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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
35/71

35 会議室+味噌汁

 異世界交流対策課での話し合いから一日たった。

 休日は終わり、私たちはいつも通りに学校へ通う。

 その昼休み。

 場所は、中央校舎の四階にある会議室の一室を借りている。浩一の認定試験合格者としての権利を使って、生徒会を通して借りたものだ。

 秋の深まった外は、少し肌寒い。だからといって、わざわざ会議室を借りたりはしない。借りた理由は、私たちだけで昨日の話をするためだ。

 ここにいるのは、浩一と裕也と私だけ。テンカは、教室で眠っている。

 昼食をとりながら、私たちなりに話を進める。

「って言っても何ができるんかな?」

「試せることは、課長さんたちでやってるみたいだもんね」

 結局、昨日の話し合いでは、良い案は出なかった。由紀音が、写真を撮ることに夢中で役に立たなかったのもある。トリムは、ネリスカームの言うことを上司ということで優先しているみたいだった。そんなわけで、ほとんど進展していない。

 この会議室のテーブルの上には、裕也の集めた情報をメモ書きとして広げている。岩の里のこと、森の里のことだけでなく、異世界交流対策課のことやこれまでに試したことなどの情報が書かれた紙片を並べている。

「……この精霊の情報は、里に行った時のもの?」

「そうそう、直接精霊たちに話を聞いたんだ」

 浩一が、興味を示している数枚のメモを私も横から覗き見る。

 岩の里の精霊は、全部で二十四体いる。そのうち、市ノ組に所属しているのは、六体。市ノ組は、里の中から代表者を選ぶ形で運営されているみたいだ。話し合いはそこで行われ、里の方針が決定される。

 市ノ組に所属する精霊は、ランクの高い者が優先的に選ばれている。ランクが同じ場合は、戦闘能力の高い者が選ばれる。この辺りのことが、武闘派と呼ばれることと関係していそうだ。

「こっちの世界でもランクを使っているんだね」

「向こうで慣れ親しんだ基準だから使いやすいんだと」

 市ノ組に所属していない精霊は、里の拡大に努める。結界外の世界を調べてきたり、里を住みやすく手を加えたりする。どちらかというと調査のほうに力点が置かれているらしい。

 精霊の属性は、火と土の二種類がいる。土の精霊は、地形的な意味で住みやすいのはわかる。火の精霊は、魔力の源泉が火の属性が強いためということだ。魔力の源泉にも属性があるみたいだ。

 さて、岩の里に対して、森の里の状況はどんなものだろう。

 森の里の精霊は、全部で九体いる。それぞれ虹ノ組、雲ノ組、夜ノ組に所属している。所属は、均等に三体ずつだ。ディジスと会った時に三体だったのは、あれで虹ノ組、全員だったからかな。

 それぞれの組は、それぞれに役割を持っている。主な役割として虹ノ組が対外交渉、雲ノ組が源泉管理、夜ノ組が魔力調査となっている。他にも役割はありそうだけど、裕也の情報では主なところまでだった。

 里の方針は、基本的に全員で決めている。話し合いが必要な時には全員で集まるが、どうしても手の離せない組は、代表者だけ話し合いに出席して行なっているそうだ。

 精霊の属性は、木属性のみしかいない。あのジャングルのような里の状況だと、そういうことになると思う。魔力の源泉も木属性の魔力が強くなっている。

「普通にぶつかったら、岩の里が勝つよな」

「そもそも数が違うから」

「質も差がありそうだしな」

 量は圧倒的に岩の里が有利、質もおそらく岩の里のほうが上だと思う。

「仮に戦いになったら、対策課だけじゃ止められなさそうだし」

 異世界交流対策課は、精霊里ごとに担当者を置いている。人数は、一人の担当者が複数の里を受け持つことになるので、精霊里の数よりは少ない。パートナー精霊と一緒に担当しているので、パートナーも合わせれば同数に近い数になる。

 岩の里と森の里は、真とハミュが担当している。

 ネリスカームと由紀音とトリムは、本部所属ということになっている。全体に必要な作業を行なったり、どこかに人手が必要な時は、その里へ向かったりして、バランスを取っているみたいだ。

 異世界交流対策課の中で、実際に対応に向かえる人材は少ない。

「ねえ、トリムとハミュって、パートナーって紹介されたよね?」

「そうだな」

「パートナーって、人が生まれる時に同時に生まれるんだよね?」

「ああ、そこは俺も疑問に思ったからちゃんと聞いてる」

 そう言って裕也が、一枚のメモを手に取る。

「課長が、魔法の開発者って言ってたの覚えてるか?」

「えっと、私が、さらわれた後の話だっけ」

「そう。課長は、こっちに来てからも魔法開発をしているんだと。その一つに縁結びの魔法がある」

「縁結び?」

「ナチュラルやファーストと人の縁を結ぶ魔法。それでパートナーとしての縁を結べるんだとさ」

 今後のことを考えると、精霊と人間の関係は、常に考えていかないといけない。ナチュラル精霊やファースト精霊だと自然を中心にしているため、人間との距離が遠い。パートナー精霊であれば、共に行動できるため、人間との距離が近い。パートナー精霊となれるのであれば、そのほうが人間社会に溶け込むことが、簡単になる。

