43 煉獄+狼牙
「グローブ+レーダー」
創造する加護は、宝石の埋め込まれた腕輪だ。これを人数分、四つ作成する。
「これを身につけてください」
由紀音とトリムに一つずつ手渡す。
「これは何ですか?」
「魔力の扱いを補助してくれる装備ですね」
これをつけていれば、多少なりとも魔法は使えるようになるはずだ。集めた魔力を圧縮して強化する効果もある。精霊の魔力も保護してくれるだろう。こんな状況でなければ、魔法の強化にもつながる。
「でも、これだけでは魔法を届かせることはできないですよ?」
「分かってます」
これだけでは魔法の使用が、通常通りにできるようになっただけで、魔法の結果が、しっかりと現れるわけではない。
「シールド+ソード」
次に創造したのは、薄い板。カード状の加護だ。全部で十三枚ある。
これをすべて、由紀音に渡す。
「このカードに魔法を封じて投げてください。使いたい場所にカードが来たらば、開放するように念じれば、魔法が発動します」
カードの中に封じた魔法は、封じた時間に応じて強化される。こちらも、本来は魔法の強化のために使う加護だ。カード一枚一枚に意味があるのだが、今はそれを話している時間はない。
「へー、こんなこともできるの」
「武野はすごいです」
これで魔法に関しては、条件付きながら使用できるはずだ。
「まずは、仕掛けのことをお願いします」
「わかったわ」
僕は由紀音の言葉にうなずいて、真の立つ場所を視野に入れる。
「準備はできたのかな?」
やはり、こちらの会話は、真にすべて筒抜けのようだ。
「シールド+ウイング」
続いて、防御マントを創造する。風の刃という、全方位から向けられる攻撃には、効果的な防御加護だろう。
「もう少し準備時間をもらえるとうれしいですね」
僕は、余裕を持ってそう告げる。
「さっさとやろうぜ」
テンカは、魔綱武装の槍を肩にかついで、すぐにでも動き出したいようだ。
「……しょうがないな」
テンカに先ほど作った腕輪を手渡す。さらに、僕はテンカの背中にある金属部品に手を伸ばした。そこに左腕を設置させる。
すると金属部品が、僕の腕にかみつくようにしてしがみついた。
腕をテンカの背中から離すと、金属部品は、しがみついたままになっている。
「それじゃあ、始めるか」
「よっしゃー!」
早速、テンカが地面を蹴り、爆風に背中を押されているかのように真に接近する。
頭上から一直線に槍を振り下ろす。
「〈エアハンマー・シャドー〉」
それに対して、真はまっすぐに拳をぶつける。
魔力で作られた、空気の拳が槍とぶつかる。そして、ぶつかった瞬間に、一気に膨らむように空気の壁が、テンカを襲った。
テンカは、その壁になすすべなく吹き飛ばされる。
「ブラスト」
テンカが真から離れた瞬間をねらって、僕は魔力を放射する。
これを真は、魔力の盾ではじいてしまう。
とりあえず、テンカに追撃を行なうことは防げた。
次は、僕も接近戦を挑む。
「ランス」
僕も槍を創り出して、突撃する。
僕の持つ槍は、突きに特化した形をした大型の馬上槍だ。振り回して立ち回ることには向いていないが、相手が動かないのであれば、格好の的だ。
「はあっ!」
接触の瞬間に合わせて、槍を突き入れる。
それも真は、魔力の盾で弾いていく。
弾かれた勢いのまま、真の横を通り過ぎる。
「やっぱり、その場から動けないみたいですね」
「なぜそう思うんだ?」
真は、ゆっくりとこちらを振り向く。
「魔力の渦が発生しています。真さんがその中心ですよね?」
「オラア!」
会話の途中で、テンカが槍を振り回していく。
「〈エアハンマー・シャドー〉」
再び、同じ方法でテンカを吹き飛ばす。
「精霊のしつけがなっていないな」
苦言を口にしていながらも、嫌な顔一つ見せていない。
「戦いしか取り柄がないので、こういうことは張り切ってしまうんですよ」
仕方がないので正直に答える。
「そういう割には、突撃しかしてこないな」
油断なく、視線を巡らせる。
「そうでもないと思いますよ」
そう言って、テンカに視線を向ける。テンカの頷きを確認して、僕は行動を起こした。
「ブラスト」
魔力の放射をぶつける。
それを真は、難なく魔力の盾で受け止める。
「同じことの繰り返しか?」
「ブラストォ!」
今度の魔力の放射は、僕ではない。
反対側にいるテンカからの放射だ。
これに対して真は、空いている手で魔力の盾をもう一つ作り出して受け止める。
テンカが、闇の加護を使ったのだ。
テンカに加護を使う能力はない。だが、使ったのは間違いなく闇の加護だ。その仕掛けは、テンカの背中にあった金属部品にある。
テンカのスキルの一つ、他者の能力を使用するスキル。この、コピーするスキルによって、闇の加護を使えるようになった。
このスキルは、金属部品を持っている者が使用した能力を、テンカが使えるようになるというスキルだ。人間でも精霊でも関係なく、能力を真似ることができる。使い方を間違えなければ、かなり有用なスキルだ。
