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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第四章 冒険者のエミリアナ

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四十六幕

 その知らせは完全に予想外だった。

 アーロン宛に緊急連絡が届いたと思ったら、ダニエルからだ。領都の隣町を出発してすぐの街道でスキル持ちが襲われて重傷を負ったという。野盗か魔獣に襲われたのかと思えば、相手はB級冒険者の真紅のダニエラだった。


「え、もしかして、ダニエルさんと間違えられたの?」

 ダニエルとダニエラの確執を聞いていた誰もがそう思ったが、知らせを受けたアーロンが否定する。

「いや、もとからゴミ・・・、ではなくて、ベルガモを狙ったようだ」

「ベルガモ?」

 アーロン以外の全員が首を傾げる中、レイクスがああと思い出した。

 いつも、ゴミ呼ばわりされていたスキル持ちは『ジャンニ・ベルガモ』という名前だ。さすがに本人を目の前にしてゴミ呼ばわりはできないので、直前までには本名を周知するつもりでいたが、すっかりゴミ呼ばわりが定着して忘れていたのである。


「隣町の治療院で世話になっているとある。私が出向いて詳しいことを聞いてこよう」

 アーロンが申し出てくれたからお任せすることにした。

 一体、ベルガモとダニエラの間に何があったのか、他に共犯者がいるのかどうか。詳細は不明だ。とばっちりを受ける可能性を考慮してエミリアナたちは安全な領都で待機することになった。

 これまでのように観光気分を味わうどころではなかった。大人しく借家で待っていると数日してからアーロンがダニエルを伴って戻ってきた。

 ベルガモは重傷だが命に関わる怪我ではなかった。一安心だが、アーロンとダニエルと恐怖対象が二人も揃っていると気が休まらないらしく、看護人を雇って世話をお願いしてきたという。


 ダニエルは苦りきった顔をしていた。

「申し訳ない。もうすぐ目的地だから、俺もヤツも気が緩んでいた。まさか、魔獣でもない相手から襲撃を受けるとは思いもしなかった」

「人違いではないそうですけど、お二人は知り合いだったのですか?」

「・・・そのようだ」

 エミリアナの問いにダニエルが深いため息をついた。

 ダニエルはダニエラと出くわすのを警戒して大回りに迂回したのだが、却って裏目にでた。依頼が長引いたダニエラがちょうど領都に戻るのと鉢合わせするとか。大変間の悪い出来事だった。


 ダニエルは目立つ容姿を隠すためにフードを被っていた。日除けでフードを被る者は他にもいたからおかしな行動ではない。ベルガモは素顔を晒していて、顔見知りと出会ったら気づくのは確実だった。

『貴様のせいだっ!』という怒声に振り向いたら、ベルガモ目掛けてメイスが飛んできた。避ける間もなく、激突してベルガモは吹っ飛ばされてしまった。ダニエルは唖然として何もできなかったという。


「白昼堂々と冒険者が人を襲ったからね、町から出たばかりの街道でまだ門番も視界に入るところにいた。すぐに警備隊に連絡が行って、ダニエラは殺人未遂で捕えられた」

「警備隊の事情聴取でわかったのだが、ダニエラはヤツのスキルで生家から追放されたそうだ」

 アーロンがこめかみを揉みながら、説明してくれた。

 ダニエラはベルガモへの呪詛をこぼすばかりで話は聞けなかったが、付き添っていた子分が聞き齧ったことを語ってくれた。


 ダニエラはアルファーノ国の男爵家の長女だった。母親は平民の出で既婚歴があり、再婚だった。

 ダニエラは両親には似ていなかった。母方の親族に似ていると言われていたそうだが、父親はずっと自分の子供か疑っていた。ダニエラが貴族学園に入る前に婚約者を決めることになって、念の為に血縁関係を調べてみたら、ダニエラだけ父親の子供ではなかった。

 ダニエラの下に弟妹が生まれていたから、母親は離縁だけは免れて弟妹の教育権は取り上げられた。領地に幽閉措置だが、必要最低限の暮らしだけは保証された。一番、割りを食ったのはダニエラだ。

