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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第四章 冒険者のエミリアナ

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四十七幕

 エミリアナは雪の下から丁寧に掘り起こした雪割草を保存袋に移した。夢で見た雪割草と名前だけは同じでも、それ以外は全くの別物だ。

 今世での雪割草は真冬の早朝に雪を割って緑の花を咲かせる。日が昇るとしゅんと引っ込んで雪の下に隠れてしまう薬草だった。冬限定の依頼で初心者向けのメジャーな薬草採取である。

 エミリアナが保存袋を木箱の中に収めると、いっぱいになった。全部で六つの袋が入っていて、依頼分よりも一つ多かった。初めての依頼で念の為に多めにとった。ギルドの査定で不可になったらもう一度採り直しになってしまうからだ。


「フィデル。これで大丈夫かな?」

「ああ、丁寧に採取されてる。高品質の評価をもらえるだろう」

「ホント!」

 エミリアナはぐっと拳を握ってガッツポーズだ。

 ライネス領都での平民生活ではF級の仕事を請け負ってもよいと許可が出て、念願の冒険者活動デビューである。プリン専門店へのアイディアを出した後は実行はテオドラにお任せだ。エミリアナはフィデルに付き添われて冒険者の依頼を受けていた。

 初めてのお使い状態で興奮しているエミリアナに苦笑したフィデルが彼女の手をそっと握って開かせた。


「エミリ、手が赤くなってる。気をつけないと霜焼けになってしまうぞ」

 エミリアナは手袋越しだとうまくシャベルや袋を扱えないからと素手で採取していた。夢中になっていて気づかなかったが、かじかんで真っ赤になっている。

 フィデルは息を吹きかけたり、大きな両手で握り込んで温めてくれるが、エミリアナは赤くなって目をうろうろとさせた。

「え、えっと、フィデル。あのう・・・」

「息子よ、父のも見てくれんのか?」

 エミリアナには天の助けで、フィデルにはお邪魔虫の声の主はレイクスだ。


 レイクスはカルサダ地方から戻ってから休暇をもらっていた。カルサダ地方への長期出張分の休日をまとめて取らせるから、新しい家族との交流を図るようにとのイラリオ()からのお達しだ。

 表向きは休暇扱いだが、引き続きエミリアナの護衛だった。

 イラリオの筆頭護衛なのにそれでいいのかと思ったが、エミリアナに何かあるとルイシーナが悲しむからと、イラリオは一番信頼できるレイクスを警護につけていた。養子になったフィデルとの交流はただの口実で、ついで扱いである。

 エミリアナの安全に配慮してもらえるのはありがたいが、エミリアナと兄妹以上の関係に進むのはさり気なく妨害されている。あらゆる意味でエミリアナの警護は完璧だった。

 フィデルはむすっと顔をしかめた。


「・・・父上も新人活動する必要はないのでは?」

「せっかくだからな。冒険者活動を体験してみるいい機会だろう?」

 レイクスはしれっとしてエミリアナにマグカップを差し出した。中身は温かいお茶だ。両手で持っていれば冷えた手が温まるという配慮である。

 エミリアナは感謝して受け取ったが、フィデルの内心では『いいところを邪魔された』と舌打ちしたい気分だ。


「さあ、フィデルもお茶を飲んで温まりなさい。ラモナが用意してくれたお茶だからな、うまいぞ」

 新しく母となったラモナの名をだされると、フィデルは弱い。

 ラモナはおっとりとして少女のような女性だった。フィデルが養子になったのがよほど嬉しいようで、ずっと浮かれ気味ではしゃいでいた。初対面ではしゃぎすぎて咳き込んだ途端に吐血したのには心底から驚かされたが。

