21 結界+抵抗
今回の魔法式の書き換えは、時限式で行われる。暴走した精霊を潜ませた状態で結界を解除するわけにもいかず、今ある結界を引き継ぐ形で書き換えられる。
結界を張るために使った魔法式は、学校の敷地内の五ヵ所に分けられていた。それらを順々に回り、同じ場所に書き換える魔法式を準備する。
「……」
現在はその一ヶ所目、西校舎三階の廊下の南端にいる。僕は、近くの窓から体を外に出して窓枠に座り、腕を伸ばして校舎の外壁に手をついている。伸ばしたその手にはヘレが巻きついている。
「はい、終了よ」
ヘレの言葉と共に魔法式が壁の中に消えていく。
僕は、気をつけながら体を室内に戻した。
「ふぅ」
なんとなく一息。
「さて、それじゃ次にいこうぜ」
裕也が、廊下を歩き出した。僕もそれに続く。
「何でこんなところに?」
僕は、さっきまで座っていた窓を一瞬振り返ってから前を歩く裕也に尋ねた。
「いろいろと条件があるんだとさ」
魔法の使用には条件がある。そのことは少しだけ聞いた。
「その条件をうまく満たせるように式を設置しないとうまくいかないんだと」
「五つに分かれているのは?」
「効果の補強とか追加の意味があるみたいだな」
五ヶ所に分かれているのだから、その数ぐらいの意味はあるのだろう。
「それにしてもいろいろ難しそうだよな。覚えることが多そうだし、かといって向こうだと普通のことみたいだから覚えないわけにもいかないんだろうな」
話しながら階段を下りる。話の内容を誰かに聞かれたらまずそうではあるが、少し聞いたぐらいで正確に何の話をしているのか理解できる人もいないだろう。
「普通にあることみたいではあった」
向こうの世界に飛ばされた時のことを思い出す。
「まあ、そうなんだろうな。こっちじゃ科学みたいなものなんだろ。使うのにそんなに知識の必要ないものなんかもあるのか?」
「あるみたい」
普通に風呂には入れたし、指輪型の通信機は光にも使えていた。
「そうでなきゃ普及しないだろうけどな」
一階まで下りて校舎の外に出た。グラウンドではステージの前に大勢の人が集まっていた。ミスコンは盛況らしい。その副次効果でか、グラウンドの周囲にある店舗もにぎわっている。
「それで、次は?」
「そうだな、第一グラウンドにするか」
隣の裕也は、目の前のグラウンドから離れて歩いていく。
校舎に囲まれた目の前のグラウンドは、実は第二グラウンドだったりする。第一グラウンドは、西校舎を挟んで第二グラウンドの反対側にあり、体育館の傍にある。第一グラウンドは第二グラウンドに比べて広さも狭く、明らかに昔に作られたと思われる様子だった。
文化祭中はそこでフリーマーケットが開かれていた。生徒会と何人かの教師、有志の生徒たちによって運営されている。グラウンドにブルーシートを広げ、その上に品物を並べておいてある。
ミスコンに人が流れているからか、フリーマーケットにいる人の姿はまばらだった。
裕也は、グラウンドの隅に移動していく。そして、そこで止まり、人差し指を地面に向かって指した。
その場所が、次の設置場所なのだろう。僕もそこに近づき、ヘレの巻きついている手を地面に置いた。
ヘレが、わずかに顔を上げる。目の前が一瞬だけ淡く光、魔法陣が現れた。それからすぐに光は収まり、魔法陣に描かれた図形が動き始める。注意してよく見えなければ分からないような薄い線が引かれている。
「にゃー」
突然背後で鳴き声が聞こえた。その鳴き声につられて、思わず背後を振り向くと、そこにいたのは一匹の猫。何の変哲もない、白と茶色の毛を持った猫が座っていた。
なぜ、こんなところに猫がいるのか、疑問に思った。さっきはいただろうか。いたとしても気がつかなかったかもしれないが。
