45 =対戦の終わりは、変化のはじまり。
休日になった。
いつも通りに掃除も終わり、僕と光は僕の家のリビングにいる。
このタイミングで、また配達物が来ていた。今回は、封筒サイズの物だ。
「絶対に開けないからね」
封筒を見た時から光は、ずっと言い続けている。断固固辞している。先の体験は、まだ記憶に新しい。
今回の荷物は、届け先も送り主もしっかりと記載されている。送ってきたのは、「志村由紀音」となっていた。
「そう何度も同じことは起きないと思うけど?」
「二度あることは、三度あるっていうよ」
光の警戒心は、かなり強い。
仕方なく、僕が封筒を開けることにする。封筒を開ける時、光は僕から距離を取って、ソファの後ろで身構えていた。
封筒から出てきたのは、紙類だけだった。板のような物は入っていない。
「大丈夫みたいだよ」
「全部確認して」
光の警戒心は、本当に強い。
一枚一枚、中身を確認してみるが、特に変わったところはない。
「前回のことで懲りたんじゃないのかな?」
そう告げると、やっと光も安心したようだった。ソファの後ろから姿を現し、僕の隣に腰を下ろす。
さて、届けられた書類に目を通そう。
そこに書かれていたのは、主に今回の件の事後処理についてだ。
まずは、精霊里の事について。
対戦の原因になった岩の里と森の里の関係は、良好に推移しているようだ。対戦中に一緒に昼食を取ったのが、良い方向に進んでいる。同じ釜の飯を食べた者同士、ということになったらしい。代表者だけでなく、里の精霊全体で交流を持ち、いろいろと話し合っているという。今後は、今までのような衝突に発展することはなくなるだろう。
「光にまた作って欲しいって」
「あの量は、さすがに勘弁してほしいかな」
また、精霊が世界進出する事については、岩の里の意見は取り下げられている。
対戦で勝利したから、そのまま意見を通すことができるはずだった。それをしなかったのは、真の暴走が少なくとも影響しているのだろう。フランメにとって、あの出来事は、かなりの衝撃だったはずだ。精霊の世界進出については、他の案を検討しているところだ。
次に、真の暴走の事について。
僕にとっては、これが一番の心配ごとだ。しっかりと書類を読み込む。
真は、ネリスカームにかなり絞られたらしい。いろいろと怒られて、謹慎処分になった。真自身は、今回の件で改めて考え直しているという。岩の里が、意見を変えたのも大きいのだろう。一から勉強し直しながら、何が良いのか、また一から考え直しているらしい。
「浩一にやられたのが効いたみたいって書いてあるね」
「……そう」
考え直してくれているのならば、痛い思いをしたかいがあったというものだ。あれは、かなり痛かった。防御マントで体を覆っていたとはいえ、風の刃の威力はかなり高かったのだ。そして、数も半端じゃなかった。光じゃないが、もう二度とやりたくない。
ハミュの状態は、健康だという。黒い塊に寄生されていたようだったが、特に影響はないらしい。ちなみに、真もハミュも黒い塊に関して心当たりはないという。
真の使っていた精霊外属性、闇の属性の魔力は、独学で覚えたということだ。結局、誰かから教わったわけではなかった。独学で魔法を修められるのは、かなり優秀なのではないだろうか。今後に期待の持てる才能だと思う。
「……」
しかし、あの黒い塊でできた巨大なテントウムシは、前回の学校に現れた蜘蛛と同じものだろう。どうして、同じものがあったのか。どうして、こんなものがあるのか。どうしてだろうか。その疑問は、僕の中から消えることはない。
黒い塊については、異世界交流対策課でも調査していくという。
「みんな元気そうで良かったね」
「そうだね」
この書類は、裕也にも見せたほうがいいと思う。近いうちに裕也にも持って行ってやろう。
書類を封筒にしまって、ソファから立ちあがる。
「戻ろうか?」
「うん」
光も立ちあがり、玄関に向かう。向かう先は、光の家だ。
