36 集団+大対戦会
◇◇
学校での話し合いの後、裕也にはいろいろと世話になった。僕の考えだけでは、やはり完璧に進められず、作戦の細かな詰め作業や異世界交流対策課との調整、精霊里への連絡依頼は、裕也が行なっている。
「こんなことしかできないからな」
そう言って裕也は、楽しそうに作業を続けていた。
◇
異世界交流対策課からは、いろいろ忙しくなったと聞いている。今回の作戦では主催する立場になるし、いろいろと不測の事態に対処してもらうことになる。こちらとの連携としても、事前の準備としてもかなりの比重を置いている。
「大胆な作戦にゃ」
「仕事が多すぎです」
「由紀音は働くです」
作戦内容としては、作業量が最も多く、最もシワ寄せを受けていることだろう。
◇
二つの精霊里からは、かなり歓迎されていると聞いている。とらえ方に温度差はあるみたいだが、おおむね好評のようだ。もともと精霊の間には、実力で問題ごとを解決する習慣があるようだから、今回の提案(こちらとしては作戦)を断る理由は特にないのだろう。
「我々の力、存分にお見せしましょうぞ」
「決着をつけるでござる」
長であるフランメとディジスからは、共に決意に満ちた返答をもらっている。
◇
作戦には光にも協力をしてもらっている。主に異世界交流対策課との協力になるが、いろいろとアイデアを考えて、腕をふるっているようだ。きっとこれも成功に一役買ってくれるだろう。
「ほんとにこれ、必要なの?」
必要性に関しては疑問を持たれたが、それでもやってくれるようだ。
◇
今回の作戦を最も喜んでいるのはテンカだった。テンカには、作戦の主役と呼べる役割を与えている。おそらく、いままでにたまった鬱憤を晴らすような活躍をしてくれるだろう。
「ガアッハハハハハ!」
胸を張って大きく口を開けて笑うテンカの姿は、本番でミスを犯しそうで心配である。
◇
そうして決行の日付が来た。
天候にも恵まれ、雲ひとつない空が見える。良い休日となるだろう。
本日行なうのは、岩の里と森の里の対立を解決するための大対戦会だ。
僕は、光と一緒に早朝から現場に向かう。現場までは、異世界交流対策課の車で案内してもらった。会場として取った場所の最終準備を手伝うつもりでいる。
会場は、異世界交流対策課に頼んで、特別に結界を張り、大きな広場を作ってもらった。もともとは、樹木で溢れた普通の山奥のはずなのだが、結界内は平地にならされている。切り倒された樹木は、枝を落として所々に積み上げられていた。
その近くには、大型のテントが張られていた。作業本部として機能するのだろう。いくつもテントが並べられていて、ちょっとした団体でも収容できそうだ。
テントの隣にはテーブルが四卓広げられ、その上にネリスカームが陣取っている。
「おはようございます」
「おはようにゃ」
「お疲れ様です」
朝早くから、いや、もしかしたら何日もここで作業しているのかもしれない。
「形は整えたにゃ。かなりの大仕事だったにゃ」
「ありがとうございます」
「これで頑張ってくれるのなら、こちらとしてもありがたいにゃ」
そう言って、晴れ間のような笑顔を見せてくれる。
そんな笑顔を見せれば、由紀音がカメラを構えてやってくるはずだが、その気配がない。
遠くで大きな音がする。その音のほうを見ると土煙が上がっている。
「由紀音がまだ切り倒しているけど、続けたほうがいいかにゃ?」
「そうですね。広ければ広いほどいいですので」
音のした方向に視線を向けると、遠くで大きな樹木が傾いていく。再び、倒木の音が響き、土煙が立ち上る。
「それじゃあ、私も取り掛かるから」
光も準備を始めるみたいだ。
「キッチンはテントの中に準備してあるにゃ」
「はい、お邪魔します」
光にお願いしたのは、昼食の準備だ。
異世界交流対策課の経費で準備してもらうのも一つの手なのだが、それだけだと味気ない。今回の主旨としても、それだと困る。
そこで、光に頼んだのだ。
ここに集まる人や精霊の分をすべては無理なので、出来合いの物も使うのだが、少しでも手作りの物を出したいと思った。光ならば、ヘレから絶賛されているだけに、精霊たちにも満足してもらえるはずだ。
「それじゃあ僕は、由紀音さんの手伝いをしてきます」
「いってらっしゃいにゃ」
◇
「課長とデート、課長とデート」
「さっさとやるです」
「ふふふふふ」
やつれた由紀音と仕切るトリムが、働いている。由紀音は、一週間前と比べて、随分と影のある姿になっていた。
一応、挨拶はしておこうと思う。
「おはようございます」
「おはようです」
トリムと挨拶を交わす。
「手伝いに来ましたが、大丈夫ですか?」
「由紀音は大丈夫です。さっさと手伝うです。更地にするです」
トリムが、矢継ぎ早に指示をくれる。サングラスでもかけると、とても似合いそうな気配を出していた。
