39 挑発+精霊外属性
武者も忍者も共に三体ずつ、新たに戦場に現れた。
テンカも戦場につくが、初回の接触ほどの距離は離れていない。
テンカの足下で紫色の輝きが満ちる。
「〈プラズマランサー・デュオ〉!」
テンカの両腕から雷の槍が生まれる。二本の雷の槍を振り回す。
「さあ、始めようぜ!」
テンカが、地面を踏み込む。
それに合わせて、テンカの進行方向に魔法陣が現れる。茶色く光ると、その魔法陣から魔力の鎖が幾本も現れる。
それをテンカは、ある物は回避し、ある物は切り払い、前方に待つ精霊に向かって進んでいく。
「〈チェーンバインド〉」
すると前方の武者からも魔力の鎖が、テンカを束縛するために伸びてくる。
「〈リングケイジ〉」
今度は、忍者たちから輪が投げられる。
視界に映る精霊からだけでなく、死角から木の根が振り下ろされる。
テンカは立ち止り、鎖も輪も近づく物をすべて、雷の槍で弾いていく。
「……この状況は」
前回とは打って変わった戦い方。
「まずは、動きを封じるみたいだにゃ」
ネリスカームには、相手の意図が見えているようだ。
「精霊の魔力を減らすこと、それが実力対決の勝利にゃ。そのための方法は、別に派手な攻撃魔法だけじゃないにゃ。動きを封じた後に、魔力を削る方法もあるにゃ」
なるほど、力で圧倒することが難しいならば、からめ手で攻めるということか。武闘派と言われている岩の里が、そういう手段を取るのはちょっと意外だ。
動きを拘束するような魔法に魔力の鎧は使えない。いくら攻撃が届かなくても、捕まってしまえば意味はない。ずっと魔力の鎧を維持することもできない。攻撃一辺倒のテンカにとって、捕まることは避けたい状況だ。
「ちょっと、まずいんじゃないかにゃ」
「大丈夫です」
「何か手があるのかにゃ?」
「……たぶん」
何もないということはないだろう。
テンカの雷の槍には魔力の輪が、かみついている。
弾くことに失敗すると、輪が対象に絡みついてしまうようだ。
雷の槍は、いびつな形に歪んでしまっている。
「めんどくせぇことを!」
テンカの行動が、防御から回避に移っていく。その場にとどまれず、防御と回避を織り交ぜながら、少しずつ後退していく。
魔力の輪にかみつかれた雷の槍が、明滅している。魔力が安定しなくなっているのだろう。体が捕まれば、その影響がテンカ自身に現れることになる。
武者たちと忍者たちは、テンカが後退するのを見て、さらに激しく鎖と輪の連投を続けていく。
テンカが、さらに後退した時、テンカの足下の地面に魔法陣が描かれた。かなり広い範囲に魔力の光が満ちていく。良く見ると魔法陣が三重に展開されていた。
魔力の鎖が二種類、テンカの足下から伸びていく。一つは今まで通りの魔力の鎖、もう一方は、金属質の鎖だ。
さらに、火でできた巨大な腕が、テンカの頭上を覆い隠す。
「あれは?」
「ほう、多重魔法にゃ」
ネリスカームの言葉に、感心したような響きが宿る。
「多重魔法は、数種の魔法式を同時に重ねて、効果を高めた魔法にゃ。狙った効果を出すには、使う者たちの相性が重要にゃ。簡単に成功できる魔法じゃないにゃ」
テンカの周囲を三種類の魔法が飛び交っている。火の腕に退路を限定され、二種類の鎖が隙間をふさぎ、飛び込み、テンカを捕まえるために迫る。
さすがのテンカも、これには抵抗することができず、鎖に捕らえられてしまった。一度捕まると、一気に鎖がテンカを締め上げていく。魔法陣から生まれた鎖は、地面にしっかりと縫い付けられている。
「捕まってしまったにゃ」
火の腕は消え、二種類の鎖でぐるぐる巻きにされたテンカが、その場に残っている。
そこまで来て、今まで同じ行動をとっていた武者と忍者が、異なった行動を取り始めた。
武者たちは、これを攻撃の機会ととらえて一斉にテンカに迫る。
忍者たちは、まだ動かずにさらなる束縛をテンカに強いる。
この機会を利用して、流れを自分たちに引き寄せるため、それぞれに魔力が流れていく。
もちろん、テンカにもその流れがある。
「ガアァァァァァ!」
テンカの咆哮が戦場に響き渡る。
その咆哮に行動をしていた精霊たちが身構える。
身構えたその一瞬、テンカの体が光り輝く。轟く轟音を響かせて、戦場をさらなる輝きが満たしていく。視界が光で満たされる。