 男爵家とは無関係な人間だとして除籍されて市井に放り出されたのだ。


「貴族令嬢がいきなり市井に馴染めるわけないだろう。実質は追放だな」

「あまり裕福な家ではなかったそうで、平民に近い暮らしぶりだったそうだ。それに『怪力』スキルがあったから、冒険者になってすぐに頭角を表した。

 子分になった者はダニエラに命を救われた恩があってずっと付き従っていたそうだ。

 だが、今回の件ではさすがにドン引きしたと言っていた。いくら、恨みつらみがある相手でも魔獣相手に振るうメイスで攻撃したからな。殺意は十分すぎるくらいあっただろう。

 殺人犯には従えないと怯えていた」

 レイクスに問われてアーロンが答えた。エミリアナたちは顔を見合わせてなんとも言えない表情になる。


 ダニエラの境遇には同情するが、ベルガモのスキルは依頼されて使っていた。依頼をだした生家が一番恨まれる立場ではなかろうか。

 ダニエラが跡取りだったならばお家乗っ取りで犯罪行為になるが、そうではないのだからもっと穏便な方法を取るべきだった。男爵家の血筋でないなら、養子の手続きをして嫁ぎ先を探せばよかったはずだ。

 当時のダニエラはまだ未成年なのだから、孤児院か修道院に入れて身の振り方を考える猶予を与えるのが普通の対応だった。元凶の母親だけ養って、罪のない子供をいきなり市井に放り出すとか鬼畜の所業だろう。


「ダニエラはずっとベルガモを恨んでいたらしい。アルファーノ国にいると、復讐心を捨てられないからと国外に出たと子分が言っていた。

 だが、ヤツを見かけて、当時のことを思い出してブチ切れたようだ」

 ダニエラが除籍されたのはもう十年も前のことだが、ベルガモの容姿はあまり変わっていなかったのが災いした。一目であの時の血統スキル持ちだと気づかれて、一気に復讐心が燃えあがったのだ。

「ダニエラさんはどうなるのですか?」

「殺人未遂だからね。当然、罪には問われるし、冒険者の身分は剥奪される。

 事情聴取の結果では同情の余地はあるし、未遂だったから極刑にはならないだろうと聞いたが、罪を償っても社会復帰は難しいと思う」


 冒険者登録の条件は『犯罪歴がないこと』だけだ。各ギルドの中で登録料は一番安い代わりに審査も厳しくはない。ただし、軽犯罪でも犯罪歴がついたら、一生登録はできない。

 特殊技能でもない限り他のギルドでも身分証を得るのは難しくなるだろう。冒険者登録を犯罪歴で抹消されたとなると、どのギルドも警戒対象として審査が厳しくなるものだ。

 更生しても身分証がないせいで、日雇いや低賃金の仕事にしかつけなくなる。これまでの依頼料もベルガモへの治療費や慰謝料で消える可能性が高い。


「ダニエラは気の毒だが、身元保証人が現れない限り、借金奴隷から解放されないと思う。もしかしたら、ベルガモの怪我は後遺症が残るかもしれないんだ。慰謝料は高くつくはずだ」

「そうなのですね」

「子分にも見放されたみたいだし、身元保証人が現れるのかしらあ?」

 エミリアナとテオドラが気の毒そうな顔になっているが、ほぼ他人で言いがかりをつけてきたダニエラのために何かするつもりはない。それよりも、スキル持ちの回復が遅れるだけエミリアナの仮婚約解消も遠ざかる。

 薄情なようだが、血筋確認が遅れるほうが気がかりだった。


 アーロンが困ったように肩をすくめる。

「ヤツは勤め先のギルドマスターからは重宝されていたんだ。ヤツのスキルは高額依頼で、ギルドの売上に貢献していたからね。

 今回はただでさえ、国を超えての大移動で長期間の出張扱いになっている。旅費はこちら持ちの条件で護衛付きだと契約していた。こちらでも治療費を負担しなくてはいけないだろう」

