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浪人日記  作者: クスクリ
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1977年5月前半

 5月1日(日)

 今日から英熟語をやったが、以前心配していたようなことはないと思う。熟語をやっていると何だか少しづつ英語に自信が付いてくるように感じる。でも覚えた熟語が増えれば増えるだけ瞑想確認が大変になってくる。一日に6ページいけばいい方だ。


 5月2日(月)

 卒業して高校と無縁になった今、在学中の馬鹿な行為を後悔する。今思えば特に穴があったら入りたい程恥ずかしかったのが、ホームルームでやった「ぴったしカンカン」だ。それから、体育祭での諸々のこと。

 昨日寝るとき考えたのだが、高校時代が面白いかつまらないかは部活と顔で決まる。


 解説;1975年から1986年にTBSでやっていたクイズバラエティ番組。司会は久米宏。コント55号の坂上二郎側ぴったしチームが芸能人で、萩本欽一側カンカンチームが一般参加の視聴者。

俺が司会のホームルームで、ぴったしカンカンの、ゲストが登場する「一枚の写真」コーナーを真似た。このとき用意したのが俺の幼いときの写真。誰が考えても、安易に持って来れたのならその持って来た者の写真だと分かるだろうに、大真面目にやった俺の馬鹿さ加減が不憫だ。

 体育祭での諸々のこととは、三年だからといい気になって一年の家政科の女子に告って瞬殺されたことだろう。その上、その子の好きな奴が同級のチビ(でも健常者だ)の大塚だと聞かされて、さらに打ちのめされた。


 5月3日(火)

 9時頃田尻が来た。KKS大学の空手部に入ったとのこと。足が悪いのに何で?と訝ったが、口にしなかった。奴は奴なりに何か思うところがあったのだろう。孤独は嫌なので、大学に合格したら俺が入ることができる唯一の部活、弓道でもやろうかなと考えたが、顔や性格と相談して止めた。

 人間は生まれるときも死ぬときもどうせ一人さ。東京に行ったら四年間こっちには帰って来ないかもしれない。猪町にも行かないかもしれない。


 解説;9時だけでは午前か午後か分からない。豊田や田尻は、俺の家に来るとき、外から四畳半の俺の部屋の道路側の窓ガラスを叩く。

 障害者の俺は運動部にも文化部にも入ったことはない。鳥巣中学校では部活ではないが、必須で一週間のうち火曜日だけ活動するクラブに入らねばならなかった。それで仕方なくやったのが弓道だ。鳥巣警察署の横の弓道場で練習した。

 親父に頼んで自前の弓、矢、弓掛など買って貰った。買いに行ったのは鳥巣の隣街の小郡市だ。一緒に行ってくれたのは豊田と同じ養父町に住む『時』という変わった姓のクラブの仲間だ。だが結局、弓と矢は俺の遊び道具と化し、鉄道宿舎の庭で瓦を射って割って面白がった。


 5月4日(水)

 昨日の夜、KGI大学文学部の傾向と対策の過去問を力試しにやってみたら、知らない英単語が多く、この二ヵ月の英語の勉強に疑問を持つ。試験に出る英単語と連想記憶術を比べたら、ダブってない英単語が多数あって、不安になると同時に恐ろしくなった。だが、俺はやっぱり連想記憶術の方を信じる。普通の英単語集で覚えられなかったのを1200も物にできたのだから。


 5月5日(木)

 朝10時頃、田尻と豊田がやって来た。豊田が言う、「みんなKS大が真面じゃなかち言うばってん、ちゃんと勉強すりゃ、一年後はKS大に入って良かったと思う筈や」

 俺も同感だ。来年はやはり、KGIの文学部史学科とSNG大学の法学部とHO大学の法学部を受けよう。久しぶりに三人でパンを買いに行った。


 5月6日(金) 

 昨日も親父が、「TYM(俺の名前)が就職するなら今直ぐにでも家ば建てるとばってん」と冗談を飛ばした。そのときはあまり気にしなかったが、勉強しながら自分たちの家があったらなぁといろんなことを想像した。何しろ、この鉄道宿舎は壁なんかぼろぼろで埃がちらちら降ってくる。住んでいるのが恥ずかしくなるほどのあばら家だ。

 机に金が置いてあるのに気付かず、親父から金を貰ってパンを買いに行った。そろそろパンはもう飽きたかな。


 5月7日(土)

 ここ二・三日映画音楽(個人教授)を聞いている。目を閉じて心安らかに聞いていると、増本先生のイメージがナタリー・ドロンに重なって瞼に浮かんでくる。今年、先生に会いに行くと馬郡に約束しながら行かなかった。来年、大学に合格したら真っ先に会いに行く。

