みーつけた
町の喧騒から少し外れた場所にある古びたアパートに数人の人影が向かい歩く。中心にいる女性はバケットハットを深くかぶり辺りは薄暗いにもかかわらずサングラスをかけマスクをしている。
その女性を護衛しているかのように囲う男たちもまたサングラスをしていてごつい体格と相成って周囲に威圧感を放っている。
足早に進んだ集団はアパートの前に来ると女性は二階の真ん中にある部屋の前に立つ。
「なにかあったらすぐに来なさい」
サングラスの隙間からにらみ命令する女性に男たちは短く返事をして頭を下げる。
それを見た女性は周囲を見渡してそっとドアを開けて部屋に入り、壁にあるスイッチを手探りで探し見つけると電気をつける。
ぼんやりとした明かりが小さな部屋の様子を照らしだしそれを見た女性は胸を押冴えて息を吐く。
バケットハットを脱ぎ続いてサングラスとマスクを取ると手に持ったそれらを乱暴に投げる。
「くそっ! なんで私がこんな鳥小屋みたいなところで過ごさなきゃなんないのよ」
床に転がるサングラスを踏みつけて蹴り飛ばすと乱暴にベッドに座る。
「それもこれもあのクソバイトどもがしくじるからよ。ほんっと! つかえない!」
女性は親指の爪を噛み苛立ちをあらわにする。
コトッ
少し離れたところから小さな物音がして女性は顔をそちらの方へと向ける。
コトコトッ
自分の方を見てくれるタイミングを見計らったかのように連続で小さな物音がする。なにかが偶然落ちたとかではなく明確になにかが動いている音に、ゆっくりと立ち上がった女性は音がした方へ足を進める。
部屋を出てすぐにある脱衣所兼洗面所のある部屋で足を止めると壁にあるスイッチを押して電気をつける。
光が降りそそがれ床に無造作に置かれた歯ブラシが目に入った女性はそっと近づく。
そのときだった。歯ブラシがカタカタと動き出しかと思うと空中に浮いて女性の顔面目がけ飛んでくる。反射的に両手で飛んでくる歯ブラシを防いだ女性が恐る恐る腕の隙間から辺りを見渡すと鏡に映る自分と目が合って肩をビクッと震わせ驚いてしまう。
「な、なによまったくビビらせるんじゃないわよ……」
驚いた自分を落ち着かせるように愚痴りながら鏡に映る自分をにらむ。
『みーつけた……』
「なっなにっ⁉」
突然耳元で聞こえた声に驚き振り向く女性だがそこには誰もいない。
カシャーン!
キョロキョロと辺りを見渡す女性の足下に洗面所に置いてあったコップや歯磨き粉のチューブなどが乱暴に散らばる。それと同時に電気がついたり消えたり激しく点滅する。
『ねえ、なんで私を殺したの? なんで埋めたの? なんで、なんで……』
異常な状況に驚き後ずさる女性の耳元で声が響き続ける。目を見開く女性が声のした右を見ると今度は左から声がする。
『ねえなんで? ねえ? ねえってば? お母さん?』
大きく目を見開く女性の表情は驚きというよりは恐怖で引きつっている。
『閉じ込められて苦しかった……辛かった』
恐怖で座り込みそうになった女性だが、眉を吊り上げてなにもない空間をにらむと足下にあったコップを拾うと声のした方へと投げる。
「うるさい! あんたが! あんたがいるから私は、私は幸せになれないの!」
壁に当たって跳ね返ったコップを蹴りながら女性は怒鳴る。
「あんたが反対するから。あんたがわがまま言うから……あんたがいるから私はね、私は幸せになれないって言ってんのよ‼」
『苦しかった……痛かった……ねえ? なんで私は死んでお母さんは生きてるの?』
ギリっと音がするくらい歯を鳴らした女性は鏡に映った自分に向かってドライヤーを投げつけ鏡を割る。
派手に散る鏡を前に肩で息をする女性がその場をあとにしリビングに向かうと、今度はリビングの電気が激しく点滅し手鏡や化粧品の瓶などが飛び交い床に落ちては割れていく。
「な、なによ! あんたが邪魔ばかりしやがって! 死んでも私の邪魔をするっての! ええっ? なんとか言えってのよ絵美‼」
ヒステリックに叫びながらバックを手にして振り回し椅子やテーブルを蹴ってひっくり返す。
「どこにいるのよ! 出てこいっての‼」
バック投げ捨て椅子を持ち上げた女性が声を荒げる。
『土の下で……待ってるよ……ねえ? おかぁ~さん!』
耳元でささやかれた声に目を見開き奇声を上げながら女性は椅子を振り回し壁を何度も叩き、そして投げ捨て窓ガラスを破る。
狂ったように暴れる女性が出す音を聞きつけた取り巻きの男たちが玄関のドアを叩き声をかけるが、女性には届いておらず暴れ続ける。
激しい物音にただならぬ状況にタイミングよくパトカーのサイレンが鳴り響きアパートの前に停まると数人の警察官が降りてくる。
アパートの階段を上る警察官を取り巻きの男たちが塞ぎ押し問答を始めると騒然とした空気が支配する。野次馬も相成って騒がしくなるそんな現場からそっと立ち去る影が三つあった。




