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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
41/71

41 裏切り+いがみ合い

 魔綱武装を纏ったテンカは、破竹の勢いだった。

 精霊たちの遠距離からの魔法は、すべて槍で切り裂いた。妨害のための魔力の鎖や植物の根も槍で切り裂き、一振りで簡単に無力化した。

 近距離からの攻撃も真正面から打ち合い、魔法でも体術でも激しい争いを続けた。

 十八体に及ぶ精霊たちの波状攻撃、岩の里の陣地からくる妨害魔法、そのすべてをたった一人で受け、受けるだけでなく応じて攻撃を返していた。

 テンカは善戦した。

「でも、負けちゃったよ」

 光が、たった一言で事実を語った。

 始める前の、作戦を立てていた時の、勝つと言っていた時の自信は、結局、気持ちだけの話だった。

「負けちったな」

 裕也が、責めるような瞳を向けている。

 そんな視線を受けるテンカは、いつも通りだ。

「ガッハハ、負けたぜ」

 満足したということが、何も聞かなくても分かる表情をしていた。

「……つまらん」

 過程が悪かったわけではない。一時は、本当に勝てると思った時もあった。精霊たちも何体も戦闘不能の状態まで追い込んでいる。全力を出したテンカは、ここにいる誰よりも強いと思う。

 だが、そこまでだった。

 相手が消耗していて、テンカだけが消耗していないわけがない。徐々にではあったが、確実にテンカも消耗を強いられていたのだ。

 そして、その消耗がたまり、テンカ自身の魔力が削られ、戦場で突然停止した。

 戦っていた精霊たちは、何事かと警戒し、戦場にいながら動きを止めてしまった。その後、わずかながら空気中の魔力を吸収して、回復したテンカから負けを認める言葉を告げられた。

 そして、戦場は静かになった。

「まさか、体が動かなくなるまでやることになるとは思わなかったぜ」

 テンカは、魔力がなくなれば、意識を保てなくなり、突然に停止してしまうと言う。

 普通の精霊は、魔力を消費していけば疲労を感じて、そこまでの状態になることはない。

 だが、テンカは人造精霊であるせいか、疲労を感じることがないらしい。魔力がなくなるまで動き続けることができるが、どこで魔力が切れるか、どこまで動けるかを知ることができない。そういう部分で不便がある。

