31 “強力”と“座標”
男―…コードネーム力、本名はバレット・バレトス。
その能力は自らの筋力を自在に操ることができる。
瓦礫とともに飛ばされ、未だ立ち上がることもできない冒険者達の先頭にいた男性に、まるで瞬間移動のような速さで、しかし地面が割れるほどの力で踏み切り殴りかかる。
「させるか!能力『コンクリート』!!」
連我がそう言い手を前にバッと出すと、力と冒険者の間に壁が瞬時に生え、衝撃を受け止める。
が、それはすぐに破壊された。
「なんだこいつ…能力『鷹』!!」
立て続けに発射した羽根は、左腕の1振りで祓われた。
「…こっちだって…ツインハンマーっ!!」
だがその隙に体勢を立て直した先頭の冒険者がハンマーを取り出し2連撃を入れる。
それは間違いなく相手がちらりと反応した瞬間その頭に届き―…叩き込まれた。
そして相手が体勢を崩した瞬間2発目を―と、それは片手で止められる。
まるで一撃も喰らわなかったかのように、いや、今この場に現れたかのようにピンピンしている。
それどころか息すら全く上がっていない。
「空拳!!!」
そしてもう片方の手で振り抜かれた拳は、
空気を押しのけ衝撃となり、冒険者を通り越して連我の所までも衝撃がくる。
「ぐあ…っ、まじかよ…」
突然で防御ができなかった事はあるが、遠くで少し食らった程度なのに膝をつき口から唾が吐き出され、物が逆流するような気配を感じる。
「あんなの…まともに食らったら即死…」
そう思って立ち上がると、先程の男性が胸ぐらを掴まれていた。
「所詮…弱者…楽しむことすら叶わぬ…」
ドス、ドスとパンチを腹にいれる。
男性は首元を掴まれているため思うように息ができないのか、苦しそうにし、殴られると血を噴き出している。
(このままじゃ目の前で皆死ぬ…臆すな!!)
「待て!!能力『ミノタウロス』!!」
あの時の牛の化け物、あいつの力なら少しは―…
「う゛お゛らぁぁぁぁっっ!!」
懐に飛び込み、腰のあたりを殴る。
その直後連我の視界左端に映ったのは、力の手だった。
「うっ…そだろ」
頭に協力な一撃を与えられ、血を噴き出し地面を転がる。
(コヒュー、ヒュゥー、)
「息が…視界も…ぼやけ…っ…能…力『治癒』…早く…」
気を失ったか昏睡か、反応のない冒険者をどさりと捨て、こちらに力が歩いてくる。
「死んで…やるものかって誓ったから…」
…やるしかない。フハイと戦ってから1ヶ月。
柔音と練習や特訓を繰り返した。
能力に技名をつけ、素早く脳内でイメージを組み立て出力する練習。そして―…能力の同時使用。
治癒で一命を取り留めた今、ここで決めるしかない。
「だああくそっ!!能力『強化』『セメント』!!」
ドックン
心臓が痛む。
ドックン
瞳孔が開き、呼吸が荒くなる。
飛ばされたまま地面に転がっていた連我の両手に魔法陣のようなものが現れる。
「んぐあああっ!!や…ってやる!!」
力が連我の目の前で、拳を振り上げ到達する瞬間。
連我はドン、と踏み込み立ち上がって後退する。
と同時に力の足元がぐにゃりと柔らかくなり、バランスを崩す。
息が整わない―…本来使える能力の許容範囲を超え、心臓が激しく鼓動する。
視界が揺れて安定しない―…来る!!
「能力『盾』!!」
体勢を崩しそうになるが何とか持ちこたえる。
「音響体!」
畳み掛けようと振り上げた拳がピタリと止まる。
「あなた大丈夫?ごめんね巻き込んで!
多分あなたもワープさせられてきた人よね?」
ミルク色に少し黒が入ったウェーブの髪をツインテールにした少女―…年齢は連我と同じぐらいだろうか―が駆け寄る。
「あなたが居てくれて助かったぁ、お陰で私も動けてるし仲間も皆気絶だけで命は助かった。
ありがとう!私は琴、よろしくね!」
「ああ、よろしく、俺は連我。
…けど安心するのは早い、こいつを何とかしないと…」
目の前で立ち尽くす力を見る。
「私の能力、音であいつの脳内に音を反響させて動きを封じてる。けど攻撃力はないから慣れたらまた―…」
「剛拳」
瞬間、風圧で地面がえぐられる―かと思えば次の瞬間、体は宙を舞う。
力は琴をその目で捉え、拳を構える。
琴は気を失ったか、そのことには気づかない。
「く…っ、間に合わねぇ…」
「“座標”」
パッと琴の姿が消えたかと思うと、連我の横にトスッと現れる。
そしてふと見れば連我の数メートル前、力と連我の間にビシッとした黒のスーツ姿、それに似つかないボサッとした黒髪にやつれた顔の男性が立っている。
「はあ…つくづくついてない人生だ…
冒勇隊№16、動平。
はぁ、なんで俺なんだか、すぐ助けに入れるものが他にいないものか…」
力が拳を振るう。
「ちょ、危な…」
連我がそう言った時、もう動平はそこには居ない。
「これはサービス残業ってやつですよ。
あとできっちりボーナスは貰いますよ…」
と、力の背後から聞こえる。
力がパッと振り向くと、そこには居ない。
かと思えば唐突に力の顔の目の前に現れ―…蹴りを入れる。
その巨体は、ひょろりとしてやつれた顔の男性にいとも簡単に蹴り飛ばされ、スタジアムの壁に激突した。
「…ありがとう…ございます、動平さん、ですっけ」
連我が声を掛ける。
「ああ、そうだ。これでも一応冒勇隊の人間なんでね。
まあなんだ、俺が来るまでよく持ちこたえたな。
ここは全部俺が片付ける。追々後続が到着する。
先に気絶してる奴らと逃げて出来るなら手当てしてやれ」
そう言い、弱々しく、しかし頼れる優しい笑顔を見せた。
「わかりました、では…任せます」
連我は琴をおんぶし、そこから離れた。
それを見て、先程ハンマーを持っていた男性が倒れるもう一人の仲間を同じように背負い、こちらへ向かってくる。
「琴、無事だったか…よかった。
君が居てくれたお陰だ、ありがとう。
俺はハンメア、この近辺出身じゃないから名前の感じが違うんだよね」
「どういたしまして、俺は連我だ。
けど今気を引いてくれてるあの動平って人が来なけりゃ死んでた、ここも危ないし一旦スタジアム出ようか」
そう言い、スタジアムから出ていく連我。
それを追うように、天井から光が落ちてきて、連我の方へ向かっていく。
それは電気を身にまとった男性であり、言うなれば雷。
その気配に連我たちも、力と戦闘中の動平すらも気づかない。
男の髪は金髪で、雷型に黒髪が一筋。
―連我と、金と黒の場所が逆の人。
その口元は笑っている。
「見つけたぞ…久しぶりだな…連我…我が息子よ」
電気に身を包む男は、そう、静かに呟いた。
連我の父、登場―。
そして次回、柔音にも影が忍び寄る。




