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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
38/71

38 雷光+炎

『対戦開始、一分前です』

 僕は、マイクを手にアナウンスをする。

このマイクは、戦場全体へのアナウンスとして機能しているだけでなく、ネリスカームの描いた魔法陣を通して、岩の里と森の里の陣地にも直接届くようになっている。また、戦場の話し声も、結界内に配置した集音魔法で、本部に届くようになっている。

『最初の対戦者参加数は、四体です』

 森の里が最初に指定してきた参加数は、四体だ。最初は、様子見ということだろう。

 精霊たちは、すでに準備を終えている。後は開始を待つだけだ。

「武野君、お願いしますにゃ」

 ネリスカームから、開始の許可が出た。

『お待たせしました。それでは、対戦開始!』

 言葉少なく、開始を言い渡す。それと合わせて、戦場で花火が上がった。

「オオオオオォ!」

「ヤアァァァァァ!」

 両陣営からときの声を上げて、精霊たちがテンカに向かって突き進む。

 精霊たちの姿は、皆、人型となっている。ランク4以上の精霊で構成されているようだ。

「あれって統一したんですか?」

「そうみたいだにゃ」

 精霊たちの姿が、人型となっているのは良い。僕が驚いたのは、そこではない。それ以外にも、それぞれの陣営で統一されている部分がある。

 岩の里は、武者装束に身を包んでいた。武士の戦装束である。

 森の里は、忍び装束に身を包んでいた。全身を、一色で覆ったような忍者の服装である。

「精霊の服装って、自由に変更できるんですか?」

「そこまで自由というわけではないけどにゃ。頑張れば好きなようにできるにゃ」

 服装で仲間を見分けることができるし、士気を高める効果もあるだろう。服装を統一するのは、十分な利点がある。

「難しくはないんですか?」

「ん〜、みんなが同じイメージを持たないといけないからにゃ。実物を使って、みんなでイメージできれば、ああいうこともできるにゃ」

 イメージ次第とのことだ。それならば、実際に存在する服装ならば、実物を見ながらイメージできるし、何とかなるだろう。逆に、空想の服装だと、共通のイメージを持つのが難しいかもしれない。

 そんな戦場を駆ける精霊たちを魔法が襲う。両陣営の妨害が始まった。

 武者たちの前には、地面から突然伸びる木の根が、鞭のようにしなり進路を阻む。

 忍者たちの前には、地面そのものが伸びあがり、壁としてゆく手を阻む。

 ある者は切り払い、ある者は飛び越え、ある者は回り道を強いられる。それでも、テンカへと着実に迫っていく。

 迫られるテンカは、その場から動かない。その場で魔力を集めていく。

 テンカの上空に、大きな魔法陣が描かれる。紫色に輝く巨大な魔法陣が、テンカを中心にして広がっている。

 武者と忍者が、互いをけん制していた分だけ、テンカに魔法を使う時間があった。

「〈マルチロック・サンダーボルト〉!」

 魔法陣の中心から、テンカに近づく精霊たちに雷が襲いかかる。雷光が、一瞬にして爆発を起こす。爆発の起こった地面が、めくれあがる。

 爆発が起こった場所からは、黒い煙が立ち込めた。全部で八ヵ所。テンカに向かう精霊のすべてを狙った攻撃だった。

 狙われた精霊たちは、直撃した者も、何とか逃れた者も、それぞれに地面に転がっている。

「……やり過ぎだ」

 僕は、思わず頭を抱えてしまった。

「大丈夫にゃ」

 そんな僕の言葉を聞いて、ネリスカームが言う。

「あの程度のことで、ひるむような者たちではないにゃ」

 その言葉を証明するように、戦場ですぐに動きがあった。

 武者たちは、動ける者はすぐにテンカに肉薄するために走り出す。

 忍者たちは、岩の里の妨害でできた岩の陰にその身を隠す。

 それぞれの戦い方で、すぐさま動き始める。

「まだまだ、行くぜえー!」

 テンカが戦場の中心で叫んでいる。

 テンカが両腕を水平に伸ばし、その片方、武者に近いほうに魔法陣が描かれる。紫色の魔法陣が、輝いている。

「〈サンダーブラスト〉!」

 再び、雷が戦場を駆ける。今度の雷光は、戦場を横断し、テンカに近づく武者だけでなく、地面に表出した木の根まで焼き尽くしていく。

 武者たちは地面に伏せたり、魔法の盾を出現させたりして防いでいる。

 その中でテンカの攻撃をかいくぐり、接近する武者が一体いた。

 最初の接敵。

 しかし、テンカのほうが対応が早い。

 水平に伸ばしていた両腕の、もう一方、反対側に魔法陣を描く。今度の魔法陣は、赤色に輝く。

「〈フレアバーニア〉!」

 赤色の魔法陣から炎が噴出する。その炎の勢いに乗って、テンカの体が瞬時に加速し、武者の目前に移動する。

「オリャー!」

 そこでテンカが体を回転させる。回転するテンカからは、炎が噴き出している。炎を纏った球になって、迫る武者に激突した。

 激突するテンカと武者は、共にはじかれる。

 両者無事に着地し、間合いを取るために一歩離れる。

 その着地点を、地面の下から木の根が襲う。魔法により操作される根は、素早くしなり、太く成長している。根によってテンカと武者が引きはがされ、さらにテンカの動きを封じるように周囲を覆う。

