【白堊の終焉】
【主人公】
フレンダ・ディーコン大尉(27歳、女性)
装備・ナイトアーマー【ビアンコ】
・リバティー・アライアンス所属
白堊理研第八基地リトルベース教導隊隊長
・乗機
ロード・インパルス【Reloadead】
・相棒KARMA・メイ
身長176cm、体重52kg。金髪ショートボブ碧眼、感情豊かによく食べよく眠りよく働く兵士。
特殊体質でヘキサグラムの汚染を殆ど受けない。
極限環境への耐性が非常に高い。
尋常ならざる回復力と体力がある。
任務には真面目に取り組む。任務明けの温かく美味しいご飯が何よりの楽しみ。
ミカ・フォルクス少佐(バディ当時は少尉)と共に様々な任務をこなして少尉から大尉へ昇進。リトルベース教導隊の隊長として新兵を鍛えている。
KARMAである相棒のメイとは長年の付き合い。
正体は癌細胞の化け物であるフレデリカ・マーキュリーの体細胞から作られたクローン(検体F)。クローン特有の寿命問題は克服しており、記憶操作と特殊体質調整がされている。
【相棒】
ミカ・フォルクス少佐(26歳、女性)
(本名、蒼野三日月)
装備・アーマー・ポーンX1(黒色)
リバティー・アライアンス所属
白堊理研第八基地リトルベース司令官。
青いミドルボブの愛らしい顔立ち、その青目は常にジト目で気怠げだが、佇まいには隙がない。身長159cm、体重42kg。
速度とパワーによる暗殺術の使い手で、白堊理研人体強化計画【Blue Velvet計画】の成功例の1人。
美容オタクの潔癖症。フレンダとはバディを組んでいた。語尾に、〜っす。が付く。
リバティー・アライアンス北米地区・白堊理研第八基地・リトルベース。
荒野の中に立つこの基地の司令室に、その知らせが届いたのは日が沈む夕方だった。
白堊理研本部、何者かに襲撃され壊滅。
「……は?」
司令室の無駄に頑丈なデスクにて、リトルベース司令官のミカ・フォルクス少佐は自分の情報端末を落とした。
「あらら、落としてるよミカちゃん。画面が割れちゃったら大変だよ?」
かつての相棒の部屋だからといって、食堂ではなく何かと司令室で昼食を取るフレンダ・ディーコン大尉がミカの端末を拾い上げる。
しかし、そこに浮かぶ文字の羅列を見て、フレンダの表情は一気にこわばった。
自分たちの所属する勢力の本拠点が壊滅した。まさかとは思った。
この荒廃した世界で、人間の尊厳を守ろうと旗を掲げる企業連合リバティー・アライアンス(LA)と、世界の支配者である人工知能SANATに従うMSGヴァリアントフォース(VF)は戦争状態である。その戦力差は常に上下しつつも、拮抗状態ではある。複数の企業が集結しているLAの一角企業である白堊理研の本部を壊滅させることなど、VFもそう簡単にはできないはずだ。
「ま、まずは情報収集を行うっす。リトルベース基地全域に通達、ヘキサギア第一小隊は白堊理研本部へ偵察を行え!」
ミカは冷や汗を手の甲で拭い、すぐに指令を出した。
「ミカちゃ…、じゃない。ミカ少佐、私の出撃許可を」
フレンダは慌てて言い直して敬礼する。格納庫に駐機してある愛機・ロード・インパルス【Reloadead】の搭載AI、KARMAメイに機体の出撃準備の連絡をする。
「メイ、ロード・インパルス急速発進用意!私が行くまでにエンジン温めておいて!」
≪ガバナー・フレンダ・ディーコンからの連絡を受信しました。フレンダ、いつでもいけます≫
フレンダのインカムにメイの声が響く。フレンダはそのまま司令室から格納庫に向かおうとするが、それを上官であるミカは許さなかった。
「待てっす、フレンダ大尉。貴官にはリトルベースでの待機を命じるっす」
「え、でも私も本部に行ったほうが……」
「情報が正確でない上に、敵の詳細が未知数っす。大尉とメイはこの基地の主戦力、もしリトルベースが襲撃されたときに備えておくべきっす」
