道乃森高校の生徒会室である。
「さあ、今日もやるわよ!」
気合を入れて声を上げているのは、寺井涼子。生徒会室で誰よりも早く、真っ先に声を上げるのに彼女以上にふさわしい人物はいない。
「絶対に成功させるのよ」
今の生徒会で話に上がっているのは、十二月に行なうイベントの件だ。十二月のイベントと言えば、定番と言える日付がある。
「せっかくのクリスマスなんだから」
校内には、すでにイベントの告知は済ませてある。生徒たちからは、イベントを歓迎する声が聞こえてきていた。
「準備は、順調に進めている」
涼子に答えているのは、平野正道だ。この時期に三年である正道が、まだ生徒会にいる必要はないのだが、会長の強権により、無理やり手伝わされていた。
涼子と正道のほかにこの場所にいるのは、書記である嶋川春美のだけだ。他の役員は、イベントに向けて、それぞれに作業をこなしている。
「よしよし」
涼子は、順調という言葉を聞いて、何度も頷いている。
「それじゃあ、後は高戸君のほうをどうにかすればいいわけね?」
「あれを、どうにかできるのか?」
「大丈夫。手は打ってあるから」
涼子はそう言って、一つウィンクを飛ばし、急いで廊下へ出て行った。
「すみません、先輩」
残された春美が、正道に頭を下げている。何度も繰り返し頭を下げていた。
「別にいいさ。会長のわがままは、今に始まった事じゃない」
「でも、先輩も忙しいんじゃないですか?」
「このぐらいなら、影響はない。まだな」
そう言って正道は、書類のチェックを行なっていた。
「それよりも、会長を一人にしておいていいのか?」
「はっ! そうでした」
春美は、また頭を一度下げて、涼子を追いかけるために急いで出て行った。
それを見送ってから正道は、再び書類に目を通していく。
それから、ほとんど時間が経過することなく、新たな人物が入って来た。
「あっ、お疲れ様です」
入って来たのは、もう一人の副会長、浜野誠二だった。
「お疲れ。浜野は、どこに行っていたんだ?」
「クリスマスパーティーに参加する部の申請書類集めです。これで全部集まりました」
誠二は、自分の席に集めて来た書類の束を重ねて置き、すぐに分類を始める。
「そうか。特に問題になりそうなものはないか?」
「ぱっと見は、そうですね」
「では、順調だな」
「あっ、でも、高戸君がいろいろ聞いてきましたね」
その言葉に正道が、ピクリと反応する。作業の手を止めて、誠二へ目を向けた。
書類の確認のために視線を下げている誠二は、正道が見つめていることに気づかず、言葉を続けた。
「クリスマスパーティーの状況とか、いろいろ聞かれましたね。うまく宣伝してくれるみたいです」
「おまえは、少し警戒心を持った方がいいな」
正道は、誠二から視線を手元に戻して、作業を再開する。
その反対に今度は、誠二が作業の手を止めて視線を上げた。
「何でですか?」
「高戸が、善意だけで調べ回っている可能性が低いからだ。何か別の狙いがあるはずだ」
「ん〜、そんな感じはなかったと思いますけど」
誠二は、首を傾げて、視線をあちこちに飛ばして考え込んでいる。作業をそっちのけで、その時の様子を思い出そうとしていた。
「考えても仕方がない。それよりも、作業の手が止まっているぞ?」
正道の指摘と注意に、すぐに誠二は謝罪して作業を再開させた。
それから、黙々と作業を続け、その話は一切出ていない。だが、涼子の言う、手は打ってあると言うのは、ほとんど効果を発揮していないようだった。それだけは、今の会話からはっきりしている。
◇◇
中央校舎、四階、普段ならば特に何もない部屋。そこは今、作業部屋という戦場になっていた。色鮮やかな紙で作成された飾りやキラキラと光を反射するモール、何に使うのか良く分からない箱のような物体などが、至る所に詰め込まれている。
この部屋で行なっているのは、本番で体育館のアリーナを彩るための飾りの作成だ。基本的にボランティア(暇な有志)が集まっての作業である。
