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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
30/71

30 猫+異世界交流対策課

 ホールから同じ建物の同じ階にある個室に移動した。物置か何かとして使われるような部屋だろうか。

 ここにいるのは、四人と三体。

 僕、光、裕也、テンカが、僕たち招待された側。

 ネリスカーム、由紀音、トリムが、異世界交流対策課の側ということになる。

 裕也は簡単に説明をして、ここに来てもらっている。異世界交流対策課としても裕也に同席してほしいようだった。ちなみにテンカは、卵型の姿になり、ふて寝している。

「さて、これでそろったかにゃ」

 この部屋は、即席で会議室になった。三人がけのテーブルを合わせた大きなテーブルとパイプ椅子が四脚置かれている。僕ら側に三脚、異世界交流対策課側に一脚と偏った置かれ方だ。精霊に椅子は準備されていない。

 それらは、魔法で出したものだ。おそらく、〈フラットボックス〉という魔法だろう。魔法陣を通して、異空間に物を収めておく魔法である。キュピが、水晶像の出し入れで使用している魔法と同じものだ。

 僕たちは、用意された席に、それぞれ思い思いの場所に座っている。座った席の目の前には、コーヒーが出されていた。

「まずは、我々が何者なのかという事を話しておくにゃ」

 ネリスカームは、卓上の中央よりに座っている。

「まずは、そこからっすね」

 裕也がネリスカームの正面に座り、話に応じる。

「異世界交流対策課とは、政府公認の裏組織にゃ」

「国に認められてるんすか?」

「そうにゃ。異世界に関する事、主に精霊についての対策を一手に引き受けているにゃ」

「裏組織ということは、公表されていないんすよね?」

「そもそも、精霊や異世界について秘匿している状況にゃ。それなのにその対策をする部署を公表するはずがないにゃ」

「国は、どれくらいのことを把握しているんすか?」

「それは、さすがに言えないにゃ。秘密にゃ」

 自分から裏組織というわけだから、秘密もたくさん抱えているのだろう。

「ネリスカームさんは、いつからこっちに?」

「大体、十三年前になるにゃ」

 十三年前となると向こうは、戦争中になる。

 すでにネリスカームが精霊という前提で話をしている。確認をとったわけではないが、猫がしゃべる理由を他に知らない。

「こっちに精霊はどれぐらいいるもん何すか?」

 精霊は、こちらにはいないものだと思っていた。それが簡単に目の前に現れるし、十三年前からいると言うし、いろいろ知らないことがある。

「たくさんはいないと思うにゃ。この国には大体、百位いるにゃ」

「対策というのは、具体的にはどんなことをしてるんすか?」

「こちらの世界に迷い込んだ精霊を保護したり、精霊たちの住む場所を決めたり、精霊が生まれるのを見守ったりしてるにゃ」

 聞き捨てならない言葉が出てきた。

「こっちの世界で精霊が生まれるんすか?」

「魔力が十分にあれば、生まれるにゃ」

 理屈としてはそうなのだろうが、この世界は空気中の魔力が少なく、精霊が生まれるには足りないのではなかっただろうか。

「生まれるのは、本当に限られた場所だけにゃ。それも精霊たちが住み始めた場所だから、自然に生まれることはないにゃ」

「生まれる精霊と迷い込んだ精霊のどちらのほうが多いんすか?」

「断然、迷い込んだ精霊のほうが多いにゃ。百年もすれば、入れ替わるとは思うけどにゃ」

 生まれる精霊の数は、それほど多いわけではないようだ。精霊の住む場所に新たに精霊が生まれるのならば、その情報もかなり正確なのだろう。

「精霊の保護というのは?」

「迷い込んだ精霊をそのままにしておくのは、混乱の元にゃ。こちらの世界に住めるようにいろいろ教えてあげるにゃ。住む場所はこちらで決めた場所になるけど、できる限り要望には応えているにゃ」