 テンカを覆った根は、すぐに幹のようになっていく。

 だが、その状況は、長くは続かない。

 幹のように連なった根のさらに外側の地面に、赤く輝く魔法陣が描かれる。

 そして、その魔法陣から、炎の柱が立ち上る。連なる根を延々と焼き続ける。

 その炎の柱に、武者たちも忍者たちも手を出せない。

 炎の柱が収まった時、そこには無傷のテンカが立っていた。

「もう終わりか?」

 距離の離れているここからでは、テンカの表情は見えない。それでも、きっと笑っていると確信できる。

 ふと疑問に思い、ネリスカームに尋ねる。

「このくらいの戦闘は、普通にあるものなんですか?」

「普通ではないにゃ」

 首を振るネリスカーム。

「精霊の実力対決は、一対一が普通にゃ。こういう集団戦は、やらないにゃ。そういう意味で普通じゃない規模にゃ。唱えられてる魔法の規模は、普通にあるけどにゃ」

 そんな普通の状況で普通じゃない戦場は、よどみなく動いていく。

 何がかみ合ったのか、武者と忍者が、同時にテンカに魔法を向ける。一方は茶色、一方は緑色の輝きだ。

「〈ロックブラスト〉」

「〈ウィンドカッター〉」

 地面から生まれた岩の塊と大気を震わす風の刃が、テンカを襲う。

 それをテンカは、素手で弾き飛ばしていく。

 その隙に魔法を唱えているのとは別の武者と忍者が、テンカに襲い掛かる。

 まずは、速度で優れる忍者がテンカに迫る。

「〈オーラフィスト〉」

 橙色に光る拳が、テンカの腕と激突する。

「フン」

 だが、テンカはそれを力技で吹き飛ばす。

 続く武者が、その手に刀を出現させて振り回す。

「はあぁぁぁぁ!」

「ウリャアァァァァ!」

 それすらもテンカは、素手で弾いていく。

 武者の連続する斬撃に合わせて、テンカの拳が繰り出される。

「あれは、何で防いでいるにゃ?」

 ネリスカームも疑問を持つ、テンカの技能。

「魔力が、体にまとわりついているのかにゃ?」

 ネリスカームのその予想は、ある意味で当たっている。

 テンカのスキルに魔力の固形化というものがある。これは、実態を持たない魔力を実体化し、物理的に使用するスキルだ。このスキルを使って、テンカの周囲に魔力の鎧が作られている。

 素手で攻撃を防いでいるように見えるが、実際に体まで攻撃は届いておらず、届く前に魔力の鎧で防がれている。あまり応用のできるようなスキルではないらしく、テンカの近くにしか効果がない。戦闘では、こういう使い方をするようだ。

「面白い子だにゃ」

 そんな予想も戦場には何の影響もない。

「〈フレアバーニア〉!」

 テンカが、離れた位置から魔法を放つ忍者に向かって、炎を撒き散らしながら突撃していく。

 その場から忍者は跳び退り、テンカの突撃を回避する。

 回避されたテンカは、新たに魔法陣を描き出す。

「〈サンダーブラスト〉!」

 そして、雷がテンカに近づこうとする精霊たちに襲い掛かる。

 戦場は、流れるように状況が動いていく。

「ここまでの動きをどう見ますか?」

「まあ、両者ともに様子見だからにゃ。おおむね予想通りじゃないかにゃ」

 この状況は、まだどちら側の考えも変えられない状況ということか。

 そうなると、もう少し場が動く必要がありそうだ。

「まだまだ時間は、残っているにゃ。誰も焦ってはいないにゃ」

「はい」

 焦ることはない。確かにそうだ。テンカが順調である限り、機会はある。

「次の動きは、テンカの行動の観察を重視するか、それとも力押しで押し切るか、と言ったところかにゃ?」

「僕だったら弱点を探します」

 僕だったら、テンカとどう対峙するか考える。

「ふむ、テンカに弱点はあるのかにゃ?」

「本人に聞いたことがないので、それは知りません」

「なかなか厳しいと思うけどにゃ」

「時間は十分に残っていますので」

「それもそうにゃ」

 それには、ネリスカームも頷いて、戦場を見つめる。

 戦場の様子は、混沌としてきている。

 岩の里と森の里、両陣営からの妨害が、大きくなっている。岩の山が形作られ、それを割って大樹がまっすぐに伸び、その大樹を傾けるほどに地面が割れたり、隆起したりしている。

