表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第四章 冒険者のエミリアナ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/48

四十四幕

 ブリオネス国王は眉間に深いシワを寄せていた。

 目の前の抗議書をいくら睨みつけてもなくならない。まとめて暖炉にでも放り込めたらどれだけ気が楽になることか。


 ・・・尤も、やりたくてもやった後が怖くてできないが。


 抗議書は冒険者ギルドにグラシアン王家とカルデナス王家、そして、スタンピードが起こったカルサダ地方の各都市の市長から連名で届いていた。

 しかも、今回のスタンピードで活躍した上級冒険者からも個別に届いており、その数はまだまだ増えそうだとか、頭が痛くなる報告を受けている。


 もともとカルサダ地方を治めていたサラサール家の者に爵位と領地を戻すだけのことだと思っていたのに、王家が任じた領主が無能でスタンピードを起こしたのだから、王家が負うべき責任だと諭す内容だ。

 どうやら、サラサール家の血筋の冒険者は今回の功績でS級に上がるから、ブリオネス国だけに独占させるのは面白くないらしい。どこぞの令嬢でもあてがって取り立てれば文句はないかと考えたが、宰相から却下された。

 S級冒険者は妻帯者で愛娘が生まれたばかりだという。愛娘を抱いた細君の絵姿片手に妻子自慢を繰り広げているとか。

 そんな相手を縁談で無理やりに縛りつけようとしたら、反感を買うだけでデメリットしかないと言われてしまった。

 市長連名からは無能な領主や代官が起こした横領の補償願いとスタンピード後の後始末費用の請求書も同封されており、財務大臣に任せたら、『持病が悪化しまして』と休養願いを出して逃げられるし。


「・・・ああ、私が休養したいくらいだ」

 国王は深いため息を吐きだした。


 そもそもは優秀な第一王子が恋心を拗らせて婚約者を断罪したことから始まった。まさか、名の残る為政者になると思われていた息子が情緒面ではポンコツだとは思いもしないではないか。

 息子が他の女生徒と親しくしていても一向に婚約者は悋気を見せずに『学生のうちは交友関係を広めるいい機会ですから』と自らも性別問わずに交流を図っていた。息子が気に病んでいたところに側近候補として気にかけていた平民の特待生からの相談だ。

 私物がなくなることが増えて嫌がらせをされているかもしれないというものだ。

 調査中に特待生が暴漢に襲われて軽傷を負った。婚約者に睨まれたから、婚約者が犯人かもしれないと特待生は匂わせていた。

 息子は側近候補の女性との仲を邪推したのだと、仄暗い満足感を抱いたらしい。勝手に婚約者を糾弾して国外追放を命じてしまった。

 側近が白状したところによると、息子は平民落ちした婚約者を愛人にして囲うつもりでいた。 

 誰も知らない場所に閉じ込めて、他の者の目には触れさせずに、自分だけと過ごせるように、と。


 え、まさか、監禁するつもりだったの? それって犯罪でしょ? 

 何、自慢の息子だと思っていたのに、犯罪者予備軍だったとか⁉︎


 国王は驚愕したが、不幸中の幸いと言っていいものか、相手が亡くなったから未遂で終わった。

 婚約者は国外に出てすぐに強盗に襲われたのだ。ゆうか・・・、もとい、保護しようとした息子は茫然自失となったが、まだ王太子としての責務を放りだすほどではなかった。

 息子が完全に壊れてしまったのは後に裏社会の人間を捕えての尋問で、婚約者は抹殺されたとわかった時だ。

 特待生の怪我は婚約者を嵌めて貶めるための自作自演だった。息子の恋心は利用され、見事に騙されたのだ。

 真実を知った息子は正気を保っていられなくなって、遠くの静養地に幽閉するしかなかった。


 弟の第二王子はその当時は十二歳で婚約者を決めたばかりだった。

 兄王子の新たな婚約相手がなかなか見つからないせいで、万が一の場合には王太子妃になってもいい相手を婚約者にしたのだが、弟よりも五歳も年下だ。王太子妃教育の都合もあって婚姻は婚約者が成人してから二年後になった。