 精霊が世の中に出ては、何か困ることがあると考えているのか。僕の家に書類が届いたのも、その辺りに事情がありそうだ。

「こちらの仕事は、大体そんな感じにゃ」

「そうっすか」

「それでは、こちらからも聞かせてもらうにゃ」

「話せることは少ないと思いますけど、どうぞ」

「こちらは、精霊の保護をしていることをさっき話したにゃ。その関係で、精霊の反応を察知できるようにしているにゃ」

 それはそうだろう。精霊が、迷い込んだことが分からなければ行動できない。魔法を使えば、精霊の察知も可能だと思う。

「どれだけの精霊と会ったのかにゃ?」

「五体っすね」

 間髪いれずに裕也が答える。

「その中でこの世界に残っているのは、何体かにゃ?」

「一体っす」

「残りの四体は、どこに行ったのかにゃ?」

「帰りましたよ」

 その答えに、ネリスカームの髭がわずかに震えた。

「帰ったにゃ?」

「ええ」

 またもや髭が震える。

 その様子を横から見ていた由紀音がため息を漏らす。

「はあ、にゃあ課長可愛い。写真とっちゃだめですか?」

「今はそんな状況じゃないにゃ。自重するにゃ」

「すみません」

「由紀音の自重です」

 由紀音は、カメラを握りしめて謝罪している。

 そして、トリムが追い打ちをかける。

 この人は、猫が好きなのかな。隙あらばシャッターを切ろうとカメラに意識が向いている。

「それは、魔法で帰ったのにゃ?」

「はい」

「ということは、世界を移動する魔法が完成したのかにゃ」

「最近できたとは聞いています」

「やはり、十三年は長いにゃ……」

 ネリスカームには、何か思うところがあるのか。両前足を使ってコーヒーを器用に口に運ぶ。

「課長さんは、世界を移動する魔法を知らないんすか?」

「にゃあがいた頃は、まだなかったにゃ。脇道に逸れるのは、また今度にゃ。今は、本題が先にゃ」

 世間話をする気はないらしい。

 ここから本題に入るのか。精霊関連についてなのだろうが、僕たちにどのような関係があるのか。

「この世界に残った精霊が一体でも状況は変わらないにゃ。精霊を連れている、そのことで話があるのにゃ」

 ここからは、僕が最もかかわる話になりそうだ。

「何でしょう?」

 僕は、ネリスカームに答えて、しっかりと聞く体勢になる。

「この世界で精霊の住んでいる場所はいろいろあるにゃ。基本的に人里離れた場所に決めさせてもらっているにゃ。さらに結界も組んであるから、人間が簡単には近づけないようになっているにゃ」

 そこまでは理解した。秘密にしたり、保護したりと条件があるわけだから、それは必要だと思う。

「ただ、結界に出入りする条件が問題なのにゃ」

「条件?」

「まず、精霊ならば誰でも結界内に出入りできるにゃ」

 精霊のための空間として組んでいるわけだから、それは当然だと思う。

「そして、精霊から五十cm以内にいる人間も結界内を出入りできるにゃ」

 人間すべてを除外するわけにはいかないから、そういう設定になっているわけだ。そうしないと異世界交流対策課の人間が入れないことになる。

「そのため、テンカと一緒に行動している時に、不意にその結界内に入ってしまうことが考えられるのにゃ」

「僕が、結界内に入ることが問題なんですか?」

「君だけがどうという話じゃないにゃ。誰であっても問題になり得るにゃ」

 精霊から五十cmとなると、隣を歩いている人も巻き込まれる可能性があるのか。

「結界を組む時に人間と一緒に暮らす精霊が、一般の中に存在するとは想定されてなかったのにゃ」

「こちらが気をつけるようにすれば良いですか?」

「そうして欲しいにゃ。何かありそうな時は、こちらからも連絡をさせて欲しいにゃ」

 そのくらいであれば、特に問題はない。旅行などで遠出する時に気をつけるくらいで十分だろう。

「後は、君たちの今後についてにゃ」

「このままってわけにはいかないっすか」

「上に報告をしないわけにはいかないのにゃ。できる限り協力をして欲しいにゃ」

「それで、具体的な内容のほうは?」

「こちらの監視下に入ってもらうにゃ。監視と言っても我々にできるのは精霊だけだから、この場合はテンカの監視だにゃ。テンカの魔力の位置を観測させてもらうにゃ。オーケーかにゃ?」

 ネリスカームと裕也が僕に視線を向ける。

 僕はそれにうなずいた。変に拘束されるのよりはましだろう。

「後は?」

「実際の活動にも協力をして欲しいにゃ」

 ネリスカームのネコ目が光った。

「見たところ、武野君はかなりの実力者にゃ。対策課は、活動範囲が広いくせに人手不足にゃ。協力者は、多くて困ることはないにゃ」

「戦力として、ということですか?」

「そう思ってもらっていいにゃ」

「……」

 これにはちょっと、即答できない。ここまでのやり方を考えると危険な気がする。人をさらったり、ビルを戦場として改造したりしている。こういうやり方を普通にするのならば、できれば遠慮したい。