「なぁー」
今度は、遠くから鳴き声が聞こえてきた。その方向を見ると予想通りに猫がいた。しかし、予想通りではないこともあった。
「何だ、ありゃ?」
裕也が、僕と同じ方向を見てつぶやいた。そう言いたくなるのもよく分かる。
猫がいる。その事は良いのだが、その猫が群れを作って歩いていた。密集しているわけではなく、散らばってブルーシートの間を歩いたり、その上を歩いたり、人の間をぬって歩いたりしている。その猫たちが、敷地の外から絶え間なく続き、こちらに顔の正面を向けている。つまり、こちらに向かって歩いて来ている。
「みゃー」
再び、鳴き声が聞こえた。猫たちが、ぞろぞろと歩きながら、散らばりから塊へと少しずつ密集していく。
「こりゃ、なんだ?」
裕也の言葉に疑惑の気配がある。それはそうだろう。こんな状況に置かれる事など普通は考えられない。それでもこんな状況に置かれている。まあ、何かあるのだろうが。
「にゃー」
背後に座っていた猫が、僕の背中に飛びついた。背中から微妙な重さと、微妙な熱さと、微妙な痛みが伝わってきた。爪でも立てているのかもしれない。
「……」
とりあえず、ヘレの邪魔にはならないようにしないと。
周囲を見回すと猫の大群が、やっぱりと言うか、近くに寄って来ていた。金色に輝く多数の目がこちらをにらみつけている。なんとも嫌な場面の中心にいるものだ。ちなみに、猫に恨まれるようなことをした覚えはない。
僕は、猫たちを警戒してもう片方の腕に意識を集中した。そのすぐ後だった。
「みゃー」
猫たちが、次々に飛び掛ってきた。背中から肩、腕、頭と体のいたるところにしがみつく。足の踏み場もないほどに押し寄せてくる。
「タケ、大丈夫か?」
「大丈夫だけど、ちょっときついかな」
隣にいる裕也は、それほど被害はなさそうだ。それでも足元に猫が群がり、数匹の猫が足にしがみついている。
僕の手に巻きついているヘレに被害は及んでいない。何とか猫の被害を防げている。
「はい、終わったわ」
魔法陣が地面の中に消えた。
「で、これはどういう状況?」
式の書き換え終了と同時にヘレが小さな声で聞いた。
「異常事態らしい」
異常事態。そう言って問題ないだろう。通常、こういうことはありえない。
「そう言う割には、平然としてるわね」
「そうか?」
ヘレに軽く答えて、猫を全身に乗せたまま立ち上がった。こらえきれずに猫が剥がれ落ちる。まだしがみついている猫を一匹ずつ引き剥がしながら歩き出す。
「裕也、行こう」
周囲の視線が僕たちに集まっていた。何か起こる前にさっさと離れたほうが良いだろう。
「ああ」
裕也もすぐに動き出した。
グラウンドから離れて、裏庭へ少しばかり入ったところで口を開いた。
「どうなっていると思う?」
僕は、周囲の猫を見下ろした。後をついてくる猫はいないが、周囲に猫が広がっている。
「たぶん、あれだろ、ミストロックとこの土地の魔力の相性が悪くて起こるヤツ」
「でも、それは一ヶ月ぐらいかかるんじゃないのか?」
「普通の土地なら一ヶ月、じゃなかったか?」
そのように裕也に切り返された。
ということは、この土地は特殊なのだろうか。
「今は、そう考えるしかねえな」
「そうなると、解決するには……」
僕は、裏庭の一角に目を向けた。
「ああ、セリアのほうでなんとかするしかないな」
裕也も僕と視線を同じくした。
ブルーシートで覆われた場所。そこには今、セリアとフェイルが潜り込んでいるはずだ。
「こっちはこっちでできることをやろうぜ」
「うん。次は?」
「こっちだ」
そう言って示したのは、裏庭の奥。比較的木々の生い茂っている場所だった。
