顔を知れたことよりもあなたの感想が聞けたことが嬉しい
箱の裏に書いてある説明を読みながら細切りにしたピーマンと肉をフライパンに入れてアルミのパウチに入っているタレを絡めていく。
味付けに自信がなくとも、そもそも調味料を持っていなくてもプロ並みの味になる市販のタレシリーズは僕のような料理初心者には助かる。
おかげで僕が担当する青椒肉絲は無事に完成しそうだ。
「おいしそうなにおいがする~」
香ばしい匂いに誘われたメー子が、ボウルを抱えたまま体を傾けて僕に寄りかかってくる。
メー子がすんすんと小さな鼻を動かしてフライパンを覗き込む。
「おいしそう」
そう言って唇を舐めると僕を見つめてくる。
「ねえ、そういえばなんで青椒肉絲っていうか知ってる?」
「えー、いや、知らないなぁ。なんで?」
「ふふ~ん、正解は私も知りません」
「なんだよそれ」
文句を言いながら僕が体でメー子を軽く押すと、メー子も押し返してきて対抗してくる。
出会って数か月ともなればそれなりに息を合わせることもできて、足同士を触れたまま互いが別の作業をこなして料理をすることが可能となっていた。
じゃれ合いながらも青椒肉絲を完成させ、メー子もボウルに入っていた材料を混ぜ終え僕と一緒に移動してレンジにセットする。
「レンチンでできる中華風卵スープ……さてさてうまくいくでしょうか」
メー子がレンジの窓を覗き体をぴょこぴょこ揺らしている。
それを後ろで見守りつつ僕はフライパンの青椒肉絲を皿に移していく。湯気が上がる皿を持って小さなテーブルに置いたちょうどそのとき、タブレットから通知音が鳴る。
仕事を含め日頃はスマホに通知がくるようになっているから、タブレットからの通知音は限られている。
僕はタブレットを手に取るとロックを解除しメールを開くと、新着のメールのタイトルを見つけて少し嬉しくなる。
「なんかあった?」
いつの間にか来ていたメー子が僕の背中越しに画面を覗いてくる。
「だいぶ前にお願いしてたメー子の似顔絵が完成したから、確認をお願いしますって」
専用のクリエイターを探すサイトで見つけた似顔絵を描いてくれる人が、サイト内にメールを送ったという通知をメー子に教える。
「ほんと! じゃあ早速確認してみて!」
メー子の顔を知るのは僕だけであり、途中経過を見ても判断できないこともありメー子は完成するまで楽しみするからと言って見ていない。なので完成と聞いてメー子は待ちきれない様子で体を揺らしている。
「ちょっと確認してみるから待ってて」
「うん」
元気よく返事をしたメー子に自然と微笑んでしまった僕は早速サイトを開いて完成品を確認する。
完成品のファイルを開くとメー子の特徴をとらえたそっくりな顔が現れる。まだサンプルの透かしが入っており、納品する品でないことが一目で分かるが、それよりも絵の完成度に思わず声が漏れてしまう。
「おぉ~すごい。やっぱり絵を描く人ってすごいね。特徴を伝えて何度か手直ししてもらったらそっくりなのが完成したよ」
「見せて! 見せて!」
「ちょっと待っててよ。まだサンプルだから、描いてくれた人に完成品の納品をお願いしますって連絡してからね」
ぴょんぴょんと跳ねて急かすメー子をもったいぶらせつつ、僕は相手にこの絵で納品手続きをお願いとお礼を兼ねた返事を送ると、支払いの手続きを終える。すぐに相手先が手続きをしてくれ、完成品のファイルが送られてくる。
「いいよ、メー子の顔はこんな感じ」
僕はファイルを開くとメー子の似顔絵が画面いっぱいに映される。
「ふえ~私ってこんな顔してるんだ。へぇ~、はぁ~」
メー子は感動というよりは、驚きというか戸惑いに似た反応を見せる。僕が想像していた反応と違うと思ったが、メー子の境遇を想像してみれば自分の顔を確かめる術がないのに「これがあなたの顔です」と言われても「そうですか」としか答えようがないなと納得する。
深刻な表情で自分の似顔絵を見つめるメー子を見て、なんと声をかけるべきか思考を巡らせる。
「ねえ、恵人はこの顔どう思う?」
「どう思うって、可愛いなって思うけど」
突然振り返って尋ねてこられ僕は思ったままを答えてしまう。そして自分が言ったことが頭の中で反響したとき、本人を前で言ってしまった事実に顔が熱くなってしまう。
対してメー子はニンマリと笑うと自分の似顔絵を見て口元を押さえてニヤニヤが押さえられないといった様子で体を震わせる。
「そっか、可愛いかぁ~。うん、恵人がそう言ってくれるならいいや」
嬉しさが満ちに満ちた、満面の笑みを僕に向けたメー子はタブレットの画面を指さす。
「この絵を印刷して壁に貼ってほしいな」
「えっと……なんで?」
「私鏡で自分の顔を見れないから、鏡の代わり。この絵を見て顔を整えるの」
メー子の答えに「なんで?」なんて聞いてしまったことを後悔してしまう。鏡を見ることはもちろん、一人じゃタブレットは扱えないから自分の顔を確認する方法はこの絵を貼るしかない。自分の考えの浅はかさを反省する。
「恵人に可愛いって言われたいから、この顔を意識しないと」
恥ずかしそうに、だけどハッキリと言うメー子を直視できない僕が熱くなった自分の頬を押さえる。
そんなときタブレットから通知が鳴る。
こんなときなんて言えばいいか思いつかない僕はタイミングよく鳴ったタブレットに感謝しつつメールを開くと、絵を描いてくれた人からのお礼の言葉と、一言お願いが描いてあった。
「あのさ、この絵を業務実績としてサイトに載せてもいいですか? ってきてるけどどうする?」
「業務実績?」
「えーっとね、この絵を描いてくれた人が、今後活動するときこんな絵が描けますよーって宣伝するのに使うってこと。メー子の絵を見てこん絵を描いて欲しいってお願いする人がいるかもしれないからね。色んな人が見る可能性があるからメー子が嫌なら断るから」
「ふ~ん」
メー子は自分の似顔絵を見てすぐに僕の方を向く。
「いいよ、恵人が可愛いって言ってくれた顔みんなに見てほしいし」
「ぐっ……ま、まあ。うん、相手には使ってもいいって返事をしておくから」
やっぱりこんなとき何と言えば良いか分からない僕は、少し照れ気味なメー子と顔を合わせるのが恥ずかしく、相手に使用許可のメッセージを送る。




