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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
44/71

44 暴風+弾丸

「……」

 とりあえず、一息つく。

 真を止めることはできた。

 結局、由紀音が戦闘に参加することはなかった。由紀音に仕掛けのほうを任せているから、ここからの脱出も問題なくできるようになるだろう。

 テンカが倒れるのも、まあ予想通りと言えば、予想通りだ。対戦で倒れてから、それほど時間が経過していない。そんな中で加護を一回、魔法を二回唱えている。十分に頑張っている。

 後は、真の状態が心配だ。あれだけの魔力を使用して、何の影響も出ないのだろうか。

 真の全身を視界に入れる。真は、背中側を上にして倒れていた。破れた服の隙間から、体中に刻まれている魔法式が目に映る。目に見える範囲では、影響は特に見えない。

 レーダーを通して、真の体を調べる。

「……」

 真の体に二つの反応があった。

 僕は膝をついて、ゆっくりと真の体を目視する。足下から頭に向かって見ていくが、異常は見られない。

 今度は体を回転させて、正面側を調べる。

 すぐに異常は見つかった。

 体の正面、腹の部分に黒い球体のようなものが、膜のような物質を出してへばりついている。

 レーダーで見ると二つの反応のうち、一つはそれで間違いなさそうだ。

 それに触れてみることにする。

「グローブ」

 手を保護する意味も込めて加護で手甲を創り、静かに乗せてみる。

 特に反応はない。

 力を込めて、握ってみる。

 特に反応はない。

 掴んで引っ張ってみる。

 簡単にはがれた。

「……」

 はがしちゃって、大丈夫だったのかな。

 今更後悔しても、もう遅い。後の祭りだ。まずは、はがした球体を確認する。

 変化はすぐに訪れた。

 黒い球体は、溶けるように僕の手の中をすり抜けて、地面に垂れていく。だが、手の中の感触は消えない。すべての黒い物体がなくなった時、手の中に残ったのは、卵型のハミュだった。

 こんなところにいたのか。

 状態が心配だが、レーダーの反応では特に問題はなさそうだ。しっかりとした反応を返している。

 一体何がどうなっているのか、分からないことが多いが、そこは僕では理解できない。他の人たちに任せよう。異世界交流対策課で調べて、処理してくれると思う。

「課長」

『にゃ?』

「終わりましたので、本部から人手を送ってください」

『わかったにゃ。少し待ってるにゃ』

 真を無事に止めたことで、僕は油断していたのだろう。詰めが甘いと評してもいい。

 僕は立ちあがって、足下を見た。

「……」

 そこに、異常があった。

 鬼がいた。

 正確には、鬼の顔をかたどったような、黒い面が地面に転がっていた。

 先ほどはなかった物が、置かれている。

 その鬼の面が、光を放った。

 僕は、とっさに真を抱えて地面に伏せた。

 背後で爆発が起こる。

 その爆発に巻き込まれて、地面の上を何回も転がる。

「課長、終わってませんでした」

 転がり終わると、状況を確認するよりも早く、声を出す。それから、体を起して警戒する。

 僕の視界の先に見えるのは、鬼の面。その鬼の面が、空中に浮かんで明滅している。明滅するのに合わせて、鬼の面に魔力が集中していく。

 鬼の面から黒い塊が噴き出してくる。噴出が止まらない。一気に視界を埋め尽くしていく。

「テンカ、動けるか?」

「大丈夫だ」

 そう言ってテンカは、体を起こし、鬼の面から離れていく。

 僕もすぐにテンカを追う。

 充分に離れたところで振り返り、改めて確認する。

 鬼の面は、すでに巨体を持っていた。噴き出す黒い塊が、体を形作っていた。その山のような巨体を僕たちは見上げている。

 その体は、半円球状の丸い体をしていた。ただそれだけで、完成されてしまっているようだ。その姿は、まるでテントウムシだった。全身が真っ黒なテントウムシだ。

「あれは、なんだと思う?」

「さあな」

 テンカの言葉はそっけない。ただ、その顔には笑顔が張り付いている。テンカにとってあれは、戦うべき存在なのだろう。

 僕は、レーダーで巨大テントウムシを観察する。魔力を内包しているようである。ただ、生物のような細かな流れが見られない。鼓動や血流のようなものがなく、ただ魔力だけがある。そんな存在だ。

