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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
きみが幽霊となった過去を知り幽霊として生きる未来を歩む

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薄っすらと霞を掴むような記憶

 ノートパソコンを広げて画面に文字を打ち込む僕の背後には肩にあごを載せて覗き込むメー子がいる。


「とうきぼ……」


登記簿謄本(とうきぼとうほん)。これでビルの所有者の情報がわかるんだ。って、僕も初めて知ったけどね」


 説明しながら僕の会社があるビルの所有者を調べるため法務省からのリンクを踏んで法人のサイトで必要事項を打ち込んでいく。


 このために正確な名称と番地を調べてきた僕はスマホのメモをチラ見しつつ手続きを進めると、思っていたよりもあっさりと目当ての所有者情報が開示される。


「えーっと沢野嶺(さわのれい)……嘉晃(よしてる)


 所有者の名前がわかったがそれだけではなんの意味もない。僕は首を後ろに反らしメー子に話しかけようとすると、浮いたメー子が上から覗き込んでくる。


 顔と顔が近くなるので焦る僕だが、メー子は眉間にしわを寄せて画面の名前をじっと見つめている。

 何か必死な様子に邪魔をしちゃいけないと思い、変な姿勢のまま黙って様子を見守る。


 やがて唇に曲げた人さし指を当て、眉間にしわを寄せたメー子がゆっくりと口を開く。


「沢野嶺って名前……なんだろ音が珍しいっていうのもあるんだけど、その漢字の形に見覚えがある気がする。嶺って字が難しいなぁ~って思ってたような……」


 僕の頬に手を触れたままパソコンのマウスを操作して『嶺』の文字にカーソルを重ねる。


「う~ん、もやもやとなんかこうハッキリしない感じ」


 カーソルをぐしゃぐしゃって乱暴に動かしたメー子の手にあるマウスに手を伸ばすと当たり前だがメー子の手が触れる。


「名前を検索してみようよ。もっと何か分かるかもしれないし」


 僕の提案に納得したのかメー子がマウスから手を離して譲ってくれるので、カーソルで名前を選択して検索にかける。


 珍しい名前だからか思っていたより簡単に検索に引っ掛かった名前を上から順に開いて読んでいく。


「土地関係のところ、ビルだったりお店、工場なんかにも名前が出てくるね。おそらく土地を沢山持っている大地主みたいな人なのかも」


 僕の見解にメー子がうんうんと頷く。この名前に覚えがあるということはもしかしたらメー子はこの家の関係者なのかもしれない。


「う~ん、やっぱりその名前が引っ掛かるんだけど何も思い出せないぃ~」


 頭を抱えてブンブンと振るメー子を見て顔が緩んでしまう。


「まあ急がずやっていこう。引っ掛かる名前が分かっただけでも大きな進歩だし。ひとまずご飯にしようか」


「そうだね! 腹が減っては戦はできぬって言うもんね! たしか今日のお昼はレタスチャーハンだったよね?」


 ぱあぁっと明るい表情で賛同するメー子に、数秒前まで頭を抱えて苦悶の表情を浮かべていた人物とは思えない切り替わりの速さに苦笑しながら台所へと向かう。


 ***


 お昼ご飯を食べ終えたメー子は満足そうにお腹を擦ると僕と一緒に台所へ向かい片付けをする。

 二人で行動するのにも慣れて来た僕らは、体の一部に触れたまま左右で仕事を分担しテキパキとこなしていく。


 メー子は僕が洗った皿を受け取り水切りカゴに手早く丁寧に並べつつ様子を見て、軽く浮かして足を僕の体に引っかけつつ腕を伸ばして使用したフライパンを掴み手渡してくれる。


 こう言うところは実に幽霊っぽいなと思いながらあっという間終わった洗い物を見て満足する。


「ねえねえ、私たち息ピッタリで料理の腕もかなり成長したし、お店とかできそうじゃない?」


「たしかに上手にできるようになったけど、さすがにお店をやるほどの実力はないと思うけどなぁ」


「えーできそうなのになぁ~。お店を開くってなんか素敵だと思わない?」


 宙に浮いた足をパタパタさせながら口を尖らせたメー子は僕の肩に手を置く。


「なんかそんなことを思ってた気もするんだよね」


 遠い目をしたメー子の呟きに僕は反応し顔を覗き込んでしまう。


「何か思い出せたとか?」


「ううん、記憶とかは全くないんだけど、お店をやりたいなって気持ちがあった感じが心の中に残っているような……そんな感じ」


 屋上へ行ってそこの歴史を知り、ビルの所有者である沢野嶺の名前を見て何かしら変化があったのかもしれない。そんな期待を持ってメー子を見るが当の本人はニシシと歯を見せて笑う。


「もしかしてあれかな? 料理人を目指してた私を妬んだ者から命を狙われ命からがらビルの屋上に逃げたけどとき既に遅し! 撃たれた銃弾による傷は深く志半ばで散ってしまったのだった……とか?」


「銃弾で撃たれるって……どんな料理人?」


 僕は芝居がかった口調で話すメー子をジト目で見つつ冷静にツッコミを入れる。


「私だけが知っている秘伝のレシピを巡る小競り合いはやがて血で血を洗う抗争へ!。それでそれで、沢野嶺家の刺客と壮絶な戦いの末に、無念! 幻の料理を作れず散ってしまった可哀そうで可愛いメー子ちゃんなのです」


 なんとも想像力豊かな幽霊だと感心しながら僕はタオルで手を拭く。


「それじゃあ次に僕たちがやるべきことは沢野嶺って人を調べることだね。家とかわかれば行ってみるのもありかもしれない。もちろん迷惑をかけないようにそっとね」


 うん? っと首を傾けるメー子に苦笑しながら僕は言葉を続ける。


「家だけでなくて別の土地に行くことで何かしら手掛かりになるかもしれないし。現に今のメー子を見てて進展があったように感じるしね」


「うんうん、たしかに! それにさ、別の土地に行くってことは遠出するってことだよね! よ~しっ、それじゃあ早速探そうよ!」


 くるっと一回転したメー子が僕の腕を引っ張る。


 テンションの高いメー子にぐいぐいと引っ張られる僕は検索ワードを考えながら連れて行かれるのである。

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