25 不快で腐敗な人の末路
今回の話、グロ注意です。
人が原型留めなくなるけどそれでもいい人はどうぞ。
「いいねぇ、その余裕が消えていく顔、やっぱり来たかいがあった…とても満たされるよ!!」
はたから見れば何百もの蔓延るツタの山から上半身だけを出した人間。
そんな風貌のフハイが勝ち誇る。
「くそっ!一旦退避だ!」
連我はそう呼びかけ、走って柔音のいる路地へ駆け込む。
反対側の路地の矛と盾をチラリと見ると、グッドサインで合図している。
事前に話していたサイン—…別れよう、幸運を祈る、だ。
(さて、どっちに来る—…)
連我がそう思い柔音と共に路地を駆け抜けていると、後ろから何かが迫る音が聞こえる。
「くっそこっちかよ…」
路地の隙間を細かく曲がり逃げる2人の後ろから、ガラガラと建物をいとも簡単に崩しながらフハイが追いかける。
「連我!このまま逃げても体力がもう…どうする…?」
柔音が聞く。
「そう言われても何も策がないからな…何でもいい、何か気づいた情報あるか?」
「うーん…そう言えばチラチラと腐敗させる胞子確認してたかも…気のせいかもなんだけど…もしかするとあの人自身もカビの影響くらうんじゃない?」
—あいつもこの腐敗の影響を…?
たしかにあの目に見えるレベルの胞子は体の奥を蝕むような痛みが来る。
人体に有害であることは事実──が、能力者本人はどうなのか。
たった1つ信憑性があるなら—…自身を腐敗しない植物のツタで包んで追いかけて来ていること。
巨大な分建物を破壊する手間がかかり走っている俺達とほぼ変わらないスピードだと言うのにわざわざ包まる理由、それが自身が腐敗するのを防ぐためと言われれば説明はつく。
胞子は少なくとも奴から放出されるわけで、
俺らは飛んできてもフワフワと漂う1つ2つ避けるのは簡単だがあいつはそうはいかないのは明白だ。
「…その情報、信じてみよう。こっちだ!」
そう言い柔音の手を引き路地から大通りへ飛び出した。
「柔音、作戦は決まった。昨日泊まってたホテルだ。あそこで決着をつける。ただ…あと少し早めに走れたりするか?大通り通らないと向かえない、けど建物破壊の時間がなくなる分あいつの速度があがるから…」
「ごめん、今でもギリだからむり…」
「くっ…そうか…」
どうする。ほぼ確実にこのままでは追いつかれる。
ホークの時の能力で飛ぶ…のはあいつを撒いてしまう可能性があるから駄目だ。
ピエロの奴の能力『サーカス』で身体強化—いや、あれは周りにギャラリーが居ないと駄目だ。
強乃の強化は使ったことないから土壇場で賭けで使いたくはない…
悩んで一度リセットしようと頭をブンブンと横に振って目を開ける。
と、行く手に数人誰かが居る。まだ遠く誰かすら分からない—…
「…誰だ…?」
「…冒険者みたい。きっとこの町にいて巻き込まれた人達…植物の残党と戦ってる」
「なるほどな…ナイス視力だ柔音、突っ込むしかないか…脇道にそれてちゃ体力がもたないな」
スウウッと大きく息を吸って伝える。
「そこの人達ー!逃げろーっ!」
向こうがこちらを見る。恐らく気がついたか。
慌てて退却しようとしている。
「連我、あの人達に足止めしてもらって縮められた距離離さない?」
「それ、やるしかないか…」
もう結構近くまで近づいているため今度はあまり叫ばず伝えられる。
