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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第一件 異世界からの訪問者
18/71

18 転送魔法+穴

 凍った場から脱出した私たちは、特に何をするわけでもなかったのでクラムとメイルに挨拶をしてお城に戻った。すぐに回復していたクラムは、本当にどういう体をしているのだろう。

 お城で一晩泊まる部屋に案内された私は、思いのほか早く眠りについた。いろいろあったから疲れていたのだと思う。ただでさえ文化祭でいつもと違うスケジュールなのに、こんな異世界まで来てしまっている。あと、ベッドの寝心地がとても良かったというのもあるかもしれない。高級感のあるふかふかベッドだった。

 そんなこんなで私は起こされるまで、ぐっすりと眠っていた。

 まだ日の昇り始めていない時間、薄い赤色の混ざった明るくなり始めた夜空の色を見ながら服を着替えて(自分の服)、浩一と一緒に朝食をとり(周りに執事とメイドが控えていた)、浩一と私が落ちた池のある中庭へと出た。

 その中庭では、大勢の人が集まっていた。頭と体を覆う衣服(単純にローブかな)を着た、いかにも魔法使いという風情の人や周囲の警備や作業をしている兵士風の人、その人たちのパートナーであろう精霊たちが忙しくしている。

 そんな作業のされている中庭の一角にある作業の中心地、広場のような開けた場所に私と浩一は案内された。

 その場所には、すでにマリルとマキャルがいた。

「浩一様、光様、おはようございます」

 二人が、丁寧なお辞儀で挨拶をした。

「おはようございます」

 私と浩一も挨拶を返した。

「昨夜はよくお休みになられましたか?」

「はい、おかげさまで」

「そうですか。こちらの準備は間もなく完了しますので、もうしばらくお待ちください」

「これは、何をしているんですか?」

 ぐるりと首を回して辺りを見渡す。棒を持った人が地面に印をつけていたり、全く動かずに手を組んだり広げたりしたポーズのまま直立不動の人がいたり、中庭と建物を何度も出入りしていたり、それとは逆に中庭と外壁の外側を忙しく行ったり来たりしている人がいたりする。何かの作業中なのはわかるけど、何をしているのかはわからない。

 マリルが、この場所を示して説明してくれる。

「こちらはお二人の世界への時空転送の魔法式を構築しているところです。地面に直接式を描き、同時に使用する魔力も集めています」

「こんなに大きい物が必要なんですか?」

 目の前に描かれている魔法式、魔法陣は、バスケットコートぐらいのスペースのところに描かれていた。そのスペースの中を数人で手分けをして地面の上に描いている。セリアたちが魔法を使う時に描かれていた魔法陣とは大きさがかなり違う。

「通常ならばここまでの大きさは必要ありません。しかし、浩一様への献上の品が収まりきらないため、このような大きさとなりました」

「献上の品?」

「はい。あちらにあるのが、そうです」

 そう言ってマリルは、中庭の端のほうを手で示した。

 その手の示す方向に目を向けると、山のように積み上げられた箱や包みなどが、外壁に沿ってズラリと並んでいた。よく見てみると一つ一つの箱も高級な物に見える。「献上の品」という言い方も納得だった。

「あれ、全部ですか?」

 品物によって作られた行列に、品物を運ぶ人の行列が続いている。人の行列は途切れる気配がなく、外壁の外に繋がっていた。

「全部です」

 マリルの言葉は、たった一言の肯定だった。

 隣を見てみると、浩一は頬を小さくかいていた。

「目録はありますか?」

 浩一が、戸惑った表情で尋ねた。

「はい、はーい」

 それにはマキャルが返事をした。手の平の上に茶色の魔法陣が描かれ、そこから紙束が現れる。それが献上の品の目録らしい。かなりの厚さの目録だった。

「こちらになります。どうぞ」

 マキャルは、その目録を浩一に差し出した。

 浩一はその紙束を受け取らず、小さく首を振った。

「それぞれの送り主に返却してください」

「よろしいのですか?」

 マキャルが、瞬きをして聞き返す。

「持って帰るには無理があります」

 浩一の言うことはもっともだった。どう考えてもあんな量は持ち帰れない。家の中に入りきらないだろうし、庭にも置いても溢れてしまう量だ。中には便利な物とか欲しい物とかもあると思うけど、返すのならば全部返すしかないと思う。品物の山の一角からは動物らしき鳴き声とか聞こえてくるし、ちょっと持ち帰るのは怖い。