ただ、テンカが人型でなければ使えない。竜型で加護を使うということはできない。あの巨体で加護を使ったら大変なことになるので、バランスは取れていると思う。
「このまま、押しつぶしてやるぜ!」
悪人みたいな言葉を、悪い笑顔でテンカが叫ぶ。
だが、真の余裕は崩れない。
「仕方がない」
一言つぶやいた後、真の両手に広がる魔力の盾が、魔法陣が広がり、大気の流れが急激に変わり始める。魔法陣を中心にして、渦を巻くように風が発生する。
魔法陣とぶつかっていた魔力の放射が、すべて消えてしまった。
「吸い取りやがったのか!」
テンカが、驚きを口にする。
いまだ展開されている二つの魔法陣が、周囲の物を吸い込むように大気の流れを作っている。テンカの言葉は、何の確証もないが、確かにそう推測できる。
「〈ウインドカッター・シャドー〉」
驚きに立ち止まっている暇はない。
真を中心にして、すぐに風の刃と黒い刃が飛び、僕とテンカに襲い来る。
「シールド」
僕は、盾を出して防御に専念する。
テンカは、槍を振り回しながら、回避するために真の背中側に駆ける。
その後を僅差で刃が過ぎ去っていく。
「ブラストォ!」
テンカは、そのまま駆けながら魔力を放射し、牽制していく。
その間に僕も突撃する。再び、槍を構えて真に迫る。
テンカの攻撃を防ぐ真に迫り、交差する。
「ブレイク」
今度は、交差と同時に加護を叩きこむ。
真が構える魔力の盾を爆発が襲い、爆音が耳をつく。
今度は、僕が弾かれることはなく、逆に真を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた真は、地面を転がるが、すぐに起き上がる。
僕は、悠々と真の吹き飛んだ方向を見つめる。
「レーダー」
状況を確認するために、目の前に球体を浮かび上がらせる。
目標とするのは、真だ。その周囲の魔力の流れを確認する。
魔力の流れは、止まっていた。渦を作っていた流れが、全く見えない。
「やってくれるものだね」
立ちあがった真は、爆発の衝撃で服も破れて上半身をさらしていた。
外にさらされた体には、魔法式が刻まれているのが見て取れた。
魔法の使い方は、人によってそれぞれ異なる。真は、体そのものに魔法式を刻むことで魔法を使っていたようだ。体に刻まれた黒い線が、光を吸い取るように黒く、はっきりと見える。
レーダーの中に、再び魔力の渦が生まれた。
「どうだ、参ったか!」
テンカが胸を張っている。別にテンカが攻撃をしたわけではないのだが。
「なぜだ?」
真が、視線を定めずにつぶやく。
「なぜ、戦っている?」
「楽しいからに決まっているだろ!」
テンカが横から宣言する。
「……君はどうなんだ?」
真の言う「君」とは、僕のことだろう。
真意は分からないが、正直に答える。
「……戦う理由は、正直なところ持ってないです」
真が問うているのは、この戦いのことだけではない気がする。本心がどうなのか、判断することはできないから、僕の気のせいということもあり得る。でも、ここが、真と正面から話せる機会ではないだろうか。
「戦わなければいけないわけでも、戦いが好きなわけでもないです」
「では、なぜだ?」
「……考えてみると、小さな理由ばかりですね。この場に居合わせたからとか、友人が巻き込まれたからとか、死ぬのは嫌だからとか。いろいろあります。選択肢としては、逃げ出すという手もあるんですよね」
「逃げようとは思わないのか?」
「思わないです。なんででしょうね?」
「自信があるということか?」
「自信なんてありません。結局今回の対戦だって、思ったようにはいきませんでした」
結果として、テンカは負けた。当初の考えでは、勝つことを考えていたのだから、思ったようには進んでいない。
「それを蒸し返すな」
僕の言葉にテンカは、居心地悪そうに視線を外す。
「悪い。……ただ、何かはあります」
「何か?」
「このままでは、面白くないと思っています。ここから先のことを想像するのは、面白くない。だから、あなたを止めます」
「……」
真は、何を考えているのか、黙りこむ。
この話をしている間にも、レーダー内の魔力の渦が、拡大していっている。この会話で時間稼ぎをされているのか。
「精霊は、危険だ」
真の言葉が、連なっていく。
「精霊を消し去るのは、面白いとか面白くないとかで決めることじゃない。先を見据えて決めることだ」
顔を上げて、その目で僕を真っ直ぐに見つめる。
「この世界にはもともといない、いわば外来種だ。もともと住んでいた者たちは、必ず被害に遭う。被害に遭ってからでは、遅いのだ。精霊を自由にしてからでは、手遅れなんだ。今でなければ、間に合わないことだ」
僕を見つめる真の瞳には、力が宿っている。その力は、黒い感情から来たものなのか、それとも別の何かから来たものなのか、関係の浅い僕では判断できない。