 今日、鳥が一匹消えていた。かわいそうだがどうにもできない。天気は快晴。鳥小屋をもう一度よく見たらちゃんと居た。


 解説;鳥としか書いてないが、飼っていたとしたら十姉妹か?確か中学のとき机を改造して鳩小屋にしたが、その後十姉妹小屋にしたような気がする。


 5月8日(日)

 また寝る時間がズレてきている。オールナイトニッポンを聞きながら午前1時に寝たが、二時間も寝付くことができなかった。仕方ないのでこのまま朝まで勉強しようとも思ったが、無理は止めて腹を宥めたら眠ることができた。

 昨日は三男の哲美に英語を教えてやった。英語は大部分が暗記だと中一時代に書いてあった。


 解説;俺が嵌って聞くとしたら鶴光のオールナイトニッポンだろう。


 5月9日(月)

 英熟語を17時までに1ページやって瞑想確認してみたが、何日かご無沙汰してたせいか忘れているのがあった。やはり英熟語だけは毎日の瞑想確認を怠ってはいけないと痛感した。

 今日は久しぶりに外で哲美とキャッチボールをやり、ボールを上空高く投げてみた。本屋に行ったが、少女漫画は出てなかった。早く読みたい。


 解説;ボールを上空高く投げ上げる動作を初めて見たのは、まだ猪町に住んでいた小学校低学年の頃だ。御堂住宅と猪町工業の学生寮に隣接するボタ地の広場で、寮生が俺の眼前で軟式ボールをたか〜く投げ上げてくれた。上がったボールはどんどん小さくなって視界から消え、また現れる。俺にはそれがまるでマジックのように見えた。

何とか真似してみようと頑張ったが、低学年では無理。障害者になってからは身体のバランスがとり難い。やっと出来るようになったのは高校生になったときではなかったか。


 5月10日(火)

 昨晩は恐怖に慄いた。というのが、覚えた筈の連想記憶術第二集終盤の英単語を三分の一くらい忘れていた。この部分は瞑想確認を一度しかやってなかった。連想記憶術さえこれだけ忘れるのだから英熟語なら尚更だろう。これに懲りて、今度からは一日に3時間くらい瞑想確認をやる。


 5月11日(水)

 KGIKGIと粋がっているが、入学金など掛かる費用がべらぼーな上に東京とくれば少々抵抗を感じだした。親父は安月給のしがない国鉄マンなのだから。

 俺に数学の才能があったら国立を受験できるのになぁとか、三科目受験しか選択肢がないのなら学費が安く一流のSNG大学に入れたらどんなに良いだろうなぁとか考える。

 兎に角、KGI大学は受験し、受かったら鳥巣を出るつもりではいるが、微妙なところだ。


 5月12日(木)

 ここ数日いつも頭にくる田尻の一言、「英語ば1年間でするてろ…」

 この一言で田尻という人間を見損なった。俺としては田尻が合格したので奢っているとしか取れない。もうあい(奴)の顔を見るのも嫌になっている。前からだが、田尻の言葉は棘だらけだ。


 5月13日(金)

 まだ5月というのに昨日は暑かった。いよいよ恐怖の夏が近付いてきたと感じさせる気温だった。今日も暑い。俺は暑さにだけには弱い。家には勿論、エアコンなどという代物は無い。だが、俺はバテる訳にはいかない。今頑張っているのは誰のためでもない。俺自身のためだからだ。

 マーガレットを買おうと思ったが、見合わせた。まだその名を知らない庭の二本の木が花を咲かせ始めた。


 5月14日(土)

 昨日は豊田が来たために勉強時間が大幅に削られた。だが、一応目標は果たした。今日雨が降ってやっと蒸し暑さが和らいだ。13時から洋画を見たため勉強開始時間がいつもより30分遅れた。自転車が無かったので焼きソバ屋まで歩いた。


 5月15日(日)

 午前3時に床に就いてRKBラジオを聞いていたが、面白くなかったのでKBCラジオに変えた。やっぱり鶴光は面白い。

 12時に起きて、目を覚ますために哲美と1時間ほどキャッチボールをやった。今日は天気予報通り肌寒かったので、一度仕舞ったコタツをまた出した。

 いつもは外食かパンを買いに行っていたが、珍しくお袋の用意した家の昼飯を食った。本屋に行ったが、漫画本は出てなかった。

 『高二時代』の付録の『この大学はこの教科で差がつく』というのに目を通してみたが、残念ながらKGI大学は載ってなかった。だけど内心ほっとした。

 考えてみると、俺たちは小学校から点数に振り回されている。しかし、この学歴社会のお陰で一応平和な日本が成り立っているのなら従わざるを得ない。

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