1977年4月
4月1日(金)
田尻君、自分の将来を切り開く。俺も負けちゃいられない。頭は坊主にする。やぐらしか(煩わしい)。この一年頑張ることができないなら、どうして東京の四年間を耐えることができよう。
4月2日(土)
朝から晩まで馬郡への言い訳を考えていた。結局、苦しい事情で行けなくなったと言うことにした。夜、豊田と江崎が遊びに来たが、すぐ帰った。
今は英単語の派生語を覚えている。
4月3日(日)
来年は合格に自信を持とう。今年のように世界史だけに頼るのは止めよう。そのためにもこの一年に悔いを残してはいけない。
4月4日(月)
小椋佳のレコードを買った。良い曲ばかりだ。
ここ数日、次男の賢二が持って来た漫画、釣りキチ三平を読んだせいか、無性に故郷、猪町の鮒釣りが懐かしくなった。できることなら勉強に疲れたとき、一日ぐらい帰郷してのんびり釣り糸を垂れたいものだ。
4月5日(火)
昨日の17時頃、豊田と田尻がレコードを借りにきた。二人が言うには入試は年々難しくなっているとのこと。果たしてそうだろうか?
今年はHO大学も受けるつもりだが、今は、一年間の苦しみの代償がHO大学なら十分だと思っている俺が居る。
4月6日(水)
12時頃から豊田・田尻と久留米に行った。俺はバイクで行こうと言い張ったが、雨が降ってきたので仕方なく電車で行くことに納得した。二人に無茶歩かされてきつかった。やはり足が無いのは辛い。今日はお袋が居らず、金を貰えず無一文。ありがたく奢って貰った。
4月7日(木)
16時頃、豊田と田尻が録音しにやって来た。俺の正直な気持ち、あまり来て欲しくない。折角、坊主にして気を引き締めたのに意味がない。加えて俺の勉強方法について干渉して欲しくない。
4月8日(金)
豊田は朝7時頃一度帰って、再度12時頃やって来て田尻と久留米にポルノ映画を見に行った。
俺はこの前の電車での久留米行きが祟って、切断した断端に傷ができて痛い。これ以上歩きたくないし、あまり外にも出たくないので断った。
井本が教えてくれた念願の「新巨人の星」を見ることができた。
4月9日(土)
このところ連日、豊田と田尻が遊びにやって来て多少いらいらしていたが、今日は北九州に行く田尻の最後の夜ということもあって、セブンブリッジに徹夜で付き合った。その状況を少し。田尻は負けが込み400までいった。奴曰く、「このままでは北九州に行けん」
この気迫に俺たちは押され、結局田尻の逆転勝ち。
4月10日(日)
田尻も北九州に行った。さぁ今日から本格的な浪人生活。豊田は一週間に一度は俺の様子を見に来てくれると言っている。
この一年に悔いを残すということは俺の一生にピリオドを打つこと。マイペースで突っ走る。
4月11日(月)
これではいけない。勉強をしているときに気が散ってつい漫画本を買いに行ったりしてしまう。こんなことをしていては危ない、直さなくては。俺の目標は唯一、KGI大学史学科に合格することだけだから。英単語の連想記憶術第一集がやっと終了した。
4月12日(火)
昨日から考えていることなのだが、俺も平凡な幸福を追求したい。でも、俺は普通の男と違って下肢障害者、結婚できない可能性が高い。なら、孤児院から3歳くらいの女の子を引き取って養女にしたい。少女漫画にあった。その為には目標を叶えて社会的地位を構築していなければならない。
解説;ほんとガキの世間知らず野郎のバカな発想だ。独身男に養子縁組斡旋してくれる施設なんかある訳ない。
4月13日(水)
毎日300円でラーメンを食うのは浪人の身分の俺には贅沢過ぎる。こんな習慣を続けていて慣れてしまったら東京での生活が思い遣られる。
近頃は昼間に勉強している。初めの頃は新幹線宿舎の子供の声が煩く感じていたが、この頃は自分の子供の頃など思い出して、微笑ましく思えだした。
4月14日(木)
どうしても眠気に勝てない。折角、朝9時に起きているというのに。
