画伯が二人
「鏡で見れないなら絵を描けばいい!」
これでもかとドヤ顔で僕を見たメー子は大きく一歩踏み込んで僕の手を取る。
「ってことでお願い」
「いやお願いって、まさか僕に絵を描けとか言わないよね」
「ううん、言うよ」
完全否定してくるメー子に対して僕は大きくため息をつく。
「いい? よく聞いてくれるかな。僕は絵がものすごーくっ! 下手なんだ」
わざとらしく強調して言う僕だが、メー子はふーんといった感じであまり伝わってなさそうである。
それどころか握った僕の手を横に振って期待に満ちた目で見てくる。
「ねえねえ、描いて」
「話聞いてた? 僕は絵が下手だって」
「そんなこと言ったって私を見て描けるのは恵人だけだよ。それに下手って言っても特徴とかとらえられたらそれだけでも嬉しいから」
「なるほど……たしかにそれくらいならできそうな気がする」
メー子の言うことに一理あると納得した僕は早速、紙を描くものを探す。かなり昔に買ったルーズリーフとボールペンを見つけてきた僕は正座をして、同じく正座をするメー子と向き合う。
メー子の場合正座しているけどほんの僅か浮いていて視線が僕と近いのは幽霊ならではということだろう。
「もっと近い方がいい?」
「いや、あんまり近いと全体を把握できないから」
「全体じゃなくて顔が知りたいんだけど。あっ! もしかして恵人って……」
ニシシと歯を見せ笑ったメー子が僕に近づいてくると鼻と鼻が触れそうなほど顔を寄せる。
「女の子の体が気になる、そういうお年頃?」
「はいはい、そういうお年頃っていうほど若くもないからね」
ニヤニヤしながら肩で僕を押すメー子を押して引き離した僕は、冷静を装っているが内心はかなりドキドキしていたりする。引っ付かないと物に触れず食べれない特性上距離が近いのにはだいぶ慣れてきたと自負できるが、積極的に近づかれることには慣れない。
どう反応していいのか分からないのは僕の経験不足によるものだと、こちらも自負できる。
引き離してその場に留まるように念を押した僕は、ボールペンを持って真剣にメー子を見つめる。
「へへへ、そんなに見つめられるとなんか照れる」
ほにゃっと表情を緩めて笑みをこぼすメー子にドキドキしながら僕は筆を進める。
「うっ……」
「え~っ、うっって何? 完成したときに出す声じゃない気がするんだけど」
ぼくなりに頑張って描いた絵を見て思わず出てしまった声にメー子が鋭く反応する。
「見せて!」
「い、いやまだ完成してないから」
見せないため抵抗しようとルーズリーフを掲げるが相手は幽霊である。こんなとき障害物を全てすり抜けて最短距離で僕の背後に回ると、僕にしがみつきルーズリーフを掴む。
「えぇ~恵人には私ってこんな風に見えてるんだぁ」
不服そうなメー子の視線の先には射撃とかに使う人型のターゲットみたいな輪郭に、惜しかった福笑いみたいな配置で並ぶ目や口と鼻が描かれた絵があった。
「ふ~ん、私、右目の下にぼくろがあるの?」
唯一特徴を捉えやすく、描きやすかった右目下の泣きぼくろに反応してもらえてホッと胸をなでおろす。
自分の右目の下に触れながら泣きぼくろを探していたメー子が再び僕の描いた絵に目を向ける。
「私の髪……こんな感じ?」
「あ、いや……ごめん。全然うまく描けなくて」
線があちらこちらに跳ねてボサボサに描かれた髪の毛を見てメー子は自分の髪を引っ張って確認している。
「一瞬描けそうとか思ったけど、やっぱダメだった。ごめん」
謝る僕を見てメー子はふっと笑う。
「恵人は私のことどう思う?」
「えっ⁉ どうって」
思いもよらぬ質問にどう答えていいのか分からずプチパニックになる僕をメー子がチラチラ見ながらはにかむ。
「だからそのほら、さっき可愛いって言ってくれたけど、ホントに可愛いって思っているのかなって」
「あ、ああなるほど」
早とちりをした僕は熱くなった顔を手で仰いで冷ましながらメー子の顔をじっと見る。
「うん、可愛いよ」
必死に恥ずかしさをこらえた素直な感想を述べた僕の顔が赤いことは、耳と頬から伝わってくる熱で分かる。
「そっか……」
恥ずかしそうに笑ったメー子は顔を逸らし下を向く。
「恵人がそう思うんだったらいいかな」
小さくだがハッキリ聞こえた呟きに自分の体が熱くなるのを感じてしまう。こんなとき何って言っていいのか分からずドギマギする僕に近づいて来たメー子がルーズリーフを見ると僕の隣に座る。
ピタッとくっついたメー子がボールペンを手に取ると、僕をチラチラ見ながらルーズリーフに描かれた自分の似顔絵の横に何やら描き始める。
「完成~!」
数分ほどで描き上げ自信満々に僕に見せてきたそれは僕と大して変わらない人型に顔が描かれたもの。
「これ……もしかして僕?」
「そっ、特徴捉えてると思わない?」
「いやいや、僕と画力変わんないじゃん」
「そうかな? 私の方が上手くないかな?」
ルーズリーフに描かれた絵と僕を交互に見てメー子は可笑しそうに笑う。つられて僕も笑ってしまう。
ひとしきり笑った僕たちは目を合わせてふっと笑い合う。
「これは記念に額縁でも入れて飾っておいてよ」
「これを飾るの? う~んまあ、いいか」
殺風景な部屋に飾るにしても普通この絵は選ばないだろうが、僕たちが描いた絵ってことで飾っておこうかと考える。
「う~ん、この感じだと私の顔が分かるのは当分先になりそう。今から練習して2、3年でいけないかな?」
「えぇ~僕が練習して描くってこと? 3年でいけるかな?」
「だって恵人しか見えないんだから。恵人が練習するしかないと思う」
メー子が断言し、僕もそうなのかと思って絵を練習する方法を考え始めるがふっと頭に別の方法が思い浮かんでくる。
「あっそうだ! 似顔絵だけどもしかしたらどうにかできるかも」
「ホントに⁉」
「今の時代、似顔絵を描いてくれるサービスは沢山あるから証言だけで顔を描くなんてこともやってくれるかも。早速探してみよう」
「うん、探してみる!」
お互いの画力の無さを披露するという遠回りを得て、僕たちは写真無しで似顔絵を描いてくれる人を探して色々なサイトを駆け巡るのである。