 レイクスは「ああ、ほら、そんなに興奮しないで」と甲斐甲斐しく世話を焼いていて慣れた態度だったが、フィデルは固まって動けなかった。


「フィデルくん、驚かせてごめんなさいねえ。よくあることだから、気にしないでね」

「よくあることなんですか⁉︎」

 フィデルは思わず突っ込まずにはいられなかった。吐血がよくあることとか、今までの人生ではお目にかかったことがない事態である。

「ラモナの体質はガラス細工のように繊細だが、鋼鉄のメンタルの持ち主だからな。吐血くらいで取り乱してはレイクス家ではやっていけないぞ」

 なぜか、自慢げのレイクスにフィデルは思いきり脱力するしかない。

 ラモナの専属侍女もテキパキと動いて薬湯を用意したり、吐血の後始末に慣れた様子だ。フィデルだけが未だに慣れなくて、ラモナの体調に日々戦々恐々としている。


 レイクス家は士爵家の割に使用人が多かった。ラモナの実家は裕福な子爵家で、実家から使用人を派遣してくれているそうだ。

 実家では病弱な娘の嫁入りは諦めていて、一生実家で静養させるつもりでいたら、レイクスから熱心に口説き落とされての婚姻だ。実家は病弱な娘が無理せずに暮らせるように心配りしていた。

 使用人の給与は実家とレイクス自身の稼ぎから半々で出しているそうだ。どちらも自分が出すと言って譲らなかったから、半々で妥協した形だと聞いた。

 養子になったからにはフィデルも負担を申し出たら、レイクスからにこりと目が笑っていない貴族の笑みを浮かべられた。


「妻を養うのは夫の特権だからなあ。息子よ、気持ちだけありがたくいただいておこう。

 親孝行したいならば、ラモナを母親として慕ってやってくれ」

「・・・わかりました、師匠」

「そこは『父上』だろう?」

「・・・・・・はい、父上」

 フィデルはレイクスの圧に屈した。

 私生活でまで師弟関係を出すのは野暮だし、何よりもにこにこ笑顔で見守るラモナの目の前で我を通すほどフィデルも太々しくはない。

 ラモナはお隣さんになったエミリアナやテオドラとも親しくなって、「息子だけでなく、娘もできた気分だわあ」と踊りだしそうなくらい興奮して咳き込んでは吐血した。

 エミリアナもテオドラも青くなってあわあわとしていて、フィデルは安心した。 


 うん、それが普通の対応だよね、と同士ができた気分である。 


 吐血に慣れているせいか、レイクス家では誰もラモナの行動を諌める者がいない。却ってストレスになってはいけないからと好きにさせている。フィデルにしてみれば、吐血が続くのは体によいのかと困惑するばかりだ。

 今日も早朝だというのに、ラモナは張り切って朝食代わりの軽食やお茶の用意をしてくれた。体が弱くて冬は体調を崩しやすいと聞いていたから、お構いなくと告げたのに、ラモナは「皆が出かけている間に寝込んでおくから大丈夫よお」とにこにこ笑顔だ。


 いや、寝込んでおいて大丈夫ではないだろう。そして、そんな妻を愛おしそうに見つめて止めないレイクス(父上)も『なんとか言えや』と突っ込みたい。


 フィデルが遠くを見る目になっている間にレイクスは愛妻が用意してくれた軽食を取り出して勧めてくる。


「どうだね、ラモナ特製のミートパイだ。うまいだろう?」

「はい、おじ様、美味しいです。テオドラにもお裾分けしたいですけど、よろしいですか?」

「ああ、テオドラ嬢には家の者が届けたはずだ。張り切って作りすぎたとラモナが言っていたからね。

 持ってきた分は遠慮なく食べてくれ」

「・・・では、お言葉に甘えていただきます」

「硬いなあ、フィデル。そこは『いっただきまあす』でいいんだぞ?」

 甥のモノマネをするレイクスにフィデルは頭を抱えたくなった。成人男性の自分と十歳の甥を一緒にしないでもらいたい。


 養子縁組でレイクスの親族とも顔合わせを行ったのだが、商家の妹一家は行商人の親が亡くなって孤児になったフィデルに大層同情していた。どうやら、商人としては他人事には思えないらしい。親身になられすぎて、却って居心地が悪いくらいだ。

 幸いにもラモナが「フィデルくんは母親のわたくしが一番に可愛がるの!」と牽制してくれて助かったが、彼女の相手をするのも吐血が心配で心臓に悪い。

 テオドラには「優しくて可愛くて料理上手でご飯が美味しい母親ができて何が不満なのよお。バチが当たるわよ⁉︎」と睨まれたが、『料理上手にご飯が美味しい』と繰り返すあたり、料理人目線で羨ましがっているとしか思えない。