「ガアァァァァァ!」
光が収まり、戦場の視界が戻ってくると、そこには機械の竜がいた。人型から竜型へと姿を変えたテンカが、戦場の中心に立っていた。
姿が巨大になった影響で、テンカに巻きついていた鎖も引きちぎられている。
「まだまだ行くぜエー」
テンカの大声が、戦場にこだまする。
「にゃははははは」
その姿を見上げているネリスカームが、突然笑い出した。
「にゃー。ここまでとはにゃ」
「……テンカに任せておいて良かったですよね?」
僕の質問にネリスカームが笑顔で頷く。
「正直なところ、最初は不安だったにゃ。負けてしまったら、どちらかの里の考えで今後を進めないといけなかったからにゃ」
異世界交流対策課にとって、岩の里も森の里も、どちらの考え方も受け容れることはできない。精霊を公にするためには、足りないものが多すぎるというのが主な考えだ。
だから、この対戦で精霊里を勝たせる考えはない。
では、どうするのか。
両方、勝たせない、引き分けにする状況を作り出す。それが今回、僕たちが異世界交流対策課に提案した内容だ。そうすれば、現状維持ではあるが、衝突は回避できるだろうと考えた。こちらに来てから満足に戦っていないテンカが、フラストレーションをためていたからという理由もあったりはするのだが。
「とりあえず、これでこの時間は乗り越えられそうだにゃ」
戦場は、巨大な機械竜に対して、武者と忍者だけでなく、大型の虎や怪鳥も戦場を暴れ回る光景になっている。
◇
みそ汁をすする。
おにぎりに手を伸ばす。
唐揚げ、卵焼き、枝豆といったおかずを口に運ぶ。
これらは、すべて精霊たちの食事風景だ。
「こっち足りなーい」
「はーい」
「おかわりー」
「はい、はい」
僕は、配膳係になっていた。
なぜだろう。
精霊たちに光の作った料理は、大変好評だった。皆、競うようにして口に入れている。一つの大皿に一気に群がり、あっという間に片づけていく。岩とか森とか関係なく、精霊たちが入り乱れて、テーブルの上を埋め尽くしていた。
そんな状況で、落ち着いて食事をできるわけもなく、僕は光と一緒に配膳をする形になっている。光だけに任せていられる状況ではないから、仕方がない。
「おい、それこっちによこせよ!」
「そっちは、多く回ってるだろ!」
精霊たちが、テーブル上で言い争いをする。
「ケンカするなら、あげませんよ!」
光が、配膳をしながら叱りつける。
「申し訳ない」
「ケンカしてません」
すぐにおとなしくなる精霊たち。
その精霊たちの間に光が、新たに大皿を置いていく。
「仲良く食べてね。まだまだいっぱい作ってあるから」
「はーい」
ここはわんぱくな子どもたちの集まりになっていた。
なぜだろう。
実際のところ、精霊たちはこの世界の食事をまともに取ったことがなかったらしい。見様見まねで作っていたと言う。もともと精霊に食事は必要ないのだから、それで困ることはなかった。だから、この状況は、ほぼ初めてと言っていいこの世界での食事だった。
「ね、わかる、わかる?」
「そ、そうっすね」
由紀音と裕也が隣り合って座っている。
由紀音はビールを飲みながら、裕也はその由紀音にお酌をしながら、精霊たちから少し離れたところで話をしている。もう、仕事上がりの雰囲気がいっぱいだった。酔っぱらっていなければいいが。
「ウェイターさん、ビール」
由紀音は、空になったビール瓶を片手に持って、手を振っている。完全に酔っぱらっている。
「……はーい」
僕は、ウェイターになっていた。
なぜだろう。
仕方がないから、新しくビール瓶を届ける。そもそも、何でビールを用意しておいたのだろう。最初から飲む気だったのか。
「さすがに厳しいですにゃ」
「それは、こちらのセリフですぞ」
「そうでござる」
こちらは、ネリスカーム、フランメ、ディジスの三体が、顔を向かい合せている。さすがにそれぞれの代表であるからか、他の精霊たちほど騒いではない。
僕はそこに近づき、空になった大皿を回収する。騒いでいなくても、しっかりと食べている。
「提案者は、武野君だからにゃ。そっちに聞くべきだにゃ」
僕に話が振られる。タイミング悪く、近づいてしまったらしい。