「わかりました。それでは、そのようにします、はい」

 マキャルはうなずき、目録を魔法陣の中へと吸い込ませた。

「でしたらば、少し魔法式に調整が必要になりますね……」

 マリルが、あごに指を当てて考え込みながら呟いた。

「申し訳ありませんが、そのことを伝達するために失礼させていただきます」

 マリルとマキャルが、丁寧なお辞儀をしてすばやくその場から離れていった。

 その場に浩一と二人で残された。別に周りには作業中の人が大勢いるから、二人きりではないけど。

 この場の責任者みたいな人の大声と共に、作業中の周りの喧騒が少し大きくなる。中庭にいる人たちは、川の流れが急に速くなったように動きが変わっていく。

「昨日のことは、浩一はあれでよかったの?」

 私の言っている昨日とは、昨夜の浩一のパートナーと対面した時のことだ。

「うん」

 浩一は、静かに答えを返した。

 場の雰囲気が解凍されてから浩一は、何もせずにお城に戻ってきた。

「でも、いろいろできるみたいだったんだから、何かやったらよかったのに」

 あの後、マリルとクラムが無事に戻って来てから、クラムから簡単に説明(メイルの補足付き)を受けた。すぐに動けるようにはできないけれど、機能を限定すれば会話をできるようにはなるということだった。ほかにも記憶を外部装置で映像として見られるようにするとか、浩一の意識をパートナーとリンクさせるだとか、会話をする方法をいくつか考えてくれた。

「そんな急ぐ事じゃない」

「そうなの?」

 加護のことをあんなに知りたがっていたのに。

「裏技みたいな方法を使ってまで急ぐつもりはないよ」

 浩一は、足元に視線を落として続けた。

「それに、一応はパートナーなんだから対等な状況で、普通に話をしたい」

「ふ〜ん」

 浩一の言い分は納得できた。何か含みがある言い方だけど、あまり深く聞くことじゃない気がする。浩一自身の昔を知っている人と話すのは慣れているはずだから、その点を気にしているわけではないと思うけど。気にしているのは、パートナーというところかな。

「過去なし〜、赤い人(仮)〜」

 独特な呼び方で私たちを呼ぶ声が聞こえた。その声のしたほうを振り向く。振り向かなくても誰だか一発でわかるけど。

 メイルが、フラフラと空中を泳いで私たちに近づいてきた。

「おはようございます」

「おはよう」

「おはよ」

 まずは、それぞれ頭を下げて朝の挨拶。

「どうしたの?」

 それからここにいる理由を尋ねた。

 昨夜、別れる時にメイルは、クラムと一緒に浩一のパートナーをできる限り急いで整備すると言っていたはずだ。ここで会うとは思っていなかった。

「ちょっと、過去なしに渡す物があるんですよ。それで寄らせてもらいました」

 そう言いながらメイルは自分の真下、空中に紫色の魔法陣を描き出した。

「過去なしは、手の平を出してもらえますか?」

 浩一はメイルに従って、右手の平を前に出した。

 すると、浩一の手の平の上にもメイルの真下に描かれている魔法陣と同じものが描かれた。そこに手の平に収まるほどの大きさの棒が現れた。棒の先は両方とも丸みを帯びていて、ペンのように見える。

「それは、発信機みたいな物です。何かこちらから転送する時にそれを目印にして転送魔法を使いますので。ほかにもいろいろ使い方があるんですが、向こうの世界で使えるかわかりませんので、説明は省きます」

