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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第四章 冒険者のエミリアナ

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三十七幕

第四章開始します。

 ルカスは不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。

 スタンピードの影響で警戒体制をとる中、貴族学園から例年よりも実習を早めると通知がきた。娘のルイシーナからも連絡がきて、母の代わりを務めるとある。それ自体はありがたいことだった。

 緊急非常事態だというのに、オクタビアは体調不良を訴えて自室に引きこもっている。全く役には立たない。

 オクタビアが投げだした備蓄管理を部下のオルギン男爵に任せたが、引き継ぎもない状態で苦労しているようだ。

 正直なところ、ルイシーナが女主人の仕事を引き受けてくれるのは助かるのだが、婿入り予定のイラリオも一緒で当主の補佐をするのには苦々しく思った。


 イラリオには専属の従者の他に護衛も付き従い、彼のほうが警護が厳重で当主らしい境遇である。繋ぎの当主と見られるのを何よりも嫌うルカスには面白くなかった。

 だが、エミリアナの誘拐未遂騒動でセルダ家の使用人の忠誠心のなさが露呈してしまった。素行調査をしたものの、セルダ家の使用人に全幅の信頼は置けないと暗に匂わされては苦言など口にはできなかった。

 イラリオには騒動を収めてもらった借りもあるのだ。

 事後承諾になったが、ルカスが王都に戻った時には全て片がついていて、適切に処理されていた。内密な話という前置きで、犯人のメイドがオクタビア付きの侍女に唆されたと知らされて、思わずルカスは動揺を隠せなかった。

 まさか、カルロスの仮婚約者なのに、エミリアナを排除しようとするとは予想もしなかった。いくら、庶子を認めていないとはいえ、王家との縁を台無しにしようとは妻は何を考えているのか。


 貴族ならば己の感情よりも自家の利益を優先すべきだろう。


 ルカスは妻の所業を忌々しく思った。しかも、妻の愚行のせいでイラリオは婿入り前からセルダ家内を掌握済みだ。エミリアナの専属護衛も勝手に決められて、ライネス家所属の騎士だというではないか。


 ルカスは挨拶に訪れた従騎士を思い出して、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 南国諸島に多い黒髪赤目で目つきの鋭い青年だった。冒険者をしていてレイクス士爵に気に入られて従騎士に抜擢されたという。

 レイクス士爵はイラリオの筆頭護衛騎士だ。養子にとるほど気にいるとは腕っぷしは確かなようだが、万が一にでもエミリアナと何かあっては困る。

 苦言を呈すルカスにレイクス士爵は実に爽やかに宣った。


「ご心配には及びません。弟子は重度のシスコンでして。妹(のような相手)以外には見向きもしませんから」

「・・・そうか」

 それはそれで問題なのでは?と思ったものの、ライネス家の厚意を無下にはできずにルカスは承諾するしかなかった。

 それもエミリアナの仮婚約が成約するまでの辛抱だ、とルカスは思い直した。スタンピードのせいで延期になってしまったが、国王夫妻から重大な話があると呼び出されていたのだ。

 きっと、正式にエミリアナがカルロスの婚約者に選ばれたに違いない。

 ルカスは己の野心が満たされていくのを想像して不満を抑え込んでいた。




「え、冒険者登録?」

 エミリアナが目をぱちくりとさせた。 


 姉に冒険者ギルドを始めとする各ギルドとの調整役を任されて数回ほど会合を開いたが、何も問題はなく上手くいっている。どうやら、領都の冒険者ギルドの職員が以前フィデルに迷惑行為をしたとかで、ギルドには負い目があったらしい。

 フィデルは護衛としてエミリアナの背後に控えているだけだ。何も発言力はないのだが、彼の赤い目で睨まれるとギルド職員は青くなっていた。

 冒険者ギルドが丁重な対応をしてくれるので、他のギルドでもエミリアナが年若い令嬢だからとみくびられることはなかった。一応、第三王子の仮婚約者の立場も考慮されているようで、今のところ各ギルドマスターたちは紳士的な振る舞いをしている。


