【集団戦の決着】
朝の司令室はいつもの静けさとは少し違う空気に包まれていた。
フレンダはミカ少佐とガルム中尉、そして第一小隊の主要メンバーとともに、ホログラムに映る地図を囲んでいた。前回までの偵察で得た情報を基に、ブロッケードアイビーに対する本格的な作戦を練るためだ。
「これまでの戦いで大尉が集めてくれたデータが役に立ちます」
ガルム中尉が落ち着いた声で言った。
「射撃間隔の乱れと主砲の再調整に時間がかかっている点。これを突けば相手の反応を鈍らせられる可能性が高いです」
ミカが小さく頷いた。
「ただ、単独では限界があるっす。ブロッケードアイビーの火力は依然として強力です。そこで、第一小隊を投入して集団戦で挑む方向で考えているっす」
フレンダは静かに周囲を見渡した。第一小隊の面々は、真剣な表情でこちらを見返してくる。
「作戦の内容はこうっす」
ミカがホログラムを操作しながら、説明を始めた。
「フレンダ大尉がルプス・インパルスで囮となり、ブロッケードアイビーの主砲を引きつける。その隙に第一小隊が側面から接近し、脚部を集中攻撃して動きを封じる」
部屋の中に、わずかな緊張が走った。
「大尉が最も危険な役割を担うことになるっす。主砲の攻撃を長時間引きつける必要があるから、被弾のリスクも高い」
ミカがフレンダを見て念を押すように言った。
フレンダは小さく息を吐いて頷いた。
「分かってる。それでも、私がやる」
ガルム中尉が少しだけ驚いたように私を見た。
「大尉……」
「これまで私は一人で戦ってきた。でももう一人じゃ限界がある。みんなと一緒に戦うなら、ちゃんと役割を分担した方がいい」
フレンダは静かに周囲を見渡した。
「私が主砲を引きつける。それが今、私にできることだよ。みんなはその隙に脚を壊して動きを止めてほしい」
第一小隊の面々が揃って頷いた。
「了解です、大尉」
ガルム中尉が、はっきりと言った。
「我々が脚を破壊するまで、絶対に耐えてください」
フレンダはは小さく微笑み返す。
「任せて。ちゃんと守ってみせる」
そして、ミカが最後に静かに言った。
「午前中に出撃する。準備を整えてくれっす」
全員が立ち上がりながら、敬礼した。
「了解」
格納庫では、すでに第一小隊のロード・インパルス部隊が準備を整えていた。
フレンダはルプス・インパルスの前に立ち、機体を見上げた。紫と水色の装甲が、朝の光を受けてわずかに輝いている。
「また頼むよ」
《はい。今回の作戦、成功させましょう》
メイの声が静かに響く。
フレンダはコックピットに乗り込み、シートに深く腰を下ろした。操縦桿を握りしめながら、静かに息を整える。
「みんなが温かいご飯を食べられますように。今日こそ、ちゃんと守る」
ルプス・インパルスが格納庫を出発した。第一小隊の機体たちもそれに続いて基地を離れていく。
現地に到着したのは、約四十分後だった。
補給ルート付近の岩肌がむき出しになった場所に、ブロッケードアイビーが鎮座していた。六本の長い脚を地面に固定し、その背中から異様に長い主砲が突き出ている。
フレンダは機体を低く構え、第一小隊に通信を送った。
「これより作戦を開始する。私は主砲を引きつける。みんなは隙を見て脚部に接近して」
《了解です、大尉》
ガルム中尉の声が返ってきた。
フレンダは深呼吸して、ルプス・インパルスを前進させた。
ブロッケードアイビーが、ゆっくりと主砲をこちらに向ける。六本の脚がわずかに動き、砲身の角度を調整しているのが分かった。
「来る……」
グラビティコントローラーを起動し、機体の質量を軽くした。
次の瞬間、青白い閃光が走った。
地面が大きく爆ぜ、土砂が舞い上がる。フレンダは即座に機体を横に飛ばし、爆風を背中に受けながら別の岩陰に飛び込んだ。
「っ!」
《主砲の射撃を確認。精度は高いですが反応速度にわずかな遅れが見られます》
メイの声が冷静に告げた。
フレンダは歯を食いしばりながら、再び機体を動かした。
「まだだ……もっと、こっちを見て!」
フレンダは意図的に機体を大きく動かし、ブロッケードアイビーの注意を自分に引きつける。主砲が再びこちらを捉え、連続して砲撃が飛んでくる。
爆風を何度も背中に受けながら、ルプス・インパルスは必死に機動を続けた。
「まだ……まだ引きつける。みんなが近づくまで、絶対に耐える」
第一小隊は、ブロッケードアイビーの右側面から接近を始めていた。
ガルム中尉が先頭に立ち、ロード・インパルスを低く構えながら岩陰を縫うように進む。その後ろに、部下の機体たちが続いていた。
「大尉が主砲を引きつけてくれている。今のうちに距離を詰める」
ガルム中尉が通信で指示を飛ばした。
「脚部を狙うぞ、集中攻撃だ」
ロード・インパルス部隊が、一気に加速した。
ブロッケードアイビーは、フレンダに集中しているせいか、側面からの接近にすぐには気づいていない。主砲は執拗にルプス・インパルスを狙い続けていた。
「あと少し……」
ガルム中尉が歯を食いしばった。
「大尉、すみません。もう少しだけ耐えてください!」
フレンダは何度も砲撃をかわしながら、必死に機動を続けていた。
