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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
37/71

37 ルール+破壊の機神

 役者がそろったところで、ネリスカームから今回の対戦の注意事項が言い渡されていた。事前に通達している内容もあるので、最終確認という意味合いもある。

 僕も改めて、今回の対戦ルールを確認しておく。


 一、前提について。

 ・参加する精霊は、精霊里の全精霊とする。

 ・対戦は、決められた精霊以外に参加できない。

 ・対戦会場範囲は、結界内全域とする。

 二、対戦参加者について。

 ・対戦参加者数は、精霊の参加総数の少ない、森の里が決定する。

 ・対戦参加者数は、両チーム同数とする。

 ・対戦参加者数は、一時間ごとに変更する。

 ・対戦参加者数が変更された時、参加する精霊を変更できる。

 ・参加者の変更可能時間は、十分間とする。

 三、不参加の精霊について。

 ・対戦不参加の精霊を攻撃、妨害することを禁止する。

 ・対戦不参加の精霊は、本部周辺及びチームの陣地にいることとする。

 ・対戦不参加の精霊は、妨害をすることが可能である。

 四、補足について。

 ・お昼休憩中は、対戦を中断する。

 ・本部周辺は、対戦禁止区域とする。

 ・ルールを破った場合、そのチームの敗北とする。


 確認しておくべきルールは、こんなところだろう。ここまでが、精霊里に事前に伝えておいたルールである。

 森の里にとって有利な部分が、対戦参加数を操作できる点にある。数で圧倒的な差のあるお互いの里を、できる限り対等にするための決まりだ。数の少ない森の里が、対戦の状況を操作できる。一対一も九対九も自由に決められる。

 岩の里にとって有利な部分は、参加していない精霊が妨害をできる点にある。数の差を調整するだけでは、岩の里が納得しない。そこで、岩の里のアドバンテージとなる決まりとして、妨害できるルールを設定した。

「ここからは、当日発表のルールにゃ。心して聞いて欲しいにゃ」

 精霊たちが、静かにネリスカームを見つめている。周囲からの異論は、特に出ない。

 ここから先は、まだ伝えていないルールだ。これについては、事前に当日に発表するルールがあると話を通しているから当然の反応ではある。

 これから発表するルールは、対戦を成立させるために必要な事項であり、今回の作戦の中核部分ともなる。

「まず、対戦者への妨害は、非攻撃的な方法でなければダメにゃ」

 攻撃と妨害は、明確な違いがないと問題が出る。そうしないと対戦者を指定している意味がなくなるからだ。対戦不参加の精霊に妨害行為を許している以上は、そこに攻撃的な手段を使わせるわけにはいかない。それを許せば、岩の里が、圧倒的有利になってしまう。

