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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
34/71

34 台本+占い

 二つの精霊里に行った日の翌日。

 私たちは、異世界交流対策課に呼び出された。場所は、都心にあるオフィス街。その一室の会議室。そこに四人と三体で集まっている。

 私たちは、浩一、裕也、私、テンカのいつものメンバーだ。

 異世界交流対策課からは、ネリスカーム、由紀音、トリムが集まっている。

 何かとても大事な話があるということで、私たちは集められていた。

「集まってもらったのは、他でもないにゃ」

 テーブルに両肘をついて、顎を手の上に置いてポーズをとったネリスカームがいる。ネリスカームの座っている椅子は、特注品のようで、猫の姿でもそういう行動がとれるようになっている。

「にゃあ課長可愛い、はぁはぁ」

 そんなネリスカームの周りを、由紀音がカメラを手に持って、せわしなく動き回っている。

「何でしょうか、課長」

 裕也が、ネリスカームに合わせて、背筋を伸ばして聞くポーズをしている。

「うむ……」

 一言つぶやいた後、ネリスカームの視線は、由紀音に向いた。

「まだ、続けるのかにゃ?」

 ここまでの動きは、台本にある動きを演じたものだ。

 その台本は、由紀音の書いたものである。ネリスカームの出張中に我慢していたことが、いろいろはじけてしまったみたいだ。

「はい、はぁはぁ」

「このままだと話ができないにゃ。そろそろ、いつも通りに話していいかにゃ?」

「仕方がないですね。どうぞ」

 ネリスカームの言葉にうなずいてはいるが、カメラを手放す気配はない。

「由紀音のことは無視してくださいにゃ」

「由紀音は無視です」

 呆れたネリスカームとトリムの言葉に、肯定を示して話に戻る。

「改めて、どうしたんすか?」

 裕也の問いに、ためらいがちにネリスカームは、口にする。

「ここまで呼んでおいて、何にゃが、まだ引き返すこともできるにゃ」

「そんなに厳しい話っすか?」

「聞かないでこのまま帰ることも選択肢としてあるにゃ」

「その判断は、俺じゃできないっすね」

 そう言って、裕也は浩一を見る。

 実際に動く時があるとしたら、それは浩一が動く時だ。裕也は、本当に危ないことには自然と身を引いている。それに対して浩一は、危ないことに首を突っ込むことがある。そう言う意味では危険に一番近い位置にいる。

「浩一君は、どう思うかにゃ」

「……聞きます」

「そうですかにゃ」

 ネリスカームは、特注の椅子からテーブルの上に移動し、そこに座りなおす。

「いろいろと、きな臭くなってきたのにゃ」

「俺たちが関係していることっすよね?」

 裕也がその言葉に応え、それにネリスカームが頷く。

「岩の里と森の里の衝突が近いにゃ」

「衝突って、精霊たちが?」

「そんなに切羽詰まった状況なんですか?」

 さすがにこれには、私も口を挟んでしまう。昨日、岩の里と森の里の両方を見てきた。その時の感触だと、そこまで緊張しているような感じはなかったと思う。

「占いの結果でそう出たにゃ」

「占い?」

 そんなことで衝突が近いなんて言っていいのだろうか。

「こちらの感覚で言えば、未来予知と言って差し障りはないものなのにゃ。ただ、それを言うと嫌がるので占いと言っているにゃ」

「そんなに確率の高い占いなんすか?」

「高いにゃ。天気予報ならば、確実に当ててくるにゃ」

 百パーセント当たる天気予報ができるのは、かなりすごいと思う。思うけど、それを比較する対象にしていいのかな。

「それじゃあ、精霊の衝突は確定っすか?」

「そうでもないにゃ。誰かがかかわることで、未来は幾通りにも分岐するにゃ。事をうまく運べば、結果を変化できるにゃ。だからこそ占いなんだにゃ」

 未来予知ということを嫌うというのは、未来の変化する性質によるのかもしれない。だからこそ、占いと言っている。

「それは、誰の占いなんすか?」

「水の里に住む精霊で、キリンという名前にゃ」

 水の里は、ネリスカームが出張していた精霊里だ。そこで、わざわざ占ってもらったらしい。

「岩と森のことは、対策課でも憂慮している事態なのにゃ。このままというのはおいしくないのにゃ。そこに、この占いの結果が出たのにゃ」

「そこまでは理解しました。それで、俺たちがかかわるというのは、どうしてなんすか?」

 ここまでの話は精霊の話だ。決して、私たちの話ではない。昨日の出来事でどんなところなのか、どんな精霊がいるのかは何となくわかる。でも、それだけ。精霊に対して、里に対して、何かができるわけじゃない。

