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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第一件 異世界からの訪問者
23/71

23 光+裕也

 フェイルからセリアの伝言を聞き、とりあえず、これからのことを考える。

 場所は裏庭から一歩も動いていない。ブルーシートで覆われた一角の前で立ち尽くしている。目の前をにらみ続けているだけだ。

「……」

 セリアからの伝言は、暴走した精霊の件が解決したらフェイルとヘレを迎えに来るということだった。だから、まだ当分の間は二体の精霊の世話をすることになる。

「……」

 クラスの女子からの命令も今のところなし。一昨日に受けているから通常ならば命令が回ってくることもないだろう。

「……」

 特に約束があるわけでもない。

「……」

 普通に文化祭を楽しめばいいのだろうか。

「……つまらん」

 こんな状況で楽しめるわけもない。同じ場所の別の空間で騒ぎが起こっているのだ。しかも、それに少しばかり関与しているのに。気になって仕方がない。

「仕方がないじゃない」

 ヘレが、優しく言う。

 ヘレとフェイルは、上着のポケットの中に収まっている。

「別に絶対に手伝わなくちゃいけないわけじゃないでしょ?」

 僕はヘレに向かって視線を落とす。

「それに、セリアのほうでやるって言ってたんだから大丈夫よ。きっと」

 確かにヘレの言う通りではある。もともとセリアは、一人でやるつもりでこの世界に来たのだ。僕が手伝うことになったのはただの偶然だったのだろう。その偶然がなくても、セリアは普通に仕事をこなしていたのだろう。

「とりあえず働いた私は、何か食べたいのよ」

 ヘレが顔を上げて、体を揺すり、目一杯に主張してくる。

「……分かった」

 僕はヘレに促されて、目的地を定めぬままに足を進めた。


 ◇


 あてもなくグラウンドをさまよっていると、裕也と再会した。グラウンドの片隅でボーと立っていたところに声をかけられた。近くに会長はいないから開放されたのだろう。

 裕也は、僕のポケットの中に納まっているフェイルに一度目を向けた。

「無事に終わったのか?」

「とりあえずは」

「で、セリアはどこにいるんだ?」

「結界内」

「まあ、そうだろうな」

 それを聞いた裕也は、別に珍しくもなさそうに淡々としている。

 そのまま二人並んで道なりに歩く。裕也が僕のことをちらりと見た気がするが、すぐに視線を前に向けた。

「なんっか、中途半端だな」

「うん」

「不完全燃焼つうか」

「うん」

「残念無念つうか」

「うん」

「盛り上がったところでまた来週って言うか」

「うん」

「そんな感じだよな」

「……」

「はぁー」

 隣で裕也は嘆息をもらした。

「まあ、この辺で終わっとくってのもありかも知れねぇけど。これ以上は、危ない気もするしな」

 それも、そうなのかもしれない。危ない、危険、そんなことに進んでかかわることもない。たとえ望まれたとしても、最大限の準備をしてからかかわることだろう。全くの素人が手を出すことではない。

