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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
42/71

42 渦+闇


 風が、肌に突き刺さる。

 最初に感じたのは、そんな攻撃的な感想だった。

 真を中心に吹き荒れる風が、真の意志を乗せて戦場を渦巻いているのだと思う。

「ブーツ」

 僕は、速度を上げるために加護を創り出す。足を白く輝く靴が覆う。

「ブースト」

 体も強化し、準備を整えて最高速度で足を動かす。

 だが、すぐにその足も止まる。

 真の作り出す魔法の刃が、行く手を阻む。

 岩の里の陣地は、常に風の刃と黒い刃が飛び、切り刻まれていく。近づく隙もない。

 ならば、ここからやるしかない。

 魔力を集める。空気中の魔力は、集めにくくなっている。渦の影響だろう。それでも結界内の魔力量を増加しているため、必要分を集めることはできる。

「プリズン」

 僕は、陣地すべてを囲い込むことにした。

 陣地を端から端まで、魔力の牙が取り囲んでいく。その牙が、柱のように伸びて、上空で合わさった。

 加護の力で球体の牢を作り、その中に精霊たちをまとめて戦場から隔離する。精霊以外の物も一緒に含めてしまうが、細かいことを気にしていられる状態ではない。

 精霊たち、全員を魔力の檻の中に隔離することができた。

 それを黙って、見ている真ではない。

 風の流れが変わった。

「シールド」

 僕は盾を創り出し、自分の身を守るように、身を隠すように盾を構える。

 対するのは風の刃。致命傷は防げても、かすり傷は受けてしまう。

 それでもかすり傷程度だ。無理を通して、体を動かす。

 まずは、魔力の檻を本部へ動かす。檻の大きさが巨大になっているが、外からの干渉を受けないことは変わらない。ゆっくりと本部の裏側へ、渦から最も遠い場所へ、一直線に動かす。

 真はこちらを妨害することを諦めたのか、刃による攻撃が止んだ。その代わりに反対側にある、森の里の陣地へ飛ぶ刃の数が倍増する。

 倍増した刃は、テンカが槍で弾いている。その間に動ける精霊が、衰弱した精霊を抱えて、本部へ向かって走っていた。テンカとディジス以外にも動ける精霊が、森の里へ救援に向かったようだ。

 テンカも少しずつ本部へ退避を開始している。

 僕は、それを少しでも援護するために、行動することにした。

「ブラスト」

 黒い魔力の放射が、真に向けて突き進む。真の魔力の刃を巻き込んで、吹き飛ばす。

 しかし、直撃は魔力の盾で防がれてしまった。簡単には揺るがない。それでも牽制には利用できる。

 牽制しつつ、由紀音たちのところに近づく。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと、厳しいです」

 由紀音が、悔しそうに表情をゆがめる。

「私の魔法では、全く歯が立たないです」

「魔力が、吸い取られますです」

 トリムも珍しく、まじめな意見を出す。

「……」

 魔力が吸い取られているのか。そうであるのならば、あの渦の動きは、真に魔力が集まっていることを示していることになる。

「ふらふらです。浮いていられないです」

 トリムは、由紀音の肩に乗って、辛そうにしている。

 前線に立つフランメも、テンカと対戦した時とは、動きが違う。明らかに悪くなっている。

 僕は盾を構えて、フランメの隣まで前に出る。

「本部に戻りましょう」

 そして、フランメに手を伸ばす。

「申し訳ないぞ」

 そう言ってフランメは、猿の姿から卵型へ変化し、僕の手の平に収まる。

 振り向くと、すでに由紀音とトリムは退避を始めている。

 僕も本部へ退避する。フランメをかばいながらでは、とても戦えない。


 ◇


 本部に戻って、現在の状態を確認する。

「精霊は戦力にならんぞ」

 これは、実際に真と相対したフランメの言葉だ。

「魔力を吸い取られて、意識を保っているだけでも一苦労するぞ」

「離れていても関係ないです」

 トリムが、この意見を補足する。

「人であっても、魔法が通用しません。到達する前に魔力が切れて、無効化されます」

 由紀音の感触も似たようなものだ。

 魔力の無効化。すべてはそこに行きつく。魔力に頼っている限り、攻めることはできないということになる。

「ハミュは、どこにいるんですか?」

 由紀音が、疑問を発する。一緒に仕事をしてきた精霊だ。心配するのは当然だろう。

「どうやら、真と一緒にいるみたいだにゃ」

「姿は、見えませんでしたが」

「反応はあるから、まだ存在はしていると思うにゃ。ただ、あの渦の中心にいるから、無事かどうかはわからないにゃ」

 結局は、魔力に関係するものは、どうにもできない状態になっている。この場であの魔力の渦は、最大限の効果を発揮する能力となっていた。

「結界のほうは、どうなってるんすか?」

 裕也が話に割り込んで、疑問を口にする。

「逃げることを考えると、退路の状況はしっかり確認しておきたいっす」

「結界は無事にゃ。ただ、結界に沿って設置していた仕掛けが変異させられているにゃ。それがどう影響するか、わからないにゃ」

 ネリスカームは、足下に魔法陣を描いている。事態が変化し始めてから、ずっと魔法陣を展開させている。これで周囲の状況をずっと把握しているようだ。

 結界に設置していた仕掛けというのは、結界内の声を聞く集音の仕掛けや本部の声を届ける拡声の仕掛けのことだろう。それが、別の仕掛けに変わってしまっている。それでは、逃げられるかどうかも判断が難しい。