「占ってもらったのは、この事だけじゃないにゃ。対策課に関することを他にもいろいろ占ってもらったにゃ」

 忙しい身で、そう何度も占いに行くわけにはいかない。だから、一度にいろいろ占ってもらうのは、あり得ることだと思う。

「誠に勝手ながら、君たちのことも占ってもらったにゃ」

「なんでまた?」

「もし、仮に、君たちに危険が迫っているとするにゃ。それが先にわかっているなら、それには絶対にかかわらせないようにすれば、危険を回避できるにゃ」

「それは、そうかもしれないっすね」

「だから、危険なことが迫っていないか、占ってもらったにゃ」

 ネリスカームのほうでも、いろいろ考えているみたいだ。

 占ってくれたならば、せっかくだから結果が知りたくなる。

「それで、結果はどうだったんすか?」

「うむ、危険がいっぱいだったにゃ」

 警戒する準備もなく、軽快に告げられた。

 それには、私たちの誰も口を開けられなかった。

「まあ、今さら考えても仕方ないにゃ」

「仕方ないで済ませないでください!」

 私は、思わず強い口調で言ってしまった。ここでネリスカームを責めても仕方がない。

「どんな危険があったんですか?」

「いっぱいあったにゃ。対策課に関することだけでなく、それ以外でも危険があるみたいだったにゃ。でも、どんな内容かまでは占えなかったにゃ」

「どうしてですか?」

「内容が、簡単に回避できるものや変化することがあるからだにゃ」

 未来は分岐する。未来は変化する。だから、内容が変化するのだと思う。内容が占えないのは、そういうことが関係しているのかもしれない。

「今、こうやって占いの結果を話していることも、何かの危険を回避することにつながっているかもしれないにゃ。できれば、そうあって欲しいけどにゃ」

 ネリスカームもいろいろと考えているのだ。占いのことにしても、私たちのことを考えているからこその行動なのだと思う。

「君たちが対策課の活動に関わる時は、細心の注意を払わないとだめにゃ」

「はい」

「それを前提で、岩と森の衝突にかかわって欲しいにゃ」

 ネリスカームとしては占いの結果を変えたいが、占いの仮定を利用したいとも思っている。利用できる部分は、利用したいのだ。それだけ占いを信じているのだと思う。

「それで、衝突の問題はどうするんすか?」

「それが問題にゃ」

 もともとそういう話だった。最初の話に戻る。

「占いでは、この衝突にも君たちが、何かしらかかわるということだったにゃ」

「かかわらないとどうなるんすか?」

「それは、占いではでなかったにゃ。占ってもらった時点では、かかわらないという未来はなかったのにゃ」

 そういう、未来の分岐が限定されることもあるわけだ。こうやって話し合いを持ったからこそ、かかわらないという未来ができる可能性がある。逆に話し合っている時点で、かかわっていると言えるかもしれない。

「できれば衝突を避けたいのにゃ」

 ネリスカームのというよりは、異世界交流対策課の望む形は、やはり衝突を避ける形だ。

「お互いに話し合いをするとかは?」

「それも何度かやっているにゃ。でも、お互いにスパイ行為を行なって、信頼関係を築く前に疑念ばかりが植え付けられてしまったにゃ」

 話し合いは、信頼関係を築くのが一番重要だ。相手のこと、話や提案の内容、それらを聞くには相手を信頼していることが前提にある。信じていない状況では、どんなに良い話でも半分も理解してもらえないと思う。