「はぁー」

 再び隣から嘆息が聞こえた。

「そういや、加賀にはもう伝えたのか?」

 裕也が言っているのは、セリアが結界内に一人で入ってしまったことだろう。

 僕は首を横に振った。

「一応、伝えといたほうが良いんじゃないのか?」

 そう言われれば、そんな気もする。

 僕は携帯を取り出して光に連絡を取ろうとした。

 しかし、それを裕也が止める。

「今は、店に出てるだろ?」

 そうなると連絡は取れないか。それでは、どうすればいいのだろう。

「んじゃ、行くか」

「行くって?」

「直接会いに行くんだよ」

「あんまり店に顔を出しちゃ駄目なんじゃないの?」

「いいから、いいから」

 そう言って、僕の先を歩いていってしまう。仕方なく僕も裕也の後を追いかけた。


 ◇


 廊下を歩いていると、すぐに行列が目に入ってきた。その行列は僕たちのクラスの教室から伸びている。最後尾は隣の教室まで届いてしまっていた。

 今までずっと近づく事がなく、状況を聞いただけだったのだが、僕たちのクラスは盛況らしい。実際の現場を目にしてみて、その言葉は実感となった。

 やや男女比率の偏っている行列を無視して、裕也は入口から教室を覗き込んだ。僕は裕也から少し離れたところで様子をうかがう。

「うぃーす。調子はどうよ?」

 裕也は、手を上げながら、手作りの店内へと声をかけた。

「おっ、高戸君。いい調子だよ」

 近くにいたウェイトレスが裕也に笑顔を向けた。答えたのは、鈴村。光と仲の良い女子の一人だ。ミスコンに出る光の手伝いもしていた。

「ミスコンの影響が良い感じで出てるみたい」

「それは何より」

 答えながら裕也は教室内を見回した。一体何に視線を向けているのだろうか。

「それで、ちょっとお願いがあるんですが、よろしいかな?」

「ほう、また何か企んでるの?」

 鈴村が、笑顔で疑問を向ける。

「企むなんてほどのものじゃないので、ちょっいと耳を貸して下され」

 そう言いながら教室の隅のほうへ二人で移動し、小声で話を始めた。

「……」

「え、…………」

「……」

「でも、……」

「……」

「ん、……」

「……」

「……」

 裕也がこちらを指差し、鈴村がちらりとこちらを向いた。

 何か僕の話題でも出たのだろうか。認定試験合格者として示されたのでなければいいけど。あまり権利ばかりを主張したくはない。

 裕也と話がついたのか、鈴村は小さくうなずいた。

 話の終わった裕也が、店から出てきた。そのまま階段へ向かって行く。僕は、黙ってその後に続いた。

 裕也が四階へ上がる前に、階段の踊り場で立ち止まる。

「それじゃあ、タケはここで待っててくれ」

「何を?」

「何をって、お前なー」

 呆れながら、裕也は僕に近づき、フェイルとヘレをつかんでそれぞれを引き抜いた。

「ちょっと、あんまり乱暴にしないでくれる」

「悪い、悪い」

 裕也は、ヘレに謝りながら、僕に視線をよこした。

「加賀を呼びに行ったんだろ?」

「……そうだったね」

「俺は上に出てるから、終わったら来てくれ」

 そう言って裕也は、フェイルとヘレを抱え、僕に背中を向けて階段を上がって行った。

 しばらくして、屋上の扉の重苦しい音が小さく聞こえた。

 それからすぐに、光が階段を上ってきた。

「浩一」

 名前を呼ぶ声に振り返ると、見下ろした先に光がいる。光の服装は、もちろんメイド服に着替えてある。仕事中だから当たり前だ。

「どうしたの?」

 僕の目の前まで来た光は、いぶかしげな様子で僕を見た。

「何かあった?」

 そう言いながら、僕の顔を覗き込む。

 光の言うとおりだ。確かに何かがあったから、それを伝えるためにここに来ている。

「うん。その、セリアが、一人で結界の中に入った」

 言葉にしてみるとそれだけの事だ。たったそれだけのことを言うのに、なぜか言葉が素直に出てこなかった。僕は、光の視線から顔を背けてしまった。何も思い悩む事もないはずなのに。

 光は、すぐに言葉を返さなかった。

「……そっか」

 そのままゆっくり歩き、僕の隣に並ぶ。

「それで、これからどうなるの?」

「たぶん、セリアが暴走した精霊を、殺して、解決させて、フェイルとヘレを迎えに来て、それで、終わり」

 それで終わり。後はもう何もない。

 僕の答えに光は、再び口を開く。

「それで、これからどうするの?」

 疑問の生まれる言葉を口にする。

「どうするって……」

 さっき言ったことですべてだ。どうするもこうするもない。

「何もないよ」

「本当に?」

「……」

 僕は、黙った。光が何を言っているのか、何を言いたいのか、分からない。

「本当にそれでいいの?」

 光の瞳が、真っ直ぐに僕を映している。

「浩一は、そんな終わり方を受け入れられないでしょ?」

 そう言う光の瞳は、迷いが見えなかった。

「私もそんな終わり方は、ちょっと嫌かな」

 光は、足を前に出して次の階段を一段上がる。そして、振り返る。さっきとは逆の立ち位置になり、僕は光を少し低いところから見上げている。

「だから、私は別の終わり方を考える」

 光が、光なりの道を僕に示していく。

「別の?」

「浩一がやる気を出して、何とかしちゃうの」

「……人任せだな」

「そうだね。でも、任せるのは浩一に、だからね」

「光も英雄扱いか」

 最近は、そんなことばかりだ。過剰評価とも思えるほどの期待を寄せられる。僕には全く覚えがないことだけに戸惑ってしまう。

「それは違うよ」

 でも、光は僕のそんな考えを否定する。

「私は、英雄だから浩一を信じるわけじゃない。浩一が、浩一だから信じるの」

 そのままゆっくりと階段を上る。

「浩一ががんばればがんばるだけ、浩一が納得できる結果にたどり着ける。その結果はきっと私も納得できる。だから、浩一を信じて任せるの」

 階段を上がる光の後に続いて、僕も階段に足をかけた。一歩づつ、足を動かす。

「失敗するかもしれないよ?」

「それでも、信じるよ」

「中途半端で終わるかもしれないよ?」

 光はこちらをまっすぐに向いて階段を上がる。

「それでも、信じる」

 僕は、それを見て離されないように足を動かす。

「途中で諦めるかもしれないよ?」

「それでも、信じ」

 とそこで、光がバランスを崩した。階段を踏み外して、体が傾く。

 僕はとっさに足を動かして体を前に投げ出し、光に向かって腕を伸ばした。

 少しの静寂。

「……何ともない?」

 僕は、腕の中に抱えた光の様子を恐る恐る確認した。

「……うん、大丈夫」

 何とか間に合ったようで無事みたいだ。階段を余所見をしながら上っていたから踏み外したのだろう。

「ごめん」

 光は謝るとすぐに体を離して、軽快なステップで階段を上りきった。

「なんか、かっこ悪いね、ははは」

 光は、ちょっと照れたように笑った。

「そうかもしれないね」

「む、そこは『そんなことないよ』とかって言ってくれないと」

 光が、少しむくれた。間違ってしまったらしい。

「ごめん」

「うん、許します」

 僕の謝罪の言葉に、光はすぐに笑顔になった。光はそのまま控え室の戸に手をかけた。そして、戸を開ける前に振り向く。

「私は仕事に戻るけど、浩一はどうするの?」

「何とかしてみるよ」

 とりあえず、今はそれだけしか答えが見つからない。

「うん」

 光は、僕の答えにうなずいて、控え室へ入って行った。

 僕はこのまま、屋上の階段へ足を進めた。光と話して、少しやる気が出たみたいだ。


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