「費用はなんとでもなりますが・・・。

 そのう、ベルガモさんは襲われたりして、スキルを扱うことがトラウマになったりしてはいませんか?」

 エミリアナが恐る恐る尋ねた。

 孤児時代に神父様に聞いたことがあるのだ。

 スキルは神からの贈り物だが、中にはどうしても性に合わなかったり、使い道がない者もいる。所謂ハズレスキルだ。

 スキルが使えないだけでなく、いらないと拒絶するのもアリで、拒否感があまりにも強いとスキルが扱えなくなったりするらしい。


 アーロンがふむと考え込んだ。

「ヤツの回復を待たないとなんとも言えないな。看護人に頼んできたが、私やダニエルが顔を出すと怯えられて怪我に響くと怒られてしまうし。

 どうしたものか・・・」

「お見舞いしようにも、わたしたちは依頼人でアーロンさんよりの立場ですし。嫌がられそうですね」

「見知らぬ赤の他人から見舞われても気づかれするだけじゃあない?」

 エミリアナとテオドラが顔を見合わせて、困ったわねとアイコンタクトだ。フィデルも難しい顔になり、レイクスが口を開いた。


「ここまで出向いてもらったのはこちらの都合だ。治療費を負担するのが妥当で、見舞いなどは避けたほうがよかろう。

 アーロン殿、看護人は退院までは雇えるのかね?」

「そうですね。退院できるまで、二、三か月はかかると言われています。最長三か月でお願いしてありますが、退院後にリハビリが必要だそうです」

「リハビリに関してはまた後で判断しよう。

 若君に連絡したところ、交渉人をこちらに寄越してくださるそうで手配済みだ。後のことは交渉人に任せて、我々は帰国を促されると思う」

「残念ですが、仕方ありませんね」

「すまない、俺がもっと気をつけていれば・・・」

 ダニエルが落ち込むが、アーロンがそっと肩を叩いた。

「そう気に病むな。

 まさか、門番の目に入るような場所で危険があるとは普通は思わない。ましてや、冒険者による一般人への攻撃だ。

 通常は考えられない出来事だろう」

 アーロンの言う通りだった。


 冒険者ギルドが登録条件に『犯罪歴がないこと』を掲げているのは、ならず者の集団と警戒されて各国から討伐されるような事態を避けるためだ。そのため、犯罪行為を行なった冒険者には厳罰が下される。特に戦闘能力のない相手への殺傷行為には重い処罰が下ることで有名だった。

 ダニエラはそれを承知でも抑えきれないほどの憎悪だったのだろうが、ベルガモは依頼を受けただけだ。ダニエラは八つ当たりしたのに等しい。

 ダニエラの怒りを受ける相手は彼女の両親だったはずだ。

 なんとも後味の悪い思いをしたが、エミリアナたちにできることは何もない。ライネス家の交渉人が到着すると、レイクスの予想通りに帰国を促された。

 アーロンはまだ王家とのお話し合いが終わっていなかったが、提案通りになりそうだった。きっちりと片をつけてから戻ると言うので、ダニエルに護衛されてエミリアナたちは帰国した。

 エミリアナたちが戻った頃にはもう夏も終わりだった。




 エミリアナはライネス領都に新しい住まいを用意されていた。レイクス家の隣でプリン専門三号店舗の近くだ。

 またもや確認が延期になってしまったが、エミリアナがセルダ家の血筋でないのは確実なのだ。今から、除籍後の生活に慣れておいても構わないだろうとイラリオが手配してくれた。彼はセルダ家の当主交代を画策中でエミリアナの安全を考慮して早くもライネス家の庇護下に置いていた。

 テオドラとフィデルも付き添って平民暮らしを続けることになった。フィデルだけはレイクス家に部屋を用意されて、テオドラとエミリアナは同居だった。

 三号店は改装中でエミリアナたちはオープン準備を手伝うことになった。


 ブリオネス国外のダンジョンではスタンピードの危険は低いと判断された。安全宣言がだされてスタンピード発生前と同じ暮らしがぼちぼちと戻ってきている。

 グラシアン王国でも国の東側から安全確認が行われた。セルダ領は西側でブリオネス国と近いから安全確認はまだだ。警戒体制中なのだが、ルカスは妻のオクタビアを別荘に送って療養生活を送らせると発表した。

 オクタビアの状態は日増しに悪化する一方だった。突然、金切り声をあげては呪詛を喚き散らして暴れるから、鎮静剤で眠らせる時間が多くなっていた。

 医師からは嫌な思い出の多い本邸での暮らしが負担になっていると判断された。心穏やかに暮らせるように風光明媚な別荘で気分転換させたほうがよいとのことで、慣れ親しんだ専属の侍女や従者たちが付き添い、しばらくは女性医師が手配された。