考えてみると、俺がKGI大学という目標を定めたのは高校三年の初め。『史学が好きならそれに特化した大学のKGI大学に行ってみたら』と田尻にアドバイスされたことが切っ掛けだ。自主性・主体性が全くなかった。他人の意見に流されて決めた志望校だ。今年落ちたのも頷ける。
4月15日(金)
大学に落ちたせいか、他の大学や職業をぼろくそ貶す癖がついた。この世の中はあらゆる職業があって成り立っている。こんな癖は早く直さねば。
今、少女漫画に凝っている。少年漫画と違って、少女漫画には必ず男女の愛が描かれており、愛に飢えている俺を励ましてくれる。
4月16日(土)
勉強に疲れて黙然とコタツ台の前に座って少女漫画のストーリーに癒されていると、俺の昔の環境がもう少し良かったらと只管悔やまれる。異性の友達が欲しかった。
世界史と結婚して生きるとしても、長崎県の故郷に帰るべきか、高校時代の一生の友が居るこの鳥巣に居るべきか迷う。
俺はどんなに打ちのめされても絶対に死を考えない。折角この世に受けた生をむざむざ捨てて堪るか。もし、この一年がパーになったとしても。
4月17日(日)
「ジェロニモ」を見たが、非常に良かった。考えたのだが、やはりテレビが眼前にあるとどうしても見たくなって勉強の邪魔になる。押し入れの奥に片付けた。
この頃、眠る時間がずれてきている。前は昼間に眠れなくて苦労したのに、今度は昼間に眠くなって夜中々寝付けない。どうしたことか。俺は規則正しく浪人生活を送りたいのに。
解説;このモノクロテレビは佐世保中央病院に入院しているときに、勝代叔母が俺のために買って来てくれたものだろう。
4月18日(月)
久しぶりに500円入ったので早速少女漫画を買いに行ったが、目ぼしい漫画がなかった。「純愛」という小説を買って帰ってきた。
一日中勉強していると、高校三年在学時の自分の勉強の不甲斐なさを嘆いてしまう。学校から帰ると一応勉強は始めるのだが、学校の教科の勉強が終わって、いざ受験勉強に取り掛かろうとすると急激な眠気がやってきて、目が覚めると朝。
4月19日(火)
1年ぶりに小説(純愛)を買って0時から2時間くらい掛かって全部読んでしまった。高校一年のとき、何かの付録に付いていた「灯よ消えないで」を読んで以来の感動だ。
江崎がバイクを返しに来なかったので仕方なく自転車でラーメンを食べに行った。途中で小野君に会った。須山もHO大学の推薦を蹴って浪人したそうだ。
解説;小野君って覚えがない。大野君なら分かるのだが。卒業アルバムで確かめたら1人しか居ない。写真をじっと見て記憶を辿ったが、わざわざ日記に名前を書くほど親しく喋ったりした覚えが全くない。大野君(浪人して俺と同じSNG大学に進学)の間違いか?須山は同志社大学に行った呉服屋のブンチョロ須山と、俺が住んでいた土井町の鉄道宿舎の用水路を挟んで隣、鎗田町のカワサキKT125に乗っていた宮崎大学の須山の二人居る。
4月20日(水)
国松商店の前の店で焼きそばを食っていたら、お昼のワイドショーで『霊に取り憑かれた女』というのをやっていた。
釈然としない。この世に未練を残して死んだ者は星の数ほど居る。そいつらの何パーセントが幽霊になれるか知らないが、懸命にこの世で頑張って生きている人間が一々取り憑かれていたら世話ない。死人に口無し手足無しだ。ただの脳無し気体だ。要するに何もできない。寿命を迎えずに死んであの世に行った奴は敗者。霊魂になって復活する資格なし。
4月21日(木)
昨日、小倉の伯父貴が鳥巣で仕事があったのだろう、うちに泊まりに来た。
どうせ眠くならないのならと夜中の3時までリーダースダイジェストを読んで、覚えた英単語の確認をやった。
寝る直前、高校一年のときちょっとだけ書いた日記を見つけて読んだ。我ながら馬鹿なことを書いているなと呆れる。まだこの頃は将来のことなど全く考えてなかったから当然か。
