三十九幕
初めて目の当たりにする魔獣はとても大きかった。
思わず、エミリアナはポカンと口を開けてしまった。令嬢らしからぬ仕草だが仕方がないだろう。テオドラだって、目を大きく見開いて顔を引き攣らせている。
血の匂いで他の魔獣が寄ってこないように氷漬けされた魔獣は馬より一回りくらい大きくて、暗闇で出会ったら確かに悲鳴をあげて逃げだすレベルだ。
魔獣は赤黒い剛毛に覆われていて、頭部に角が生えているが大型犬とよく似ていた。
ダニエルによると鉱山地帯に出現することが多く、セルダ領のダンジョンにはいない種類だそうだ。どこかから運んで来たのかもしれない。
ダニエルとフィデルで明るくなってから逃げてしまった御者を探したが、見つからなかった。テオドラは『魔獣に食べられたんじゃないのお?』と言っていたが、遺体どころか衣服のかけらさえないのだ。
ダニエルは領都方面に走り去った箱馬車に囚われたかもしれないと推測していた。御者はエミリアナたちが襲われた生き証人として、連れ去られた可能性が高いとのことだ。
「さあて、そろそろ迎えが来ると思うのだが、皆忘れ物はないかい?」
ダニエルがぐるりと周囲を見渡す。まるで、遠足の引率者のようだ。彼の胸ポケットには飛竜のきゅうちゃんが収まっていて、すやすやと眠っていた。
きゅうちゃんはクッキーを全部食い尽くしてしまった。これまで、気にいる食べ物がなかった反動なのか、満足げに眠りについていて起きる気配はない。
「ダニエルさん、迎えって馬車が来るのですか?」
フィデルが領都方面に視線を走らせて尋ねた。
「ああ、レアンドラ嬢がギルドに話をつけてくれたはずだ」
「レアンドラ嬢?」
「飛竜の騎士だよ。彼女に迎えを頼んでおいたんだ」
「「え、女性騎士?」」
テオドラとエミリアナの声がハモった。
グラシアン王国では女性騎士もいるが、貴婦人の護衛が主な仕事だ。スタンピードの討伐に参加するような飛竜部隊に女性騎士がいるとは思ってもみなかった。
「ああ、飛竜部隊は飛竜との相性次第だからね、女性騎士もそれなりにいる。
彼女はきゅうちゃんとお嬢サマが気になって送ってくれたんだ」
「え、わたし?」
エミリアナは首を傾げた。
飛竜の騎士がきゅうちゃんを気にするのはわかるが、エミリアナもとは謎だ。飛竜部隊の女性騎士に知り合いはいない。
「ああ、レアンドラ嬢はアーロンからお嬢サマのことを聞いて興味を持ったんだ。彼女はアーロンの従妹でね」
「・・・ということは、エミリアナとも従姉妹なのお?」
テオドラの言葉にエミリアナは両親の調査報告書を思い浮かべた。親族のことも載っていて、長兄一家は北方の小国で暮らしているとあったはずだ。
「サラサール家の長兄のご家族ですか?」
「ああ、長女だ。
母親が祖母の実家の子爵家の籍に迎え入れられたんだが、平民男性と再婚して彼女も子爵家から籍を抜いたそうだ。今は飛竜の騎士として士爵位を得ている御仁だ」
飛竜の騎士も通常の騎士と同じく一代限りの士爵位で、貴族の末席に連なっている。
「お嬢サマに会いたがっていたし、尾行相手のこともある。ギルドで会えるだろう」
ダニエルの言葉が終わらないうちに領都方面から土煙が上がって近づく馬車が見えてきた。
「初めてお目にかかります。ベルモン国にて飛竜部隊伝令副隊長を務めております、レアンドラ・フェルナンと申します」
「セルダ家次女、エミリアナです。この度はフェルナン様にもご助力いただいたとお聞きしました。誠にありがとう存じます」
レアンドラは小柄な女性だった。明るい金髪に新緑の瞳で騎士服よりもフリルやレースのドレスが似合いそうな可愛らしい容姿だ。
キリッと顔を引き締めて騎士の礼をとるが、ワンピース姿でカーテシーをするエミリアナ同様に違和感がいい勝負をしていそうである。
「私のことはどうかレアンドラとお呼びください。貴女のことはエミリアナ嬢とお呼びしても?」
