44 暴風+弾丸
「……」
とりあえず、一息つく。
真を止めることはできた。
結局、由紀音が戦闘に参加することはなかった。由紀音に仕掛けのほうを任せているから、ここからの脱出も問題なくできるようになるだろう。
テンカが倒れるのも、まあ予想通りと言えば、予想通りだ。対戦で倒れてから、それほど時間が経過していない。そんな中で加護を一回、魔法を二回唱えている。十分に頑張っている。
後は、真の状態が心配だ。あれだけの魔力を使用して、何の影響も出ないのだろうか。
真の全身を視界に入れる。真は、背中側を上にして倒れていた。破れた服の隙間から、体中に刻まれている魔法式が目に映る。目に見える範囲では、影響は特に見えない。
レーダーを通して、真の体を調べる。
「……」
真の体に二つの反応があった。
僕は膝をついて、ゆっくりと真の体を目視する。足下から頭に向かって見ていくが、異常は見られない。
今度は体を回転させて、正面側を調べる。
すぐに異常は見つかった。
体の正面、腹の部分に黒い球体のようなものが、膜のような物質を出してへばりついている。
レーダーで見ると二つの反応のうち、一つはそれで間違いなさそうだ。
それに触れてみることにする。
「グローブ」
手を保護する意味も込めて加護で手甲を創り、静かに乗せてみる。
特に反応はない。
力を込めて、握ってみる。
特に反応はない。
掴んで引っ張ってみる。
簡単にはがれた。
「……」
はがしちゃって、大丈夫だったのかな。
今更後悔しても、もう遅い。後の祭りだ。まずは、はがした球体を確認する。
変化はすぐに訪れた。
黒い球体は、溶けるように僕の手の中をすり抜けて、地面に垂れていく。だが、手の中の感触は消えない。すべての黒い物体がなくなった時、手の中に残ったのは、卵型のハミュだった。
こんなところにいたのか。
状態が心配だが、レーダーの反応では特に問題はなさそうだ。しっかりとした反応を返している。
一体何がどうなっているのか、分からないことが多いが、そこは僕では理解できない。他の人たちに任せよう。異世界交流対策課で調べて、処理してくれると思う。
「課長」
『にゃ?』
「終わりましたので、本部から人手を送ってください」
『わかったにゃ。少し待ってるにゃ』
真を無事に止めたことで、僕は油断していたのだろう。詰めが甘いと評してもいい。
僕は立ちあがって、足下を見た。
「……」
そこに、異常があった。
鬼がいた。
正確には、鬼の顔をかたどったような、黒い面が地面に転がっていた。
先ほどはなかった物が、置かれている。
その鬼の面が、光を放った。
僕は、とっさに真を抱えて地面に伏せた。
背後で爆発が起こる。
その爆発に巻き込まれて、地面の上を何回も転がる。
「課長、終わってませんでした」
転がり終わると、状況を確認するよりも早く、声を出す。それから、体を起して警戒する。
僕の視界の先に見えるのは、鬼の面。その鬼の面が、空中に浮かんで明滅している。明滅するのに合わせて、鬼の面に魔力が集中していく。
鬼の面から黒い塊が噴き出してくる。噴出が止まらない。一気に視界を埋め尽くしていく。
「テンカ、動けるか?」
「大丈夫だ」
そう言ってテンカは、体を起こし、鬼の面から離れていく。
僕もすぐにテンカを追う。
充分に離れたところで振り返り、改めて確認する。
鬼の面は、すでに巨体を持っていた。噴き出す黒い塊が、体を形作っていた。その山のような巨体を僕たちは見上げている。
その体は、半円球状の丸い体をしていた。ただそれだけで、完成されてしまっているようだ。その姿は、まるでテントウムシだった。全身が真っ黒なテントウムシだ。
「あれは、なんだと思う?」
「さあな」
テンカの言葉はそっけない。ただ、その顔には笑顔が張り付いている。テンカにとってあれは、戦うべき存在なのだろう。
僕は、レーダーで巨大テントウムシを観察する。魔力を内包しているようである。ただ、生物のような細かな流れが見られない。鼓動や血流のようなものがなく、ただ魔力だけがある。そんな存在だ。
「……」
つい最近、そんなことを思ったことがあった。
「テンカ」
「何だ?」
「あれって、この前の蜘蛛と似てないか?」
そう口にして改めて見てみると、そんな気がする。形は全然違うのだが、感覚がそう告げている。
