表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

【守ったもの、これから守るもの】

戦いが終わった後、リトルベースに帰還したのは、陽がすっかり高くなった午後だった。


ルプス・インパルスは左前脚を大きく損傷したまま、ゆっくりと格納庫に入ってきた。紫と水色の装甲には戦いの傷跡が深く刻まれ、ところどころで煙が上がっている。それでも機体は、しっかりと自らの足で基地に帰り着いた。


フレンダはコックピットハッチを開け、疲れ切った体を外に下ろした。メイの声が、静かに響く。


《お疲れ様です、フレンダ。機体の損傷は大きいですが、修理すればまた戦えます》


「うん……ありがとう、メイ。お疲れ」


彼女は機体を優しく撫でるように触れた後、ミカのポーンX1が並んでいる方に歩いていった。

ミカはすでにアーマーを脱ぎ、作業服姿でフレンダを迎えた。彼女の青い瞳には、戦いの疲労と安堵が混じっていた。


「大尉……無事でよかったっす」


「ミカちゃんも、お疲れ様」


二人は自然と抱き合うように近づき、軽く肩を叩き合った。


「本当に……危なかったっすね」


「うん。でも、みんながいてくれたから、頑張れた」


フレンダは小さく笑った。その笑顔は、戦いの前よりも少しだけ大人びて見えた。


格納庫の入り口で、ハワード・クレインとレイチェル・フォードが待っていた。

彼らはすでに撤退の準備を整えており、残った護衛機とともに基地を離れようとしていた。ハワードは相変わらず穏やかな笑顔を浮かべていたが、その目には明らかに苛立ちが浮かんでいた。


「今回は、我々の敗北です」


彼は静かに認めた。


「しかし、これで終わりだと思わないでください。深淵は、あなたたちを簡単には見逃しません。次は、もっと大きな力で来るでしょう」


フレンダは、ハワードの顔を真っ直ぐに見つめた。


「それでも、私たちは戦うよ。みんなが安心してご飯を食べられる日常を守るために」


ハワードは小さく肩をすくめた。


「理想は美しいものですよ、大尉。ですが、現実はいつも残酷です。あなたがどれだけ抵抗しても、いつか限界が来る」


「来てもいい」


フレンダははっきりと答えた。


「その時も、私は一人じゃないから」


ミカが一歩前に出て、冷たい視線をハワードに向けた。


「次に来るなら、覚悟して来いっす。リトルベースは、もうお前たちに好き勝手はさせないっすから」


ハワードは小さく笑い、礼儀正しく頭を下げた。


「では、またいずれ」


彼らはそのまま、護衛機とともに基地を後にした。

フレンダとミカは、その背中を黙って見送った。


夜、リトルベースの格納庫の一角に、再び簡易的な食堂が作られた。

今回は、戦いの疲れを癒すための食事だった。フレンダが中心となって、残りの材料を最大限に活かした大きな鍋のシチューを作った。量はそれほど多くないが、熱々のスープと野菜、わずかな肉が、優しい香りを漂わせている。

兵士たちが次々と集まってくる。第一小隊の面々、リチャード整備班長、ガルム中尉、ビクトール中尉……みんな疲れた顔をしていたが、口元には笑みが浮かんでいた。


「大尉、本当にお疲れ様です」


ガルム中尉が、深々と頭を下げた。


「大尉が戦ってくれたおかげで、基地は守られました」


「ううん。みんなが一緒に戦ってくれたからだよ」


フレンダは、みんなにスープを配りながら優しく微笑んだ。


「今日は、遠慮なく食べて。少しでもお腹を満たして、ゆっくり休んでね」


ミカが、隣で静かにスープをすくっていた。


「大尉は相変わらずっすね。戦いが終わった直後なのに、みんなのことを一番に考えてるっす」


「だって……これが、私が守りたかったものだから」


フレンダは、熱いスープを一口飲んだ。

温かさが、胸の奥まで染み渡る。


「みんなが笑って、温かいご飯を食べられる。それが、私にとって一番大事なことなんだ」


周囲の兵士たちが、静かに頷いた。


「大尉がそう言ってくれると、俺たちも頑張れますよ」


リチャードが、油まみれの顔で親指を立てた。


「機体も、できる限り早く直しますよ。大尉」


「ありがとう、リチャードさん」


フレンダは、みんなの顔を順番に見回した。

ここにいる人たちは、みんな戦ってくれた。

傷つきながらも、彼女を守り、基地を守ってくれた。

(……私は、特別かもしれない。でも、それでも私は、ここにいていいんだ)


彼女は、そう静かに思った。

夜が更け、食堂が少しずつ静かになっていく中、フレンダとミカは最後に二人で残っていた。

二人は、小さなテーブルを囲んで、最後のスープを分け合っていた。


「ミカちゃん」


「なんっすか、大尉?」


「今日の戦い……本当にありがとう。ミカちゃんがいてくれたから、頑張れた」


ミカはスープの器を置き、フレンダの顔を真っ直ぐに見つめた。


「大尉が戦うと決めたなら、私も一緒に戦うのは当然っす。昔から、そうだったっすから」


彼女は少しだけ、声を柔らかくした。


「大尉は、私にとって大事な戦友っす。検体Fとか、そんな呼び方をする連中には、絶対に渡さないっす。これからも、ずっと」


フレンダの瞳が、わずかに潤んだ。


「ミカちゃん……」


「これからも、よろしくっす。大尉」


二人は、静かに笑い合った。

メイの声が、インカムから優しく響いた。


《私も、いつまでもフレンダの側にいます。これからも、よろしくお願いします》


フレンダは、インカムに向かって小さく頷いた。


「うん。メイも、ずっと一緒にいてね」


夜の格納庫に、ルプス・インパルスが静かに鎮座していた。

傷ついた機体は、すでに整備が始まっていた。紫色の装甲が、照明に照らされて美しく光る。

フレンダは、機体を見上げながら、小さく呟いた。


「ありがとう。今日も、みんなを守ってくれて」


彼女は、ゆっくりと目を閉じた。

戦いは終わった。

しかし、これで全てが解決したわけではないことを、彼女はわかっていた。


深淵の影は、まだどこかに潜んでいる。

次は、もっと大きな力でやってくるかもしれない。

それでも、フレンダは前を向いていた。


(私は、戦う。みんなが温かいご飯を食べられる世界を守るために。ミカちゃんやメイと一緒に)


彼女は静かに微笑んだ。

夜の風が、格納庫を優しく通り抜けていく。

その風は、どこか温かく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