「仕掛けは、真の担当でした」

 仕掛けを設置したのが真となると、最初からこうすることを考えていたのかもしれない。

「……このシェルターに影響は出ていそうですか?」

 加護で作った魔力の壁。この壁も突き詰めれば、魔力が関係している。魔力の渦の影響を受ければ、もしかしたら崩れるかもしれない。

「壁に影響はないみたいにゃ。それだけでなく、壁の内部も影響が出ていないにゃ」

「言われてみればそうです。外と比べたら穏やかなものです」

 影響はないとなると、加護は何とか使えそうか。いつまでも持つとは思えないが。

「長谷川さんは、もとからこれだけの魔法を使えたんっすか?」

「そんなはずはないにゃ」

 裕也の疑問にネリスカームは首を振る。

「どこかで魔法を覚えたりとかはできるんすか?」

「それもないはずにゃ」

 再び首を振る。

「そもそも、真の使っている魔法は、精霊外属性にゃ」

「そうなんですか?」

「魔力の色から推測できるにゃ。おそらく、闇の魔力を使っているにゃ」

 色で属性を推測できるらしい。

「……僕の魔力の属性は?」

「闇じゃないかにゃ?」

「その理由は?」

「色が黒いからにゃ。でも、白も使っているみたいだから光もありそうだにゃ」

 黒色が闇の属性、白色が光の属性か。

「課長は?」

「金だにゃ。ちなみにトリムは水にゃ」

 黄色は金の属性で、青色が水の属性。そう考えると分からなくもない配色ではある。

「話が反れたにゃ。真が、精霊外属性を使っているということは、精霊から教わることはできないということにゃ」

 精霊外属性は、精霊が使えない属性だから、そう呼ばれている。だから、それの扱い方を精霊から学ぶことはできない。

「自分で覚えたってことっすか?」

「今はそう考えるしかないにゃ」

 そうなるとどんな魔法が飛び出すか、予想はできない。

「……」

 さて、どうやって乗り切るべきか。

「なんで……」

 考えを巡らせていると、光が小さくつぶやいた。

「なんで、こんなことになったんですか?」

 それは、不安から来た言葉だったのだろう。

 光には、ここにいる理由はない。僕が頼んだからと言えなくもないが、戦場に立つことを頼んだわけではない。精霊たちが、本音で話をできる場所を作りたかったから、仕事を、料理を頼んだのだ。光は、それを十分に果たしてくれた。

 それなのに今は、攻撃にさらされている。

「真は、何も知らない最初の頃は、精霊に対して否定的な考えを持っていたにゃ。精霊との出合い方が、悪かったのにゃ」

 ネリスカームが、沈痛な面持ちで語り出す。

「精霊の中にも良い精霊と悪い精霊がいるのにゃ。真の前に初めて現れた精霊は、運が悪いことに悪いヤツだったにゃ」

 そこで言葉を切る。何を語るべきか、考えるように口を開く。

「恐怖だったと思うにゃ。常識が通用しない存在を前にして、何もできなかったのだと思うにゃ。その後、精霊にかかわった以上は、こちらの監視下に置かれるにゃ。そして、いろいろと勉強してもらったにゃ。魔法だけでなくいろいろとにゃ。その中で最初は、否定的だった考えが、少しずつ軟化していったのにゃ。精霊とパートナーを組めるまでになって、精霊とかかわることを自分で決めたのにゃ」

 そこまで語って、ネリスカームはため息をつく。

「でも、今回の行動を考えると、そうでもなかったのかもしれないにゃ」

「そんな人をどうして、岩の里の担当にしたんっすか?」

 今度は裕也が疑問を口にする。

「否定的な考えを持っていたのならば、岩の里の考え方は受け入れられないはずっすよね?」

「真から志願してきたにゃ」

「自分から?」

「自分で精霊たちと粘り強く話をしたいと、そう言っていたから任せたのにゃ」

「それじゃあ、岩の里との関係で否定的な考えに戻ったんすかね?」

 裕也の言葉は、踏み込み過ぎている。岩の里を暗に否定している発言だ。

 この発言に誰も何も言わない。それぞれに思うところがあるのだろう。

 戦場に一人立つ真は、少しずつこちらに近づいている。急いで近づくことがないところを見ると、魔力の渦を生み出している間は、激しい動きはできないのかもしれない。それでも確実に近づいてきている。余裕を持てる時間はなくなってきている。

