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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
きみが幽霊となった過去を知り幽霊として生きる未来を歩む

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越えられない柵

 昼休みに屋上に上がってみたが人気のスポットなこともあって人が多く、思ったように調べられなかった僕たちは仕事が終わったあと再び訪れることにした。


 昼とは打って変わって人の気配はなく屋上は閑散としていた。


「この時期19時には閉まるらしいから気を付けよう」


 僕はスマホの画面に映った時間を見て18時50分にアラームが鳴るように操作する。


『45分後にアラームが鳴ります』の知らせを見て調べられる時間を確認する。歩きながら話していた僕らはまずはお互いが出会った柵の前に立つ。


 見た目はなんの変哲もない柵だが何か手掛かりはないかとじっくりと見てみる。


 割と太い支柱に張られた金網の柵はおおよそ2メートルないくらいで上には返しがあり上って反対側に行くことを拒んでいる。


 誤って落ちたりしないのはもちろん、自ら下へと落ちようだなんてさせない。そんな強い意志を感じる柵だ。

 他に気になることといえば真新しいところだが、これは大体2年前に張り替え工事があったからであることは把握している。


 そのときに屋上を憩いの場にといって今のように屋上庭園が作られベンチなどが設置されたのだ。ちなみに僕が就職したときの屋上は緑色の金網でできた柵と小さな花壇があったのを覚えている。


 なんで知っているかといえば失敗したときや凹んだとき、仕事を辞めたいなぁって思ったときなんかに人のいない屋上に行って黄昏(たそがれ)ていたからだ。


 当時を思い出しながら先ほどから黙って柵をじっと見ているメー子に目をやる。調べる対象である柵から数歩下がった場所に立っているメー子の表情は硬い。


 メー子の視線を辿って見てみると、柵の隙間から見える金網の線に切り取られた隣のビルが見える。


「私ちょっと前まであっち側にいたんだよね……」


 メー子がじっと柵の向こうを見つめたまま呟くと僕の方に目を向け眉尻を下げて力なく笑う。


「えっとね……」


「柵の向こうに行くと危ないからやめようよ。落ちたら大変だ」


 メー子が言い終わる前に僕が喋ると驚いた表情をしたメー子だったがすぐにふっと笑う。


「私幽霊だから落ちないよ。でも……ありがと」


 僕はメー子のお礼の言葉に微笑んで応えると柵に近づき金網に手をかけしゃがむ。


 初めて出会ったときメー子はこの柵の向こうにいた。いや、正しくは僕がメー子を初めて認識した日。メー子は僕のことを前々から知っていたのだからそっちの方が正しい。


 そんなことを考えながらメー子が前に立っていた場所を観察する。特に何の変哲もないコンクリートの淵がある。


 今日まで何度かこのビルで起きた事件などを調べてみたが、メー子に関りがありそうなものはなかった。念のため目の前にあるビルを中心とした建物、下を通ってい道路などで起きた事件事故なども調べたがメー子に繋がりそうなものはなかった。


 しゃがんだまま僕は後ろを振り返る。僕のことを不安気な表情で見守るメー子とその背後にある下へと降りる階段に繋がるドアが見える。


 屋上の端の方ある出入口から出るとすぐにメー子がいた柵がある。


 「もっと向こうも見て見る? 何か分かるかもしれないし」


 未だ柵に近づけずに硬い表情のメー子に声をかけると僕の方を見てゆっくりと首を横に振る。


 「あんまり時間もないし今日は帰ってラーメンでも食べようか」


 どこか顔色の悪いメー子に提案した僕は立ち上がると、下へ降りるため出入口のドアノブに手をかける。


 よくよく考えれば自分のことが知りたいとはいえ、長い間自分を捕らえていた柵の向こうに近づくことが怖いのは当然のことだろう。


 そもそも僕と出会い解放されたことに関しても何の条件で解放されたのか明らかになっていないし、近づいたことで再び囚われる可能性もあるわけだ。


 もう少し慎重にメー子のことを考えるべきだったと、自分の至らなさを痛感しながら、ノブに力を入れてひねる。


 だが力を入れたつもりがカクンと抜けるような感覚がありドアが開き始める。


 「うわっ」


 驚いて思わず声をあげてしまった僕の目の前には作業着姿のおじさんが立っていた。

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