 ルカスはセルダ家の親族から事情の問い合わせが殺到して対応に忙しくなった。セルダ家直系のオクタビアを乱心に追い込んだ責任を問われる声が日増しに強くなっていって、ルカスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「まあ、自業自得だよね」

 涼しい顔で言ってのけるのはイラリオだ。彼がセルダ家の親族に情報を流した。娘のルイシーナが傷心中だとして、ルカスの責任を追求するのは親族にお任せしている。

 親族は次期当主の配偶者から「頼りになるのは貴方しかいないのです」と煽られて、見事にイラリオの手のひらで踊らされているが、全く気づいてはいない。


「・・・若君だけは敵に回したくないですね」

「やだなあ、フィデル。君が私の敵に回るわけないだろう」

 顔をしかめるフィデルにイラリオは実ににこやかな笑みを浮かべる。

「レイクスとの養子縁組、おめでとう、フィデル。

 これでレイクスの後を継いで、騎士爵を得てくれると尚更嬉しいのだけどなあ」

「・・・エミリの件が片付いてから考えてみます」

 フィデルは仏頂面になるのをかろうじて堪えた。イラリオの思惑通りになるのは癪だが、エミリアナの安全を思えば彼の提案を呑むのが一番いいとはよくわかっている。

「期待しているよ」

 イラリオがにこりと微笑んで、思わずフィデルの口がへの字に曲がった。


 フィデルはエミリアナの様子を定期連絡するように命じられていた。ルイシーナが心配するからで、週に一度は軍馬を飛ばしてセルダ邸を訪れている。用が済み次第、さっさと踵を返す配下にイラリオが待ったをかけた。


「エミリアナ嬢にこちらを渡してくれ。

 友人からの手紙と学園からのお知らせだ。試験は行わずにレポート提出で成績をつけるから、詳しい内容や注意事項が配布された。

 確認が済むまではエミリアナ嬢はセルダ家の令嬢だからね。ほどほどの成績を取るように伝えてほしい」

「・・・その問題の確認なのですが、ベルガモ氏の具合はどうなのですか?」

「うーん、交渉人に手厚い看護を命じているし、補償も十分にしている。

 怪我はよくなってきているし、後遺症も当初の予想よりは軽く済む見通しだ。ただ、精神面がねえ」

 イラリオは困ったようにため息をついた。


「これまでもスキルのせいで逆恨みされたり、逆ギレされたり。はたまた、確認されては困る相手から嫌がらせや命を狙われたりと危ない目に遭ってきたんだって。今回のことでほとほと参っているみたいだ。

 交渉人にはなんとか気分を向上させるように命じたけど、どうなるかな。

 奥方に暴力を振るって八つ当たりしてきたのは許されることじゃないけど、今回自分が同じ目に逢ったことで後悔して、懺悔がものすごいことになっているそうだよ」

「今更ではないですか。アーロンさんに半殺しにされた時点で理解していないとか、救いようがないですよ。

 若君が先ほど仰ったように自業自得でしょう」

「そうなんだけど、スキルを拒絶されたら困るでしょう。高額報酬をちらつかせて釣っているところだ」

「軽くても後遺症が残るならば、今後の生活に不安があるはずです。高額報酬なら引き受けると思いますよ」

「ああ、私もそれを期待しているんだ」


 二人ともスキルの発動はなんとかなると思っていた。

 ベルガモが危ない目に遭ったのは今回が初めてではなかったし、治療費や慰謝料も十分に支払った。療養の待遇面もバッチリで、高額報酬も用意している。

 ベルガモの退院は年末でリハビリは帰国後でも行えると連絡がきて安堵していたら、交渉人から悪い知らせが届いた。

 ベルガモのメンタル面の問題で、肝心のスキルが扱えなくなってしまったのである。

ダニエラは根は悪い人間ではないのですが、生家から放り出されて苦労したからあんな性格になりました。子分のようにダニエラに助けられた者はいるので、そのうち身元保証人が現れるかも?

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