「料理の弟子入れでもすればいいだろ?」と投げやりに応じたら、テオドラが本気で検討して、エミリアナからは「テオドラだけずる〜い」と拗ねられてしまった。


 エミリアナは今度のプリン専門店には大きめのプレートにプリンやミニケーキを盛り付ける案をだした。夢の知識の『お子様ランチ』なるものを参考にしたらしい。

 プリンをオムライスに見立てて周りに一口サイズのケーキを三種類と果物を盛り合わせる、と説明されてもよくわからなかった。ベリーソースやチョコソースで模様を描いて、と盛り付けも凝っているらしい。

 テオドラに手伝ってもらった試作品を見せられて、ようやく理解が及んだくらいである。これまでのデザート料理にはないアイディアで、相変わらずの発想力には驚かされるばかりだ。

 ミニケーキも赤やオレンジ色に抹茶色など、食用のバラから色素を抽出して色とりどりに揃えた。見た目が綺麗で可愛らしく、これまでにはなかったケーキで女性には受けそうだった。数種類のミニケーキを用意して、お好きなものを選んでもらう形にすると言っていた。最初の店のデザートプリンのように選んで組み合わせる楽しさを提供するつもりだ。


 エミリアナが楽しそうに色々な案を出してはテオドラが頭を悩ませながら実現可能な方法を模索していた。エミリアナは気づいていなかったが、周りからはすっかり三号店の店長として見られている。テオドラも副店長と思われていて、ここでもイラリオの外堀埋めは完璧である。

 イラリオは王妹の母を通して国王に働きかけてくれて、エミリアナの血筋確認を証言だけでも可能としている最中だ。交渉人がベルガモのリハビリにも付き合ってスキルの発動を確認してくれているが、どうやら本格的に無理そうだと報告が上がっている。


 ベルガモはこれまで何度も危ない目に遭ってきたが、実際に肉体に傷を負ったのはアーロンに半殺しにされた以外は今回が初めてだそうだ。

 スキルを発動させようとすると、ダニエラの憎悪のこもった罵声を思い出してできなかった。すっかりトラウマになってしまったという。

 アーロンの時は妻への暴力を止められたベルガモが「借金を肩代わりしてやった女を好きに扱って何が悪い!」と逆ギレした挙句に殴りかかって反撃された。所謂、正当防衛だった。ただ、一般人のベルガモと上級冒険者のアーロンでは当然戦闘能力に差がある。

 アーロンは過剰防衛だとして彼にも非があると判断された。

 アーロンは非を認めた代わりに治療費は全額負担して、手切れ金を立て替えるから妻とは離縁しろとベルガモに迫った。手切れ金はベルガモが妻の借金を肩代わりしたよりも多かった。

「利子もつけてやるから二度と彼女に関わるな」と命じられて、ベルガモは反感を抱いたが、ベルガモの妻を借金奴隷扱いするかの発言は周囲の者にドン引きされた。噂が町中を駆け回ってギルド内の立場も悪くなったから、ギルドマスターに説得されて応じるしかなかった。


 ベルガモは自分は被害者なのだと思い込んでいたから、反省など全くしていなかった。


 それが今回、ダニエラに傷つけられて、初めて暴力に恐怖を覚えた。打ちどころが悪かったら命の危険もあったし、軽くても後遺症が残って以前のようには体を動かせないのだ。

 自分も妻に同じ仕打ちをしていた、なんて酷いことを、と初めて実感したという。

 尤も、ダニエルにしてみれば「何を今更、遅すぎるだろうが」と嘲笑しかないが。


 ベルガモのスキルは復活の見込みは難しく、諦めるしかなかった。他のスキル持ちは国交のない国で枢機卿に囲われているとかで頼ることはできそうにない。

 ライネス家が確保している証人にルイシーナに未遂だと教えた老執事の証言でエミリアナの血筋を明らかにし、セルダ家の降爵と当主交代を同時に行う。イラリオとルイシーナはその準備やルカスに知られないように根回しに忙殺されている。

