閉ざされた屋上
会社のパソコンを前にして作業をする僕のそばではメー子が別の仕事を手伝ってくれている。実質二人で仕事をこなしているので非常に効率がいい。
メー子の物覚えが早く、なによりも気が利くので非常に助かっている。
この日もテキパキと仕事をこなした僕たちは予定よりも早く午前中の仕事を終え体を伸ばすついでに個室から出て散歩を開始する。
「よっ! しごでき渡舟くんじゃないか。もう仕事終わったから休憩か?」
「まあね。って言いつつそっちも休憩してるじゃないか?」
散歩を開始してすぐに声をかけてきたのは同僚の高橋という男である。メー子が始めて僕と一緒に会社に来た日にチョコバーをくれた男ゆえ、メー子はチョコバーの人と呼んでいる。
「俺は休憩じゃなくて逃亡。仕事多くてやってらんねーってサボってんの」
「自分で言っちゃうんだ」
「正直な男なんでね。おっそういや、さっきサボりに行こうと思って屋上に行ったら立ち入り禁止になってたんだけど何かあったのかな?」
「立ち入り禁止?」
僕は首をひねる。
これまでベンチや屋根付きのシェルター、花壇などの整備などで立ち入り禁止になることはあったがそのような場合は事前にお知らせがくる。
「工事とかの通知きてたっけ?」
「いいや、だから渡舟なら知っているかもと思って聞いたんだけどな」
「工事のメール見逃したかな? ちょっと確認してみるよ」
「おう任せた。なんかわかったら教えてくれよな」
他人任せな同僚に苦笑しながら僕は仕事場に戻るとメールの確認をする。上から順に日にちを遡って目を通していくがそれらしいものは見つからない。
やがてメー子と一緒に屋上へ行って清掃のおじさんと話した日までたどり着いたところで目を離して隣にいるメー子の方を見る。
「それらしいものはなさそうだね」
「うん、私も見てたけどないね」
目を合わせたまま頷いた僕たちはどちらがということもなく自然と口を開く。
「なんかタイミングが良すぎて違和感がある」
「だよね、気持ち悪い感じがするよね」
同じ感想を持った僕たちは時間が来るのを待って昼休みになると早速屋上へと続く階段を上る。『保守点検の為解放禁止中』と書かれた張り紙にある小さな文字をじっくりと読む。
「特に理由も書いていないし、保守点検実施期間も書いてないね」
「ちょっと見てくる」
「あんまり無理しなくていいから」
「うん大丈夫」
笑顔で返事をしたメー子がドアをすり抜けて屋上へと向かう。こういうとき幽霊であることは便利だが、屋上はメー子にとって長い間閉じ込められた場所でありいい思い出のある場所ではないはず。それゆえに無理はさせられない。
かと言って僕にできることなんて声をかけることしかないわけで、こうしてメー子の帰りをソワソワして待っているのである。
「君はこんなところで何をしているのだね?」
ドアの向こうにいるメー子のことが気になりドアに触れたとき突然背後から声がかけられて僕はビクッと体を震わせる。
振り返るとそこにはいつものように人のことを疑い見下すような顔をした仲座部長がいた。
一番会いたくない人物との遭遇に心の中で舌打ちをした僕は会釈をするとその場から立ち去ろうとする。
メー子とある程度離れたら引っ張れるので、申し訳ないが強引に行かせてもらおう。
「待ちなさい」
だが部長が呼び止められ逃亡は断念せざるを得ない状況になってしまう。
「君はこの文字が読めなかったのかね?」
「い、いえ。読みました。なので今から引き返すところだったんです」
ドアに貼ってある紙を指さす部長に僕は仕方なく頷きそして釈明する。
「引き返す? そうは見えなかったがね? ドアを触ってなんとかして入ろう、そう見えたがね?」
あぁめんどくさい。そんな言葉を口に出しそうになるのを我慢して僕は頭を下げる。
「いいえそんなつもりはなかったんです。ですが誤解があったのならすいません」
「はん、君はなにかね? 認めないけどこの場から逃げるために謝るフリをする人間なのかね? いいかね、人の価値とは誠実さで決まるといっても過言じゃないと私は思っているんだよ。その点君には誠実さが圧倒的に足りないと思うんだがそうは思わないかね?」
くどくどと話し始める部長に嫌気を感じながらも、話が終わるのを待つしかないと覚悟した僕は神妙な表情をして聴いていますアピールの姿勢を取る。
「最近仕事が早いとか言われて調子に乗っているんじゃないのかね? そんなときこそ謙虚になって皆の見本となる行動を取るべきだと私は思うんだがね。そう謙虚さ! 君に圧倒的に足りないのは謙虚さだね」
興奮してきたのか早口になってまくしたてるように話す部長に終わりが見えなくなってきなと絶望しかけたときだった。
スパーンっと部長の頭から音が響く。
正しくは足を伸ばして僕に触れたメー子が部長の後頭部を叩いたのだ。
なんて心地よい音だろうと、舌を出して部長に悪態をつくメー子の演奏スキルに感心してしまう。
「なっ、なにごと!?」
後頭部を押さえて慌てふためく部長が僕を睨み付ける。
疑いを向けられた僕は首だけでなく全身を振って否定する。そんな僕を目の前で説教していた相手が後頭部を叩くことはできないはずだと、納得はできないが納得せざるを得ない状況になんとも言えない表情をする。
「ま、まあつまりだ。君は最近調子に乗っているんじゃないかね? そう言うことが言いたいわけだ」
なんだか話をまとめようとする部長だが、それよりも片目をつぶって舌を出して、力を込めた指で狙いをつけるメー子の存在が気になって仕方がない。
止めようにも声をかけるのも手を伸ばすのもおかしいと戸惑う僕の心配を他所にメー子渾身のデコピンが部長の額に炸裂する。
「あいたぁぁっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
大きな声をあげて額を押さえる部長にとりあえず寄り添ってみる。ちょっとわざとらしい感じになったのは、隣でお腹を抱えて笑うメー子につられて笑いそうになるのを堪えていたからだと思う。
「と、とにかくここには近づかないことだ! いいかね!」
僕の手を振り払った部長は後頭部と額を押さえたまま逃げるように去って行く。
「べぇ~だ! 恵人をいじめる奴は私が許さないんだから!」
握った拳をぶんぶんと振りながらメー子が最後まで煽る。
「あいつなんかムカつくの」
ふん、ふんと鼻息の荒いメー子が僕の方を見てニッコリと笑う。
「あぁ~大きな声出したらスッキリした。とりあえずお昼ご飯食べよう! お腹空いた」
お腹をさすりながらお昼ご飯を催促するメー子に苦笑しながら、屋上の様子はそのときに聞けばいいかと場所を移動することにする。