「それと主張が逆であるのも障害にゃ。自分たちのやり方の正しさを主張するのなら話し合いになるけど、相手のやり方を批判するだけで、水掛け論になることが多いのにゃ」

 相手に疑念を抱いていて、相手の主張を受け入れられない。完全に対立している状態になっているみたいだ。

「……衝突する要因は、分かっていないんですか?」

 浩一が、話題の方向を変える。

 原因を取り除くのではなく、衝突そのものを回避する。衝突の要因がわかっていれば、それも可能だと思う。根本的な解決にはならないけれど、解決までの時間稼ぎにはなる。

「基本的に小競り合いが大きくなった結果、里同士の衝突になるみたいだにゃ」

「小競り合いは、今でもある?」

「そうにゃ」

「お互いの里の接触を禁止するのは?」

「それは、難しいにゃ。人間には法とそれを守る考えが存在するけど、精霊の間で法は存在しないにゃ。自由を重視するから禁止する法なんてもってのほかにゃ。仮に禁止しても誰も守ってくれないにゃ」

 精霊であることが、衝突を避けがたいものにしている。

「精霊同士で意見の相違があった場合、どうやって解決するのが普通なんすか?」

「話し合いでどちらかが譲るにゃ。どちらにとっても利のある意見の時もあるから、こういう解決も結構あるにゃ」

 お互いの主張が似ているならば、細部は違っても何とかなるのか。精霊も頑固者の集まりというわけではない。今回の場合は、主張が全く違うから、どちらも譲ることができないでいる。

「それで決まらなければ、実力行使にゃ。精霊同士で対戦をするにゃ」

 そもそも精霊の間には、問題事を実力で解決する習慣があるみたいだ。精霊にそういう意識があるのならば、衝突する結果は現実的になりそうだ。

「衝突するとまずい理由は?」

 衝突することを避けたいのは、異世界交流対策課の都合だ。避けたいと考えるならば、そこに理由があると思う。

「この世界の魔力が少ないことが理由にゃ。戦闘となれば、魔力を大量に消費するにゃ。自分の魔力を利用するならば関係ないけど、空気中の魔力を使用したら世界の魔力が減るにゃ。それは回避したいにゃ」

「どうしてっすか?」

「魔力が減れば魔力の源泉に影響が出るにゃ。通常の減り幅ならば、源泉の活性化につながるけど、極度に減ると源泉に負荷がかかって、消えてしまうことがあるにゃ」

 魔力の源泉は、魔力を世界に充満させるための始点になる。その始点が消えれば、魔力が増えることがなくなる。魔力で生きている精霊にとって、それは歓迎できないことのはずだ。

「そうなれば、精霊里を維持していくことも難しくなるにゃ」

 問題の解決は困難。

 衝突の回避も困難。

 衝突のリスクも高い。

「魔力を増やす方法はありますか?」

 浩一は、さらに視点を変えていく。

 魔力が減るのが駄目だというなら、魔力を増やせばいい。魔力を増やすことができれば、リスクを減らすことができるかもしれない。

「なくはないにゃ。でも、時間がかかるし、魔力を満たすには世界は広すぎるにゃ」

「現実的ではないですかね」

 結局、この方法も難しいみたいだ。

「なんで、そんな小難しい話をしてんだ?」

 今まで何もせずに、浮遊していたテンカが初めて発言をする。

「納得するまで、とことんやらせたらいいだろ?」

 テンカは、衝突することに肯定的だ。

「それをしたら、魔力が減るにゃ」

「それで困るのは、精霊だけだ。人間は困らない。自分たちのしたことで、自分たちが困るんだ。自業自得で解決する」

「……それは、つまらないな」

 テンカの言葉に浩一が呟く。

「やれるんだから充分だろ?」

「それは、テンカだけだ」

 テンカは、戦えれば何でもいいらしい。本当に単純だ。テンカの理論が通用すれば、何でも単純に解決しそうだ。実際には、単純に解決できるわけではないと思うけど。

「やれやれ、まだまだ時間がかかりそうにゃ」

 ネリスカームが四足で立ち、体と手足を伸ばしている。

「にゃあ課長可愛い、はぁはぁ」

 そんなネリスカームの姿も、隙なく由紀音がカメラに収めている。


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