 王太子となった第二王子には昨年、ようやく第一子が誕生した。女児だったが、女性官吏に続いて女性当主も認めるよう法改正を行なっていたから、女王になっても問題はない。

 王妃は長男のやらかしにショックを受けて寝込みがちになり、次男の婚姻を見届けると儚くなってしまった。

 国王は王妃の分も仕事をこなしていたが、そろそろ譲位しても問題はないと引退を視野に入れ始めた矢先のスタンピード発生だ。 

 引退はまだまだと夢の如くに遠のいてしまった。


「ふっ、老体に鞭打って何が楽しいのじゃ、こやつら。

 孫を可愛がるじいじライフを楽しみにしていたのに・・・」

 国王はがっくりとうなだれた。


 本来ならばとっくに隠居生活に入ってもおかしくないのだ。長男がやらかしたせいで年の離れた次男が継ぐまで待つことになった。国王を支えてくれていた大臣たちだって世代交代が進んでいる。国王と同年代は宰相くらいだ。

 宰相の次男は息子の側近だった。第一王子のやらかしを止められなかった責任を負う形で社交界からは姿を消した。領地で兄の補佐役を細々と務めていると聞く。宰相は責任を感じて国王に付き合ってくれているが、彼だって腰痛を苦にして引退を考え始めていた。


「年寄りを敬うことを知らんのか。最近の若い者は」

 国王が愚痴ると側仕えの侍従が一歩前に出た。

「恐れながら、陛下。そのセリフが出ると、耄碌したと受け止められますよ?」

「わかっとるわ。公の場では口にせんのだから、少しの愚痴くらい大目に見ろ」

「はっ、かしこまりました」

 侍従が恭しく頭を下げる。その頭に白いものがちらほらと見え隠れしていた。


 ・・・そう言えば、こやつも同年代だったか。確か、後継者の育成に入っていたな。


「そなたの後継者教育はうまくいっているのか? もしや、もう引退できるとかではあるまいな・・・」

「おかげさまで順調にいっております。いつ陛下が譲位なさっても私はお供できますので、ご安心ください」

「そなた、わしの隠居に付き合うつもりか?」

「はい、私は陛下付きの侍従でございますから」

「・・・そうか」

 国王はつい目頭が熱くなって、咳払いで誤魔化した。侍従は生温かい視線で見守っている。


 国王は凡庸な人柄だが、これまで可もなく不可もなく、国を治めてきた。唯一の誤算は跡取り問題だけだ。

 長男のやらかしが発覚し、ご本人は夢現の世界に逃げてしまったが、国王も逃げるわけにはいない。王妃が倒れてしまったから、余計に逃げ場などなかった。

 サラサール家の冤罪を晴らしては王家の威信が揺らぐし、政策にも影響がでる。かと言って、知らんぷりなどできない。恩赦をだせば冤罪だったと暗黙の了解になってしまうが、悩みに悩んだ末の苦渋の決断で恩赦を出したのだ。

 カルサダ地方の統治はうまくいっていなかったから、サラサール一族さえ戻ってくれば万事が収まると思っていたのに、断られまくりとか。しかも、他国からお説教も受けるし、国王の心情では踏んだり蹴ったりだ。


 国王はそっと目頭を押さえてから、ようやく抗議書の束に向き直った。

 侍従はずっと国王が一人で戦ってきた姿をすぐそばで見守ってきた。スタンピードの影響で譲位は遠のくし、子供が生まれたばかりの王太子夫妻に全てを任せるにはまだ早い。

 国王が悠々自適な隠居生活を送れるようになるまで、いや、その後もずっとお使えするのが自分の役目だと侍従は腹を括っていた。



 エミリアナたちはカルサダ地方の領都に到着した。

 テオドラは警備の確かな富裕層の宿に泊まっていたが、ダニエルたちの到着が遅れると連絡があったから、滞在予定が延びてしまった。宿には次の予約が入っていて延泊はできない。