被弾を最小限に抑えるため、グラビティコントローラーを最大限に活用し、岩陰を利用して身を隠す。主砲の射撃が激しくなるにつれ、爆風が機体を激しく揺らした。
「くっ……!」
《損傷が蓄積しています。装甲の損耗が進行中です》
メイの声に、わずかな緊張が混じっていた。
「まだ……大丈夫!」
歯を食いしばりながら、通信を送った。
「みんな、状況はどう?」
《接近中です、大尉。あと数十秒で脚部に到達します》
ガルム中尉の声が返ってきた。
フレンダは小さく息を吐いた。
「分かった。もう少しだけ……引きつける」
ブロッケードアイビーの主砲が再び光った。
即座に機体を横に飛ばした。青白い閃光が間一髪で機体の横を通過し、地面を大きく抉る。
爆風が背中を強く叩いた。
「っ!」
《左側面に中程度の損傷。機体のバランスに影響が出ています》
メイの声が即座に報告した。
機体を立て直しながら静かに呟いた。
「まだ、倒れないよ……みんなが来るまで、絶対に耐える」
第一小隊は、ついにブロッケードアイビーの脚部に到達した。
ガルム中尉が先頭に立ち、ロード・インパルスのトリックブレードを展開する。
「今だ!脚部を集中攻撃!」
部隊が一斉に攻撃を開始した。ロード・インパルスの武装が、ブロッケードアイビーの脚に次々と撃ち込まれる。
ブロッケードアイビーが、初めて大きな反応を見せた。主砲の照準がわずかに乱れ、六本の脚が大きく揺れる。
「効いてる……!」
ガルム中尉が声を上げた。
「続けろ!もう一脚を潰す!」
部下たちが呼応し、さらに攻撃を加える。ブロッケードアイビーの脚部が、次々と破壊されていった。
その瞬間、ブロッケードアイビーの主砲が、大きくフレンダから逸れた。
「今だ!」
フレンダは即座に通信を送った。
「ガルム中尉!もう一脚を!」
《了解です!》
ガルム中尉がさらに加速し、ロード・インパルスの全火力を一つの脚に集中させた。
ブロッケードアイビーの脚が、大きく崩れ落ちる。
機体が大きく傾き、主砲の照準が完全に乱れた。
「これで、動けない……!」
フレンダは息を呑んだ。
「やった……!」
ブロッケードアイビーは、脚部を複数破壊されたことで、動きを著しく失っていた。六本の脚のうち、三本が機能不全に陥り、巨体が大きく傾いている。
主砲も、正確に狙うことができなくなっていた。
「これで……動きを封じられる」
フレンダは通信で指示を飛ばした。
「全員、撤退!これ以上深入りはしない!」
第一小隊が素早く離脱していく。フレンダはその後ろを追いながら、ルプス・インパルスを反転させた。
ブロッケードアイビーは追撃してこなかった。ただ大きく傾いたまま、じっとその場に留まっている。
フレンダは息を吐きながら、機体を低く構えた。
「これで……補給路は安全になる。みんなが、安心してご飯を食べられるようになる」
基地に帰還したのは午後近くだった。
格納庫で機体を降りたフレンダは、第一小隊の面々とともに整備班に頭を下げた。ガルム中尉が、私の隣に並んで静かに言った。
「大尉、お疲れ様でした」
「ガルム中尉も」
フレンダは小さく微笑んだ。
「みんなの協力がなければ絶対にできなかった」
ガルム中尉が、静かに頷く。
「大尉が主砲を引きつけてくれたからこそ、脚に近づくことができました。……本当に、感謝しています」
フレンダは少し照れくさくなって、目を逸らした。
「お礼を言うのはこっちの方だよ、みんながいてくれたからちゃんと守ることができた」
第一小隊の部下たちが、揃ってこちらを見て笑った。
「大尉、ありがとうございました!」
フレンダは小さく手を振って、笑い返した。
「これからもよろしく頼むよ!」
夜の食堂は久しぶりに賑やかな空気に包まれていた。
第一小隊の面々も一緒に食事をとることになり、大きなテーブルを囲んでいた。リチャード班長が特大の鍋を持ってきて、にやりと笑う。
「今日は特別だ、みんなで食べましょう!」
フレンダは大きな丼を前にして、スプーンを手に取った。温かいシチューが湯気を立てている。
周囲を見渡すと、第一小隊の部下たちが笑いながら食事を楽しんでいる。ガルム中尉も珍しく少しだけ表情を緩めていた。
フレンダはスプーンを口に運びながら、静かに思った。
(これが、守りたかったもの。みんながこうして笑って温かいご飯を食べられる時間。今日の戦いで少しはそれに近づけた)
ミカが隣に座り、静かに言った。
「大尉、お疲れっす」
「ミカちゃんも」
フレンダは小さく微笑んだ。
「作戦、成功したっすね」
「うん。でも、まだ完全に終わったわけじゃない」
スプーンを動かしながら、続けた。
「ブロッケードアイビーの動きを封じたけど、完全に倒したわけじゃない。いつかまた動き出すかもしれない。でも、今はこれでいい。みんなが安心してご飯を食べられるようになった。それだけで、十分だよ」
ミカが静かに頷いた。
「大尉らしいっすね」
フレンダはもう一口、温かいシチューを口に運んだ。
熱い。優しい味が、疲れた体に染み渡る。
周囲の笑い声が、心地よく耳に届く。
「また、明日も……みんなと一緒にご飯を食べよう」
フレンダは小さく呟きながら、スプーンを動かし続けた。