「それを、そんな考えで、そんな面白いかどうかで、僕を止めようというのか?」
「はい」
それでも、拒絶する考えは認められない。そんなことは、面白くない。それ以外の方法が、必ずあるはずだ。
「止めます」
だから、真正面から受け止める。
僕の視線と真の視線が、ぶつかる。
「だったら、全力を出せ」
魔力の渦が、戦場に激しく渦巻いている。
「〈ウインドカッター・シャドー〉」
再び、魔力の刃が大気を切り裂き、戦場を埋め尽くす。今までの中で最大級の範囲を渦巻き、空間を埋め尽くす。
「テンカ、頼む」
「おうよ!」
僕に迫る刃の射線上にテンカが割り込み、槍を振って刃を切り裂いていく。
「全力を出せというなら、見せてあげます。ただし、必ず全力で防いでください」
真の言葉に、全力で応えてみせる。そう決めた。
「……」
そうは思っても、実際に全力を出したことは、今までに一度もない。初めて全力を出すことになる。とは言え、大陸が変わるような全力は出せない。こちらは止めることが、目的なのだから。
使う加護は、闇の加護。異なる魔力を融合する力だ。
これをセリアは、光の加護と闇の加護を同時に使うためと説明していたが、これは少し違う。副次的な効果として、そうなっていただけだ。この加護には、本当の使い方が別にある。
それをテンカに説明された時、何を意味しているのか、理解できなかった。だから、今まで使おうとは思っていなかった。だが、ネリスカームの魔力の属性の話を聞いて、それを使える気がしている。
盾と槍を消して、両手を身軽にする。
深呼吸をする。
自身の感覚を、感触を意識する。その感覚を周囲へ、少しずつ拡大していく。
感覚と視覚が、重なっていく。
この場の魔力が渦巻いている。真に向かって様々な色の魔力が、流れている。真の体からは、緑色と黒色の光が明滅している。
魔力の流れに便乗して、中心に向かう途中の魔力を拝借する。
選択するのは、赤色と橙色。この二色を集める。
腕を広げて、僕の近くを流れる魔力をつかみ取っていく。
この二色を、加護の力で混ぜ合わせる。
「テンカ、行くぞ」
「うっしゃー!」
僕はテンカの背中に声をかけ、その声を聞いたテンカが一気に駆けだす。走るテンカに遅れないように、僕も加速していく。
「〈フレアバーニア〉!」
大気を切り裂く風の刃を、テンカの槍が切り裂き、体が弾き飛ばして進んでいく。
それを見た真が、動きを変えた。
両手を前方に水平に上げ、手の平を向い合せにする。その手の間から小さな黒い塊が、創り出される。
その塊は渦を巻き、風を吹き出している。今までの吸収するような動きとは、正反対の動きだ。黒い魔力を吹き出しながら、圧倒的な存在感を放ってくる。
「これが、こちらの全力だ!」
真は、その黒い渦を振りかぶり、迫りくるテンカめがけて投げた。
空中に放り出された黒い渦は、巨大化しながらテンカに向かって飛ぶ。
巨大な黒い渦は、触れるものをはじきだそうとするかのように回転している。
テンカの槍に紫色の魔法陣が描かれた。
「〈サンダーブレス・コア〉!」
テンカが魔法を唱えると、槍の穂先に雷の玉が生まれる。
その雷の玉を前に突き出し、巨大な黒い渦めがけて突撃していく。
巨大な黒い渦と雷光を圧縮した玉の直接対決。
振れる端から雷光が飛び散り、テンカの周囲に激しく落ちる。それでもテンカが、後ろに下がることはない。逆に巨大な黒い渦を押し返すように、その足に力を込める。
「ハアァァァァァー!」
雷の玉と黒い渦が、拮抗する。
それでもテンカは、勢いを止めようとしない。
そのテンカの背中を僕は、押す。
「いっけえー」
雷の玉が、黒い渦を弾いていく。槍の穂先が、黒い渦を切り裂いていく。黒い渦の中央を一筋の光が、貫いていく。
巨大な黒い渦をテンカは、真っ二つに切り裂いた。
そこでテンカは、地面に倒れこんだ。
「最後まで突っ走れえー!」
倒れるテンカの隣を僕は走った。目の前には、驚愕に目を見開いている真がいる。
後は、こちらの全力を見せるのみ。
集めた二色の魔力を、融合させた魔力を解き放つ。
「煉獄、狼牙……」
僕の右手が、赤く輝く。赤い輝きが、一気に膨らみ、人を飲み込めるまでに巨大化する。
そして、比喩でなく、飲み込むために口を開く。
魔力の牙が並んだ顎を、真の前でいっぱいに開く。
「ファングブラスター!」
そのまま、開いた口で真を一飲みにする。
僕の手から輝きが離れ、それが球体となって、地面の上で一度鼓動した後、魔力を一気に爆発させた。
爆発は、柱となって空にまで達する。結界の天井にぶつかって、大きく弾けた。
「……」
魔力の爆発の収まったその場所には、ボロボロになった一人の男が立っていた。身じろぎ一つすることはない。
戦場の風は、穏やかに戻った。
男の体は、優しい風に撫でられて、静かに倒れていった。