「精霊のほうに魔力の変化が出るみたいだけど、基本的に普通のパートナーと同じみたいだ」

「縁結びの魔法って、人同士にも効果があるの?」

「そこは、聞きたくなかったから聞いてない」

「えー、なんで?」

 縁結びだよ。縁結びには、縁結びの神様もいるんだよ。その縁結びだよ。

「縁が思い通りにできるなんて、ちょっと怖いだろ」

 そういう側面もあるかな。何も知らない人と勝手に何かしらの縁を結ばれたら、なんか嫌だ。

「……対策課の人は、魔法を使えるのか?」

 今度は浩一が疑問を口にする。

「使えるみたいだな」

 裕也が、また別のメモを手にする。

「まず、魔力を扱えるように訓練をする。その後、魔法式を課長から直接教えてもらうんだと。教えてもらう魔法式は、課長が決めてるみたいだから、決まった魔法しか使えない」

 ネリスカームが、魔法の管理をしているみたいだ。使う魔法を限定すれば、誰が何をできるか把握できるし、何かあった時の対応もできると思う。

「魔法陣の形は、人それぞれみたいだけどな。服に書いたり、紙に書いたり、何かにあらかじめ記入しておいて、必要な時に魔力を込めて使うのが基本みたいだ」

「セリアは、魔力で魔法陣を書いてなかったっけ?」

「それは、キュピが書いてたみたいだぞ。グローブに、あらかじめ書いてあった魔法もあるし」

 セリアは、精霊との連携で自由に魔法を使っていた。それは本当に息が合っていないとできないことなのだろう。人間が自由に魔法を使うのは、あらかじめ準備しておかないと難しいらしい。

「戦力としては、人よりも精霊のほうが上か」

「そうだろうな」

 そう考えると浩一は、かなりすごいことになる。加護のおかげとはいえ、精霊と戦闘で対峙することができる。直接見たのは、この前誘拐された時が初めてだけど、戦闘風景なんて全然見たことがないけれど、浩一が対峙できない場面を想像できない。

 だからこそ、異世界交流対策課も岩の里も森の里も、みんなが浩一に注目したのだろう。

「そういえば、浩一のことって、何で知られたの?」

 こちらから説明することもなく、ある程度の事情を知っているような対応をされている。こちらからも詳しく聞いていないから、何が原因で知られているのか、わかっていない。

「魔力の感知と魔力の残滓で、予測されてるみたいだ」

 裕也が少しメモの山を漁って、二枚のメモを探し出す。由紀音から聞いた話だと前置きを置いて説明を始めた。

「魔法的な変化をとらえるために、対策課は常に魔力の感知をしている。魔力の変化を感知したら、その場所を記録して調査をする」

 何があったのか、調べるということだろう。異世界に関係あることがあれば、対応しないといけないわけだから、当然といえば当然だと思う。

「まずは、魔力の残滓を調査する。魔法の場合は、魔力の残滓が残る。場合によってはミストが発生する。精霊のスキルの場合は、残滓はない。その時点で使われたのが魔法か、スキルかを判断できる」

 何かしらの痕跡が、その場に残るわけだ。魔力を消費すれば、物理的に減るのだろうから観測することもできるだろう。

「魔法の場合は、どんな魔法が使われたのか、調査をする。スキルの場合は、精霊里の精霊の出入りを調査する。そうやって、管理内の出来事ならば社会に影響が出ないようにして、管理外の出来事ならば対策課が接触していない精霊として保護するんだと」