 エミリアナたちは連絡が来るまでライネス領都で待機の予定だった。


 エミリアナたちが戻ると、来客があるとラモナ付きの侍女から連絡がきた。レイクス家の応接室で待っていたのはレアンドラだ。

「やあ、エミリアナ嬢、元気だったかい?」

 片手を挙げて挨拶してくるレアンドラはドレスではなく、簡易な騎士服のような衣服だ。私服なのだろうが、相変わらず容姿だけ見ると可憐な令嬢なのに、言動が騎士のものでギャップがすごい。


「レアンドラ様、お久しぶりです。今日はどうされたのですか?」

「ああ、休暇をとってきゅうちゃんの様子を見にきたんだ。そろそろ飛行能力が発現する頃だからね。

 この辺りでは飛行訓練も思うようにはできないだろう。我が国の訓練所にお誘いしようかと思って」

「そうだったのですね。でも、ダニエルさんとはご一緒ではないのですが・・・」

 エミリアナが首を傾げた。

 ダニエルとは帰国の護衛をしてもらってからは会っていない。彼は冒険者活動に戻ったし、エミリアナはここでライネス家の庇護下に入って待機中だ。

 レアンドラはお茶をいただいてから、優雅に脚を組んだ。


「ベラスコ氏とはもう会って話は済んだんだ。その際に気になることを聞いてね。

 君の血筋確認を血統スキル持ちに確かめてもらうつもりだったのに、スキル持ちが発動できなくなったって。

 血筋確認とはサラサール家の者だと調べることだよね? 母君の血統ではない、で合っているだろうか?」

「ええ、そうですが」

「それならば、他に方法があるんだ」

「え、本当ですか!」

 思わず、エミリアナは身を乗りだした。挨拶したいからと同席を願われていたテオドラやフィデルもだ。レアンドラは力強く頷いた。


「アーロンは父君から聞いていないようで知らなかったのだが、サラサール家の縁者しか開けられない小物入れや文箱などを父たちは持っていたんだ。別離の際に兄弟でそれぞれ思い出の品として分け合ったと聞いている。

 ほら、私はこれを父から貰った」

 レアンドラがペンダントを外して見せてくれた。楕円形の蓋に小さな貴石が嵌っていて、開くと中に家族のミニチュアールが入っている。

 レアンドラは蓋の貴石を指差した。


「この石は鍵の魔導具で登録者以外は開けられないようになっているが、そもそもサラサール家の縁者以外は登録もできない作りなんだ。親から子へと代々受け継がれてきたものだと聞いている。

 アーロンの父君には小物入れでエミリアナ嬢の父君は文箱を貰ったはずだ。

 このような石の嵌った文箱を見たことはないか?

 私のペンダントは小さくて見づらいが、カルサダ地方でしか生えていない紅つる草をあしらったデザインを鍵の周りに配置しているはずだ」

「「「あ」」」

 答えは三重奏で返ってきた。エミリアナとテオドラとフィデルの声がハモって、お互いに顔を見合わせている。

「お父さんの箱!」

「形見の箱じゃあない?」

「預かった小箱だ」


 エミリアナの父の形見はまだ神父に預かってもらっていた。冒険者のフィデルが何かあった場合にはエミリアナの手元に届くように頼んでいたからで、ライネス家の従騎士になってからも神父に会いに行く暇がなくてそのままだ。

「バラハの町の神父様のところに行かないとだな。父上に話して俺が取りに行ってくるよ」

 フィデルが名乗りでた。

 形見の小箱は人目に触れてはマズいものだと判断されている。神父はフィデルやテオドラのように事情を知る者以外には絶対に渡したりはしないだろう。

 レアンドラのおかげでエミリアナの血筋をはっきりとさせる算段がついた。ルカスを引き摺り下ろす準備が急いで整えられる。

 報告を受けたイラリオがフィデルの代わりの護衛を手配してから、フィデルはバラハの町まで行くことになった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。


開始前からの連載でも可だそうなので、『なろう異世界ファンタジーフェス2026』に参加してみました。ミニイベントにも参加してみたいな〜と思っております。

『夏休みチャレンジ』は毎日投稿五日間だそうで、五話のお話を構想中ですが、できるかな?

可能かはまだ未定ですが、レッツチャレンジ!

できなかったら、「ああ、無理だったのね・・・」と生温い目で見てやってくださいませ。

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