離れた場所から落ち着いて見てみるとよく分かったが、ちょっとその場所も周囲とは違って見えた。その一番の理由は、色だ。周囲がくすんで見えるほどにその場所は鮮やかだった。鮮やかに紅葉していた。それを見るだけならば見事な紅葉なのだが、昨日はそんなに鮮やかではなかったと思う。
「ミストロックだけじゃなくて、魔法のほうも多少関係してるのか」
裕也は、そう考えているようだ。
これから向かう場所での変化、それからさっきの場所での状況。どちらも結界の魔法式付近で起こった事だ。ミストロックだけでなく、魔法の影響も疑える。
近づいてみると紅葉している葉だけでなく、幹もやや赤みがかっている。
「ここら辺だったはずなんだが」
裕也が足を止めた。
周囲は特に目印になりそうな物はなく、特徴のある木もない。覚える気がなければ詳しく場所を覚えていることもできないだろう。鮮やかな紅葉の中心付近であることは確かだが。
「分かった」
僕は、周囲を見回した。人の姿はない。木の陰に隠れれば、まず見られる心配もないだろう。
集中して手に白い球体を出現させた。僕のレーダーは、意識を集中すれば隠された物でも見つけられる。
目的の魔法式はすぐに見つかった。裕也の立っている場所の背後の木、その幹の中間にある。裕也はかなり正確に位置を記憶していた。さすがは情報屋。もたらす情報は限りなく正確だ。
そのまま魔法式に近づき、手を幹に当てた。すぐにヘレが式の書き換えを始める。裕也もその隣に来て、少し落ち着く。
その時だった。
不気味な音と共に、なんとも嫌な予感が背中に走った。
「タケ、後ろ!」
裕也が叫ぶ。
僕は振り返りながら空いている手を突き出した。
大きくうねりを上げた木の根っこが地面に倒れた。正確には、見えない壁にはじかれた。
ヘレに聞いた、四代目覇王が作ろうとしていた力。身を守るための力。それを使ったのだ。どうやらこの力は、不可視の障壁を作り出し、はじき返す力のようだ。
障壁の発生した周囲に薄くミストが漂っている。
「……」
何とか危険を回避できたらしい。間に合って良かった。おそらく、木の根が鞭のような役割を果たし、僕を弾こうとしていたのだろう。
「ふう、どうも穏やかじゃなくなってきたな」
裕也がため息混じりに呟いた。
「この調子だとほかのところも何か仕掛けがありそうだ」
その可能性は大いにある。もうここまで来ると無関係とは思えない。これ以上はどんな危険が潜んでいるか分からない。
「裕也、残りの場所は?」
僕の口調は、少し緊張していた。
「一人で行くのは、なしだぜ?」
先手を打たれてしまった。
「こんな面白いことに首を突っ込まないでいられるかよ」
「そんなに面白いか?」
「ああ。こんなこと普通じゃ絶対にありえない。そんなことに自分からかかわらないでいるなんて、俺にはできねえな」
まあ、仕方がないか。裕也はこういう奴だ。それに僕は裕也を止める言葉を持っていない。
「残りの場所は?」
僕の口調から少しだけ緊張が解けていた。
「東校舎の二階、北側の階段の近く。それと、特設ステージの近くだ」
教えてもらった二つの場所を思い浮かべた。今の状況でその二ヶ所は、かなりきつい。
「どっちも人が多そうな場所だ」
仮に、ここと同じような攻撃的な罠が待ち受けていたら。いや、仮定では駄目だ。仕掛けられている前提で考えないと。
「何か手を打てる?」
僕は、裕也を見た。裕也と目が合う。
「打たないわけにはいかないだろ」
裕也の真っ直ぐな視線を受け止める。
「終わったわ」
ヘレの作業が無事に終了した。
「それで、次はどうするの?」
「まずは、東校舎からだな。先に行って準備してくる」
裕也は、裏庭を走って東校舎へ向かう。何か思いついたらしい。
僕は、ゆっくりと木々の間を歩いて行く。
「ヘレはこの状況、どう思う?」