精霊の世界進出については、こちらから一つ提案をしている。その提案は、異世界交流対策課をだまして、利用したことのお詫びも兼ねている。その件で裕也は、今忙しいはずだ。
その提案は、この世界に進出するのではなく、異世界に進出するということだ。こちらの世界に迷い込んだ精霊にとっては、里帰りということになる。
世界を移動する魔法は、精霊外属性の魔力が必要だ。そのため、こちら側では使える人物はいなかった。そもそも魔法式が、存在していない。使えない魔法を開発することもないから、当然のことではなる。
しかし、僕たちには世界を移動する魔法を使える知り合いがいる。
それはもちろん、セリアのことだ。セリアに頼んで、精霊を異世界に連れて行ってもらうのだ。これで世界に進出するという願いが、思い描いたものと違う形とはいえ、叶うことになる。
異世界に行ったその結果、そのまま異世界にとどまりたいのならば、とどまればいいし、こちらの世界が良いならば戻ってくればいい。そこは、精霊の自由だ。
この連絡役を裕也が、行なっている。
裕也には裏方でいろいろと苦労をかけている。裕也自身はこれを役目として、楽しんでいるようだが、ちょっと申し訳なく感じる。異世界交流対策課やセリアから、新しい情報をもらったり、報酬をもらったりしているみたいだが。
この提案が、実際に通るのか、却下されるのか、実現可能なのか、課題が山積みなのか、まだ先は分からない。それでも少しずつ変わっていく。良い方向に変わっていければ、提案した側としてもうれしく思う。
◇
「ただいま」
「……ただいま」
光の家の玄関で声をかけて、ダイニングへ向かう。
「お帰りなさい」
向かった先では美智子が、笑顔で迎えてくれた。テーブル上に料理が並べられ、昼食の準備も既に済んでいる。後は、僕たちを待つだけだったようだ。
その料理を一通り眺めてから僕と光は、テーブルの定位置に座る。
「それじゃあ、いただきましょう」
「いただきます」
「いただきます」
最後に美智子が座り、皆で唱和する。
ある程度、食事が進んでから、確認するように美智子が光に口を開いた。
「それで、今日はどこに行くの?」
「どこって?」
「毎週、デートだったじゃない。だから、今日も行くんでしょ?」
「で、デートじゃない!」
慌てて光が否定する。いつも通りの反応だ。
「え〜」
光の否定の声に美智子が、あからさまに残念な表情を作る。だが、すぐに表情を改めて、笑顔になる。
「でも、行くんでしょ?」
「行かないよ」
光が、今度もはっきりと否定する。確かに出かける予定は何もない。
「そうなの?」
今度は、僕に向かって聞いてくる。
「……」
さて、何と答えたものだろう。
光の横顔を見つめる。
「行こうか?」
僕は、出かけることを提案することにした。
「え?」
これには、光が真っ先に反応した。
「どこに?」
「今日は、光が行きたいところで」
光には今回、いろいろと頑張ってもらったし、いろいろと迷惑をかけたし、誘拐されたし、お礼の意味も含めて出かけてもいいかと思ったのだ。荷物持ちでも、何でもする覚悟はある。
「……浩一がそう言うんじゃ、行こうかな」
光が、言葉少なにだけど、了解してくれた。
「うふふふふ」
美智子が、幸せそうに笑っている。
「なんで笑ってるの!」
「いいじゃない」
親子が言い合うのを聞きながら、僕は昼食をいただいた。
いつも通りの日常に戻っていく。ただそれだけのことで、不安はなかった。
読んでいただき有難うございます。
第二章です。今回は、異世界の精霊が、浩一たちの世界に巣くっているという話でした。浩一が、偶然で向こうの世界に行ったことがあるならば、逆に異世界からも誰か来ることがあるだろうと思って書いています。繋がっていないようで世界同士は、結構簡単につながっちゃいます。
テンカの戦闘シーンが長い上に面倒でした。
次回もよろしければ、お付き合い頂けると幸いです。