ミカの蒼眸がフレンダを射貫く。以前ならばフレンダとミカは真っ先にリトルベースを飛び出して敵のもとへ向かっていた。自分たちならばどんな敵が相手でも、悉く倒してきた実績があるからだ。
「ダメっすよ、大尉。今の私たちはただの一兵卒ではないっす、指揮官としての義務を果たさなくちゃいけないっす。私たちの双肩にはリトルベースのすべてがかかっているっす」
フレンダはミカの言葉に唇を強くかみしめながら、頭に上った血を必死に冷ましていく。
「……了解、ミカ少佐」
十分後、リトルベースのヘキサギア第一小隊はロード・インパルス三機編成で出撃した。
第一小隊の面々は、フレンダが教導した最初の隊員たちだった。魔術師の母から受け継いだ教えを徹底的に叩き込んでいる。どんな敵が相手でも大丈夫なはずだ。
教導隊隊長であるフレンダは第一小隊の影が見えなくなるまで、格納庫から見守っていた。
不安そうな顔つきのフレンダを見て、新しく赴任したリチャード整備班長が声をかけてくる。
「心配しなくても大丈夫ですよ大尉。何せ大尉が教導した面子だ、第一小隊のロード・インパルスは全機整備調整完了しています。俺が整備班長として責任をもって進言します」
「……うん、そうだね。ありがとうリチャードさん」
まだ若い、フレンダより少し年齢は上なだけの整備班長は、煤とオイルで汚れた手拭いを頭に巻いて言う。
「さん付けはやめてくださいよ、大尉。俺なんか大尉より全然階級は下なんですから」
「ふふ、そうだね。その言葉を信じるよ、整備班長殿?」
「へへ、大尉殿も意地が悪いですなぁ」
フレンダとリチャードはお互いに拳をぶつけて各々の持ち場へと戻っていった。
リトルベース第一小隊が白堊理研本部の様子を偵察しに出発して三日後。
第一報がリトルベースの管制室に届いた。
≪こちらリトルベース第一偵察小隊、状況を報告します≫
「こちらリトルベース管制室、ミカ・フォルクス少佐。本部の詳細は?」
第一小隊のカメラが起動され、フレンダとミカ、そしてリチャード整備班長を含め、リトルベースの主要人物がモニターに釘付けになる。
≪状況を報告します、白堊理研本部は重度のエレメント汚染により確認不能。しかし本部建物の地点より黒煙を複数確認。現在生存者の捜索に各地の基地より部隊が集結中です≫
「………」
マイクを握るミカの手に無意識に力が入る。
カメラに映し出されたのは、白堊理研本部がある地点から黒い煙がいくつも上がり、第一小隊のバイタルモニターに付属するエレメント汚染計測装置の矢印が振り切れそうになっている様子だった。
「汚染計測値が振り切れそうってことは、この場所でヘキサグラムの崩壊が起こったことを意味します。フォルクス少佐、考えたくはないですがこれは……」
リチャードがその事実を言い淀む。ヘキサグラムの崩壊現象を起こして本部を壊滅させるだけの火力。それは、リバティー・アライアンスにおいて一つしかない。
「レイブレード……っすね」
光の刃、レイブレード。それはアースクラインバイオメカニクスが開発したLA最強の武器。ヘキサグラムを崩壊させることによってあらゆる全てを切断する必殺の刃。
そして、その武器の名を冠する最強の獣・レイブレード・インパルス。
まさかとは思いたかった。味方のはずのレイブレード・インパルスがLAに反旗を翻したなど思いたくもなかった。
白堊理研は確かに敵が多い。LA内でも白堊理研に反発する勢力は存在する。
それだけのことを、白堊理研はやってきたからだ。
フレンダという存在を作り出したクローン技術。ミカをはじめとして、モノケロスやケツァールのようなエクスアーマーの着用者に強いた人体強化手術。
生命倫理を無視した様々な人体実験を白堊理研は行ってきた。
