見慣れた屋上にも歴史あり
「うおっビックリしたぁ」
ワンテンポ遅れ僕を見たおじさんも驚きの声をあげて胸を押さえる。
「心臓が止まるかと思ったわ」
「ご、ごめんなさい」
胸を押さえたまま驚いたアピールをするおじさんだったが僕の顔を見て何かに気がついたような表情をする。
「兄さんあれか、この前カップラーメンこぼした人だろ」
「あ、あぁはいそうです」
おじさんに言われて僕も目の前にいるおじさんが、メー子と出会った日にこぼしてしまったカップラーメンの掃除を手伝ってくれた清掃のおじさんだと思い出す。
「この前はありがとうございました」
「いやいや、それが仕事だからいいさ。それに汚したままにしていく人が多いのにキチンと掃除をしてくれたから立派なもんだよ。それよりもこんな時間にここで何をしてるのかね?」
「え、なんて言うか仕事でつまずいちゃって気分転換っていうか……そんな感じです」
同居人が幽霊になった理由を探していますなんて言えるわけもないのでそれっぽいことを言ってその場を繕う。
おじさんは僕のことをまじまじと見たあと柵の向こうに目をやる。
「若いときはうまくいかずに悩むときもあるからね。まあ私も仕事で躓いてこの仕事をしてるんだがね」
ふっと笑ったおじさんは遠い目をしてどこか見つめている。
「でも掃除して、花お世話もしているからこうして屋上は綺麗でみんなの憩いの場になっているんだと思います。僕みたいに仕事から離れて黄昏たりもできるわけですし」
遠くを見ていたおじさんは驚いた顔をしてすぐに笑みを浮かべる。
「そんな風に言ってもらえると嬉しいねぇ。20年以上ここを整備してきた甲斐があるってもんだ」
「20年!? そんなに長くここを……」
最初は20年という月日に驚いただけだが、言葉を口にしてる間にもしかしたらここで起きた事件なんかも知っているかもしれないと思い付く。
「20年前って言ったら僕はまだここに入社してませんけど、僕が来た10年前くらいって小さな花壇とかありましたけどその頃から手入れされていたんですね」
「おぉ~10年前か。あのときは大規模な改修前で屋上が一番寂しい時期だったな」
しみじみと昔のことを思い出すようにおじさんは言葉を口にする。
「僕が来たときが一番寂しい時期だったってことはその前はもっと華やかだったってことですか?」
「あぁそうだね。もっとも花畑じゃなく野菜畑で、ビルのオーナーの関係者や私らみたいなスタッフしか入れなかったがね」
「野菜畑?」
「ああそうさ。屋上菜園ってやつで四季折々色んな野菜を作っててね。結構本格的であぁ……そうそうちょうどこの辺に小さな道具小屋があって、それであっちに収穫した野菜を天日干したり加工して保管する納屋なんかもあってね。あそこで作った漬物が美味しかったんだこれが」
おじさんが扉がある壁の横辺りを手を四角に動かし小屋があったことをアピールし、続いて屋上の端を指さす。
「それは本格的ですね」
「ああ結構オーナーが熱を入れてたんだけど、ある日なんか突然辞めると言い出してね。もうあっという間に小屋や畑やらも撤去されて、私なんてちょうど連休明けだったんで来たらもうな~んにもなくなっていたそりゃあ驚いたもんだよ」
ううんうんと何度か頷きながら話すおじさんが、ここのことにとても詳しいはずだと分かった僕は今知りたいことを遠回しに尋ねてみる。
「そんな突然仕事場が撤去されることってあるんですね。なんか理由があったんですか?」
「屋上を皆の憩いの場にしたいって突然言い出してね。なんでも、こんな素敵な場所を一人占めするのはよくないとかなんとか。よく分からんけど私らは従うしかないからね」
何かしら事件があって改装をした、って流れかとも考えたがおじさんの話し方からはそれは見えてこない。
ここまで話した僕はふとメー子の方を見ると、目があったメー子はわずかに首を傾けて見つめ返してくる。
どうやらおじさんの話の中に気になることはなかったようだ。
「おっと話し込んでしまった。もうそろそろ鍵を閉めなきゃいけないんでね」
「お仕事の邪魔をしてすいません」
「いやいやいいんだ。久々に昔のことを話せて楽しかったし。さて、点検しないといけないから仕事に戻るよ」
「いつも綺麗にしていただきありがとうございます。おかげで気持ちよく使わせてもらっています」
僕の言葉におじさんは軽く手を挙げてニコニコと笑顔を見せると屋上の点検のため歩いていく。
その背中を見送ってからドアの向こうへと移動した僕は、鉄の板一枚分移動しただけでガラリと変わった少し重くなった空気を少し吸って小さく吐く。
「色々話が聴けたのは収穫だったけどメー子は何か気になることはあった?」
ここまで黙って聞いていたメー子が唇に指を当てて首を捻る。
「う~ん、なんかこう……もやぁ~ってした感じはないことはないけど正直よく分かんない」
「そうか。でももやぁ~ってことは何かしら気になるってことだよね」
「うん」
メー子がコクっと頷く。
「それじゃあこのビルの歴史みたいなのを調べてみようか。そのもやぁ~がくっきりすればいいわけだし」
「うん!」
今度は元気よく頷いたメー子が僕の手を取る。
「それじゃあラーメンの材料買いに行こう。お腹すいた!」
握った僕の手を腕ごとぶんぶん振るメー子に苦笑しながら僕は階段を降りて行く。