「……」

 つい最近、そんなことを思ったことがあった。

「テンカ」

「何だ?」

「あれって、この前の蜘蛛と似てないか?」

 そう口にして改めて見てみると、そんな気がする。形は全然違うのだが、感覚がそう告げている。

「そうだな。似ているな」

 テンカも同様の意見だ。

 そうなると、この後の展開も同じになるのか。

 こちらの考えがまとまる前に、巨大テントウムシの背中が動いた。背中が開き、羽になる。羽に筋が入り、縦に割れて四枚に分かれる。

 羽の表面に黒い魔力が集まる。そして、その魔力を砲弾として打ち出した。

「リフレクション」

 僕は、闇の加護で防御壁を創る。

 四発の砲弾のうち、その一発が防御壁にぶつかる。ぶつかった砲弾は、防御壁を削るように回転して、その身を押しつけてくる。

 残りの三発は、地面の上を回転して本部へと向かった。

 本部自体は、魔力壁で覆われているため、そこで砲弾が止まる。だが、こちらの砲弾も回転して、その場にとどまり続けている。押しつぶそうと、あがいている。

 あんな状況が続けば、いくらなんでも持たない。

「テンカ、ここを頼む」

 そう言って、真とハミュを地面に寝かせる。

「拒否したいんだが、今の俺様は戦力外だな」

 しかなくといった様子でテンカは、うなずいてくれた。

「任せた」

 本部のことを考えると、時間をかけてはいられない。

「シールド+ブーツ」

 ホバーボードを創りだして、そこに飛び乗る。マントを風になびかせて、一気に加速する。

 向かう先は、本部だ。まずは、三発の砲弾を何とかしないといけない。

 加速を続けて、すぐに本部に到着した。

「ランス」

 槍を持ち、まずは一発目。横から勢いをつけて、突き飛ばす。

「ブレイク」

 さらに接触する時に衝撃を与えて、一気に魔力壁の外側へ吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた砲弾は、光輝き、爆発して消えた。魔力による爆発のようだ。

 その爆発を視界の端に入れながら、ボードを傾けて旋回し、次の目標に向けて加速する。

 二発目も同じようにして、外側へと吹き飛ばした。

 二発目の爆発とともに、三発目の砲弾も爆発した。

『こっちのことは任せるにゃ』

 どうやら三発目は、ネリスカームが処理したようだ。

「武野君は、あれをお願いします」

 由紀音も本部の近くに戻ってきている。

 それを確認して、僕は進行方向を変えた。視線の先に巨大テントウムシをとらえる。

 巨大テントウムシは、二回目を発射するべく、羽の表面に砲弾を形成していた。

「……間に合わないか」

 ここからでは、距離がありすぎる。次弾の発射までに間に合わないだろう。

 ならば、迎撃する。

 槍を消す。

「ソード+レーダー」

 今度は、魔力の剣を創り出す。魔力によって刃を形成し、さらに剣そのものに魔力を込める。

 次弾が、四発の砲弾が、再び発射された。地面を転がり、砲弾が、瞬く間に本部に近づく。

「ブレード」

 その砲弾を切り裂くために、魔力の刃を物理的に飛ばす。

 飛ばした斬撃が、砲弾を切り裂き、切り裂かれた砲弾が爆発した。

 魔力の剣には、魔力の斬撃を飛ばす力が備わっている。それを闇の加護であるブレードで強化した。ブレードも斬撃を飛ばす力があり、合わせると相乗効果で威力が上がる。

 続けて斬撃を飛ばし、二発目、三発目、四発目とすべての砲弾を切り伏せる。

 これで、目の前には巨大テントウムシのみ。障害は何もない。

 魔力の剣を消す。

 感覚を研ぎ澄ます。

 感覚を拡大させる。

 魔力を把握し、知覚する。

 巨大テントウムシの羽に魔力が集中している。再び、砲弾を発射するつもりなのか。

 こちらは、緑色の魔力と茶色の魔力を集めていく。

 高速で移動しながら、二色の魔力を融合させていく。大量の魔力を練り上げていく。

 僕は速度を上げながら、ホバーボードで巨大テントウムシをジャンプ台代りにして、上空に飛びあがった。

 巨大テントウムシは、まだ砲弾を形成できていない。

 空中で体の向きを変え、ホバーボードの勢いも乗せて、巨大テントウムシへ落下をする。

「暴風、弾丸……」

 僕の右手が、魔力で輝く。輝きが膨らみ、魔力の玉を形成する。その球を中心にして、僕の周囲を勢いに乗った風が吹き荒れる。

 風に守られ、大気をえぐり、魔力の拳が巨大テントウムシへ突き進む。

「シューティングトルネード!」

 暴風を纏った魔力の拳が、巨大テントウムシを地面にたたきつける。それだけでは、勢いが止まらない。さらに暴風が、巨大テントウムシの体を削り、巨体に穴を空けていく。すべてを突き抜けるまで、暴風は止まらない。

 僕が、地面に拳をつけた時、周囲は魔力の花びらで満たされていた。


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