「魔法の変化が始まっているんじゃないかしら。ミストロックの影響というよりはそっちのほうが納得できるわ」
ヘレは、僕の手に巻きついた体の向きをひねるようにして変える。
「セリアは閉じ込めるために結界を使っていた。だったら、そのための能力を結界につけていたと思うわ。それが、排除するような形に変化しているんじゃないかしら」
「排除?」
「そう。今のところは魔法式にかかわる者を狙っているみたいだけど、そのうち結界の範囲内にも及ぶでしょうね」
そうなったら結界内に閉じ込めている精霊が、結界の外に出てきてしまうかもしれない。
「もしかしたら、現実のものまで排除しだすかもしれないわね」
それは、かなりまずい状態だ。大騒ぎになる。
僕の歩く速度が自然と速くなる。それを意識して抑えながら、できる限りゆっくりと東校舎に向かう。
裏庭には談笑したり、くつろいだりしている人たちがいる。声を出して客引きや売り子をしている生徒もいる。なんでもない日常の中にあるにぎやかで穏やかな祭り。
そんな日常の片隅でとても日常とは言えない出来事が起こっていると誰が想像できるだろうか。祭りとは比較できないほどの日常とは異なる出来事が起こっていると。
でも、それが普通だ。知らなくても良い、知る必要はない。知らなくても何も困らない。だから、知ってしまう状況、巻き込んでしまう状況は絶対に必要ない。
「……」
さて、どうしたものかな。
裏庭を歩いている人たちの声を聞きながらそんなことを考えていた。
◇
東校舎の北階段に向かうとそこは、ビニール紐で封鎖されていた。そして、その封鎖の前には二人、クラスメイトの姿があった。名前は、野木と石倉。
「何してるの?」
「高戸に頼まれてな。事情は分からんが」
やや億劫そうに野木が答えた。
どうやら裕也の指示らしい。結界書き換えの対策としてだろうが、勝手に通行止めにするのはよくない。生徒会に知られれば涼子が来襲する。
「武野の事は聞いてるから通っていいぜ」
飄々と石倉がビニール紐を示した。
「面倒事を頼んで悪い」
「別にいいって。ちゃんと見返りもあるからな」
そのまま僕は難なく封鎖の網を潜り抜けて階段を上った。
踊り場から二階の廊下を見上げると、二階の廊下近くの階段に裕也が立っていた。僕は、そのまま裕也に近づいた。
「来たな」
裕也が不敵に笑う。
「場所は?」
僕が尋ねると裕也は、すぐ側の壁を指差した。
「ここだ」
階段の途中にある何の変哲もない壁。封鎖されている今は、誰の目もない。
「それじゃ、裕也は離れていて」
「気をつけろよ」
裕也はそれだけ言って二階へと姿を消した。それを確認して、僕は壁に手をついた。
見た目には何の変化もないように見えるが、精霊のヘレからは違いが分かるらしく少し首を動かして体勢を整え、魔法の書き換えに入った。
そういえば昨夜は、別空間の出来事だが、白い膜の重みに耐え切れずにこの辺りが崩れたのだったか。周囲を見回してみるが、特にこれといった変化は見られない。影響はないと聞かされていたけれど、実際に崩れた現場を見ているからどうにも違和感がある。慣れればどうということはないと思うが。
そしてそこで再び、音がした。
「……」
何か、不吉な音を聞いた。何かに亀裂が入った時のような音だった。僕は、はっとして天井を振り仰いだ。
僕の視界に特別な変化はない。ならば、先ほどの不吉な音はどこから聞こえた音なのか。そのまま視界を巡らす。目に入ってきたのは、いびつな窓からの光。二階の廊下の窓から線で区切られたような空が見えた。それはすぐに、ガラスにひびが入っているからだと分かった。
窓の向こう側の景色が瞬時にゆがみ、矢と化したガラスが降り注いだ。