 さらに、これは次のルールにも関係している。

「次に、対戦チームを意図的に攻撃してはダメにゃ」

 対戦するチームを攻撃してはいけない。つまり、岩の里は、森の里を攻撃できない。同様に森の里は、岩の里を攻撃できない。

 これには、すぐに疑問の声が出た。

「それでどうやって、対戦をするんだ?」

 対戦チームを攻撃できないのに、対戦が成り立つはずはない。ここまで発表されたルールならば、そう思うだろう。

「それは、もう一つのルールで解決するにゃ」

 ここがこの対戦の、この提案の、この作戦の最も重要な部分になる。

「この対戦の勝利条件にゃ」

 今までのルールは、対戦の方針や敗北条件を連ねたものだ。肝心の勝利条件を示していない。

「《破壊の機神》を倒したチームの勝利とするにゃ」

 ネリスカームが、勝利条件を提示した。初めて聞いた単語が出てきた。

「《破壊の機神》?」

「誰のことだ?」

 精霊たちからは、疑問の声が上がっている。ただ、その単語が何を示すのかは理解しているようだ。

 精霊には通常に名乗る名前の他に、もう一つの名前がある。その精霊の内面や性質を表す名称だ。それを精霊名と言う。

 精霊で名前と言えば、こちらのほうが重要視される。通常に名乗っている名前は、ペンネームのようなもので、人間と付き合う過程で必要になったものらしい。

 今回のような精霊同士の戦いでは、この精霊名を名乗るのが正しい礼節だ。

 精霊たちの疑問は、《破壊の機神》が誰なのかということである。

「俺様だ」

 そう宣言したテンカの卵型の体が光り輝き、その光の中から少年が現れる。

「俺様の力を見て、腰を抜かすんじゃねえぞ?」

 その顔に満面の笑顔が浮かんでいる。表情と同様に、心の中も喜びでいっぱいなのだろう。

「それぞれのチームは、この子を倒すために力を尽くしてもらうにゃ」

「そいつは、そんなに強いのか?」

「どこのもんだ?」

「おっと、これ以上は話せないにゃ」

 それぞれの精霊が質問を飛ばす中、ネリスカームが発言を制止する。

「対戦直前に重要情報を漏らせないにゃ。情報が欲しいなら、普通の方法では教えられないにゃ」

 精霊たちが、静かになった。

 もう対戦が直前であるということ。すでに対戦は始まっていること。準備してきたことを十分に発揮すること。それぞれに思うところがあるのだと感じる。

「説明は、ここまでにゃ。それぞれ、自分たちの陣地を作り始めて欲しいにゃ。三十分後のアナウンスで対戦を開始するにゃ」

 その言葉を受けて、精霊たちが動き出した。

「参るぞ」

 フレンメの言葉に従って、岩の里の精霊たちが、我先にと飛び跳ねていく。

「行くでござる」

 ディジスを先頭に、森の里の精霊たちが、一定の速度で列を作って移動する。

 それぞれ、本部から右と左に分かれていく。陣地として設定された場所へ、小さな戦士たちが向かっている。

「始まりやがったな」

 テンカが、その場にいられないといった様子で体を動かし始めた。膝を曲げたり、腕を回したりして、準備運動をしている。

「テンカは、本当にうれしそうだな」

「当たり前だ。戦闘だぞ、戦いだぞ。それも集団戦だぞ。一回で終わりじゃないんだぞ」

 興奮しているのが、はっきりと見て取れる。

「すぐに終わらせないようにな」

「わかってるよ。少なくとも、光さんの飯の時間までは手加減しろって言うんだろ?」

 テンカの確認に僕は頷く。

 開始早々に決着がつくような形は、さすがにまずい。双方が少しでも納得する形をとってもらわないといけない。再燃して、また同じことで争われては困る。だから、テンカに最初は、五割の力を基準にして戦ってもらうことにしている。

 もっとも、これには危険もある。

 相手の力量を正確に分かっていないのだ。使用する魔法の種類や得意な属性は、あらかじめ登録されたデータがあるが、戦闘の様子や戦力を測ったことはない。

 そのため、テンカが負ける形で、開始早々に決着がつくこともあり得る。そうなっては、この計画の立案段階から間違っていたことになり、どちらかに禍根を残すことになってしまう。