「ええ、レアンドラ様。わたくしもそう呼ばれたいですわ」
暗にセルダ家の家名を拒否していると伝わったらしく、レアンドラの顔に同情の色が浮かぶ。
「アーロンから聞きました。大変な目に遭われているそうですね」
「姉やその婚約者の方がよくしてくれていますので、そうでもありませんわ。むしろ、周囲のほうが・・・」
エミリアナが顔を曇らせた。
フィデルとテオドラはギルドが手配してくれた医師の診察を受けている最中だ。エミリアナはいち早く診察を受けて、異常はないと判断された。数日くらいでたんこぶも治るだろうと言われている。
エミリアナがしょんぼりしていたら、そっと頭を撫でられた。レアンドラが優しく新緑の瞳を細めている。
「そう落ち込むことはない。エミリアナ嬢のせいではないのだから。周囲の者もわかっているから、君に従っているのだろう」
レアンドラは黙ってさえいれば深層のご令嬢らしく見えるのに、口調は見事に騎士のものだ。
彼女は早産で生まれたために幼少期は体が弱かったという。三歳まで領地で過ごしてそろそろ丈夫になってきたから王都のタウンハウスへ向かう話が出ていた頃に、冤罪事件が起きたそうだ。
両親と祖父母は王都入りの話し合いで領地にいて、末子ソフィアの冤罪に対処が遅れた。祖父母が慌ててソフィアを追いかけたが手遅れで、両親と弟たちはそれぞれ別離の道を選ぶしかなかった。
両親から話を聞いたというレアンドラにエミリアナは疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「レアンドラ様のご両親は離縁したと聞いています。母君の再婚相手は父君と似た容姿だったそうですが、もしかして?」
「ああ、想像通りだ。再婚相手は平民になった父だ。
父はサラサールの名を捨てて、闇商人から平民の籍を買い取ったそうだ。あまり、褒められた手段ではないが、王家の目を欺くためには仕方なかったと思っている」
「レアンドラ様のご両親も王家を警戒されていたのですね」
「当然だろう。ソフィア様には何も落ち度はなかったと聞いている。
ただ、ボンクラがアバズレに騙されたのをきっかけに政敵にしてやられたのさ。権力闘争で敗れた敗者は去り行くのみだ」
レアンドラが大仰に肩をすくめて見せた。
彼女は幼少期の虚弱体質改善で野山を走り回るような子供時代を過ごしたそうだ。令嬢らしく育てるよりも丈夫に成長するのを最優先にされた結果、見事な野生児に育った。
飛竜がいるベルモン国では女性でも飛竜の相棒に選ばれるから、女児でも活発に行動するのが推奨されている。祖国よりも水が合っていたらしい。
「両親には悪いが、私には今の暮らしのほうが性に合っている。
せっかく、士爵位を得たのだから、令嬢らしくしろと言われても、見てくれに騙されるような阿呆な配偶者はいらんし。
相棒と空を飛んでいるほうが楽しいからな」
レアンドラは今回のスタンピードで旧領主の一族を探す動きがあると告げてきた。もちろん、レアンドラは応じるつもりはない。両親や跡取りの弟も同意している。
アーロンと同じく、ブリオネス王家を信用できないからだ。
「アーロンにも言われたと思うが、君の血筋が確認されたらブリオネス王家が動くかもしれない。
私も微力ながら力になるから、何かあれば頼って欲しい」
「よろしいのですか? わたくしとはまだ会ったばかりですのに。
その、下手をすると、国際問題に巻き込まれるかもしれませんよ?」
アーロンと違ってレアンドラには貴族籍がある。貴族の義務とか責務を持ち出されては逆らえないはずだ。
「父は弟たちのことをずっと案じていたよ。
上の弟は無謀なところがあるから無茶な冒険者活動をしないか心配していたし、下の弟は持病があった。平民では薬が手に入らなくなるから完治させようとしたが、国内では足元を見られて治療費をふっかけられたそうだ。国外で治癒魔法を受けるつもりだったと聞いた。