「頼むー!余裕あれば後ろの化け物にどうにか攻撃してくれー!俺らが引きつけるが追いつかれそうだ!」
向こうの冒険者の1人が数秒後頭の上で両手で大きく丸をつくる。
「頼んだぞ…」
そう呟くとその冒険者達の所にそのまま走る。
もう20メートルほどの所までフハイが迫っており少しツタが伸びてくれば捕まりそうだ。
どうか助けてくれと祈りながら冒険者達のいたところを通る。
連我達が通り過ぎた瞬間、路地から冒険者達が飛び出し──…
『鉛突斬!』
『波紋』
『水流波っ!』
と、3発の攻撃が発射された。
攻撃が命中したフハイは一瞬怯み、だがその目は真っ直ぐ連我を捉えたまま再び追いかけ始める。
それでもそのわずか数秒の隙に50メートルほどの距離まで離れることに成功した。
そしてそのままホテル入り口へと駆け込む。
と、そこには冒勇隊と治療され意識はあるが満身創痍状態の弾、硬介が居た。
「ああ、連我…すまん、こんな状態で…」
弾が声を掛けるが連我はそれどころではない。
「皆どけろ!逃げるんだ!!」
そう言い捨てそのまま奥へ走る。
直後入り口を破壊しフハイがホテル内へと侵入する。
(まさかあんなところにいるなんて…頼むぞ…ちゃんと逃げててくれよ…)
元々数十分前の時点で人2人の体重で穴が空くほど脆くなっていたホテルは、フハイの植物に押し負けガラガラと崩れ瓦礫が落ちる。
「連我ぁ…もう無理体力限界…いつまで走るの…」
柔音がどんどんペースダウンする—その手をぐっと掴みただ走る。
「もう少し、もう少しだ…今走るのをやめたらあいつに殺されるか建物につぶされるかだぞ…」
そう言い、角を曲がってまた直進し—辿り着いた。
昨日の夜までは娯楽施設だったその場所—温泉は、
その湿気で思った通り入り口からカビやキノコで見るも無残な姿になっていた。
「…最悪だけど…グッドだ、これしかない」
そう言う連我に柔音が聞く。
「え…えっ、ここ、入るの…?」
──そうだ、こういうキノコ系は無理って言ってたっけ。
「柔音、しっかり目瞑って捕まれ。
こっからは倒すだけだ、俺が片付ける」
言われるがまま背中に捕まり連我がおんぶする形になる—…目を開けていたくない、が気になる柔音はちらりちらりと薄目で状況を確認している。
「もうどっちがどっちとかわかんねーな…」
そう言い、連我は比較的入口にキノコの少ない右の脱衣所に駆け込み、周囲にキノコのないドライヤー用の台に柔根を下ろす。
すぐに追ってきたフハイが入り口を破壊しやってくる。
改めて近くで見ると天井まであるその巨大な植物は、とても太刀打ちできそうにないほど数が多くうねっていた。
「どうした?最後の場所はお風呂をご所望、ってことでいいのかな?」
「いいや、逆だよ。お前の最後の場所を決めてやったんだ。
どうなっても知らないって忠告はしたからな?」
「は?どういう…」
「ほら、早くしないと準備が整うぞ?」
と、連我が手をまねき挑発する。
「そうかい、じゃあお望み通り死ね!!」
フハイがそう言い終わるやいなやツタを天井付近から床を這うような高さまであらゆる箇所に伸ばし、攻撃を仕掛ける。
連我は待ってましたと言わんばかりにロッカーを周り隠れる。
「隠れても無駄だ。お前は既に捕捉されている。」
そう言い更衣室の奥へと進みながらロッカーの上からツタを突き刺す。
が、それも避け入口側に周る。
「ほう、逃げようって算段か?