 商人が商談が長引いた場合に利用する家具付きの一軒家を借りることにした。メイドの派遣もあるのだが、テオドラがいるからメイドは必要ない。エミリアナも家事を覚えるいい機会だと張り切っているし、フィデルが何かと甲斐甲斐しくエミリアナの世話を焼いてはテオドラと張り合っている状態だった。

 テオドラが指名依頼のフリで真紅のダニエラの動向に探りを入れると、彼女はダニエルたちが通る予定のルート上の町へ出向いていた。スタンピードの影響で生息地から出た魔獣の討伐依頼だ。

 ダニエルは出くわす危険性を回避するため、大幅に迂回するそうで予定よりも遅くなる。


「ダニエルさんってば、『ゴミの抜け毛がすごくて迷惑』とか愚痴ってるけど・・・」

「ストレスなんじゃないのお?」

 ダニエルからの手紙を読んだエミリアナにテオドラが答えた。

 ダニエルがゴミ呼ばわりするのは姉を虐げていた元義兄で、相変わらずの塩対応である。

 エミリアナがむうんと考えこむ。

「スキル持ちの人が円形脱毛症になっちゃいそうだね。ストレスでスキルの発動がうまくいかないと困るし、ダニエルさんには手加減するように伝える?」

「手加減しても効果はないと思うよ。ダニエルの存在自体がヤツにとってはトラウマだろうから」

「アーロンさん、お戻りになられたのですね。お茶を淹れましょうか?」

 テオドラがメイドモードになると、エミリアナがハイハイと手を挙げた。


「お茶なら、わたしが淹れたいです。フィデルに上達したって褒められたんですよ」

「ええと、気持ちだけありがたくいただいておくよ。喉は乾いていないから」

 アーロンがそっと視線を外して答えた。

 エミリアナのお茶は濃すぎて渋みがでるのだ。それを美味しいというのはフィデルくらいである。

「ええっ、お茶の練習になると思ったのにい〜」

「練習とか言ってる時点で怪しい腕前でしょお」

 テオドラが呆れたようにツッコむ。


 アーロンがまあまあとお土産の焼き菓子を渡してきたから、皆でティータイムにすることにした。お茶を淹れるのは多数決でテオドラだ。

 アーロンは王宮から派遣された使者とお話し合いをしてきた。市長の合議制で領政を行い、税制だけは王宮から税務官を派遣してもらう案を提案したのだ。

 住民に根回ししたアーロンは王宮に請求書を送るように焚き付けた。アーロンから補償や請求書の類を送ると、領主になる気があると思われてしまうから、冒険者ギルドを通すように提案した。

 冒険者ギルドは昇級を断ってきたアーロンが今回は承諾したので、大いに協力的だった。ブリオネス王家への抗議書も超特急で用意する勢いで、緊急事態用の転移陣を活用しまくったと聞いている。


「使者は渋ってたけどね、エミリの渡してくれた資料が役に立ったよ。宰相に掛け合ってみるそうだ」

「セルダ家とライネス家の総力を上げて整えた資料ですからね。有用性は大きいはずです、無視はできないでしょう」

 エミリアナが大きく頷くと、フィデルも同意するように肩をすくめた。


「アーロンさんの知り合いの上級冒険者にも声をかけたから、今頃は王宮に抗議書が殺到しているんじゃないか?」

 冒険者にとっては見過ごせない問題なのだ。 

 報酬と見せかけてスタンピード後の復興を押し付けられるとか冗談ではない。貴族籍を用意されて領主になれると言われても、冒険者は昇級するほど各国で重宝されるようになる。S級ともなれば、領主並みの稼ぎは軽く得られるし、王侯貴族にも一目置かれる存在だ。それをスタンピード後の復興で使い潰そうなどと許せるはずがない。

 独立独歩の冒険者にとっては貴族になるなど出世ではなく、罰ゲームでしかなかった。


「ダニエルたちが到着するまで、まだ間があるな。私は発掘現場に戻って護衛の依頼を続けるが、エミリたちはどうする?