「何の話ですか?」
まずは、そこから問いただす。
「この対戦についてですぞ」
「そうでござる。あまりにも困難でござる」
フランメとディジスは、両者ともに不満があるようだ。
「と言いますと?」
「《破壊の機神》、テンカ殿と言いましたか、あの者はいったい何者でござる?」
そう言って、戦場に視線を向ける。
今のテンカは、卵型に戻り、戦場の中を浮いている。皆が食事を取っている中、一人でいる。テンカは積極的に食事を取らないため、食事時は寝ているのが通常だ。今回はさらに、この中に加わらないように、事前に言い含めている。
一度手合わせをした後だから、もう隠す必要もないだろう。
「僕のパートナーです」
「ふむ、納得できるだけの能力は持っていますな」
納得を示す言葉だが、フランメは、納得していないような様子で言葉を続ける。
「ただ、あのような姿形の精霊は、聞いたことがありませんぞ」
「人造の精霊ですので」
確か、成功例はテンカしかいないはずだ。
「精霊外属性を使えるのもそれが理由でござるか?」
「精霊外属性?」
また知らない単語が出てきた。
「武野君は知らないのかにゃ?」
「知りません」
「魔力の属性の話だにゃ。精霊に属性があるように魔力にも属性があるにゃ。それはいいかにゃ?」
「はい」
「精霊の属性と魔力の属性は、それぞれ対応しているにゃ。でも、魔力の属性には、それ以外にも属性があるにゃ。その精霊の属性にない属性を精霊外属性と呼んでいるにゃ」
魔力の属性の種類は、精霊の属性の種類よりも多いということか。
「それが使えると、何かあるんですか?」
「精霊は、精霊属性の魔力しかうまく扱えないにゃ。精霊外属性は、精霊には使えない魔力にゃ」
その話だとテンカは、精霊でありながら、精霊外属性を使ったということになる。本来の精霊であれば、使えないはずの属性を使った、そのことが話題に上がっているわけだ。
「テンカは、規格外ということになるんですか?」
「そういうことになるにゃ」
本来は使えない物を使っているのだから、そうなのだろう。
「だから、困難なのですぞ」
フランメが、こちらに真剣な目を向けている。
「まさかこのような対戦になるとは、思っていなかったですぞ」
「全くでござる」
ディジスが、フランメの言葉に同意している。
「そうでしょうね」
僕は、悪びれずに答えた。
「こちらも、できる限り隠すように動いてましたので」
そうでなければ、今の状況は作れていない。
「圧倒的に不利ですからね」
「不利?」
「テンカはこの対戦、勝つつもりでいます」
「それはどういうことでござる?」
「あなたたちに負けるつもりはないということです」
「この対戦は、最初から仕組まれていたということでござるか?」
「そういうわけではありません。テンカに勝てば、あなたたちの望みは叶います」
事前に通達していたことに嘘はない。
「ちゃんと許可を得ていますにゃ」
ネリスカームも僕の言葉に同意を示す。
これを了承してもらうことが、最も大変なことだった。異世界交流対策課として、最も回避したいことだろう。もしかしたら、岩の里と森の里が、衝突すること以上に警戒している事柄かもしれない。
「負ければ、そちらの言うことを聞きます。対峙するのは、岩の里と森の里のすべてです。時間制限も設けていません。こちらにとっては、不利な状況ですよね?」
「それは、そうかもしれないでござるが……」
「その状況で、規格外が一体いたぐらいで何を言っているんですか?」
このままいけるとは思っていない。状況は、常にこちらに不利に動いていく。
「その状況をひっくり返せない程度の想いなんですか?」
それでも露骨に挑発する。
「一対三十三で対戦しているんですから、この程度のことでガタガタ言わないでください」
ここまで言って、誰も口を開くことはなかった。
フレンメもディジスも静かになっている。こちらの真意を推し量っているのだろう。その瞳に油断はない。
「そちらが考えを改めるなら、多少考えないでもないですが、今のやり方では聞く耳は持ちません。もっと広い視野で見てください。それでは失礼します」
僕は、配膳係に戻った。
休む暇がない。
なぜだろう。