買った恨みはLA内外数知れず。中には白堊理研に復讐のために生きているものも少なくないだろう。
ミカもその一人であった。自分の体を弄り回して殺し屋に仕立て上げた白堊理研の科学者たちを恨まない日などなかった。しかし、この体は今や自分だけのものではない。自分個人の感情に左右されていい立場ではなくなった。
「……第一小隊に通達するっす」
ミカは声を震わせて絞り出す。
「第一小隊は偵察任務を続行、集結しつつある部隊と合流して生存者を捜索し詳細を報告するっす」
≪了解です、少佐。第一小隊アウト≫
ミカは肩を震わせながら管制室の椅子にもたれかかった。咄嗟にフレンダがミカを支え、その顔を不安そうに覗き込もうとして、止めた。
「……フレンダ大尉、私に余計な詮索は無用っす。今はとにかくこの基地を守ることを考えるっす」
「……うん。リトルベース管制室より基地全域に通達、第一種警戒体制で各々持ち場につけ!本部を襲撃した犯人がこちらを襲ってこないとは言い切れない、各員万全の体制を維持せよ!」
「「はっ」」
フレンダの命令でリトルベースは警戒態勢に入った。白堊理研本部を襲撃した犯人はまだわからない。しかし、その刃は身内の者が所持している可能性が高い。裏切者を迎え撃つために、リトルベースは備えなければならない。
第一小隊の第一報から更に三日後。
本部に集結した複数の部隊からの報告で、襲撃犯の正体が徐々に明らかになってきた。
数名の生存者の証言と戦闘ログを照らし合わせ、襲撃犯はLAの識別信号を放っていたことが判明した。更に、現地の汚染具合から見て、間違いなくレイブレードが使われたこと。および、襲撃犯が搭乗していたであろうヘキサギアが、アースクラインバイオメカニクス社製であること。うっすらとだが、その形状がLA全軍に通達された。
「……ヴァージニア・アースクラインッ!!あの女の仕業っすか!!」
司令室で、ミカは報告されたデータを握りつぶしそうになった。
「ミカちゃん落ち着いて、まだ完全な確証が得られた訳じゃないから……」
フレンダは情報端末をミカから取り上げて相棒を宥める。
LAの代表とも言うべき女、白の女王ヴァージニア・アースクラインによる身内企業の粛清行為等、フレンダは考えたくもなかった。
自分の育ての親であったヴァネッサ・ヘルシング少佐の裏切りを経験していただけに、フレンダはこのような状況を好まない。
《フレンダ、ミカ、恐れる必要はありません。現在がいかなる状況であろうとも、私達の家は我々がいる限り無敵です。何人たりともこの領域を侵すことはできません》
「そうだよミカちゃん、私達がいるから大丈夫。敵の正体が味方の裏切り者でも、私達がいればなんとかなるよ。リトルベースは何が何でも守るから」
フレンダは精一杯にミカを励まして元気づけようとした。無意味にポーズをとって腕の力こぶを見せつけようとする。
ミカはそんな空回り気味の相棒を見て、小さくため息をつく。
「大尉は全然変わらなくて羨ましいっす。こっちは朝から晩まで書類と格闘してるっていうのに……能天気っす」
「わ、私だって新兵の教導頑張ってるもん!みんな自慢の兵士に育ってるんだよ、強いしいっぱい食べるし!」
「大尉のバカみたいな食い意地まで受け継がせなくていいっす、リトルベースのエンゲル係数が右上がりすぎて困ってるんですから」
ミカは椅子に掛けていた上着を羽織り、フレンダをじっと見た。相棒、いや上官の真剣な視線にフレンダは直ぐに背筋を正して敬礼する。
「フレンダ・ディーコン大尉及びKARMAメイ。ロード・インパルス【Reloadead】に出撃命令、白堊理研本部を襲撃した犯人の更なる情報を収集せよ」
「はっ、少佐!」
フレンダとミカはお互いの拳をぶつけてから各々の持ち場へと向かっていく。