「それでは、結果の話をするにゃ」

 ネリスカームは、淡々と話を進めている。

 本部のテーブル上にいるのは、今後の話を進めているネリスカーム、フランメ、ディジスの三体。

 由紀音は、いまだ変わらずダウンしていて、テントの中で休んでいる。

 そして、少し離れたところに僕たちとトリムが集まっている。トリムは、変わらず護衛任務だ。

 他の精霊たちは、さらに離れた場所で、戦闘不能になった精霊の看護や自分たちの陣地に敷いた魔法の解除を行なっている。

 真とハミュは、結界内の仕掛けの解除をして回っている。

「最終的に《破壊の機神》を打ち取ったのは、フランメさんということで間違いないかにゃ?」

「……」

「確かでござる」

 答えるのはフランメではなく、ディジスのほうだった。

 問われたフランメは、黙っている。

「それでは、里の精霊の世界進出について、岩の里の意向を反映させていくということでよろしいかにゃ?」

「……」

 再び問われても、フランメが動く様子は見せない。

「何を考えているでござるか?」

 そのフランメに、最初に疑問を示したのはディジスだ。

「それで良いのか?」

 口を開いたフランメの第一声は、それだった。

「この対戦が始まる前に、このことについては話し合っているでござる。何を今さら言っているのでござるか?」

「はっきりと言おう。この度の対戦、我々だけでは勝てなかった」

 それは、誰もが思っていることだろう。そもそも、この対戦のルールからして、他者が入り乱れるようにできている。

「それなのに、結果だけで権利を享受して良いものなのか。我は、そうは思えぬ」

 決意を秘めた言葉を載せて、ネリスカームを見つめる。

「そもそも、この対戦は、我々がいがみ合っていたから行われたのではないかな?」

「そう言うことみたいだにゃ」

 ネリスカームは、他人事のように言葉にする。

「決めたのは武野君にゃ。その答えは、本人に聞くといいにゃ」

 その言葉に従って、三体の精霊の視線が、僕に突き刺さる。

 仕方なく、僕は三体の精霊に近づいた。

「すみません」

 僕は、まずは謝る。それだけで済むはずはないだろうが、一応、僕なりの理由もあるにはある。

「精霊同士でいがみ合っていたのが、つまらなかったので」

「つまらなかったと?」

「はい。それに精霊同士でいがみ合うのに、精霊と人でいがみ合わないわけがないです」

 僕の言葉に、ここにいる誰もが言葉を発しなかった。

 ただ、無言を貫く皆に合わせて、僕も言葉を切る。

 この時の一瞬だけ、音がこの場から離れて行った。雑音も騒音もすべての音が消えた。

 それは、気のせいだった。それをすぐに思い知らされることになった。

 結界内で爆発が起こった。

 その爆発音にとっさに振り向くと、遠くで煙が上がっている。おそらく、爆発によるものだろう。

「何事にゃ!」

 ネリスカームが叫ぶ。しかし、その声は、続く爆発音でかき消されてしまう。

 結界内で起こった爆発は、一度ではない。結界の円周に沿うようにして、本部に近づくように連続で爆発が起こっている。それに合わせて、土煙が高々と舞い上がる。

 爆発の起こる軌道は、とうとう本部の傍まで達し、結界を一周して止まった。

 爆発で舞いあがった煙が、結界内に大量にあふれている。外の様子を見ることができなくなるほどだ。結界内が、日の光を遮られて、わずかに暗くなったように感じる。

「トリム、由紀音を起こしてくるにゃ」

「はいです」

 ネリスカームが、トリムに指示を飛ばす。それに続けて、足下に黄色の魔法陣を展開させている。

 僕は、広げたままにしてあった立体型地図に視線を落とす。

 見て判断した通りに爆発は、結界に沿って起こっていた。爆発の近くにミストが発生している様子も確認できる。どうやら爆発は、魔法によって引き起こされたようだ。

 その他にある変化は、戦場の中に渦のようなものができていたことだ。その渦は、魔力の流れを一か所に、渦の中心に向かわせるようにした流れを表している。

 その渦の中心地点を実際の視界に入れるために、地図から視線を上げて睨みつける。

 人間が歩いていた。

 渦の中心にいたのは、一人の人間だった。

「真、何をしているにゃ」

 そこに立っていたのは、異世界交流対策課の人間、長谷川真だった。

「課長、僕は仕事をしているだけです」

 真は、硬い表情で感情を込めずに告げる。

「こんなことは認めていないにゃ。すぐにやめるにゃ」

「それはできません」

 はっきりとした口調で否定をする。

「ここは、人間の世界です。精霊が、好き勝手して良い世界ではありません。精霊は、いるだけで無駄なのです」

 何だ、真は何の話をしているんだ。

「精霊の必要ない世界なんです。そのことを精霊は、分かっていない」

「何を言っているのにゃ!」

「精霊なんて、排除するべきなんです。僕は、それだけの力を持っています」

 魔力の渦は、真を中心にして、止まらずに動き続けている。

「この世界の精霊をすべて、消してやります」

 そこで、真の足下に魔法陣が生まれた。黒色の輝きが、目に突き刺さる。そこから魔力の風が渦巻く。

「〈ウインドカッター・シャドー〉」

 魔力の風が、無数の刃となって、里の両方の陣地に飛んでいく。その刃の後ろを続けて黒い刃が追撃する。連続で刃を放ち続ける。

 岩の里の陣営も、森の里の陣営も防ぐ手立てなく、切り刻まれていく。

「やめろー!」

 フランメが卵型から猿へ姿を変え、一気に加速して真に迫る。

「〈バーストナックル〉!」

 フランメが魔法を放つが、それが真を目前にして消える。

 魔法を纏わぬ、ただの拳が真に向けられるが、それを真の周囲に渦巻く風が弾き飛ばす。

「おのれ……」

 フランメが、吹き飛ばされて地面に転がり、憎々しげに真を睨みつける。

「これはどういうことでござるか?」

 ディジスは、ネリスカームに詰め寄っていた。

「……どうやら、裏切られたということかにゃ」

「課長、あなたはどうしますか?」

 ネリスカームのつぶやきを、真が捉えていた。普通に聞きとれる距離ではないが、魔法で音を拾っているのかもしれない。

「あなたは、僕に魔法という力を教えてくれた。言わば、恩人です。それを手にかけるのは、僕としても望まない。僕に協力してくれるのならば、無事にここから出して上げますよ」

「それは聞けない話だにゃ」

「そうですか。それは残念です」

 ネリスカームと真の話は、決裂に終わった。そもそも、受け入れられることを考えているような交渉には見えない。最初からネリスカームが、断ることを分かった話だったと思う。

 真の魔法は、勢いを衰えさせることなく、戦場を渦巻いている。

 テントから由紀音とトリムが、走って出てきた。

「にゃあ課長、どうしますか?」

「真を止めるにゃ」

「了解です」

「止めるです」

 由紀音とトリムも、すぐさま戦場へと踏み出す。

「〈ウォーターレーザー〉」

 真から離れた場所で、青い魔法陣を描き出す。

 水の放射が、真に向かって迫る。

 しかし、真に届く前に水の放射は細くなり、勢いもなくなり消えてしまう。

「魔法が、消えているにゃ」

「その通りです」

 僕たちの驚愕に対して、真は簡単なことのように肯定する。

「僕に魔法はききません」

 魔力の風を戦場にふりまいて、真は同じ場所で、変わらぬ表情で立っている。

 それでも由紀音とトリムは、遠距離から魔法を放ち続けている。

 そのすべてが、まことに影響を及ぼすことはない。

 これは、まずい状況になっているかもしれない。

「……課長、まずは、戦闘不能の精霊たちを回収しましょう」

 僕は、立体型地図を見ながら、ネリスカームに声をかける。

 真を中心に渦巻いているのは、まず間違いなく魔力だ。その渦の影響で魔法が消えてしまっているのだろう。その渦の影響は、少しずつ結界内に広がっているように見える。

 本部は、加護で作った魔力の壁で影響は出ていないが、里の両陣営は、何か影響があるかもしれない。そんな場所に、精霊をずっと置いておくわけにはいかない。

「そうだにゃ」

 ネリスカームも僕の話に頷いた。

「では、我が里のことは任せてもらうでござる」

「僕は、岩の里のほうに行きます」

「それじゃあ、俺様は森のほうに行くかな」

 テンカが、何事もないように話に加わっている。森の里のほうが精霊の数が少ないが、ディジスも対戦で疲弊している。テンカが共に行くのは正しいだろう。

「ここのことは、お願いします」

 ここには、戦闘不能まで魔力を消費した精霊たちがいる。光と裕也もいる。巻き込まれたら、抵抗する術がない。

「任せるにゃ」

 僕は、頷くネリスカームに頷き返して、すぐに駆けだした。

「気をつけてね!」

 背後から光の心配する声が聞こえる。

 僕はそれに手を上げて応じると、魔力の壁の外側へと踏み出した。


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