今を生きる幽霊
「私思い出しちゃった。恵人との楽しい日々をね!」
私がニヤリと笑みを浮かべると絵美は眉をひそめる。
「楽しい日々って……あんた記憶が戻ったの……」
「私が恵人のこと忘れるわけないし! まあちょっと記憶が混乱してて忘れてたけど細かいことは気にしない!」
Vサインついでにドヤ顔する私の威圧感に絵美が一歩身を引く。威圧されたというよりはドン引きされている気もするけど押していることには変わりないのでこのままの勢いで押させてもらう。
「でもあの女のことも思い出したんだったら憎いはずでしょ! 私たちあいつに人生むちゃくちゃにされて挙句殺されたのよ」
「たしかに蹴られている途中でお母さんのことを思い出してすごく嫌な気持ちになったんだけどさ、すぐに恵人のことぱあって思い出して、優しい気持ちがわいてきてそれでまあいいかってなったんだ」
「い、意味わかんないんだけど! そんなんでまあいいかってなるわけないでしょ‼」
「そんなこと言われてもそんな気持ちになっちゃったから仕方ないじゃん。復讐やるなら絵美だけでやってよ」
私の発言に信じられないといった様子で目を見開いた絵美は呆れて言葉が出てこないのか口を半開きにしたまま私を見ている。
「思い出したら確かにムカつくよ。でも今の私はメー子で恵人と一緒にいる幽霊なんだから。二人でたくさん美味しいもの食べようって約束したからそっちのが大切」
半開きから開いた口が塞がらないといった感じの絵美の手を握る。体をビクッと震わせて恐る恐る私の目を見た絵美の目を見返す。
「ってことでさ、一緒にご飯食べようよ。私はメー子だけど絵美がお腹空いていることはわかるよ」
私の言葉に絵美が視線を自分のお腹に落としてじっと見つめている。
「復讐をするにしてもお腹空いてたらできないんじゃない? そもそも復讐ってどうやってやるつもりだったの?」
「あ、あんたに協力してもらってあの男を利用して……あの女を……」
後半になるほど声が小さくなりごにょごにょと話す絵美の姿に私はピンっとくる。
「その感じ行き当たりばったりでやるつもりだったんだ」
「ち、ちがう! だって普通は記憶を戻したら復讐したいって思うでしょ! だから……」
「やっぱ行き当たりばったりじゃん」
「し! 仕方ないでしょ! だってあんたしかあの男に認知されてないし。私は触ることもできないし……」
落ち込む絵美の手を思いっきり引っ張って無理やり体を起こす。
「まあそもそも私を復讐に使おうだなんて無理だね。仮に賛成したって恵人は絶対に復讐を手伝わないと思うよ。だってすごく優しいし」
断言する私を見て絵美は肩を落とす。
「はぁなんでそんな自信満々な顔で言うのか……私ってそんなバカみたいな顔してたっけ」
「あぁ~⁉ バカって酷い。私たち元々一緒だったんだから私がバカなら絵美もバカなんだから」
「はぁ? 私はあんたみたいにお気楽な人間じゃないし。そんなのろけ顔なんてしないから」
「ぶぶーっ! 私たち幽霊だから人間じゃありませーん! やっぱ絵美もバカだ」
「あぁっ! ほんっとムカつく!」
地団太を踏む絵美の手を思いっきり引っ張って私はニシシと笑う。
「はいはい、お腹空いてるんならまずはご飯食べようよ。絵美も恵人に触れば食べれるかもしれないし。最悪私が食べさせてあげるよ。あーんってしてよ」
「それはほんと最悪ね。そうならないように祈ってる」
ふくれっ面になりながらも私の引く手に抵抗することなく素直についてくる。やっぱりお腹空いてるんだって思ったけど、それを口にしたら絵美がふてくされそうなので言葉を飲み込む。
ここがどこかはよくわからないけど、どこへ向かえばいいかはなんとなくわかった私は絵美の手を引き恵人の待つ現実へ向かう。
その方向へと歩くとすぐにまばゆい光に包まれ、思わず目をつぶった私がそっと目を開けると見慣れた風景が目に飛び込んでくる。
そこは寝室で恵人が使っているベッドがある。そういえば昨晩眠くてたまらなくなって恵人と手を繋いで寝て久しぶりのベッドで嬉しくて……
現状を把握するため私は冷静にこれまでのことを思い出す。