4月22日(金)
勉強は順調に進んでいる。相変わらず眠気に悩まされている。頭にきた。今日は氷水で目を覚めさせたる。
前々から自分の顔の悪さに悩んでいたが、将来の目標のために勉強しているともう何ともなくなった。俺は頭で生きて他の奴を凌いでやる。俺はヤる。昨年はまだ心の準備ができてなかった。
4月23日(土)
ラーメンに飽きたので焼きそばにしようと思い、一皿では足りないのでパンも買って食おうと、11時半頃いつもの焼きそば屋に行ったら閉まっていた。また不味いラーメンを食う羽目になってしまった。
解説;俺が行っていたラーメン屋は「まるぞの」か「とらや」だ。どっちが不味いと言っているのか分からない。
4月24日(日)
寝る前、リーダースダイジェストを見ていたら、ピューリッツァー賞を受賞したという『世界の歴史』が申し込めるようになっていた。買うか買うまいか迷っている。
相変わらず眠気に悩まされている。勉強しているときに限って強烈な眠気がやってくる。嘗めたことに、寝るときにはぴたっと収まってしまいやがる。
4月25日(月)
二日分の英単語の瞑想確認をやったら、頭の調子が悪いのか、何度やってもミスが出る。ムカついて、5回確認した上に、朝起きてからも1回やってやっとものにした。今日はいつもより遅く、13時頃に勉強をやり始めた。
解説;俺の勉強法は兎に角丸暗記すること。そのために、目を瞑って頭の中で何度も何度も反芻し、英単語の並び順まで完璧に覚えてしまう。
数学なんて人生を普通に生きる分には全く用をなさない。四則計算くらいで十分だ。だから俺は三科目受験の私学だ。
最高に脳が冴えた十代の記憶力を侮るなかれ。脳細胞が死滅しつつある今(2019年)は絶対無理。ボケないために、有名タレント・俳優の名前を忘れないようにするので精一杯。出てこなかったらネットで調べて記憶し直す。
4月26日(火)
この数ヶ月、同じような夢ばかり見る。少しでも現実味があったら夢であっても楽しいのだが、リアリティーを完全に無視して支離滅裂だ。馬鹿にしている。ふざけている。不愉快だ。
いっそのこと、夢なんていう生理現象なんかなくなってしまえばいい。そしたら人間ではなくなってしまうかも。
4月27日(水)
確かに宅浪は苦しいが、去年に比べればマシだ。なにしろ英単語もロクに覚えてなかったのだから。
「受験に受かるためには英語を勉強しないと無理!」なんて言われてビビってしまっていた俺は何とも惨めだった。
4月28日(木)
浪人は孤独に負けると言うが、まだ俺は18歳、人生は長い。たった1年の寂しさに心が圧し潰されて将来の目的を失うのはご免だ。
この頃、高校に行っている夢ばかり見る。もう高校時代は終わった筈なのに。
解説;やっぱり、俺の夢は若い頃から一貫した傾向があったようだ。ちゃんとここに書いてある。
今2019年、2017年に定年まで一年を残してMBを辞めてやったが、在職中は会社を辞める夢ばかり見ていたのに、望みを叶えて辞めてやったら今度は会社で仕事している夢ばかり見る。もう辞めて一年半も経とうというのに。
4月29日(金)
今になってみると、何と不謹慎なことを考えていたのかと呆れてしまう。今年は大学に落ちてもバイクの中型免許だけは取って、猪町に帰って二人乗りなどして郷土を走り捲ろうなんて。何と浅はかだ!
4月30日(土)
もう浪人して二ヵ月が過ぎた。英単語の連想記憶術の第二集も今日できれいに終了するだろう。
そして、明日からが関門の英熟語だ。これも二ヵ月でマスターするつもりだが、1ヵ月ちょっとで終わらせて英単語の派生語を覚えたい。
来年大学に合格したら、猪町に帰って今度こそ増本先生に会う。俺は上京する四年間の別れのため、腹一杯故郷の空気を吸うんだ。金も入るだろうから〇〇たちと美味いものでも食おう。
解説;〇〇の部分、黒塗りしている。どうしてこんなことしたのか全く記憶にない。




