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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第二件 異世界からの定住者
29/71

29 ビル+誘拐

 集合した僕たちの見守る手前には、一つのビルが建っている。今は、テナント募集中で人気のない殺風景なビルだ。

 ビルと同様に、この周囲も殺風景だった。街の外れと言ってもいいような場所で、いくつか空地も見られる。今後、開発される予定でもあるかもしれないが。

 ここまで来た理由は、あのビルの中に光がいることを掴んだためである。

「ここで間違いない」

 裕也は、眼鏡のフレームを抑えながらビルを見つめている。

 普段の裕也は、眼鏡をかけていない。特にかけるようなこともしていない。では、なぜ今は眼鏡をかけているのか。

それは、その眼鏡が、魔法アイテムだからだ。名前は、〈色の記憶〉という。魔力探知のできるアイテムである。

 〈色の記憶〉は、魔力の流れを水晶や水面などに映し出す効果を持っている。その効果を一つの魔力に限定し、その流れを眼鏡のレンズに映しているのだ。

 その魔法アイテムを使い、光が飛ばされた時の魔法、その魔力の残滓を追ってここまで来た。

 ちなみに魔法アイテムは、魔力を集められないと使用できない。だから、裕也には魔法アイテムを使用する能力はない。それをクラムの発明品が補っている。

 その発明品は、小型端末型の魔力集積装置である。この魔力集積装置を魔法アイテムと一緒に使用することによって、裕也でも魔法アイテムを使うことができる。

 家からここまで、かなりの距離があった。徒歩でここに来たのだが、そのために一時間を費やしている。目的地がどこになるか分からなかった多め、効果的な移動手段を定められなかったからだ。最終目的地が分からないところが欠点である。追跡であれば、たいていはそうなのだろうか。

「ビルの中で気配があるのは、四階だけみたいだ」

 僕は、手元の球体を覗き込んで口にする。

 今度は僕の加護、レーダーで調べたことだ。その四階には四つの反応があり、さらに結界が張られているようだった。

「ビルの中に入るのは、僕とテンカだけでいいね」

 向こうの目的が分かっていないし、実力についても未知数だ。魔法を使えることしか確かな情報がない。裕也の守りに手を回せない。戦力はできる限り集中させたい。

「まあ、仕方がないな」

「ククククク、腕が鳴るぜ」

 僕の言葉に裕也はうなずき、テンカはやる気を見せる。

「それじゃあ、俺はどっかに離れておく。解決したら教えてくれ」

 そう言って裕也は、離れていった。状況によっては、まだまだ裕也の手を借りることになる。どこかで人ごみに紛れるつもりだろう。

 裕也が立ち去るのを、静かに見送る。

「……行くか」

「おう」

 一人と一体で並んで、敵地であるビルの中に足を踏み入れた。

 僕たちがビルの中に入ると、すぐにシャッターが下りてきた。ゆっくりと入口が、閉じていく。

 出る時に手間がかかりそうだが、閉じておけば外への影響が少なくなる。限られた空間での戦闘は、こちらとしても望むところだ。

 テンカは入り口が閉まったところで人型に姿を変えた。長髪を振り乱して、こちらに視線を向ける。

「最初から全力でいいよな?」

「ビルを破壊するのはだめだ」

「それぐらいは考慮してやろう」

 テンカの表情は笑っていた。本当に戦闘が好きみたいだ。

もっとも僕も手加減をする気は全くなかった。

 反応があるのは四階だけだ。だからと言って、そこまでたどり着くために何の障害もないとは言い切れない。入口を遠隔から閉めることができるのだから、他にも何かしらの仕掛けはあるだろう。最初から飛ばす理由はある。

 鎖を想像する。そして、創造する。

 輝きと共に僕の両腕に巻きついて、二対の鎖が現れる。その鎖は、僕の背後で連結し、一本の鎖となった。

 続けて、加護を唱えていく。

「シールド+ウイング」

 僕の肩から足元までを覆う、白いマントが現れた。マントの表面が、金属のように光を反射している。これは、あらゆる外的影響を受けとめる効果がある。味方からの援護も受け止めてしまうのは困りものだが、今の状況でそれを心配する必要はない。

「シールド+レーダー」

 今度は、僕の左手の中に六角形の塊が現れる。その塊の持ち手を持ち、横に構えて魔力を流し込む。六角形のパーツを中心とした魔力の盾が出来上がった。盾の大きさは、流し込む魔力の量で調整することができる。広い範囲をカバーしたり、狭い場所で使ったりと対応できる幅の広い加護だ。