 家サイズの収納量を運んだばかりだ。発掘現場にはあまり荷が溜まっていないだろう」

 アーロンが尋ねると、エミリアナが首を傾げた。

「そうですねえ、領都で新人向けの依頼でも受けてみようかと思います」

「いや、エミリのスキルはあまり広めないほうがいい。『隠れ家』は珍しいスキルだから、サラサール一族だと疑われる危険は冒せないだろ」

 フィデルが反対してきて、エミリアナはがっかりした。テオドラが口を挟んでくる。


「エミリアナは母親似でアーロンさんとは似てないし、そう心配することはないんじゃあない?

 珍しいスキルはこの地方のお土地柄だから、目立つことはないと思うけど」

「王家がアーロンさんを諦めるまでは慎重になったほうがいい。アーロンさんの代わりにと囲い込まれたら厄介だ。ただでさえ、まだ仮婚約が解消できていないのだし」

 サラサール家は冤罪にあった可能性が高い。王家は罪悪感から逃れるためにお家再興を促しているかもしれないのだ。そう簡単には諦めないはずだと言われては納得しかない。

 アーロンも認めたから、エミリアナの新人冒険者生活は王家が諦めてからになってしまった。


「だったら、ちょうど一軒家を借りたのだし、エミリアナは平民生活を経験してみてはどうかしらあ。

 家事だけでなく、市場に買い物に行ったり、カフェでお茶してみたりとかあ?」

「ホント! やってみたい」

 エミリアナがぴょんと音がしそうな勢いで復活した。ブンブンと首を縦に振って満面の笑みだ。

 家事ならば室内でできるから経験済みだったが、外出には密かに護衛がつくから自由な行動は無理だったのだ。


「師匠、私が付き添いますから、構いませんね?」

「外出は構わないが、ここは『おじ様』の出番ではないかな。

 エミリ、一緒に妻へのお土産を選んでくれるとありがたいのだが、どうだろうか?」

 レイクスが伯父モードを発動させて、にこにこと頬を緩めている。子供に恵まれなかった彼は親子でお買い物に憧れていたようだ。

 またしても邪魔されて、フィデルがひくりと頬を引き攣らせた。エミリアナは気づかずに「お父さんとお母さんへのお土産を買うみたい」と照れくさそうに呟いている。

 レイクスが『お父さん』の響きにジーンと感動したように身を震わせた。


「ああ、いいねえ。おじ様でなく、『お父様』と呼んでくれてもいいのだよ」

「師匠、・・・息子からの『お父上』呼びはいりませんか?」

「おや、養子になると了承してくれたのかい?」

「・・・いずれはそうなることかと」

 フィデルはむすっとしかめ面で肯定するしかなかった。

 エミリアナをレイクスの養子にされてしまっては『うちの娘は嫁にやらん』攻撃を受けそうだ。問題回避のためには先に養子縁組するしかない。

 レイクスは破顔して早速養子縁組の書類を取り出した。


「そうかそうか、とうとう決めてくれたか。ここにサインをしてくれ。

 必要事項はもう記入してあるから、サインだけ貰えばすぐに済むぞ。緊急転移陣で祖国へ転送してもらおう」

 逃す気は絶対にない勢いである。

「用意がいいですねえ、レイクス様」

「本当ね。おじ様は書類をいつも持ち歩いていたのですか?」

 テオドラとエミリアナが目を丸くした。レイクスがにこやかな笑みで頷く。

「いつ言質を取れるかわからなかったからね。備えあれば憂いなしだ」

 フィデルは渋々とサインをして、レイクス士爵家の養子になることになった。

とうとう諦めて養子縁組を了承したフィデル。彼の行動基本は『エミリアナ第一』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