ご本人にしか分からないってやつ
メー子に引っ張られリビングに連れて行かれた僕はテレビの前に立たされる。メー子が暇をつぶせるようにとつけていたはずのテレビは消え、今は真っ暗な画面を映していた。
「写真に心霊が映ってた。よく見ようと思って近づいたらいきなりテレビが消えた」
「心霊写真?」
たしか可愛い動物の映像スペシャルみたいなのをつけていたはずだけどと思いながら、テレビのスイッチを入れると『前回省エネモードで電源を自動でOFFにしました』と画面の上に文字が出てきた。
「なるほど、幽霊じゃ人感センサーが感知しないから消えたわけか。そして心霊写真は……」
僕はテレビの電源を入れてすぐにテレビが消えた原因と心霊写真の正体を突き止める。
お風呂に入る前は可愛い動物たちの映像だったが今は超常現象特集に変わっていた。
画面の向こうでは心霊やUFOなど不思議な目撃談を専門家たちが熱く語っている。それを僕の背中に張り付き嫌そうな顔で見る、身近な超常現象がいる。
「そんなに嫌なら見なければいいのに」
「ううん、これを見れば幽霊のことが分かるかもしれない」
「あ、あぁなるほど……」
僕の後ろに隠れながらも心霊の話を聞いて見ようとするメー子が自分のことを知ろうとしているのだと理解する。自分が何者か分からないのだからその不安は相当なはずだ。日頃の行動から忘れがちだがメー子だって色んな気持ちを抱えているのだと思うと、自分の無神経さを反省する。
「もしかしたら人の夢に出たり、ポルターガイストの起こし方とか分かるかもしれない。できるようになったら恵人で試す」
「やめてくれるかな。そもそもテレビで幽霊に有益な情報が得られるとは思えないんだけど」
「それは分からない。ヒントはどこに転がっているか謎、求めなければ得られない」
自分の無神経さを反省した矢先、メー子の発言に自分のした反省が無意味であったことを悟り落胆する。
ジト目で見る僕に対してメー子は瞳をキラキラとさせドヤ顔で何か名言っぽいことを言うので、これ以上言い返すのはやめておこうと言葉を飲み込む。
「それでなにか有益な情報は得られそう?」
「慌てるのよくない。一緒にじっくり見て」
メー子に押されてソファーに座らされた僕の膝の上に座ると身を縮めて寄り添いテレビの画面を凝視する。怖いけど見たい、そんな感じなのだろうが彼女自身が幽霊なんだけどなんて野暮なツッコみはしない方がいいのだろう。
女の子が膝の上に座り、体を寄せてくるシチュエーションにドギマギしながらテレビに意識を集中する。
『きっとこの世に未練があるのでしょう。ほら見てください、ここが赤く光っていますよね。これは怒りを表していて霊が近づくなと警告を発しているのです━━』
恐怖映像驚異の20連発‼ みたいな世界の心霊映像が流され専門家が解説をするコーナが流れる。
「あのさ、写真撮ったらどうなるんだろ?」
「写真? 私を?」
ふと気になったことを口にするとメー子は自分を指さし首をひねる。
「どうなるんだろ? ねえ、撮って」
「分かった、スマホで撮ってみるからその辺りに立ってみて」
僕はスマホを構えると笑顔のメー子が両手でピースをして構える。写真に写りにいく幽霊とはなんだかおもしろいなんてことを思いながら僕がシャッターを切る。
「う~ん、写ってないなぁ……」
「えー、撮り方が悪いんじゃないの。それか携帯の性能が悪い」
不服全開といった感じでメー子がスマホの画面を頬を膨らませ睨む。
「そんなこと言われてもなぁ……」
「もっかい! 今度は真剣にやってみる!」
僕の肩をポンと叩いたメー子が先ほどの場所へと移動すると真剣な表情で両手ピースをする。ピースはやめないんだと、眉間にしわを寄せスマホのレンズを睨む表情とのギャップに面白味を感じながらシャッターを切る。
「ん? これなんか白く写ってない?」
僕がスマホの画面を指さすとメー子が目を細くして見つめる。