僕は、すぐに手を上げて不可視の壁を作り出す。ガラス片が不可視の障壁にはじかれて階段上に散らばった。窓が割れた時よりも大きな音が階段を突き抜けた。
息をつかせず再び、先ほどと同様の不吉な音が耳に入った。今度の音は背後から。
僕は勢いをつけて振り返り、踊り場の窓を視界に入れた。すでにガラス片は矢となって飛び出している。防ぐには間に合わず、僕は振り返った勢いをそのままに無理やり回避を試みて体をねじり、壁に体を打ちつけた。腕や顔に鋭い痛みが走った。
「……」
静かになった階段を見回すと、僕の周囲の壁にはガラス片が突き刺さっていた。僕の体は何とか無事で、切り傷で済んだ。
それでも流れは変わらない。また、物が動くが聞こえた。
まだ何かあるらしい。三度目の怪しき気配は、廊下のほうから聞こえた。
「きゃ!」
廊下から誰かの悲鳴が聞こえた。その直後、足元がぐらりと揺れた。床に散らばる破片が小刻みに震えている。壁や天井がわずかに振動している。
「まさか、これもか?」
校舎が、震えていた。地震でないならば、これも結界の変化による影響だ。
「ヘレ」
僕は静かに声をかけ、魔法に集中しているヘレを見た。
「もうちょっと待って。もう少し」
結界の書き換えは本当に残りわずかだったようで、ヘレの言葉が終わるのと共に校舎の揺れは収まっていった。
「終わったわ」
「ふぅ」
ため息と共に体から力が抜けた。知らず知らずのうちに緊張していたらしい。
廊下から裕也が顔を出した。その顔はやや緊張している。
「タケ、無事か?」
僕は片手を上げて応じて、裕也が安心できるように手を軽く振った。
「かすり傷ぐらいで済んだ」
そうは言っても切り傷の数は多いし、腕も血にまみれて赤く染まっているから見た目は酷かった。
「どうしたんだ?」
今度は下から野木が上がってきた。様子を見に来たのだろう。
裕也が何食わぬ顔で野木に近づいてきた。
「ガラスが飛び散ったみたいだ。俺は武野を保健室に連れて行くから通行止めを解くのとここの掃除を頼んでいいか?」
野木は、少し考えながら周囲を見回した。
「そうだな、分かった」
「それじゃ頼んだ。ほれ、タケ行くぞ」
階段を上がる裕也に続いて僕も階段を上がった。廊下に状況を見に来た野次馬を視界の端において、渡り廊下から中央校舎へ向かう。
人気がなくなったところで裕也が口を開いた。
「えらく厳しい状況になってきたな」
そう言う裕也の表情は笑顔だった。声から真剣味が感じられるから今の状況を軽んじる事はないだろうが、表情だけを見れば楽しそうだった。
「書き換えを進めるほどに反動って言うか、抵抗みたいなのが激しくなっていくな」
そのことは僕も感じていた。始めの妨害は猫の大量発生で、次が木の根による殴打。先ほどあったのがガラスによる傷害。徐々に危険度が増している。
「魔法の変化が進んでるのかな?」
「それだけじゃないと思うわよ」
ヘレが言葉を発したので腕を少し上げる。
「たぶんだけど、書き換えられた場所が増えたからじゃないかしら」
「と言うと」
「今まで五ヶ所に魔力を分け与えていたのが書き換えによって削除されていくから、一ヶ所に割り当てられる魔力の量が増えていく。魔力量が増えればそれだけ起こせる事象が大きくなるから、その影響が現実に現れているんじゃないかしら」
「なるほど、そういう考え方もあるわけか」
裕也が軽快に階段を下りていく。
「だとすると、ラストはとんでもない事が起こりそうだが……」
そこで立ち止まり、振り返った。その表情が、少しゆがむ。
「まずは、タケのほうをちゃんとしねぇと。そんな姿じゃ出歩く事もできないしな」
確かに裕也の言うとおり、先に済ませるべきなのは僕の治療だ。中央校舎まで来れば保健室もすぐ近くにある。