「そうだな。似ているな」
テンカも同様の意見だ。
そうなると、この後の展開も同じになるのか。
こちらの考えがまとまる前に、巨大テントウムシの背中が動いた。背中が開き、羽になる。羽に筋が入り、縦に割れて四枚に分かれる。
羽の表面に黒い魔力が集まる。そして、その魔力を砲弾として打ち出した。
「リフレクション」
僕は、闇の加護で防御壁を創る。
四発の砲弾のうち、その一発が防御壁にぶつかる。ぶつかった砲弾は、防御壁を削るように回転して、その身を押しつけてくる。
残りの三発は、地面の上を回転して本部へと向かった。
本部自体は、魔力壁で覆われているため、そこで砲弾が止まる。だが、こちらの砲弾も回転して、その場にとどまり続けている。押しつぶそうと、あがいている。
あんな状況が続けば、いくらなんでも持たない。
「テンカ、ここを頼む」
そう言って、真とハミュを地面に寝かせる。
「拒否したいんだが、今の俺様は戦力外だな」
しかなくといった様子でテンカは、うなずいてくれた。
「任せた」
本部のことを考えると、時間をかけてはいられない。
「シールド+ブーツ」
ホバーボードを創りだして、そこに飛び乗る。マントを風になびかせて、一気に加速する。
向かう先は、本部だ。まずは、三発の砲弾を何とかしないといけない。
加速を続けて、すぐに本部に到着した。
「ランス」
槍を持ち、まずは一発目。横から勢いをつけて、突き飛ばす。
「ブレイク」
さらに接触する時に衝撃を与えて、一気に魔力壁の外側へ吹き飛ばす。
吹き飛ばされた砲弾は、光輝き、爆発して消えた。魔力による爆発のようだ。
その爆発を視界の端に入れながら、ボードを傾けて旋回し、次の目標に向けて加速する。
二発目も同じようにして、外側へと吹き飛ばした。
二発目の爆発とともに、三発目の砲弾も爆発した。
『こっちのことは任せるにゃ』
どうやら三発目は、ネリスカームが処理したようだ。
「武野君は、あれをお願いします」
由紀音も本部の近くに戻ってきている。
それを確認して、僕は進行方向を変えた。視線の先に巨大テントウムシをとらえる。
巨大テントウムシは、二回目を発射するべく、羽の表面に砲弾を形成していた。
「……間に合わないか」
ここからでは、距離がありすぎる。次弾の発射までに間に合わないだろう。
ならば、迎撃する。
槍を消す。
「ソード+レーダー」
今度は、魔力の剣を創り出す。魔力によって刃を形成し、さらに剣そのものに魔力を込める。
次弾が、四発の砲弾が、再び発射された。地面を転がり、砲弾が、瞬く間に本部に近づく。
「ブレード」
その砲弾を切り裂くために、魔力の刃を物理的に飛ばす。
飛ばした斬撃が、砲弾を切り裂き、切り裂かれた砲弾が爆発した。
魔力の剣には、魔力の斬撃を飛ばす力が備わっている。それを闇の加護であるブレードで強化した。ブレードも斬撃を飛ばす力があり、合わせると相乗効果で威力が上がる。
続けて斬撃を飛ばし、二発目、三発目、四発目とすべての砲弾を切り伏せる。
これで、目の前には巨大テントウムシのみ。障害は何もない。
魔力の剣を消す。
感覚を研ぎ澄ます。
感覚を拡大させる。
魔力を把握し、知覚する。
巨大テントウムシの羽に魔力が集中している。再び、砲弾を発射するつもりなのか。
こちらは、緑色の魔力と茶色の魔力を集めていく。
高速で移動しながら、二色の魔力を融合させていく。大量の魔力を練り上げていく。
僕は速度を上げながら、ホバーボードで巨大テントウムシをジャンプ台代りにして、上空に飛びあがった。
巨大テントウムシは、まだ砲弾を形成できていない。
空中で体の向きを変え、ホバーボードの勢いも乗せて、巨大テントウムシへ落下をする。
「暴風、弾丸……」
僕の右手が、魔力で輝く。輝きが膨らみ、魔力の玉を形成する。その球を中心にして、僕の周囲を勢いに乗った風が吹き荒れる。
風に守られ、大気をえぐり、魔力の拳が巨大テントウムシへ突き進む。
「シューティングトルネード!」
暴風を纏った魔力の拳が、巨大テントウムシを地面にたたきつける。それだけでは、勢いが止まらない。さらに暴風が、巨大テントウムシの体を削り、巨体に穴を空けていく。すべてを突き抜けるまで、暴風は止まらない。
僕が、地面に拳をつけた時、周囲は魔力の花びらで満たされていた。