 最初の加減が、とても難しい。負けるわけにはいかないが、相手を最初からぼろぼろにするわけにもいかない。

「まあ、なんとかするさ」

 テンカが上下に跳んで体を揺らしながら、それぞれの陣営を見つめている。

 岩の里の陣営からは、火柱が上がった。陣地内で大きな篝火を焚いているようだ。火の精霊もいるから、火属性の魔力を増やすために使うのだろう。

「岩の里は派手なことをしている」

「わかりやすくていいねぇ」

 反対側の森の里は、布で陣地を覆ってしまっている。赤白の横断幕で周囲を覆い、中を視認できないようになっている。何をしているか見えず、不気味さがある。

「それに比べて、森の里は陰気だぜ」

 そう言いながらもテンカの表情は笑っている。

「今も隠れて情報収集をしているみたいだしな」

「そうなのか?」

「レーダーを使って見れば、相棒でもわかるんじゃないか?」

 そう言うのならば、使ってみるとしよう。

 ただ、ここで使うのは合成加護にする。試したことのない加護がいくつもあるのだ。

 鎖を想像し、創造する。そこからさらに、ブーツとレーダーで加護を創る。

 目の前に円柱状に巻かれた茶色の布が現れる。その布をテーブルの上に広げた。

 広げた布には波打った線が引かれ、丸い点がいくつも散らばっている。布を広げ終わると、それらが立体的に浮かび上がった。

 ここ周辺の地形が、立体的に描かれていた。それを僕たちは、空から見たように眺めることができる。

「ほう、便利な地図だにゃ」

 ネリスカームが、広げた地図のそばまで近づいてくる。

 丸い点が人物や精霊を表し、黒い線が地形をなぞっているのだろう。地形は、テントの形や樹木の形、陣地の配置まではっきりと確認できた。

 その他に、色のついた線が空中を走っていた。その線の一本は、森の里の陣地から本部の近く、具体的には僕たちのいる場所まで伸びている。

「これが、さっきテンカが言っていたやつ?」

「そうだ」

 早くもテンカのことを調べに来ているのだろう。

「早速、ルールの意味を理解してくれているようでうれしいにゃ」

 ルールでは、魔法を使って情報を得てはいけないとは決められていない。さすがに始まる前に攻撃や妨害をするのは勘弁してほしいが。

「岩の里のほうは、陣地からの妨害の準備中か」

 火柱の上がる陣地を中心にして、規則正しい配置で精霊たちが並んでいる。精霊の足下には、赤色や茶色の線で丸い円が描かれている。

 僕たちの本部の近くにも人物はいる。

 外にいるのが、僕、ネリスカーム、テンカ。

 テント内にいるのが、光、裕也、由紀音、真、トリム。

 ハミュだけは本部から外れて、森の里の陣地にいる。一時間ごとに変化する参加数を、ネリスカームに連絡する役目がある。

 異世界交流対策課の面々は、ここに至るまでの準備で消耗しているため、昼前までは休憩をとることになっている。由紀音と真は、テントで仮眠をとり、トリムは、光たちの護衛をするためにキッチンに、護衛の関係で裕也は光の手伝いをしている。

「そろそろ俺様も、位置につくかな」

 そう言って、テンカも戦場に向かう。

 テンカはそれぞれの陣地の中間、そこで対戦の開始を待つ。本部を含めた三か所から等間隔の距離をあけている。

 こちらも念のため、準備をしておく。

 手の平に魔力の光を集める。合成する加護は、シールドとランス。それを地面に向けて設置する。集めた光を地面に向けて、軽く投げるように地面に落とす。

 設置されたのは、半球状の小さな器具。足首までの高さしかない。亀の甲羅のようにも見えるだろう。

 設置された器具に近づき、そこに屈んで器具に手を置く。そして、魔力を込めて、それを起動させた。

 起動した結果、器具に変化は現れない。変化の現れるのは、この周囲の空間だ。

 この空間を囲むように魔力の盾が出現し、壁のように設置されていく。魔力の壁は、瞬く間に本部を覆い尽くした。その形は、設置した器具と相似している。

「これで、ここの防御は硬くなりました」

「ありがとにゃ」

 この魔力の壁で覆われた空間は、外からの侵入を絶対に許さない。どんな攻撃も遮断する、堅牢な砦だ。その代わり、内部からの行動や攻撃にはものすごく脆い。ちょっとした攻撃ですべてが崩壊する。防御にしか使えない合成加護だ。

 もともとルールで禁止されているので、本部が攻撃されることはないのだが、流れ弾や余波で被害を受ける可能性はある。それを最低限にすることは必要だろう。

 対戦開始まで、後わずか。

 それぞれの思いは、今、ここに集約される。


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