「分かりました」

 浩一は、うなずいてそのペン状発信機をポケットの中にしまった。

「それでは、さらば〜」

 メイルは、浩一がペン状発信機を受け取ったのを確認する様子も見ず、フラフラと空中を泳いでもと来た道を引き返していった。本当に渡しただけで帰って行ってしまった。

 メイルの姿が見えなくなると、中庭で作業する人たちがお辞儀や敬礼をしているのが目に入った。その先を目で追ってみると、静かに歩くティナがいた。傍らにメイドを従えている。ティナは、作業をする人たちを労いながらこちらに歩いてくる。

「おはようございます、浩一様、光」

「おはよう」

「おはよ」

 挨拶を終えるとティナは、私たちに並んだ。

「よろしければ、私もお見送りをしたいと思いまして」

「うん、ありがとう」

 私は、小さくうなずいた。

「もう少しゆっくりとお話をしてみたかったんですが、あまり引き止めるわけにもいきませんから」

 そう言ってティナは、微笑んだ。

 見送りと簡単に言っても、住んでいる世界が違うから次に会えるのはいつになるかわからない。二度と会えないのが普通かもしれない。そう思うとなんだか感慨深い。

「私も、ティナともっとお話したかったな」

 たった一晩いただけなのに、別れというだけでさびしく感じる。

 ティナが後ろを向き、側にいたメイドから袋状の包みを受け取った。そして、受け取った包みを両手で抱え、私の前に差し出した。

「ご迷惑でなければ、これは光に差し上げます」

「いいの?」

「はい」

 ティナは、にっこりと笑顔を見せた。

「ありがとう」

 私も笑顔でその包みを受け取った。受け取った包みの質感は、すべすべでありながらふわふわとした弾力があった。やっぱり高級品なのかな。

「持とうか?」

 隣で浩一が包みを見ながら訊いてきた。

「うん、お願い」

 素直に浩一の申し出を受けることにした。それほど重い物ではなかったけれど、持ってくれるのならば持ってもらいたいと思う。

「お話のほうはお済みでしょうか?」

 横から声をかけてきたのはマリルだった。どうやら伝達の仕事は終わったらしい。作業のほうは順調に進んでいるみたいだ。

「間もなく転送魔法を発動いたします。浩一様と光様はこちらへお願いします」

 そう言ってマリルは、魔法陣の中心を手で示した。魔法陣はすでに完成していて、魔法陣の中には誰もいない。魔法陣の周囲を魔法使い風の人たちが囲み、その外側で作業をしていた人たちが魔法の発動を見守っている。

「はい」

 私と浩一は、すぐに示された位置に隣り合って立った。なんとなく地面に描かれた魔法陣の線を踏みづらいから、線を踏まないようにまたいで立っている。

「転送魔法の発動を開始します」

 魔法使い風の一人が、声を大きくして宣言した。

 魔法陣の外円から水色の光が吹き出した。その光は、描かれた線を順々に伝って、魔法陣を水色に染め上げていく。そして、私たちの立っている魔法陣の中心まで満たした。

「転送魔法、〈ゲートホール〉、発動」

 魔法使いの声の一瞬後に、魔法陣が強く輝いた。

 そして、私たちの立っている地面が消えた。

「え?」

 私たちの足元の地面にぽっかりと暗い穴が空いていた。見ている風景が一気に傾き、その中で手を振っているみんなの姿が見える。そのまま私たちはその穴の中に落ちていった。

「うえー!」

 不覚にも私は、なんだかわけのわからない叫び声をあげてしまった。


 ◇◇


 快適とは言いがたい帰り道だった。

「いたっ!」

 隣で光が、尻餅をついている。どうやら着地に失敗したらしい。それほど高い場所から落ちたわけではないから大丈夫だろう。僕は、うまく着地することができた。

 転送魔法が発動して暗い穴の中に落ちた僕と光は、そのまま落ち続けて地面の上に降り立った。上を見上げてみると、丸い裂空間のような物が頭上に開いている。セリアが現れた時と同じような物だ。役目を終えるとすぐに閉じていく。

