26 ただ少しの安息
「…あ、連我、連我や!無事帰ってきたぞ!」
弾が硬介に伝える。
弾と硬介は冒勇隊に応急処置してもらい、
瓦礫にもたれかかるように座って休憩していた。
「おーい連我、無事やったか…どうした?暗い顔して?」
「…いや、覚悟して冒険してるしいつかこうなるってわかってたんだがその…さっき追いかけてきてたあの敵、あいつを俺がこの手で葬ったんだ。
直接手を下してはない、ただ突き飛ばして自滅させただけ…だけど、たとえどんな奴でも人間は人間、俺は人殺しになったんだ、って」
俯きそう言う連我に弾は何も言ってやることができず、数秒沈黙が流れる。
そこへ示が会話に入る。
「…君にこの言葉を言うのが最適かはわからないが、行動は間違っていない。
あの一瞬見ただけだが―…とても話が通じるようなやつではなかったのだろう?
かと言って放っておけばいずれこの町は更地と化していただろう。
きっと、俺が君の立場でもそうしたよ。」
「冒勇隊の人…ですか。
俺の行動は一般的に街を救った者として褒められるものなのでしょうか。
人殺しとして責められるものなのでしょうか。」
「……正直、手放しに英雄と称えられることはないだろう。
冒険者は本来未開拓の地に足を運び地形を記録する職業、当然国も警察も見逃しちゃくれない。
現に俺だって冒勇隊として何度も下っ端のような奴らと戦闘し、命を奪ったことだってある。
自首しろ来るなと追い払われたこともある。」
「…じゃあ」
「だが、」
示は周りを見渡して言う。
冒勇隊のメンバーも硬介も皆安心の表情を浮かべて休憩している。
そして―連我の隣で同じく安心した表情を浮かべる小さな少女―柔音を見る。
「周りの人をみてみろ。この休息も安心も、さっきのお前の行動のおかげでつかみ取れた物だ。
何度も言うが世間的には許されることじゃない。
だが、それでも己の正義を信じて立ち向かった結果得られた安心もあることはわかってほしい。
あまり、暗い顔ばかりしないように、な。」
「そう…だよな…そうですよね、ありがとう…ございます。
俺…このまま自分の思うように突っ切ってみます。
柔音もついてきてくれるって言ってくれてるし
覚悟、見せてみます。」
療大のことを思い返す。
「―もう2度と、あんな悲しみに襲われることがないように、安心をこの手で創ってやります」
その宣言を聞き、示は満足そうに頷いていた。
「…連我、見て?あの人たちも無事みたい」
ふいに柔音が街角の方を指差す。
そこからは矛盾コンビが走ってきた様子で呼吸を荒らげ膝に手をつき、少し恐怖した表情で顔をのぞかせていた。
それから数十秒後、無事に矛と盾も合流する。
「矛、盾、無事だったか!
すまない、本当はもっと早く見つけるつもりだったのだけれど…」
両刃がそう言うが、矛と盾には聞こえていない様子だ。
慌てている―何かあったか。
先ほどの和んだ空気が一気に冷えていく。
「連我…なんか…俺…嫌な予感するわ…」
弾が呟く。
連我も背筋がゾワリとする感覚になる。
少し間をおいて、ゆっくりと矛が口を開く。
「…落ち着いて聞いてくれ。
避難中の市民十数名が、あっちの方で植物人間状態になって倒れてる」
そう言いゆっくりと指差す。
弾と硬介はゾクリと悪寒がした。
―その方向は、強乃がホテルに居た住民をノルマから逃がすため引き連れていったあの方向だった。
弾が一歩、一歩と前に出る。
皆が何も言えず静まり返っている中、歩いていくコツ、コツと言う音が響く。
その角の向こうには事実しかない。
祈っても変わるはずないと分かっていても、そうでないことを祈る。
だが、その最悪は実現した。
角の向こうを見た弾の顔はひきつる。
「……は…?」
瓦礫の中に倒れる人、人、人。
その人達は先ほどホテルから逃がした際に見た顔や服装ばかりだ。
そしてその中に―弾は見つけてしまった。
「…ぁ」
小さく声を出して弾がピクリと反応する。
涙が頬をつたっていく。
見慣れた、見覚えのある、小さい時からよく見た顔。
―昏睡状態の強乃が、住民達の中に倒れているのを。
“ピーンポーンパーンポーン”
と、その時その静まり返った空気を壊すように庁内放送が鳴る。
ユグの父親―町長による放送だった。
“ただいまより、現状判明している限りで親族等が見つかっていない死亡者の名前を読み上げさせていただきます。
勝手ではありますが、最期はせめて親族により送り出していただきたい為、大樹下避難所へとお越しください”
強乃の悲しみに暮れ俯く弾の頭に、その死者の名前が反響する。
“ワナン、ワーグルト、釜重―…”
片仮名ネームの読み上げが終わり漢字ネームに入る。
絶望する弾に追い打ちをかけるように容赦なくその名前は伝えられた。
それは連我たちにとっても衝撃的な知らせとなった。
“―そして―…木三”
と。
俯いたまま弾の瞳孔が揺れ動く。
唐突に幼馴染二人を失った弾はその場にプラリと崩れ落ちた。
あれだけ頑張って手にしたその“安息”は、もはや何処にも残っていなかった。
ちなみに
語る機会を逃した話ですが、連我達の時代には片仮名ネームと漢字ネームが当たり前に混在しています。
その理由は戦争により細かい集落に分かれた際、
外国人の移住者が多かった地域は片仮名ネームになっていき、日本人の多かった地域はそのまま漢字ネームだったためです。
こっから本編が怒涛の展開なので仕方なくここに差し込み。
薄々気づいてると思いますがこの作品非常に志望者が多いです。
現に今出てきてるキャラの半数は終わる頃に退場又はフェードアウトしたり…と、このあたりまでにしておきます。
次回、では何故逃げたはずの強乃一行がああなったのか。
新7教は何故急に来て急に帰ったのか。
この戦いの全貌が、敵視点で見えてきます。




