32 刹那、耐え抜く時間
今回切るところ見つからずいつもよりちょっと多くなっちゃいました…
──ここは早朝までは冒勇隊や連我達の声で賑わっていた、半壊したホテル。
突如として現れたワープゲートに飲み込まれた連我達冒険者を追いかけ、冒勇隊の面々が慌ただしくその特定したアジトへ出発した後、早朝の活気は嘘のように静まり返っていた。
そんなホテルの1室の扉を小さな手がトントンと叩く。
続いて、ガチャリと扉が開かれる──その先に居たのは、目も虚ろ、髪もボサボサでやつれた状態でベッドから体だけ起こした状態で虚無を見つめる、言うなれば『廃人』の状態と化した弾だった。
「あの…大丈夫ですか……?」
望み薄に話しかけたのは、ユグ。
持ってきた荷物を置き、それが置いてあった謎のリモコンのようなものに当たって遠くのモニターが起動するのを見て、ああやっちゃったあとで消さなきゃと呟きつつ、何度も思い返したこうなった経緯をまた考える。
自分を守ってくれた自分にとっての英雄、木三。
そんな木三は自分がお父さんを救ってくれと頼んだせいで、もうこの世にはいない。
そしてもう一人──ユグはチラリと隣を見る。
強乃。
あの日弾と硬介が命がけで逃がしたはずの住民達や強乃に1体何があったのか、誰も分からない。
死んではないし、体力もいつも通り。
ただ、一向に目覚めないのだ。
今まで共に歩んできた仲間を同時に、最期すら看取れず何があったかも知らず、突然失った弾は今や何もできない状態だった。
ユグは木三のお礼を少しでも返すつもりで、そんな弾のお見舞いに毎日来ている。
「ぁ……………ぅ」
かすれた声で微かに何かを話しているが、ユグには分からない。
ただそれでも毎日来ては食べ物を渡したりしている。
「また明日も来るから、きっと連我さんも…今日はまだ見てないけど、多分来てくれるよ!」
そう言い、振り返って部屋を出ようと──したユグの目の前に真顔で見つめる恐ろしい顔があった。
「きゃあっ!」
驚き倒れたユグを見て、ハハハッと笑い覗き込んでいた体勢を直す。
「その壊れた人を必死に看病してるの?偉いのね、ほんと。
………馬鹿みたい。だからいつまでも進歩しないのね
私はタイム様直々の四天王の1角、焔。
あんたらを燃やして殺してやるように言われて来たのよ」
焔と名乗ったその女性が、そう言いながら右手を前に出す。
その手のひらの先に炎の小さな玉が生成され始める。
あつい。逃げなきゃ。
そう感じたユグは腰が抜けた状態でも必死に立ち上がろうとして、後ろにいる弾が目に入る。
ここで逃げたら、弾が死んじゃう。
木三の背中を思い出す。
あの時任せたから、木三は居なくなった。
もしついていっていたら状況はまた違ったかもしれない。
今度は側に居るんだ。
「この町の次期実権を握る者が命ずる!
大樹ユグドラシルよ、我とその仲間、その全てを包み込み守れる力を貸したまえ!」
目に涙を浮かべ、少し前に覚えた詠唱を唱える。
ユグは現在この町の町長である父親の娘であり、この町の次期管理者だ。
その声に呼応し、床から根が突き破ってその鋭い先端を焔に向ける。
「へえ、あなたそんなことできるの。
そう、ここは表記上村だけど発展具合は町、いや国ほどになっている。
その殆どがあの大樹のおかげとなれば、普通じゃありえない成長をしているということ。その根くらい何処にでもあっておかしくないのね……
けどねあいにく、あたしの力とは相性も差も歴然よ」
その言葉通り、ボッと火がつきすぐに焼き払われる。
床のあらゆる所から焔目指して飛び出す根を次々と焼き切る。
「ならこれなら!!来て、“無限水筒”!!」
水の玉がユグの隣に現れ、弾けると中から無限水筒が出てくる。
それを後から後から出てくる根を焼き払っている焔にむかってふると、水が飛び出し鎮火される。
「くっ、小賢しい……ガキはもう結構よ!」
次の瞬間、ユグの目の前に焔の左手の手のひらが急接近し、顔の目の前で炎の玉が生成され──
あつい。
そう感じた──……。
「………な」
ユグは、突如横に突き飛ばされた。
床に転がり、先ほどまで立っていたところを見ると炎のビームのようなもので焼き払われ、壁は貫通し穴が空いており床は微かにくすぶっている。
「当たってたら……死んでた…」
今にも涙がこぼれ落ちそうになりながら、そんなユグと焔の間に立つ、ユグを助けてくれた人物、弾を見る。
「あり…がと」
ユグには、そう漏らすのが限界だった。
「……な、奪……な、奪うな奪うな、奪うな奪うな奪うな奪うな」
一方の弾は、段々と声を荒らげながらそう繰り返す。
左手で髪を掻き破りそうなほど乱暴に掻きむしり、
暗く俯く表情は見えない。
立ち方はフラリと心もとないもので、ただ声だけがしっかりとしていた。
その声に呼応するように空中に輪ゴムが生み出され、高速で発射される。
が、
「遺言はそのぐらいで十分か?」