お父上は国境で発作を起こして亡くなられたのだろう? きっと、突然のことで薬も治癒も間に合わなかったのだと思う。
父は弟たちのことを知ったら、落ち込むはずだ。そして、遺児である君の力になれと言ってくるだろう。
父の心の安寧のためと思えば、お安い御用だよ。
大体、スタンピードを起こすような無能に領地を任せておいて、その尻拭いを国外追放した一族にやらせようなんぞ、まともな貴族なら恥ずかしくて口には出せない。
ましてや、冤罪ではと噂されているのに、サラサール家に恩赦など出すから水面下では皆冤罪だと確信してしまったのだぞ。この上、スタンピード後の領地を押し付けるとか、恥の上塗りでしかない。
ブリオネス王家も他国の貴族からそんな指摘は受けたくないはずだ」
レアンドラはしれっとして宣った。いざとなったら、飛竜部隊伝令副隊長の座を利用して、大陸中に触れ回るつもりだと堂々と宣言している。
なんだか、カルサダ地方の住人に通じる強かさを感じて、エミリアナは苦笑するしかない。
「それでは、もしもの場合には頼りにさせてもらいますわ」
「ああ、任せてくれ」
レアンドラは嬉しそうに頷いた。
フィデルとテオドラの診察が終わった。打ち身や擦り傷はあるが、いずれも軽傷で問題はないと報告を受けて、エミリアナは安心した。
関係者が全員揃ったところにギルドマスターも加わって報告会が行われた。
フィデルが冒険者用の緊急連絡を使用しているし、警戒体制の中、セルダ領にはいないはずの魔獣が現れたのだ。お家騒動の結果だとしても、冒険者ギルドとしては見過ごせない。調査は必須だった。
まず、ギルドマスターが魔獣の報告者を読み上げた。
「セルダ家の馬車を襲った魔獣は『赤狼』、ベラスコ氏の推測通り、普段は鉱山地方にしか出現しません。これまで、セルダ領でも近隣の領地でも目撃例はありませんでした。
赤狼の四肢には擦過傷があり、鎖で繋がれていた模様。何者かが領外から運び込んだ可能性が高いでしょう」
続いて挙手したのはレアンドラだ。
「ベラスコ氏を緊急連絡発信地に送り届けた後に、全力で夜間走行する怪しい馬車を尾行しました。
領都郊外の一軒家に到着後、馬車から拘束された男性が連れ出されました。男性は弱っている様子でしたが、手荒に扱われており、緊急性を感じてギルドに応援要請を行いました。援軍が到着次第、突入して男性を保護、家内の者は全員捕えて警備隊の牢へ収容してもらっています。
男性は治療院へ運び込んで手当てをしてもらいました。男性はセルダ家の御者だと名乗っており、馬車が襲われて逃げ出したところを捕らえられたと証言しています。
拘束した相手はセルダ家門前で声をかけてきた警備兵たちだと言いますが、警備隊に照合したところ、該当者はなし。
警備兵を騙った偽物だと思われます。只今、警備隊で尋問中でいずれ報告があがるでしょう」
エミリアナは御者が無事だと聞いて、ほっとした。テオドラも顔を見合わせてきて安堵しているようだ。
次はフィデルが立ち上がった。
「御者が悲鳴を上げて逃げた後に馬が恐慌状態になって暴走しました。
獰猛な唸り声を確認したので、魔獣が現れた可能性が高いと思い、緊急連絡を発動。魔獣、赤狼に追いつかれて戦闘中にベラスコ氏の助力があり、赤狼を倒しました。
他の魔獣を寄せつけないために赤狼の遺骸を凍らせて保存しており、戦闘中に負わせた傷は頭部と肩の二箇所です。報告書の擦過傷とは別で無関係と思われます」
「ふむ、わかっていることは以上ですな。警備兵の偽物が白状すればもっと詳しいことが判明するでしょう」
ギルドマスターが顎を撫でて考え込んでいる。秘書が報告をまとめて書き上げると、確認してから頷いた。
