節約レシピは簡単で美味しい
スーパーの陳列の知識に乏しい僕らは目的の物を探すのに四苦八苦する。
さらに節約するため食材を買うのはいいのだが、家に何があって今買うべきなのかそうでないのかで悩んでしまう。特に調味料に関しては全く把握していなくて、なんとなくあったような、なかったようなと、あっても賞味期限が切れていないか分からず頭を悩ませることになる。
「節約って難しいもんだね」
「もっと簡単にできると思った。奥が深い」
二人で節約の奥深さを感じつつ、当初の予定である一週間分の買い物をするところを、3日分しか買うことができずに帰ることになる。
「初めから成功はない。次に生かせばいい!」
自転車を漕ぐ僕の後ろで幽霊とは思えない、なんとも前向きな言葉をメー子が発する。
メー子の言葉を背にして自転車を漕いでアパートに着いた僕たちは冷蔵庫に食材を入れていく。
冷蔵庫を購入して初めて室内がぎゅーぎゅーになっているのを見て感動を覚えてしまう。
特に野菜室に緑の葉っぱがあるのは革命的ですらある。
「なんかできる人の冷蔵庫って感じ」
どうやら僕と同じようなことを感じていたっぽいメー子が腕を組んで満足そうに頷いている。
「本日のメニューは豚肉とキャベツの焼きうどん!」
僕に引っ付いたメー子がうどんの麺の入った袋と一玉のキャベツにトレーに入った豚バラ肉のトレーを順に手に取り台所に並べていく。
「キャベツはむいて、豚バラは半分使って残りは冷凍して次回に繋げる」
「おぉなんかすごいね。とても料理初心者とは思えないセリフ」
「ふっふっふ、もっと褒めても良いんだよ」
腕を組んで得意気に胸を張るメー子に拍手をすると今にもひっくり返りそうなくらいに胸を張る。一通り誇らしげにして満足したのかメー子がレシピの画面が開かれたタブレットを置く。
「早速始める。恵人はキャベツを、私が豚バラを切る。あとはレシピに従って作業分担」
「了解」
メー子の指示に従い僕はキャベツの皮をむいて不器用に折りたたんで力を入れて包丁で切っていく。ざく切りってどうすればざく切りなるんだと思いながらメー子の方を見る。
まな板と包丁が一つづつしかないのと、引っ付いて包丁を扱うのは難しそうだったのでこの度購入したキッチンバサミを使用して豚バラ肉を切っている。
僕に背中をつけて寄りかかったまま鼻歌を歌いながらごきげんな様子を横目に、切ったキャベツをざるに入れて軽く洗水を切ってからフライパンを取りに行く。
「あっ」
メー子の驚きの声と共に床にキッチンバサミと豚バラが落ちてしまう。
「ごめん!」
唖然とするメー子に謝りながら僕は落ちた豚バラとキッチンバサミを慌てて拾う。埃を払いながら皿に置くとメー子の顔を見て驚いてしまう。
目に涙をためて体を震わせている姿に思わず僕はメー子の手を取る。驚いたのかビクッとしたメー子が僕の方を見ると唇を震わせて、今にも泣きそうな表情になるのでどうしていいのか分からないが手を強く握る。
「ごめん、僕が勝手に離れたから落ちてしまったね」
メー子は悲しそうな顔のまま首を横に振る。落としたことが相当ショックだったのだろうと考えた僕は、自分の考えられる限りのフォローを入れる。
「落ちても焼けば大丈夫だよ。僕が食べるから別に焼くね」
「ううん、私食べられるから……食べないと……」
「メー子?」
悲しいというよりは必死、なんだか虚ろな感じに見えた僕が名前を呼ぶとメー子がハッとした顔に戻り僕を見る。
「う、あっと大丈夫。ボーっとしてた。お肉落としたちゃったけど私が食べるから」