 右手に持っているレーダーを宙に浮かせて、次の加護を出現させる。

「シールド+ブーツ」

 僕の目の前にサーフボードのような板が現れる。正確にはサーフボードではないが、人が乗って使用するのは同じだ。これは波の上ではなく、空中に乗るボードだ。ホバーボードとでも呼べば良いだろうか。今回は、これで一気に四階まで駆け上がる。

 ボードを起動させて、床に投げ出す。投げ出されたボードは、床のすぐ上で浮かんで、床にぶつかることなく横になる。

 一気に合成加護を三つも出した様子を見て、テンカが感嘆の声を上げる。

「最初っからやる気だな」

 この数日の間に、テンカから加護のことを聞けるだけ聞いている。実際に使ってみなければ使い心地までは分からないが、どんなものがあるのかは把握できている。

「当然」

 今回は、つまらないとか言っていられる状況ではない。光を待たせているのだ。一刻も早くたどり着く必要がある。

「テンカも乗ってく?」

 隣のテンカにホバーボードを示す。

「いや、自分で体を動かさないと気が済まん」

 テンカならばそう言うか。

 テンカのことは気にせずにボードに乗り、レーダーを目線の少し先に浮かべ、盾を構えた。

「ブースト」

 加護で肉体を強化。そして、一気にホバーボードで加速する。

 すぐに一階の階段へ到着する。上へ昇る階段に入ると足元から爆発が起こった。だが、その影響が出る前に通り過ぎる。爆発が背後で起こったような感覚だ。

 爆発を引きはがして、そこから壁を伝って二階へ上がり、すぐに三階目指して進路をとる。

三階も何事もなく突破し、四階の結界内に突入した。

 結界にはすんなりと入ることができた。単純に侵入を許可されていたのだろう。相手としても、結界を壊されては困ると思っているのかもしれない。

 四階に上がったところで、空中で急制動をかけて止まった。ボードを消して、足を床につける。

 そこは、細い廊下のようだった。そこからつながる扉は、一つしか見当たらない。その場でレーダーを確認する。この場所には特に変わった反応はない。人物の反応は、変わらずに四つだ。

 すぐ近くにある扉を開けて、部屋の中に入る。そこは、大きなホールになっていた。天井は高いが、何の変哲もない大きな部屋だ。

 ホール内は電気をつけておらず、外からの明かりだけしかない。ホールの全体を照らすには光源が足りない。ホールの端に暗がりができている。

 扉から見て、一番遠い場所に二つの人影が見えた。一人は立っていて、もう一人は椅子に座っている。椅子に座っているのは、どう見ても光だった。立っているもう一人のほうが、異世界交流対策課というところの関係者だろう。

「なかなか早いご到着ですね」

 聞きなれない声がする。女性の声だ。

「いろいろ仕掛けを施しておいたはずなんですが、簡単でしたか?」

「……」

 正直、防御を固めて突っ込んだだけだから、簡単かどうかはよく分からない。仕掛けをまともに見ていない。ただ、何かしらの仕掛けはあったようだ。

 ここで対峙するのだから、何かしらの妨害があると考えられる。

 さて、どう進めるか。

「改めまして、異世界交流対策課のものです。武野浩一君で間違いないですか?」

「間違いないです」

「お送りした書類のほうは目を通していただけましたか?」

「一応は」

「結構です。では、こちらの要求はご理解いただけておりますね?」

「大まかには」

「それで、どのような返答をしていただけますか?」

「……」

 どう回答したものか、少し悩む。

 光が、先ほどから何もしゃべっていないのも気にかかる。回答いかんによっては、今後の対応に変化がありそうだ。

「光は、無事なのか?」

「特に異常はありません。その点は心配無用です。言葉を発することは禁止させてもらっていますけどね」

「その方法は?」

「秘密です」

 女性は、自身の人差し指を立てて唇に近づけた。

「これはあなたと私たちの話です。関係のない人に口を挟んでもらっても困るでしょう?」

「関係のない人を巻き込んでおいて言うことじゃない」

「確かにそうですね。今回はこちらに落ち度があります」

 女性は、そう言うと少し顔を俯かせた。

「ですが、どんなに注意をしても、どんなに準備をしても、巻き込んでしまう時は巻き込んでしまうものです。避けられない時はあります。そんな時、あなたならどうしますか?」