画面の真ん中、実際にメー子が立っていた場所に白いモヤのようなものがうっすらと映っている。
「え~っ、これが私? やだなぁー」
いやいやと首を横に振ったメー子が飛び跳ねると再び撮影場所に立つ。
「もっかい! 今度は絶対に写って見せる! 本気!」
気合十分といった感じで両手のピースを目の横に添え、なんか目からビームでも出しそうなポーズをとるメー子を画面に収めた僕がシャッターを切ると、メー子がすぐに駆け寄ってくる。
「うわっ、モヤが凄い……」
メー子が立っていた場所には先ほどよりも濃い白いモヤがあり、目があるであろう位置に赤い光が二つあった。
「怒ってるの?」
「ううん、怒ってないよ」
二人で言葉を交わして再びスマホの画面を見るとそこには、やっぱり白いモヤと赤い二つの光がある。
「もしかしたら怒っているかは別として、真剣だと赤い光が写るのかもね」
「なるほどぉ~新たな真実」
二人して納得した僕たちはスマホの画面に光る赤い光を見つめる。
「気になっていたんだけど、きみって成仏したいとかそういのないの?」
「成仏? なんで?」
「なんでってほら、幽霊といえば成仏したくてさ迷っているとか、生きる者を仲間にするとか聞くし」
「それは偏見。成仏したい人もいれば今に満足している人もいるはず。そして私は満足している人」
メー子が自分の胸をドンと叩いて誇らしげに答える。少なくともメー子がいる時点で、成仏したいというのが全幽霊の願いではないことは確定したわけで僕は衝撃を受ける。
「えっとさ、じゃあなんで僕に憑りついているわけ?」
「憑りつく? むぅーっ」
てっきり偶然話せて触れられる僕に憑りついてしまったことで僕から離れられず今から抜け出す方法、つまり成仏の方法を探しているだろうと思っていた僕の質問にメー子がこれまでに見せたことのない不機嫌さを全開にしてくる。
「憑りついてない。願いが叶ったの!」
「願い?」
僕の質問に両頬を膨らませて怒っていたメー子がハッとした表情に変わり口を両手で押さえる。
「えっと……なにか隠してる?」
口を押えたままメー子が首を横にぶんぶんと振る。
「ちょっと気になっていたんだけど、きみさ僕のこと前から知っていた風な感じで言うことない?」
「き、気のせい! じ、自意識過剰!」
あからさまに慌てふためくメー子が後ずさりをするその様子には怪しさしかない。体を前のめりにしてメー子に近づき圧をかけると、その分後ろに下がってしまう。このまま押しても逃げられてしまうと判断した僕は話題を微妙に逸らすことにする。
「じゃあ、きみがビルの上にいたときの話が聞きたい。記憶があるところだけでいいから知りたいんだけど」
警戒していたメー子は一転、ニヤリと笑みを浮かべ僕を見てくる。なんというか……単純だ。
「ふ~ん、恵人は私のことが気になる」
「気になる……そうだね。今はこうして一緒にいるわけだから気になるのは間違いないね」
「ふふ~ん。そう、気になるわけだ」
さっき怒っていた人とは同一人物とは思えないほどニヤケたメー子が体を横に揺らしている。
「じゃあじゃあ教えてあげるから、恵人のことをもっと教えて」
「僕のこと? いいけど大した内容ないよ」
「いいよ。あっそうだ! もう一個条件!」
後ずさりをして離れた距離を一気に詰めてきたメー子が握った両手の拳を縦にふりながら僕に圧をかけてくる。
「条件? 何?」
「先に了承して」
「えー条件が分からないまま了承するの怖いんだけど」
「か、簡単なことだから大丈夫」
引き下がらないメー子に話が先に進まないし、おそらく大した条件ではないだろうと判断し僕は先に頷く。
「分かった。でもあまりに理不尽だと文句言うよ」
「大丈夫!」
握った両手の拳をぶんぶんと振りながらテンション高いメー子がふうーっと息を吐くと僕をじっと見つめてくる。
気のせいかほんのりと頬が赤い気がするメー子に見つめられ、僕は緊張から喉を鳴らしてしまう。