「……テンカ」

「何だ、相棒?」

「動けるか?」

「ヤルのか?」

 テンカに驚きはない。ただ、不敵に笑う。

「やらないわけには、いかないだろ?」

 僕は、それに笑って返した。

「ちょっと、待って」

 光が、僕の腕を引いて動きを制する。

「どうして、浩一が行かないといけないの?」

「たぶん、僕だったらあの中でも自由に動ける」

 魔力の渦は、加護に対して影響が少ない。ブラストによる魔力の放出も、真まで届いていた。魔力の盾で簡単に防がれてしまったが。

「そうじゃなくて、どうして浩一がやらないといけないの?」

 僕の腕にかかる荷重が増える。光の手が、僕の腕を強く引っ張る。

「……」

 不安なのかな。

 圧倒的な力量。悪意からくる攻撃。それにさらされて、平常ではいられなくなっているのだろう。普通の生活をしているのならば、当然のことだと思う。

 裕也も普通の生活をしているはずだが、そこは今までの経験の中に似たようなことがあったのだろう。僕自身のことは、今はよそに置いておく。

 だからと言って、何か気の利いたことが言えるわけではないが。

「やりたいからだよ」

 僕は、正直な気持ちを吐露することしかできない。

「精霊は、そんなに悪いわけじゃない。人とうまく付き合えないわけじゃない。それは、光も知っているでしょ?」

「うん……」

「それをできないと言われるのは、必要ないと言われるのは、おかしいと思うんだ。人がどうこうじゃなくて、精霊がどうこうじゃなくて。えーと、何って言ったらいいのかな?」

「私に聞かないでよ」

「ごめん。でも、僕がやりたいことなのは、確かなことで、本当のことなんだ」

 そこまで言って、口にして、光の手から力が抜けていく。僕の腕から光の手が離れていく。

「ごめん」

 何となく謝罪を口にしてしまう。

「良くわからないけど、わかったから」

「……それ、分かってないよね?」

「うるさい」

 光から、平手打ちが飛んできた。

 うん、少しは元気になったみたいだ。

「……リア充爆発シロ」

 不穏なセリフが聞こえてきたが、無視する。いや、言った本人を無視するわけにはいかないが。

「由紀音さん」

「な、何?」

「手伝ってもらいますので、準備してください」

「え?」

 名指しされた由紀音は、驚きの声を出す。

 周囲に集まって会議をしていた面々も、声を出さずに驚愕の表情をしている。

「ちょっと待つにゃ!」

 そんな中、いち早く正気に戻ったのは、ネリスカームだ。

「さっき、何もできないと確認したばかりにゃ」

「はい」

「それで、何をするというのかにゃ?」

「戦闘です」

 今の真を止めるには、それしかないだろう。

「それは、無謀だにゃ!」

 声を荒げて、ネリスカームが叫ぶ。ネリスカームが、こんな態度を取るのは初めて見た。

 それを見て、裕也が僕とネリスカームの間に体を割り込ませた。

「ちょっと待ってください!」

 そして、僕の正面に向き直る。

「何か手があるのか?」

「ある」

 裕也の疑問に、間髪いれずに返答する。

 そのまま互いの目を見て、にらみ合いを続ける。

 三秒ほどそのままの姿勢でいただろうか。先に裕也が、動いた。

「俺に出来ることはあるか?」

「まだ動けない精霊がいるから、そっちの対応を頼む」

「シェルターを出る必要があるのか?」

「そこまではいかないと思うけど、念のために」

「分かった」

 そう言って頷いた裕也は、今度は翻って、ネリスカームに体の正面を向ける。

「無茶を言っているのは、重々承知しています。だけど今は、タケのことを信じてください。お願いします」

 そう言って、思いっ切り頭を下げた。

 その行動に、集まった面々は、再び言葉が出なかった。

「やりましょう」

 そんな中で由紀音が、言葉を返してくれた。

 一番答えを聞かなければいけない人から、一番聞きたい答えを聞けた。

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 裕也と僕は、二人で感謝の言葉を述べた。

「本当は、私たちが何とかしなくちゃいけないのよね。だから、感謝をしなくちゃいけないのは、私たちのほうです」

 由紀音は、言葉を返しながら微笑んだ。

「それで、私はどうするの?」

「僕とテンカで前衛をやります。由紀音さんは、結界に設置された仕掛けの対処をお願いします」

「武野はバカです」

 今度は、トリムからけなす言葉が降ってきた。

「魔法が使えないです」

「そこは手があります」

「どんな手ですか?」

「それは、実際に体験していただくのが早いと思います」

 ここでは、言及を避ける。ここの会話も真に聞かれているのだろうから、核心部分をあらかじめ公開する必要はない。

 僕は、鎖を創造する。両腕に巻きついて二本の鎖が出現する。

「さて、戦場へ行きますか」

 今度の戦いは、見ている側ではない。実際に自分の体が、戦いの場に立つ。何の言い訳も聞かない場所へ、足を進める。

 その隣にテンカが並ぶ。

 この結果を面白くするために、悪意のこもった風の中へ。


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