「いや、それなら混ぜちゃおうか。二人とも平気みたいだし」
僕はそう言って豚バラをキッチンペーパーで軽く拭くとわざとらしく混ぜる。それを見てふっと笑ったメー子は僕に引っ付くのでつられて僕も笑顔になる。
「今度から移動するときは声をかけるよ」
「うん、私も声をかける」
笑い合った僕らは野菜と肉を炒め、さらにうどんをフライパンに投入してほぐして混ぜ合わせると、めんつゆとコショウで味付けをして皿に盛る。
「仕上げにおかか!」
メー子が仕上げに皿に盛られた焼きうどんにおかかを振りかける。テーブルに並べた焼うどんからほんのり立ち昇る湯気と、それに合わせて踊るおかかを見て目を合わせた僕らは両手でハイタッチをする。
「早く食べよ!」
待ちきれないといった様子でソワソワするメー子が僕を期待の目で見てくる。
「それじゃあ食べようか」
僕が座るとメー子が飛び込んできて膝の上に座る。素早く箸を持つとあっという間に焼きうどんを口へといざなう。
「おいしぃ⁉ 恵人食べてみて!」
「そんなに?」
味付けを主に担当した身としては半信半疑だが口へ入れたとたん評価は一転する。
「本当だ。おいしい……」
「でしょでしょ」
僕の言葉に嬉しそうに返事をすると自分の焼うどんを食べて両頬を押さえて体をくねらせる。満面の笑みにほんのり赤くなった頬のメー子に見上げ見つめられ一瞬ドキッとしてしまう。それと同時に、先ほど落ち込んでいたときの暗い雰囲気は感じられなくなったことに安堵する。
「ねえねえ、これでお店出せない?」
「ん? お店?」
考えごとをしていた僕は返事が遅れてしまうと、ほんの少し頬を膨らませたメー子が僕に近づき圧をかけてくる。
「そう、焼きうどん屋さんやるの」
「焼きうどん専門店ってこと? う~ん、流行るのかな? それに出すなら節約レシピじゃダメじゃないかな」
「うぅ……こんなにおいしいのに」
「まあまあ、確かにおいしいけどお店を出すならもっと修行しないとお客様は満足させれないと思うよ。明日も頑張らないと」
「なるほど今の私たちじゃ修行不足か。頑張るっ」
悔しがるメー子に笑顔で応えた僕は再び焼きうどんに口をつける。
確かにおいしいがそれは料理初心者の僕たちが初めて作ったにしてはってことで、お店に出すレベルではない。それは分かっているが、おいしそうに食べているメー子に水を差すようなことを言うのは野暮でしかない。
焼きうどんを食べ終えた僕らはごちそうさまをして、皿や調理器具を洗い明日の朝ごはんの支度を簡単に済ませる。
「料理は仕込みが肝心」
ドヤ顔で言うメー子に拍手をすると、ふふんとご満悦な様子で胸を張って鼻を高くする。笑う僕を見てメー子も笑顔を見せる。
「さてと、そろそろお風呂入って寝ようかな」
「メー子は何見る?」
「遺産散財~この世は地獄編~の続きを見るっ」
「何そのやばそうなの?」
「これがなかなか面白い。莫大な遺産を相続した主人公に近づく者との駆け引きがたまんない。次でヒロインっぽいヤツの本性が見れるはず。多分あれは主人公を騙している」
「そ、それは面白そうだけど……うん、じゃあ設定しておくから大人しく見てて」
「うん」
熱く語り始めたメー子の話に興味があるが、質問をするとお風呂に入るタイミングを見失いそうなので我慢しつつタブレットで設定を終えると風呂へと向かう。
(ドラマやアニメ見せてると大人しいけど、教育上どうんなんだろ? あ、いや幽霊だから関係ないのかな。いやでも変な影響を受けそうだし)
メー子の情操教育を心配しながら僕はぼんやりと湯舟につかるのだった。