「新しい事実が判明次第、ご連絡いたしますので、セルダ様はお邸に戻られてお休みください。
ベラスコ氏とフェルナン女史には調査にご協力いただけるとありがたいのだが・・・」
「ギルドからの依頼ならば構いませんよ。協力します」
ダニエルが了承すると、レアンドラも手をあげた。
「私は数日間休暇をとってこちらへ参りました。休暇期間内であれば協力はできます」
「おお、有難い。お二人とも依頼の形にして報酬はお支払いいたします。ギルドで宿を手配いたしますので、今日はそちらでお休みください。協力は明日からお願いいたします。
フェルナン女史の飛竜は馬場を貸し切ってそちらで休めるように手配いたしますが、いかがでしょう?」
「お気遣いありがとうございます。
私は構いませんが、馬たちは飛竜の匂いに怯えると思います。馬場は十日ほど清掃を繰り返してからでないと利用できなくなりますが、大丈夫でしょうか?」
レアンドラの問いにギルドマスターが頷く。
「ご心配は無用です。時折、冒険者が魔獣を生け取りにした時に使う場所ですので、馬への対策は心得ております」
「それならば、よろしくお願いいたします」
ギルドマスターが話をまとめたところで、フィデルが発言を求めた。
「師であるレイクス士爵より伝言がありました。
『セルダ邸には戻らずにライネス家が予約している宿に滞在すること』で、宿は手配済みです。ギルドで馬車と御者をお借りできればそちらへ移動したいと思います」
「もちろん、馬車と御者はご用意いたします。連絡先だけ控えさせてもらってよろしいでしょうか」
フィデルが目線でエミリアナに確認を求めてくる。エミリアナが頷くと、フィデルは連絡先を伝えた。ギルドマスターにだけ口頭で伝えたから、他者に知られることはない。
ライネス家から密かに護衛がつくし、セルダ邸の離れよりも安全対策はバッチリだ。
「それでは、ベラスコ氏とフェルナン女史には契約書をお持ちします。
セルダ様は馬車と御者の用意ができるまでこちらでお待ちください」
ギルドマスターが自ら動いて手配を行うつもりだ。秘書がお茶を淹れて配ってから後に続く。
身内だけになってから、エミリアナはほおっと深く息をついた。
「エミリ、アナお嬢様、お疲れですか。ギルド内には宿泊可能な貴人室もありますから、そちらで休めるように手配いたしますか?」
フィデルがレアンドラの手前、護衛モードで尋ねてくる。エミリアナはそっと首を横に振った。
「いいえ、大丈夫よ。イラリオ様の厚意で宿を手配してくれたのですもの。そちらで休むわ」
「それじゃあ、何かあれば連絡するけど、念のために合言葉でも決めておきますか」
ダニエルが提案してきた。
冒険者ギルドでも調査が始まってオクタビアが何か仕掛けてくる可能性は低いが、用心に越したことはない。
「合言葉か。我々以外には予想できないものがいいと思うぞ」
レアンドラも乗ってきて、ダニエルがドヤ顔で言い放つ。
「これでどうだ! 『きゅうちゃん』と言えば、『つぶらな瞳で愛らしくて可愛い』で」
「却下、長いです」
「私情が入りまくりですわねえ」
フィデルとテオドラから即座に反応が返る。レアンドラも頷いて自案を披露する。
「『きゅうちゃん』にかけているのだから、『飛竜の子供』でいいだろう」
「・・・捻りがなくない?」
「そのままですね」
今度はダニエルとフィデルから反論があがる。テオドラがエミリアナのほうを振り向いた。
「お嬢様は何がいいと思われますか? お嬢様がわかりやすいものがいいと思うのですけどお」
「え、ええっと、『きゅうちゃん』と言えば、『クッキー』でいいんじゃないかな」
「なるほど、きゅうちゃんの好物を知っているのはここにいるメンバーだけだしな」
フィデルが納得の声を上げてダニエルも頷いている。レアンドラがダニエルに尋ねてきた。
「きゅうちゃんはクッキーを食べるのか?