僕は、作業員として、ここに割り当てられていた。
時の始まりは、つい先日のことである。
僕たちは、岩の里と森の里のいさかいで悩んでいた。二つの里の衝突を避けるために考え込んでいた。その時に、涼子から案を貰ったのだ。精霊の事を話すわけにはいかなかったので、内容をぼかして相談したのだが、荷詰まっていた頭には思いのほか良案をいただいた。
良案をいただいたその時、涼子から、代わりにイベントに協力するように言われ、それを了承したのだ。それが、今の状況を作り出していた。
僕は、延々と花を作っていた。
「……」
僕は、延々と花を作っているのである。
「……」
薄紙を数枚重ねて、それを山折りと谷折りを繰り返して波状に折り、棒状になったそれの中央を固定し、両端を広げて、重ねた薄紙を一枚ずつはがして作る花である。
別に一人で作業を始めたわけではないのだが、今日は、なぜか誰もいない。何かしら用事があり、顔だけ見せて去っていく人ばかりだ。
また一つ、花飾りが出来上がった。
「……つまらん」
久しぶりに、心の底からそう思っていた。
「自業自得だな」
ここには、僕一人しかいない。だが、僕の呟きを聞き、それに応じた者がいる。厳密に言えば、人ではないのだが。
壁に立てかけられた鞄に付けられた、キーホルダーに偽装しているテンカだ。
「分かってる」
テンカの言葉は、僕としても良く理解していた。自分で宣言したことなのだ。自分が責めを追う以外に道はない。ただ黙々と作業を進めるだけだ。
「ま、頑張れよ」
テンカもそれだけ言って、沈黙する。逆に言えば、テンカには、それしかできない。
本当に誰もいなければ、テンカに手伝ってもらう手もあるが、扉を抜けた先にはまだまだ生徒が残っている。何かの拍子にテンカを見られないとも限らない。そんな危険を冒すわけにもいかず、また、それをテンカも理解しているため、一言二言で話を切り上げる。
少し廊下の様子が気になり、そちらに注意を向けると、突如として扉が開いた。
あまりにもタイミングが良すぎたため、僕は手を止めて、何も反応を返せなかった。
「えっと?」
扉を勢いよく開けて現れた人物は、涼子だった。
「武野君だけ?」
涼子としても開けた先に待っていたのが、僕だけだったために反応に困っているようだ。
「そうです」
尋ねられて、そのままでいるわけにもいかず、端的に答える。
「そうみたいね」
涼子も部屋を見渡して、僕の言葉を確かめている。確かめるのに時間はかからないが。
「加賀さんは、どうしたの?」
「家の手伝いです」
この作業部屋で働くボランティア(内申点アップを狙う、暇な有志)の一人として、いつもは光も作業を手伝っていた。それを涼子も知っている。
涼子は、いろいろは場所を見て回って、準備に参加しているメンバーをおおよそ把握している。こうやって突然訪れるのも初めてではない。
「光に何か用事ですか?」
「そういうわけじゃないけど、高戸君は?」
「裕也は、どこかで情報集めです」
場所ははっきりしないが、クリスマスパーティーの宣伝をすると宣言していたから、裕也が情報屋として活動しているのは間違いない。もしかしたら、校外へ足を広げているかもしれないが。
涼子は、部屋の中をもう一度見渡した。
「状況を見るに、かなり進んでいるみたいだから、今日は、ここはいいわ。一人で黙々やるのも疲れ……、ないかな? 武野君は」
「まあ、そうですけど」
僕は、人差し指で頬を掻いた。
「ともかく、今日はここまででいいよ」
「じゃあ、どこをやりますか?」
僕は、ここをやらないなら別の所と思い、床に下ろしていた腰を上げた。
涼子は、目を見張ってこちらに視線を固定した。その後、にやりと笑う。
「帰って良いって言うつもりだったけど、そんなに手伝いたいなら付き合ってもらいましょう」
ふむ、どうやら僕はいらぬセリフを口にしたようだ。
「さあ、行くわよ! ついてきなさい!」
涼子が、先陣切って作業部屋から出陣していく。
仕方なく、僕もその後をついていった。




