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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第91話 揺らぐ現場

 現場の動きが、わずかに鈍った。


 報告は届いている。

 判断もされている。


 だが、

 その間に、僅かな“間”が生まれていた。


「……決定が遅れています」

 若手事務官が言う。

「数分単位ですが」


 数分。


 平時なら問題ない。


 だが、現場では違う。


「名前を書く前に、

 確認が増えているようです」


 レインは、黙って報告書を読む。


 そこには、丁寧な記述が並んでいる。


> 判断理由:回復見込みを再確認

> 判断理由:他案との比較検討


 以前より、正確だ。


 だが、遅い。


 午後。


 ルカが、苛立ちを隠さず言う。


「……考えすぎてる」


「記名の影響です」

 若手が答える。

「責任が明確になった分、慎重になっている」


「慎重で間に合うならいい」


 ルカの声は低い。


「だが、間に合わなかったら意味がない」


 沈黙。


 レインは、静かに言う。


「記名は、止めない」


「止めろとは言ってない」


 ルカは即答する。


「だが、現場は止まれない」


「中央は止まれる」


「現場は止まれない」


 同じ言葉が、違う重さでぶつかる。


 俺は、口を開く。


「止まる場所と、止まれない場所を分けろ」


 全員がこちらを見る。


「記名は中央で担保する」

「現場は、後で記名する」


 レインが考える。


「事後記名……」


「判断の瞬間に手を止めるな」


 短い指示。


 ルカが頷く。


「それなら動ける」


 夕方。


 制度が微調整される。


> 緊急時判断は即時実行

> 記名は事後記録可


 速度が戻る。


 だが、重さは消えない。


 夜。


 レインが、静かに言う。


「重さは残したまま、

 速度を維持する」


「そうだ」


「難しいですね」


「簡単な制度は、すぐ壊れる」


 彼は、少しだけ笑う。


 初めて、余裕のない笑いだった。


 帳簿には、

 遅れた記名が並ぶ。


 その一つ一つが、

 時間差で重くなる。


 成り上がりは、

 速さか重さかを選ぶ物語ではない。


 **両方を抱えたまま、

 進み続ける物語だ。**


 外は静かだ。


 だが、

 制度の中では、

 まだ揺れが残っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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