自炊するしかないか
「お金がありません」
「なんだってぇ!」
一人用のソファーに座る僕の発言に、僕の膝の上に座って驚くメー子。けっして広い部屋ではないがソファー分しか空間を使用していないのは勿体ない気がする。
「正確にはないわけじゃないけど、このままいくと絶対にお金に困るのは間違いない。そこで支出の見直しが必要となるわけだけど、目下すぐに削れるのはサブスクに支払っている料金と……」
「まって。サブスクを解約したらアニメとドラマが見れなくなるんじゃないの?」
「今解約したら今月末までは有効だけど、来月から見れなくなるね」
「だめ! まだ見てる途中のアニメとドラマがたくさんある。それに来月からみんなが注目していた漫画が待望のアニメ化するからそれは却下」
両手をクロスさせて全力で却下するメー子はここ数週間でアニメとドラマのオタクとなっていた。仕事中の暇つぶしにとタブレットでアニメを見せたらドハマりしてこの状態である。
「じゃあ他に削れるところってあるかな? 通勤は自転車になってから定期も更新しなくてよくなったし」
僕の質問に腕を組んで考えるメー子は指をパチンと鳴らす。いいことを思いついた! と顔に書いてあるが、逆にそれが不安にさせ僕の表情は暗くなる。
「動画で見た。まずは保険の見直し。車を持ってて使用頻度が低いならカーシェアを検討!」
動画で得た知識をドヤ顔で披露するメー子だが、初めて出会ったころから考えたらなんとも現在に馴染んでしまったものだと成長を喜ぶべきなのだろうか。
「保険は最低限しか入ってないし、車は持ってないから」
「えーじゃあ分かんない」
お手上げだと両手を挙げるメー子だが、僕は一つ気づいていることがある。メー子は確実にある話題を避けている。
「あのさ、手っ取り早く削れる場所があって……」
「ううん、ないよ。お仕事がんばろう」
「いや、あるんだすごく手っ取り早く、なんなら今お金が減っている元凶となるものがあるんだけど」
顔を逸らしたメー子がわざとらしく口笛を吹き始める。無駄に上手なのが気になるところだがそれよりもメー子が触れたがらない議題に僕は切り込む。
「食費がバカ高いんだけど。ここを節約することが我が家の家計を立て直すことになると思うんだけどどうでしょうか?」
「食費に手を付けるの反対! 人間の基本は衣食住! 私は衣と住にお金をかけれないんだから食にお金をかけるのは問題ない!」
メー子が体ごと横に振って全力で否定する。
「そうは言うけど見直さないといずれ給料日まで絶食なんて日が出てくるかもよ」
「ぜっ絶食⁉」
頭を抱えて悶えたメー子が僕の腕を掴み涙目で見てくる。
「絶食はやだ……何か方法はない?」
目からあふれだした涙に、メー子が本当に嫌がっていることが伝わってくる。本当に絶食させる気はなく大変だってことを誇張して伝えようとしたのだが、本気で嫌がる顔を見ると申し訳ない気持ちになってしまう。
「ちゃんと節約すれば絶食する日はないから大丈夫。食費に使う支出を見直すってことは使わないんじゃなくて、本当に必要なものを選んでときには料理する。簡単に言うと自炊の割合を増やそうってこと」
「自炊? 料理するってこと?」
「まあそういうことだね。問題は僕が料理が得意でないってことなんだよね」
「料理かぁ……」
腕を組んで何やら考え始めたメー子だがすぐに指をパチンと鳴らす。
「私もやる! 二人でやれば一気に二つ作れる」
「なるほど、確かに分担すれば時短にもなる。ところでメー子は料理できる?」
「ううん! できない!」
にははと笑うメー子に僕はガクッと肩を落とす。
「初心者が二人か……まあ簡単なものから作って慣れていけばいいか。じゃあ早速だけど今日から数日分のご飯を考えようと思うんだけど」