 自分ならばどうするか。その答えは簡単に出せる。示すことができる。

 僕は、握りこぶしから人差し指と親指だけを伸ばして、腕を床と水平に伸ばす。指し示すのは人影の方向。

 僕がそこまで行動して、背後の扉から侵入者が入って来た。

「当然、ぶっ飛ばーす!」

 ホールに入って来たのは、テンカだった。仕掛けを突破して、やっと到着した。先ほどの発言は、女性の言葉を聞いていたのだろう。だが、不穏当な発言はいただけない。

「却下だ」

「なんでだあー!」

 テンカが、大音量で叫ぶ。

 僕の答えは、テンカの答えとは異なるので、テンカが何を言おうと変えられない。

「プリズン」

 僕は、加護を唱えた。

「この状況でそれはねえだろ!」

 目標とした光の足下から黒い魔力の牙が生える。牙の数は、全部で十本。その牙が一斉に伸びていく。伸びて、光を囲ってしまう。伸びる先は光の頭上、その場所で十本の牙は交わった。

 交わった牙は、檻となる。檻となった後は、球状になり光の体といすを一緒に空中に浮かびあがらせる。

 その檻の球を僕の所に引き寄せた。

 テンカが、慌てたように叫ぶ。

「挑戦してきたのはあっちだぞ!」

「じゃ、帰るか」

「マジか!」

 光の身柄は確保した。後はここから出るだけだ。テンカが何を言っても聞いてやらない。

 檻の球の中にいる限り、光は安全だ。大抵の攻撃ではびくともしない。中からもびくともしない。僕が許可しない限り、出てくることはできない。

 僕は、女性に向き直った。

「それでは、僕たちはこれで帰らせてもらいます」

「すんなりと帰れると思うの?」

「こちらの目的は達成しましたし、そちらのことは、この状況で解決できるとは思えません。また後日にお願いします」

 まだ問題があるにはあるのだが、後でどうにかできるだろう。どうにかするしかない。

 僕は、踵を返して扉に向かう。

「待てえーい!」

 新たな人物の声が、ホールの中に響き渡った。

 その言葉に僕は足を止めた。その人物は、扉の前に滑り込むようにして現れた。

「君をここで返すわけにはいかないにゃ」

「にゃ?」

「キャー、にゃあ課長の登場ですー」

 カメラのフラッシュがたかれる。

 カメラを向けているのは、先ほどまで僕と会話をしていた女性だ。そしてカメラに収められているのは、扉の前にいる人物だ。なのだが、その姿が猫にしか見えない。

「まずは自己紹介をするにゃ。異世界交流対策課、課長のネリスカームにゃ」

 その猫は、ネリスカームと名乗った。

 それに続けて、女性も姿勢を正して名乗った。

「同じく、異世界交流対策課の志村由紀音です」

 名乗った後、ネリスカームにカメラを向けて、再びシャッターを切る。

「もうこの作戦は、終わりですか?」

 今度は、檻の球の中から声が聞こえる。

 その声の主は、光の背後から現れた。どうやら、光の背中に隠れていたようだ。

「終わりでいいにゃ」

「トリムアルスです。由紀音のパートナーです。トリムと呼んでくださいです」

 その精霊、トリムは、卵型のイルカの姿をしていた。背ビレと胸ビレと尾ビレが、しっかりと宙をかき、空中に浮かんでいる。

「光さんはもう声を出せますです。」

「あっ、あー、ほんとだ」

 光が声の調子を確かめている。

「音を遮断していただけです。のどに影響はないです」

「……」

 なんかいきなり、いろいろ出てきた。

「我々は、これ以上君たちと敵対することを望まないにゃ。むしろ、友好的な関係を築きたいのにゃ」

 ネリスカームは、猫の姿をしているが、精霊ということだろう。普通の猫が言葉を話すはずがない。異世界交流対策課では、精霊が課長をしているのか。

 どうしたものか悩んでいると、光が声をかけてきた。

「ねえ、浩一」

「なに?」

「この人たちの話、聞いてあげて。悪い人たちじゃないし、文化祭の時とはいろいろと状況が違うみたいだから」

「……分かった」

 光が捕まっている間、どんな話があったのか分からないが、光自身がそう思っているのならば、ひどい話ではないのだろう。聞くだけならば、問題ないと思う。聞くだけ聞いてみることにする。

「それでは、場所を変えるにゃ。ここでは落ち着いて話もできないにゃ」

 ネリスカームが先を行き、その後を僕たちが続いた。トリムが中にいることもあって、檻はここで解除する。皆で落ち着ける場所へ向かった。

 ただ一体、テンカを除いて。

「納得いかねえー!」


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