「で、その調査で浩一のことが知られたってこと?」

「そうらしい」

 そこまで聞いて、浩一が考えながら話に割り込んだ。

「……それだと、岩と森には分からないよな?」

「そうなんだよな」

「でも、ディジスは、加護ということまで予想しているみたいだ」

「そうなのか?」

「光と闇、どちらが好みかって聞かれた」

 森の里でそんな質問もあった。あれは、暗に加護のことを言っていたのか。

「なんか、独自に情報を集める方法を持ってんのかな」

 これについては裕也も情報を持っていないみたいだ。

「素人だと、やっぱり限界があるな」

「そんなこと言ってもやめる気はないでしょ?」

「まあな」

 そんなところで話が途切れる。

 箸を進めながら、裕也の用意したメモに一枚ずつ目を通す。浩一も裕也も考えをまとめるように静かにしている。

 そんな時だった。会議室のドアが勢いよく開かれた。

「こんにちは!」

 ドアの前に立っていたのは、涼子だった。腕を腰に当て、小さい体で胸を張っている。

「会長、こんにちは」

 私は挨拶を返す。相変わらず可愛い先輩だ。

「はい、こんにちは。食事中に失礼するわ」

 そう言って会議室に入ってくる。

「どんな不意打ちっすか?」

 裕也は、呆れたようにつぶやく。

 この場に涼子が現れたからと言って、慌ててメモを隠したりはしない。もともと涼子が登場するのは織り込み済みだからだ。

 メモの内容は、肝心なところはぼかしてあるし、一、二枚見たぐらいで理解できるようには書かれていない。校内であれば、どこにいても涼子が登場するので、裕也はそれを常日頃から警戒しているのだ。メモの内容を理解するのに苦労するけど。

「それで、何で会議室でお昼をしてるの?」

「会議をしてるからっす」

「何の委員でもないのに?」

「近々大きな行事がありますんで」

「近々ある行事というと、クリスマス?」

「ノーコメントで」

「私たちの企画を邪魔する気?」

「……ノーコメントで」

「答えるまでに間があった!」

 涼子が鬼の首を取ったような勢いで、裕也の発言に突っ込む。

「何かする気だ。言いなさい、言いなさいったら言いなさい!」

 言葉だけでなく体で突っ込む。裕也の首に腕を回して締め始める。

「ちょ、やめ、やめて」

「……会長、ちょっといいですか?」

 浩一が、そんな涼子と裕也を見て、言葉を発した。

「なぁに?」

 涼子は、裕也の首に腕を回したままの姿勢で浩一に応えた。

「一つのことに対して、二つの主張がありまして、その主張が完全に異なるものなんです。そういう時って、どうやって収めたらいいと思いますか?」

「何それ、何の話?」

 涼子は、浩一の変な質問にちゃんと答えてくれるみたいだ。裕也から体を離して、浩一に向き直る。

「……味噌汁の具の話」

 なんでそこをチョイスした。

 浩一の選んだ話題に力が抜けて、一瞬、私の体が傾いた。

「ワカメがいいとか、ナメコがいいとか、そんな話?」

「そんな感じです」

「どっちか好きなほうに賛成してあげたらいいんじゃないの?」

 首をかしげながら、涼子が回答を示す。

「どんな形であれ、結果が出れば、その話題はそれで終わらせられるでしょ」

「どちらかに賛成すると、ケンカになりそうなんです」

 この話の問題は、そこにある。どちらかを選ぶだけでは、納得しないほうが実力行使に出るかもしれないのだ。両方をうまく収める方法が必要なのだ。

「それでケンカになるんだったら、ケンカ両成敗かな」

「なぜ?」

「だって、味噌汁の具なんてポリシーの話でしょ。そんなの誰の利益にもならないじゃない。そんなことで周りのみんなに迷惑をかけるなら、両方とも悪い。だから、両成敗」

「それでケンカを止められますか?」

「武野君なら両方相手にしても止められるでしょ」

 そういうことは、確かに言える。でも今回は占いのこともあるから、浩一はできるだけかかわらないほうがいいのだけど。

「それでもダメなら、条件を付けるとか?」

「条件?」

「例えば、武野君に参ったと言わせたほうが勝ちとか」

「そんな条件でいいんですか?」

「ケンカまでやる気になっているんだったら、多少殴られたって文句は言えないでしょ」

「……」

 そういう考え方もあるのか。

「話を聞いてくれてありがとうございます」

「役に立ったのかな?」

「はい」

「そう、それは良かった」

 浩一の肯定する様子に涼子は、笑顔をほころばせる。

「役に立ったのなら、そのお礼として今度のイベントに協力してくれる?」

「いいですよ」

「おっ、聞いたからね。後でダメって言っても聞いてあげないよ」

 涼子は浩一に近づいて、念を押して確認をする。

「……無理なものは協力しませんけど」

「それじゃあ、よろしく!」

 そう言って涼子は、上機嫌で会議室を後にした。

 それを見送って、裕也がつぶやく。

「会長は、何しに来たんだ?」

「さあ?」

 首をかしげる私と裕也をよそに、浩一は次をを見つめていた。

「……裕也、由紀音さんに連絡を取れるよな」

「何か、思いついたか?」

「ああ。いろいろ確認しないといけないけど、これなら何とかできると思う」

「面白くなりそうか?」

 不敵な笑みを浮かべて聞く裕也。

「……つまらなくはないと思う」

 答えを返す浩一は、そこにやる気を見せていた。


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