「……僕に人さらいをしろと言うんですか?」

「あー、それは、ちょっとした手違いにゃ」

 ネリスカームが慌てる中、由紀音が小さく手を上げる。

「それは、私のせいなのです」

 手を上げたまま、言いにくそうに体を小さくしている。

「本当は、武野君に書類を読んでもらってから転移していただく手順だったのですが、慌てていて、魔法陣を隠すケースを封筒に入れ忘れてしまったのです」

 そこまで言って、由紀音は光に向き直り頭を下げた。

「本当にごめんなさい。関係ないのに巻き込んでしまって」

「由紀音のドジです」

 トリムの言葉が、由紀音の後頭部に突き刺さる。

「もういいですよ。何度も謝ってくれましたし」

 光は、苦笑いで答えている。

 それが目に入っているのかいないのか、由紀音は何度も頭を下げている。

「私がバカだったんです。ごめんなさい」

「由紀音のバカです」

「ほんとにもういいですって」

「そういう手違いがあったのにゃ」

 由紀音にはネリスカームも呆れている状態のようだ。

 気を取り直して話を続ける。

「それに対して、武野君の行動、というか能力はすごいものだったのにゃ。こちらの仕掛けた罠をものともせずに突破してきたのにゃ」

 いま改めて思い返すと、冷静さを欠いた行動だったかもしれない。敵と認識して、一点突破を図ってしまった。テンカに感化されたとも言えるか。いや、これは言い訳かな。

「それに、このビルを発見したのも早かったのにゃ。おかげで、こちらはろくな対策を立てられなかったにゃ」

「それは、裕也のおかげです」

「にゃ?」

「いや、ちょうど使える魔法アイテムがあったんす」

 魔法アイテムというところで、ネリスカームが髭を跳ね上げた。

「魔法アイテムというと〈色の記憶〉かにゃ?」

「お、知ってるんすか?」

「知ってるも何も、にゃあが作ったアイテムにゃ」

「にゃあ課長は、魔法の開発者なのです」

 淡々と事実を語るネリスカームと自慢するように語る由紀音。

「高戸君は魔法を使えるのかにゃ?」

「いえいえ、俺は普通の一般人です。道具でちょっとしたサポートをしたぐらいですよ」

「なるほどにゃ」

 ネリスカームが一つ頷いて、再びコーヒーを器用に飲む。飲み終えたカップを正面から脇に避けた。

「おかわりですか?」

 それを見てとった由紀音が、尋ねる。

「頼むにゃ」

「はい、他の皆さんはどうですか?」

「大丈夫です」

「お願いします」

「……大丈夫です」

 こちらは、それぞれ異なる対応で返す。

「はい。少し待っていてください」

 由紀音は席を立ち、テーブルから離れた。それにトリムがついていく。

「話を戻すにゃ。協力については、チームとしてお願いするのがいいかにゃ?」

「チーム?」

「一人の力でここまで来たわけではないのだから、それはチームの力にゃ。評価するのならば、そういうことになるにゃ」

 そう言われれば、そういうことになるのだろう。チームと言われて正直、悪い気はしない。

 僕が裕也に向き直ると、裕也もこちらに顔を向けていた。

「良いんじゃないか。チーム」

「……悪くないね」

「協力してもらうことでいいのかにゃ?」

「……」

 チームでとなると一人で決めるわけにはいかない。裕也はどう思っているのだろうか。

「俺は、タケの意見に任せる」

「いいのか?」

「俺にできることなんてたかが知れてる。荒事になったらタケに頼りっきりだろうからな。タケが決めればいいさ」

「……光はどう思う?」

「私?」

 光の疑問に、僕はただ頷いて答えた。

「私は、やめてほしいな。とは言っても、浩一はやるつもりなんでしょうけど」

「その心は?」

「裕也とか、テンカがかかわっているから。知らんぷりはできないでしょ?」

 そう言われると言い返す言葉がない。答えは、最初から決まっていると言われているようなものだ。

 ばれていては仕方がないが、一応、保険はかけておく。

「条件をつけさせてください」

「何かにゃ?」

「日常の生活を優先させてください。協力するのは余裕がある時か、こちらからかかわる時だけにお願いします」

 僕の答えに、ネリスカームは笑顔で頷いた。

「わかったにゃ。いきなり大事を頼むことにはならないと思うから安心して欲しいにゃ」

「お話はまとまったようですね」

 由紀音が戻って来た。それぞれのテーブルに新たにコーヒーを注いでいく。

「後の細かいことは、由紀音君にお願いするにゃ」

「わかりました」

 ネリスカームは由紀音に指示を出して、コーヒーに口をつける。猫の姿をしているが、猫舌ではないらしい。

 そのまま、由紀音と裕也が細かい話を詰め始めた。

 残りの間、僕は横で話を聞いていただけで置物状態だった。最初から最後まで寝たままだったテンカとあまり変わらない。


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