「はいはーい! 私考える! 恵人が仕事してる間に私が考える」
手を大きく挙げてぴょんぴょんテンション高く跳ねるメー子に苦笑しつつも、節約の方向に賛同してくれて良かったと安堵する。
正直自炊には不安があるが、二人でやればどうにかなるだろうと前向きに考えて仕事へ行く支度をする。
僕が仕事をしている間メー子はタブレットを忙しく動かしたり傾けたりしながら必死に献立を考えているようだ。
お昼前に僕のスマホに通知が届く。それがタブレットからの通知であることに気づいた僕がメー子を見るとニシシと笑う。
「そのアプリダウンロードしてこっちと同期して」
「献立アプリ? これをダウンロードすればいいんだ」
言われる通りにダウンロードするとログイン画面に移行する。
「えっと、メールアドレスは恵人のなんだけど……ちょっと貸して」
伸ばしてきたメー子の手にスマホを置くと受け取るなり素早くタッチペンでタップする。
「はい、これでタブレットと同期できたから、恵人も献立を思いついたら書き込める」
メー子から返ってきたスマホには一週間分の表に献立が書かれた画面があった。
「作る日をタップしたら必要な材料と作り方のサイトに飛べる。一週間分の材料をまとめたのはこっちから確認出来て、購入金額も入れていけば今後は予算からも献立を考えてくれるようになるから」
「えっと……これメー子が考えたの?」
「ううん、チョッピーに聞いた。なんでも教えてくれるから助かる」
「チョッピー? あぁAIの」
「うん、それ。チョリソーって名前つけた」
なんだかソーセージみたいな名前を付けられたなと思いながら、メー子提案の献立をタップして見てみる。
「うわぁすごい。カロリー計算までしてくれるんだ。あぁなるほど、もし予定が変わったらここから変更、冷蔵庫にあるものからも献立を考えてくれるんだ」
僕が感心しているとメー子が僕とスマホの間に割り込んでくる。顔が近いのであわてて顔を上げると、口こそぐっと閉じているが笑みがあふれそうなのを我慢しているメー子の顔があった。
「ねえ、すごい?」
「うん、すごいよ」
ぱあっと表情が明るくなり輝くメー子だが、開いた口をぐっと閉じて輝くのを止めると僕にぐっと近づいてくる。
「私役に立つ?」
「役に立ってるよ」
両手をググっと握り笑みをこらえるメー子がさらに近づいてくるので僕は椅子の背もたれに寄りかかって体を逸らす。
「じゃあじゃあ、私が必要?」
「え、あ、うん」
曖昧ながらも答えると「よしっ」っと両手を強く握ってガッツポーズしたメー子がくるっと一回転する。
「大食いのただ飯喰らいって思われるわけにはいかないもん」
本人は独り言のつもりだったのかは分からないけど聞こえてしまった僕は、メー子の心情がなんとなく分かってしまう。
「最初とは同じ人と思えないくらいタブレットも扱えるようになってるし、AIを使う幽霊なんてメー子くらじゃないかな。この献立も見やすいしよく考えられているよ。本当にすごいよ」
これはお世辞でもなく本音の誉め言葉。それを聞いた瞬間メー子が全身を逆立て震え出すと僕に飛び込んで腕にしがみつき、体を振るので自然と僕の腕も振られる。
「ほんと? ほんとにすごい? ねぇすごい?」
「うん、うん。本当にすごいよ」
ぴやーっと声にならない声をあげ、今までに見せたことのない笑顔のメー子が僕の首に抱きついてくる。
「買い物でも実力を見せる! 覚悟してて」
テンションの高いメー子がぎゅーっと僕に抱きついてくる。恥ずかしいのと苦しいのが入り混じった感じから離れたい気持ちが生まれるが、喜びに満ちあふれているメー子の姿に嬉しくなってしまった僕はしばらくそのままなされるがままになることを選ぶ。