無駄口を叩く暇はなさそうだった。
僕は右手に剣を創造する。切るだけならば、これで十分だろう。
それからブーストで体を強化し、由紀音のやり方を観察する。
「かちょうとでーと」
何かに取りつかれたように魔法を使っている。
由紀音の腕から青い光が満ち溢れ、手首から指先までが青く輝く。
その腕を水平に振り抜くと斬撃が飛び出した。その斬撃が、由紀音の前に並び、そびえる樹木を切り倒していく。
それを何度も繰り返していく。
切り倒された樹木は、トリムが近づき、魔法式を刻まれている。
僕も樹木を切り倒すために目標を定める。由紀音からは少し離れた場所にある樹木を狙う。剣を構えて、魔力を込める。そして、すぐに振り下ろす。
振り下ろすのに合わせて、闇の加護を使う。
使う加護は、斬撃を飛ばす加護。通称名は、ブレード。
黒い斬撃が剣から飛び出し、一直線に樹木を切り倒す。重なって並ぶ樹木を連続して切り倒していく。
切り倒された樹木にトリムが近づき、魔法式を刻む。
トリムによって刻まれたその魔法式が、おそらく魔力を満たす魔法だろう。この結界内の魔力を空気中よりも濃くすることが目的だ。
以前、ネリスカームが教えてくれた魔力を増やす方法。それは、物質内に含まれた魔力を空気中に放出する方法だった。
この世界の空気中の魔力は少ない。その代わりなのか、物質中の魔力は多く含有されている。その魔力を有効に利用するために、抜きだすことを考えた。その結果、生まれた魔法だという。
今までに切られた樹木もすべて魔法式を刻まれて、そういう処理を施されている。
「かちょうとでーと」
これを続けて、結界内の魔力を増やしていく。
「かちょうとでーと」
由紀音が、どんどん樹木を切り倒していくのを視界に入れて、僕も樹木を切り倒していく。
ところで、課長とデートってどうするのだろう?
◇
黙々と木材を量産していると、森の里の精霊たちが到着したとアナウンスが流れた。
由紀音とトリムに一言謝って、木材量産作業から離れる。
本部に戻ると、裕也とテンカが待っていた。
裕也とテンカには、森の里の精霊を迎えに行ってもらっていた。当初は、テンカのみで迎えに行ってもらうはずだったが、付き添いとして裕也にも付いて行ってもらった。
「おはよう」
「おーす」
いつも通りに裕也と挨拶を交わす。
「ありがとう」
「このぐらいはやるさ」
裕也はそう言って笑っているが、ここまでの形にするまでに尽力してくれている。本当に心から感謝する。
視線を動かして、一緒に来た森の里の精霊たちを迎える。
「今回は、僕の提案を受けていただき、ありがとうございます」
テーブルの上に並んでいる、卵型の精霊たちに一礼する。
この計画を立案してから、僕は他の関係者とは顔を合わせていない。計画後、初の顔合わせだ。
「いや、こちらとしても現状を打開する良い提案でござる。こちらの状況を理解していただき、感謝するでござる」
状況を打開する提案というのは、この場所で岩の里と森の里で対戦をし、意見の決着を図るという提案だ。
衝突が回避できないのであれば、こちらの望む形で衝突してもらおうと思ったのだ。ルールを決め、その中で力を奮ってもらうのである。
精霊の実力行使にはルールがない。精霊は自由で、束縛されないから基本的に法を必要としない。
しかし、世界に出ようというのであれば、そうはいかない。人間には守るべき法が存在する。それを考えれば、人間の決めた法を守ることができなくては困る。そういったことで、今回のルールをのんでもらっている。
会場を広く取ったり、魔力を増やしたりしているのは、そういう精霊の自由な部分を考慮したところからきている。十分に実力を発揮し、禍根を残すことのないようにしてもらいたい。
ディジスたちに挨拶を済ませると今度は、岩の里の精霊たちが到着した。岩の精霊たちを連れてきたのは真とハミュだ。
「課長、無事に全員お連れしました」
「ご苦労様にゃ」
「では、作業に戻ります」
「最終作業を頼むにゃ」
ネリスカームに報告だけして、真とハミュは去っていく。向かう先は由紀音とトリムが作業している場所のようだ。向かう途中で、僕のほうに視線を向けた。睨まれたと言ってもいい。何か注意を向けることがあったのだろうか。
岩の里の精霊たちも卵型の姿でテーブルの上に陣取っていた。ネリスカームを間に挟んで森の里の反対側のテーブルに集まっている。この中では一番多い集団だ。
「おはようございます」
岩の里の精霊たちにも頭を下げる。
「今日は楽しませていただきますぞ」
フランメは、不敵な視線を向ける。強気の姿勢だ。
「準備が完了するまで、もう少しかかります。こちらでお待ちください」
後は、由紀音たちの作業を終了させれば開始できる。光にはもう少し作業を続けてもらうことになるが、対戦には影響はない。
開始まで、後わずかだ。