 それぞれの陣営、計八体の精霊の攻撃をことごとく回避しているテンカを、全力で妨害するために魔法が繰り出されている。

 平坦だったこの場所は、さまざまに変化している。

「〈サンダーボルト〉!」

 雷光が、天地を繋ぐ一本の柱を作り出し、戦場に生まれた大樹を真っ二つに割り、その熱が大樹を燃やしていく。

 戦場の変化に伴い、精霊たちが飛び跳ねているのが見える。テンカから離れて魔法で攻撃する者、接近してテンカに直接ダメージを与えようとする者、様々な動きで戦場を飛び跳ねている。

「〈バーストナックル〉」

 赤い輝きが見えたと思ったら、大きな爆発が起こる。

「〈ニードルラッシュ〉」

 戦場に生み出された樹木が揺れ、その葉が針となって降り注ぐ。

「〈プラズマランサー〉!」

 雷の槍が、樹木を切り裂き、岩山を焼く。

 こちらとしては、狙い通りに戦場の均衡を保っているようで安心する。両陣営は、この均衡に何を思っているのか。

「ハミュ、そろそろ次の参加数を決めてもらう時間だにゃ」

 ネリスカームが、ここにはいないハミュに声をかける。魔法で連絡を取っているのだろう。

「わかったにゃ。次の参加数は、三体にゃ」

 それを聞いて、僕もマイクを手に取り、口まで持ち上げる。

『対戦者参加数を変更します。次の参加数は、三体です。交代がある場合は、すぐに交代してください。十分以内に交代できない場合は、ルール違反になります』

 アナウンスが、戦場に響き渡る。

 それに合わせて、すぐに忍者たちが引き揚げていく。四体全員が交代するようだ。

 その動きを見た武者たちの動きは、半分が残り、半分が引き揚げていく形だ。

 それらの動きをテンカが、黙って見ていることはない。

 今度は上空に赤い魔法陣が描かれる。込められた魔力が多大なのか、その輝きを強く感じる。

「〈フレイムテンペスト〉!」

 巨大な火球が、魔法陣から地上に向かって落とされる。

 狙うのは、戦場に残った武者たちだ。

 武者たちは、回避を選択したのだろうか。回避を諦め、防御をしたのだろうか。どちらの選択をしたとしても、その結果は同じだ。

 巨大火球の着弾した場所で、火球がはじけた。はじけた火球の熱が周囲を熱し、焼いていく。岩が溶け、溶岩と化し、樹木は燃えて、炭と化す。

 炎の魔法が、広範囲に広がり、戦場を火の海にしていく。

「おい、相棒、聞こえるか?」

 火の海を眺めていたテンカが、声を上げた。

『何だ?』

「戦闘不能になった精霊を、回収してもいいか?」

 炎に巻かれた武者たちのことだろう。

 これは、すぐには答えられない。ネリスカームに視線を向けて、確認をとる。

「テンカに任せるにゃ」

 それに頷き、マイクを口に近づける。

『回収してくれ』

「了解だ」

 テンカは、ためらいなく火の海に飛び込んでいく。そして、すぐに武者の精霊たちを見つけると二体を抱えて、本部に走ってくる。

「すぐに状態を確認するにゃ」

 ネリスカームが地面に降り立ち、油断なく魔法陣を描いている。

 僕も魔力壁の設定を変えて、テンカ達の侵入を可能にする。

 ネリスカームが、二体分の魔法陣を準備し終わると、テンカが本部に到着した。

「そこに寝かせるにゃ」

「了解」

 テンカは、そう言って黄色に輝く魔法陣に精霊たちを寝かせると、すぐに戦場に戻っていった。

 ネリスカームが、尻尾を左右に揺らして確認している。

「どうですか?」

「だいぶ魔力を削られているけど、命に問題はないにゃ。寝かせておけば、すぐに回復するにゃ」

「そうですか」

 ひとまず、安心する。戦闘だからこういうことは起こりうる。

 追撃については、手加減をしないとテンカも言っていたから、予想もできていた。

 精霊が、魔法で絶命することはまれだというので、方法を間違えなければ、簡単に最悪の事態が起こることはない。精霊たちが、実力対決で問題を解決しようとするのも、ここに由来する。

 戦場は、まだ火が消えずに燃え広がっている。それでも戦いは続く。


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