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浪人日記  作者: クスクリ
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1977年5月後半

 5月16日月)

 俺はT・Tと性格は合わないし、生き方も違う。もう奴とは会いたくない。奴が訪ねてきたら、賢二の部屋に行って帰るまで隠れておく。他の者にももう勉強を邪魔されたくないので同様にする。

 この2・3日、また不真面目さが目立ってきた。これではいけない。心を入れ替えて頑張るぞ。今日は良い天気だが、あまり暑くないので救われる。鳥が相変わらず足を出さない。


 解説;俺は三人兄弟の長男で次男が賢二、三男が哲美。次男は俺の二つ下、三男は五つ下だ。俺の浪人中、次男は鳥巣高校二年、三男は鳥巣中学二年だ。鉄道宿舎は八畳、六畳、四畳半の三間の間取りで、四畳半はずっと俺の部屋にしていたが、問題は次男の部屋。

 最初は六畳を次男と三男がシェアして使っていたが、自分の部屋を持ちたいと言う次男の希望を叶えて、六畳を三男に渡して、庭に六畳のプレハブを親父が建ててやった。だから、俺が日記に書いている賢二の部屋というのは、もう建ててやっていたプレハブのことだろうと思うのだが。

 鳥がずっと片足のままで止まり木に止まってるので、もしかしたら片足がどうかしたのかと心配している。


 5月17日(火)

 勉強を午前2時に止めて、宏美ちゃんのロマンティックコンサートを聞いた。宏美ちゃんを聞くとやる気がもりもりと湧いてくる。

 この頃ずっと勉強のやり初めに英熟語の瞑想確認をやっているが、急いでやったら一時間ちょっとで終わった。今手元に4180円の現金があるが、さて何に使おうかな。


 5月18日(水)

 70円づつ数日貯めた金で少女漫画を買おうと思い、毎日福山書店に通うが、相変わらず新刊が出てない。今月はもう出ないのか。仕方ないのでマーガレットを買おうかとも思ったが、作品全部が読み切りではないので、踏ん切れない。

 むしゃくしゃしたので持っている金で焼きそばを二皿食った。満腹だ。今日、鳥巣高校は中間テストのようでみんな早く下校していた。


 5月19日(木)

 このところずっと、17時くらいから哲とキャッチボールをしているので、肘が痛くて身体が怠い。

 昨日はFBSの洋画劇場で、ショーン・コネリー主演の『未来惑星ザルドス』が放映されていた。無茶見たかったのだが、何とか抑えた。その代わり、郵便局の横の店で少女漫画(マーガレット)を買って来て読んだ。

 今日も焼きそばを二皿食ってやろうと思ったが、腹に入りそうもなかったので止めた。


 5月20日(金)

 今の俺には勉強以外何もない。高校在学中は良い女を見たら必ず振り返っていたが、今はもう自分の顔に諦めがついているので何とも思わない。

 頭にあるのはただ、史学を勉強することだけ。女もいらない、友もいらない。どうせ、死ぬときは一人じゃないか。孤独なんて糞食らえさ。でも、漫画本だけは読みたい。


 5月21日(土)

 俺が国松商店の前の焼きそば屋に行きたての頃は、全く客が居ないときもあったのに、この頃はやけに多い。今日なんか、満席で入れない客も居た。

 世の中には親切な人は居るもので、自転車から落ちた傘をまた乗せてくれた。それに比べ、俺の横に居た女の客は、食い終わったらまた読もうと思ってテーブルに置いていた漫画本を、さっさと取って行きやがった。何て奴だ。


 解説;県道31号線(佐賀川久保鳥巣線)は鳥巣市の古野町交差点で右に曲がるが、そこに俺ら鳥巣高生がよく利用した国松商店がある。俺が卒業するくらいに、道路を挟んだ真ん前に、30代の奥さん?が経営する小さな焼きそば屋ができていたようだ。

 浪人生活が始まって、『まるぞの』と『とらや』のラーメンに飽きた頃にふと行ってみたら、結構美味かったものだから、行き付けの店になってしまった。酷いときは一週間以上、毎昼食い続けた。それでも飽きない。


 5月22日(日)

 もうこの一年はT・Tと話もしたくないし、勿論会いたくもない。勉強に疲れた心を和まそうと得意になって喋っていると、急にぽんとキツい棘のある言葉を浴びせてくる。そして、俺は一時の沈黙を保たねばならなくなる。その間、色んな心配事が頭を擡げてくる。チクショー!


 5月23日(月)

 今日は嫌な夢を見た。友達が大勢来て勉強の邪魔をされる夢だ。こんな夢を見るのはもう誰にも勉強の邪魔をされたくない、邪魔されるくらいなら友達もいらないなどと考えているからだろう。

 ボールを投げると直ぐ肘が痛くなっていた俺だが、昨日、哲とのキャッチボールで重いボールを投げていたら全く痛くなくなった。その上、いつもより速く投げられるようになった。


 5月24日(火)

 金を千円持っていたので漫画本を買おうと思ったが、買って帰って読むほど面白くなかったので立ち読みした。明日は少女フレンドの発売日、絶対買うぞ。

 昨日、またこの辺に犬を捨てた奴が居る。事の良し悪しも分からないのか!

