【裏切りの怪鳥】
フレンダとKARMAメイが操るロード・インパルス【Reloadead】がリトルベースを出発したのが翌朝の5時だった。
広がる広大な荒野を走りながら、フレンダはナイトアーマー【ビアンコ】を纏いコンソールを操作する。
《フレンダ、本部襲撃に関する追加情報です。リトルベース第一小隊より、襲撃犯のヘキサギアは巨大な鳥型であるとのこと。世代区分は第三世代、まさかとは思いますがウィンドフォールでしょうか?》
「ウィンドフォールは特務部隊のナイトストーカーズって言う連中が運用してるヘキサギアだよね?」
《はい、機動性を重視した第三世代ヘキサギアです。秘密裏に組織されていると噂の特務部隊ナイトストーカーズで運用されているとのこと》
「LAの特務部隊がこんな直ぐに分かるような証拠を残すとは思えないよ。もっと偽装工作とかきっちりやるはず、それこそMSGVFとSANATに敵意が向くように、ね」
《……ヴァージニア・アースクライン。彼女は何を考えているのでしょうか?》
「わからないよ、白堊理研は誰に恨まれてもおかしくない事をしてきたからね。白の女王様にも何かしでかしたんじゃないかな?」
《或いは、ミカのような人体実験の被験者による復讐でしょうか。可能性としては一番高いです》
「……考えたくはないけど、多分そうだよ」
フレンダは操縦桿を握りしめて、ロードインパルスを走らせ続けた。
荒野を越えて、幾つかの街道を通り山々の頂を登りきり、眼下に見えてきたのは凄惨な光景だった。
立ちのぼる黒煙と重篤なエレメント汚染。
まるで人の侵入を拒むような地獄の底のようだ。
「こちらリトルベース、フレンダ・ディーコン大尉です。リトルベース第一小隊聞こえますか?」
フレンダがインカムに声を掛けると直ぐに返事があった。
《リトルベース第一小隊、ガルム・リーディア中尉であります。大尉殿も来てくださったのですね》
「そうだね、状況はどう?」
《はっ、酷いものです。生存者はほぼゼロと言っていいでしょう。この重度のエレメント汚染で捜索が難航しています。すでに捜索開始から72時間以上が経過している為、望みは期待できません》
「了解、襲撃犯の追加情報はある?」
《数少ない生存者の証言を纏めますと、LA内でも極秘裏に開発されていた、レイブレードを主兵装とする猛禽類型ヘキサギアとのことです。
機体名称は【ゼニス・リヴェール】》
「ゼニス・リヴェール……乗り手のガバナーの情報は?」
《……乗り手の情報ですが……》
ガルム中尉がそこで言い淀む。情報はある、ただその真偽を信じたくないのだ。
「中尉、気持ちはわかる。教えて」
《………白鳳嘴…です》
白鳳嘴、とあるエクスアーマー・ケツァールの装着者の異名だ。
白堊理研本部を壊滅させた襲撃犯は、やはり身内の裏切り。それも復讐だったのだ。
「了解、中尉以下第一小隊は汚染区域外へ一時退避し休息を取れ。これは命令です」
《……ありがとうございます、大尉》
エクスアーマーの装着者は数多くない。白麟角のような特別な名前持ちの英雄は更に少数だ。
その内の1人、エクスアーマー・ケツァールの英雄【白鳳嘴】がLAを裏切り白堊理研を壊滅させた。
ゼニス・リヴェールという、恐らく第三世代の強力なヘキサギアを乗りこなして、己の復讐を完遂する為に。
白堊理研には敵が多い。内外は勿論、恨みつらみは数しれない。倫理を無視した人体実験の数々は、数多くの犠牲を強いてきた。
だが、白堊理研は戦場に行く兵士達だけの企業ではない。
民間人への食料や薬剤の供給も担っていたLA内で非常に重要なポジションの企業だったはずだ。
白堊理研本部が壊滅したことで、民間人の多くが飢えに苦しみ、薬が欠乏し、死者が多く発生するだろう。
その苦しみと悲しみは、また新しい復讐を生む。
フレンダはロードインパルス【Reloadead】を走らせながら、何処にいるのかも分からない復讐者に問いかける。
復讐は何も生まない。何より、ご飯が不味くなる。
「……あなたの気持ちが分からない訳じゃないけど、明日のご飯の味を落とされるのは許せない」
《……フレンダ、まもなく重度エレメント汚染区域に入ります。ナイトアーマーのヘルメットを着用し気密を確保してください。いくらあなたでも、レイブレードによる汚染はきついはずです》
「了解だよ、メイ。独り善がりな復讐者さんの手がかりを絶対に見つけ出してやる!」
フレンダとメイが重汚染区域に入った時には、すでに生存者の姿はなく、捜索隊も汚染区域外へ撤退していくところだった。
フレンダはメイの高感度センサーを最大稼働させて手がかりを探すも、レイブレードによる重エレメント汚染で何もかもがめちゃくちゃになり、手がかりらしいものは全て失われていた。
「リトルベース第一小隊、聞こえますか?こちらフレンダ・ディーコン大尉です」
《リトルベース第一小隊、聞こえておりますフレンダ大尉。いかがされました?》
「現在白堊理研本部重汚染区域内を捜索中ですが、エレメント汚染が規定値を大幅に超えています。第一小隊はリトルベースへ帰還し、防衛線の構築に加わってください」
《意見具申よろしいでしょうか、大尉》
「許可します」
《大尉も我々と共に防衛線の構築に加わるべく、リトルベースへ戻るべきです。現在白堊理研の残存勢力たる我々は根無し草のヘテロドックスと言っても過言ではありません。戦力は少しでも多いほうが良いかと》
「そうかもしれない……これは私のわがままになると思う。ご飯を不味くする奴は許せないんだ、だから私は復讐犯の捜索を続行します。ミカちゃんに何か手土産を持って帰りたいんだ」
《………大尉の食欲は底なしですからね。了解しました、第一小隊はリトルベースへ帰還し防衛線の構築に加わります。とびっきりのご馳走を用意して待ってますから、大尉も必ず帰ってきてくださいよ?》
「もちろん、楽しみにしてるから特盛でお願いね!」
フレンダは自分が教導した第一小隊の面々の顔を思い浮かべながら、ロードインパルス【Reloadead】のハンドルを握りしめる。
「さて、手掛かりもなく当てもない。分かってるのは犯人の予想だけ、どうしようかね」
フレンダは腕組みをしてコンソールを操作する。
《フレンダ、一度汚染区域外へ移動しましょう。このままでは機体が持ちません》
「了解だよ、メイ。じゃあ行こうか」