そこの女の子を置いて逃げるってことでいいのかな?」
「いや、まるっきり違うね。
『サーカス』使用!!」
『サーカス』──…ピエロが使っていた能力で、
ギャラリーの期待度が高ければ高いほど発動者の身体能力が上がる力。
さっきは使えなかったが今は柔音が戦っていない。
その力は存分に発揮される。
そしてその状態でフハイへと一直線に駆け出す。
フハイは思いもよらぬ行動に一瞬行動が遅れるもののツタを勢いよく突き刺そうと伸ばす。
が、そんな攻撃は身体強化の前には無に等しかった。
「『鷹』使用!」
ダン、と地面を蹴りホークの力で羽を生やし飛ぶ。
巨大な植物群に包まれたフハイと目線の高さが同じになる。
フハイは焦りの表情を浮かべ、慌てて先ほど伸ばしきったツタを連我の後ろから突き刺そうと引き戻す。
「最後まで卑怯でクズで、救いようがないね」
そう言うと連我はスウウゥゥと大きく息を吸ってそのまま息を止める。
拳を握りしめフハイの顔めがけて突撃する。
焦り、命乞いをしようと手を前に出したフハイの左頬を容赦なく拳が襲う。
「ぐぶぅぅぅぅっ!?」
鷹の力で空中で加速した拳はその勢いで植物群をどかし、フハイの後ろの浴槽と脱衣所を仕切るガラスに当たる。
そしてそのままガラスを突き破った所で拳を振り抜く。直後フハイは浴槽の隣、通路の部分にドサリと落ちる。
ガバリと起き上がり納得いかないという不満の表情を浮かべる。
「なんだこの野郎!今度は僕が…ヒュー…お前をっ…ヒュー…」
そこまで発したフハイはうつ伏せに倒れ込む。
目の焦点がグラグラと動き、全身が痙攣する。
「お前、自分の周りよーく見てみろよ。
風呂の湿気とお前の無差別攻撃が災いして生み出された地獄をよぉ?」
連我の声が籠もったようにフハイには聞こえる。
ガクガクと震える手で体を起こそうとするが力が入らない。
その目でフハイが見たのは、
びっしりと生える様々なヒョロリとした異質なキノコ。
大量のカビと数え切れないほどの目に見えるサイズに成長した胞子。
それが今、倒れ込んだフハイの口元にも広がっていた。
「あ…あっ…あぐ…ヒュー…あふっ…ヒュー…」
涙と涎を垂れ流し、顔中ぐちゃぐちゃにして何かを言おうとする。
が、それもつかの間今度は目を見開いてのたうち回る。
「がああああっ!!いっ…だ…あぐうっ…」
バタバタと痙攣しながら発狂する。
今、フハイは口から大量の胞子を吸い込み体内では急速な腐敗が行われていた。
胃は腐敗でボロボロになり裂けて胃液が漏れ出し、
肺も敗れて呼吸ができなくなる。
骨はもろくなりのたうち回るたびにポキポキといとも簡単に折れて激痛が来る。
だが脳の神経も狂い手足は絶えず痙攣しバタバタと動いてしまう──…
ほんの数十秒ほどの時間だったが、
全身画粉砕骨折を起こし腐敗しきった右手は手首から先がポロリと落ち、顔は涙、涎、鼻水や嘔吐物でまみれてもはや人間とは思えない姿になっていた。
薄くなる意識の中、フハイはそのぼんやりとしもうあまり見えていない目で連我を見た。
目の前で人がこんなにぐちゃぐちゃになっているにも関わらず、その目はしっかりとこちらを見つめていた。
フハイは恐怖した。
どんな人間も自分や人が腐り果て死んでいくのを見れば恐怖を顔に浮かべる。
そんな顔が面白いから、自らが皆の命を握っていると、圧倒的上の立場だと実感できるからこそフハイはずっと無差別攻撃をして生きてきた。
それなのにこの男は近づけば自分がカビる危険があると知りつつ攻撃し、人がカビていくのをしっかりと見届けている。
本当に──狂っている。
そう思ったのを最後に、フハイはただの腐りきった肉塊となって絶命し、同時に植物は枯れ腐敗は止まった。
連我はそれを全て見終わるとスッと俯き、暗い表情で
心配そうに降ろされたままの位置から様子をうかがう柔音に声をかけた。
「終わったよ。さ、行こうか。」
これにてフハイとの戦い、そして第2章が終わりとなります。
次回第3章ではそれぞれの戦いの共有や敵視点、
そしていよいよ硬介やピエロを洗脳したりホークやフハイを差し向けた黒幕との決戦に向けて動き出します。