 立ち上がって周囲を見渡した。見慣れた光景が、目の前にある。僕と光が転送された場所は、光の家の前だった。

「ううっ、まさか落ちるとは思わなかった」

 光が、ぶつけた尻をさすりながら立ち上がった。

「ここは、うちの玄関?」

 そう呟いたところ、突然目の前にある玄関の扉が開いた。玄関から現れたのは、セリアだった。

「おかえり」

 セリアは、僕たち二人を見て笑顔で言った。

「ただいま」

「……ただいま」

 僕は、自分の家ではないのでちょっと違うが、この世界に帰って来たことでは正しい言葉だと思う。

「二人とも無事で何より……」

「おふろー!」

 ほっとした様子のセリアの言葉を遮り、セリアの後ろから小さい体のフェイルが突然現れ、光の体に飛びついた。

「ごはんー!」

 続いて、バネのような体をしたヘレが、光の腕に絡まる。

「おふろ~」

「ごはん~」

 体を揺すりながらフェイルとヘレが、光を急かしている。昨日、家を出る前にしていた約束のことだろう。

「はい、はい」

 光はちょっとあきれ気味だが、笑顔を見せて玄関へ向かう。ヘレのあの状態にも慣れたみたいだ。

「ちょっと待った」

 そこで、後ろから声がかけられた。

「さっき、買って来ちまったんだ。こいつも使ってくれ」

 そう言いながら手に持ったビニール袋を掲げているのは、裕也だった。そのまま裕也は敷地内に入り、光に袋を手渡した。

 光は、袋の中を覗き込みながら尋ねた。

「わかった。裕也はどうする?」

「まだ飯食ってないんだ。もらえるんならもらっとく」

「うん、すぐに準備するから待ってて」

 そして光は、フェイルとヘレを体にくっつけたまま家の中に入った。

 それを見送った後、裕也は僕の隣に並んだ。

「どうだったよ?」

 口元に笑みを作って聞いてくる。裕也も事情は把握しているようだ。

「知らない人に声をかけられまくった」

 僕の感想としてはそんなところだ。風呂に入り、服を着替えた後、光と合流するまでいろいろな人に所構わず挨拶された。

 英雄が現れたという話は、城の中に一気に広まっていた。その結果、城の近くにいた権力者たちがすぐに集まってきた。そして、出会って早々深々と頭を下げて自己紹介をし、自分をアピールした後、自分の治める土地の名をあげて「一度お立ち寄りください」と言い残して去って行った。さすがに仕事中の兵士や使用人が声をかけてくることはなかったが、通路で会った場合は端によって頭を下げ続けていた。英雄と呼ばれる実感のない僕にはその対応に違和感しかなかった。

 おそらく、今朝の献上の品というのもそういう権力者たちから贈られた物だったのだろう。

「すげぇ有名人だな」

 裕也は笑いながら肘で僕を突く。僕としては、あんまり良いものでもなかったのだが。

「……裕也は、何でここにいるの?」

「俺は、セリアに呼び出されたんだ」

 昨夜、セリアから裕也の携帯に連絡が入ったそうだ。そこで僕と光が転送されたことや学校の状況、精霊の状況などを知ったのだと言う。

「セリアに電話の使い方を教えといて良かったぜ」

 しみじみした様子で裕也は言う。

「精霊は?」

 僕は次に、セリアに顔を向けた。僕と光が転送された後、どうなってしまったのか。

 セリアは、首を横に振った。

「まだ捕まえてない。あの後、姿を消されてしまって。〈パラレルサンクチュアリ〉の効果は持続しているから逃げてはいないはずだけど」

 あの精霊は、まだ捕らえられていない。そのまま今も学校にいることになる。

「詳しい話は中でしようぜ」

 裕也が、玄関に向かったので僕もその後に続いた。


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