好物をとるようになると、成長が早いからな。今のうちに寝床や休息場所を確保しておいたほうがいいぞ。飛竜は大体一年で成竜になるからな」
「へえ、一年で成人するのか。早いなあ〜、寂しくなってしまうよ」
「成竜になっても主人と離れることはないから、案じることは何もないぞ。食欲も落ちついてくるから、そう大量に食べなくなるし」
二人で飛竜談義になってしまって、合言葉は忘れられたようだ。
テオドラが呆れたようにため息をつく。
「あの二人、カオスだわあ〜。見た目は美女と麗しいご令嬢なのに、会話はヤンチャな男児がしそうな話題だし。
見た目と会話のギャップさがすごいのだけどお〜」
「・・・まあ、二人とも楽しそうだから、いいのではないかしら」
エミリアナが最後に無難にまとめて、合言葉は『きゅうちゃん』と『クッキー』に決まった。
ライネス家が手配した宿は最高級ホテルで、エミリアナがメイドに扮してルイシーナと会った場所でもあった。
ここの警備の厳しさはよくわかっているから、エミリアナは安堵した。オクタビアが侯爵夫人の肩書を振りかざしても、権力に屈することはない。顧客のほうを守ってくれるはずだ。
エミリアナは最上階の応接室でくつろいでいたが、顔色は悪い。お茶を淹れたテオドラが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ねえ、少しベッドで横になって休んだほうがいいんじゃない? 昨日から色々とあったもの、疲れてしまったのよお」
「うん、そうだね。でも、お姉様のことを思うと心配で・・・」
「お姉様ってルイシーナ様のこと? さすがに実子には何もしないと思うけど。イラリオ様もそばについておられるし、安全だと思うわよ?」
「ううん、お姉様が侯爵夫人の仕業を知ったらショックを受けるかもって思って。
冒険者ギルドが動いているから、なかったことにはできないし、内内で収められればよかったのにって思ってしまうの。
テオドラたちも危ない目に遭ったのに、こんなこと考えて悪いと思うのだけど・・・」
「気にしないのよお、あんたのせいじゃないって言ってるでしょお?
それにルイシーナ様が心配っていうのはわかるわあ。あたしもルイシーナ様にはよくしてもらってるから、なるべく傷付いてほしくないって思うもの。
でも、夫人のしたことは犯罪行為だし、見逃せないわよお。
ダニエルさんが間に合わなかったら、フィデルも危なかったかもしれない。もし、あたしたちがやられてしまったら、あの魔獣が野放しになってもっと被害がでたわ。
犯人たちはいち早く退散して安全な領都に向かってしまったのだもの。あの魔獣を止める相手なんていなかったでしょう」
「・・・そうだね」
エミリアナは力なく頷いた。確かにテオドラの言う通りだ。
テオドラがあやすようにポンポンと背中を叩いてきた。
「ルイシーナ様なら大丈夫よお、イラリオ様がついているんだから。
それより、あんたは自分の面倒をみなさいな。誰かさんが心配するから休んだほうがいいわよ?」
誰かさんとはフィデルのことだ。彼はホテル側と警備の打ち合わせに出向いていた。フィデルがいない間は扉の前にホテルの警備員がついていて、このフロアには部外者は立ち入り禁止にしている。
「フィデルが戻ってきたら声をかけるから、休んでいなさいな」
再度、テオドラに促されて、エミリアナは寝室で横になることにした。