 捨てるところを見ていたらぶん殴ってやりたかった。犬を捨てる人間の気持ちが分からない。捨てるくらいなら最初から飼うな。


 5月25日(水)

 夜中の3時頃、急に腹が減ってきた。焼き飯の作り方がふと頭に浮かんで実践したが、またもや失敗。食えたものではなかった。

 焼きそばを二皿食いたかったのだが、お袋に千円貸したままだったので諦めた。

 少女フレンドが出ているか確かめに行ったが無かった。5月はほんとに少女漫画が少ない。帰ろうとバイクに跨ったら、前に姉川が居た。奴も浪人だ。

 昼、下川のおんちゃん(おじさん)が茶をくれた。


 解説;ずっと専業主婦だったお袋だが、俺が高校生になった頃から働きだした。お袋はこれまで働いたことはない。職場は大正町の中央公園近くにあるに日本薬品という会社だ。名前は立派だが、給与は何と、月三万円ほど。主婦の単なる暇潰しだ。仕事帰りにAコープ辺りで買い物してくる。食材・日用品以外で、よくおまけに買ってきていたのは菓子パン。

 朝、俺の机に昼飯代だけ置いて自転車で仕事に行く。だから、俺が起きたときにはお袋の姿はない。昨日貸した千円も昼間返して貰う機会がなかった。

 下川さんは三棟ある土井町の鉄道宿舎の第一棟に住んでいた。職場が親父と同じ鳥巣機関区だ。


 5月26日(木)

 三度目の正直と、また真夜中、焼き飯作りに挑戦したが、敢え無く失敗。もう諦めた。そのせいで寝る時間が遅れたため、勉強開始が14時15分になった。

 17時頃、誰かが俺の部屋の窓ガラスを叩いた。義足を見られたかと思って慌てたが、下川のおんちゃんだったので安心した。

 兎に角、今俺の勉強を邪魔する奴は誰であろうが容赦しない。ぶん殴ってやる。


 解説;この頃の俺って、ほんと義足を見られるのを怖がっていたんだな。減るもんじゃなし。今(2019年)だったら平気で宅配業者の前で義足曝け出すのに。ジジイになって恥を忘れてしまったのか。


 5月27日(金)

 あっという間にもう三ヶ月が過ぎようとしている。早く寝ようと思ったが、またもや未明の5時になってしまった。頑張って13時から勉強を始めたが、想定通り眠気が襲ってきた。

 焼きそばは一皿に止めておいた。少女フレンドの新刊が出ない。楽しみにしているのに。哲も中学校が30日から中間テストということで、24時まで俺の部屋で勉強している。

 俺のGT50の2サイクルオイル、オートルーブが残り少なくなった。ギヤオイルもそろそろ替えねばならないだろう。


 5月28日(土)

 やったー!本屋に行ったら少女フレンドの増刊号が来ていた。早速買って帰って14時まで30分間読んだ。少女漫画はほんとに面白い。本屋に三年のとき同級だった藤本照代がいた。言葉は交わさなかった。

 今日は珍しく午前3時で一応勉強を終えることができたので4時には寝れた。

 本屋からバイクで帰る途中、哲に遇ったので家まで後ろに乗せてやった。歴史のテストで満点取ったと得意顔で俺に語る。

 机のところの壁の中でネズミが暴れている。


 解説;この頃の学校は土曜日は半ドンだった。


 5月29日(日)

 人間の三大欲望、性欲・食欲・睡眠欲、俺はこの内の性欲を可能な限り抑えねばならないだろう。動物に性欲はない。一年の一定の時期に発情するだけ、要するにサカリであり、本能に組み込まれている。子孫を残すための純粋な行為だ。人間の性欲とは本質が全く違う。

 人間は高度に知能が発達してしてしまったために、性欲を最高の娯楽に変えてしまった。だが、人間には動物にはない理性があるから抑制するのは可能な筈だ。なんて、今日は名文のつもりで書いてみた。

 自分の実行力のなさが昨日暴露された。


 5月30日(日)

 この前借りた岩崎宏美のカセットを、返して貰いに家に来る前に、俺からH・Tの家に行った。一年間来ないでくれと葉書に書いて出そうかと思ったが止めた。

 もう書くことがなくなって、日記に何を書いていいのか分からない。久しぶりに部屋を掃除した。ステレオの上に埃がたくさん積もっていた。

 昨日寝るとき、宏美ちゃんの新しいLPを聞いたが、良いかどうかまだ何とも言えない。A面の最後の曲が良かった。


 5月31日(月)

 毎日勉強していて苦しくないと言えば嘘になるが、どんなことでも一生懸命できることがあるというのは素晴らしいことでなないのか。だから俺は成功して一生を史学に捧げたい。

 3月のまだ勉強を始めて間もない頃、英熟語を一ヵ月頑張ったら鹿町に帰ってビワを食べたいと思っていたが、どうやらできそうもない。俺の理性が許さないだろう。


 解説;長崎県北松浦郡猪町のお袋の実家にはビワの木が三本あって、この頃は一番小さい右端の木がたくさん実を付けていた。真ん中と左端の二本は枯れてはいないが実は付けない。俺が小学生の頃は、真ん中の木がたくさん実を付けていた。

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