と、そう言いながら平然とする焔。
見れば焔に飛んでいった輪ゴムはボッ、と一つ残らず体に到達する前に燃えて灰にされている。
焔は再び2人に手のひらという名の銃口を向け、火の玉を作り出す。
が、弾が唐突に抱きつくように焔をがんじがらめにし、またしても阻止される。
「奪うな…っていってん…だろ…っ、もう、もうこれ以上、何も奪わないでくれぇ……っ!!!」
抵抗する焔を抑えるために動いたことで見えた顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
全身に火傷を負いつつも、尚も離さず抑え続ける。
「木三も……強乃も…っ!返せよ!全部…っ!!」
が、全身火傷により力の入らなくなった弾は焔に振り払われ、地面にバタリと倒れる。
そして無慈悲にもユグの目の前で火の玉が作られ、今度こそ発射され──ユグは、覚悟し目を瞑る。
「目をつむったその判断、正しいですよ」
ドオオォォォォン、という音の後、もうもうと立ち込める煙の中ユグは薄目を開ける。
「死んで…ない…?」
「まったく、死ぬ一歩手前、ですかね。
ギリギリ間に合いました
僕は冒勇隊の読歩。んでもって今見えないけど他に2人。夢とノットネームって人。
ありがとう、君がさっきモニターをつけてくれたから通信できて状況がわかったよ」
「え……っ、私、何も…」
「かもね、けどよく耐えてくれた。無意識でもなんでも、僕は君に感謝するよ」
「……うん…!」
安心できた喜びと、嬉しさから涙がこぼれる。
今度のは、気持ちのいい涙だった。
「……さて、夢、煙だらけだけど暴れたね。
どう?片づいた?」
煙が晴れると、そこには1人の幼女がいた。
星柄のナイトキャップをかぶっており、パジャマだ。
「うーん、半年ぶりの外でせっかくなら楽しもうと思ったのに居心地悪い……やっぱ帰りたい」
「そりゃ申し訳ない。緊急だったとは言え貯めてた力一部使わしちゃったからな、陰陽さんにも怒られるなぁ…ごめんね、ここに来たの現在地共有移動マップだから帰り歩きだ」
「うえぇー……」
「ところで敵は?」
「わかんない、15%で一発入れたからまず立ち上がれはしないよ、大丈夫」
何が起こっているのかユグにはほぼ理解できておらず、口をパクパクさせてみている。
「あの、これって……」
恐る恐る質問する。
「ああ、ごめんね困惑させちゃって。
僕らはさっき言った通り冒勇隊でね。
さっきのはここにいるこの子の能力で『幸福貯金』ってやつなんだよね、まあ本人は『しあわせこのゆびとーまれ』って呼び方してるけど。
さっき君がつけてくれたモニターから状況を見てね。
君の持ってるその“無限水筒”と同じ7つのオーパーツの1つ、現在地共有移動マップってので飛んできて、
上からこの子の能力でぶっ叩いた、って感じで…」
夢の能力、『幸福貯金』──夢式の呼び方をすると『しあわせこのゆびとーまれ』……日頃楽しい、嬉しい、楽だ、過ごしやすい──そういった感情を抱いた際、それが力となり体内に蓄積される。
逆に過ごしにくい環境であればその貯金は減っていく。
そして、好きな時に好きな分放出することができる。
そういった能力。
「おーい、見つけたぞ敵の炎の奴!」
そう言い、もう一人の青年、ノットネームが来る。
「……ただ見ないほうがいいなありゃ。
夢、やり過ぎ。情報聞き出すって話だったのにひねり潰されてる。
それと──」
そう言い、周りを見る。
ホテルの1室だった場所は消え去り、大きなクレーターになっている。
「いくらなんでも町中でこれはまずい。
仮にも政府非公認なんだからな」
「ごめんなさーい……」
「…あ、それに関しては私が説明しましょうか?い、一応これでも次期管理者私なので…」
と、ユグが少しビクビクしながら話に入る。
「そんな覚えなくても大丈夫。
ところでその…次期管理者ってマジ?」
と、読歩が問う。
「うん」
「まじかやっべ俺ら次期管理者の前でその管理対象の街の一角クレーターにしてんじゃん!悪じゃん!」
と、それにノットネームが怯え、
「あ、あのそのホント加減できてなくてごめんなさい許してぇ…」
と、夢も謝罪。
「あ、いや全然いいよ、むしろ来てくれなかったら死んでましたし…というか弾は?無事なの?」
「あ、それならもう僕が能力で応急処置してて冒勇隊一回連れて行ってちゃんと治療すれば元通りすっかり元気になるはずですからはい!!」
と、読歩も焦りつつ即答。
そんな様子を見てユグは、一体お父さんはどんな風に思われてるんだと少し不安になりつつ青空を見上げた。
冒勇隊、段々とキャラ増えてるけど皆ついてこれてるでしょうか…
乱雑に追加されてますがいつか来る大戦の為に必要な子たちなんですよ…?
四天王の1角、焔、死亡──。
次回、動平VS力、決着。
連我と柔音のチーム主人公はもうちょっと待機しててね。