「冒険者登録は犯罪歴がなければ誰でもできるんだ。身分証目当てに登録する者も結構いる。

 他のギルドよりも登録料も安く、条件も緩いからな」

 フィデルの説明によると、商業ギルドでは商売の基礎知識試験があったり、職人ギルドでは見習い先や雇い主からの推薦状が必要だったりと様々な審査付きだそうだ。

 その代わりに仕入れの値引きや材料を優先的に確保できたりと特典もあるから、審査は厳しくなるそうだが。


「エミリはいずれ平民になる予定なんだし、今から身分証を得ておいても構わないだろう。

 それに、侯爵令嬢が登録するとなると、領都の冒険者ギルドも箔が付いて鼻が高いはずだ。心象もよくなって、俺の睨みがなくても要望が通りやすいと思うぞ」

「でも、貴族として登録しておいて後から平民になるとかできるの?」

「身分証は発行元から身元保障される証だが、冒険者ギルドの場合、犯罪歴がないという保障だけだ。身分に関してはノータッチだから問題ない。

 それに身分証には本名で登録するが、訳ありで冒険者になる者もいるからな。別枠で通り名の登録も認められていて、通り名を変更するのも可能だ。

 ギルド職員には守秘義務があって、通り名登録者の本名を明かしたりできないようになっている。個人情報は保護されるはずなんだ。

 本名も婚姻や養子縁組で姓が変わった場合に変更が義務付けられている。貴族名で登録後に没落したり、貴族籍から抜けても同様だ。

 エミリアナ・セルダで登録しても、エミリアナ・ベルティに戻ってから変更を申し出れば大丈夫だ」

「へえ、そうなんだ。フィデルは相変わらず物知りだね。頼もしいなあ」

 エミリアナがにこにこと嬉しそうに褒めてくる。フィデルはガシガシと黒髪の頭を掻いた。


「いや、これくらいは市井で暮らしていれば、誰でも知っていることだぞ?」

「その誰でも知っている知識が欠けているのよお。エミリアナは貴族令嬢の知識しかないんだからあ〜」

 テオドラがため息混じりに口を挟んでくる。

 エミリアナはテオドラに後ろ盾もなく平民になる危険性を説かれたことを思い出した。エミリアナは何も気にしていなかったが、今になればテオドラの言う通りだったなと実感するばかりだ。


「テオドラ〜、ありがとう! やっぱり、テオドラは頼りになるね」

「え、な、何よお?」

 急にエミリアナに抱きつかれてテオドラは目を白黒させた。エミリアナはすりすりと猫のように頭を擦り付けてくる。

「うん、前にテオドラが言った通りだったなって思って。

 わたしの考えがいかに甘かったか、反省したとこ。テオドラが教えてくれて感謝してるよ」

「ふ、ふふん。そうでしょお。大親友のテオドラ様は頼りになるのよお」

 テオドラが顔をにやけさせて得意げになっている。フィデルはジト目になった。


「おい、エミリの常識のなさがわかっていたなら、もっと早くから矯正できただろう?

 お付きになってから何やってたんだよ、お前は」

「はああああっ⁉︎ 何よお、あんた、ケンカ売ってんのお?

 あたしはね、メイドに見習い料理人で忙しかったのよお。新しいプリンもおねだりされて、試行錯誤して大変だったんだからあ!」

「・・・新作プリンは他の料理人に手伝ってもらってただろうが。

 それに、料理人の仕事優先で構わないと、メイドの仕事はモニカさんに調整してもらっているくせに何をほざいてやがる」

「なあんですってえ!」

「なんだよ」

「ああ、もう二人とも落ちついてよお。相変わらずなんだから・・・。

 マルコスの苦労が身に染みるようだよ」

 エミリアナがため息混じりに愚痴る。

「ふん、まあ、いいわ。エミリアナに免じて許してやるわよおだ」

「・・・それはこっちのセリフだ」

 テオドラとフィデルはジト目で睨み合いつつ、一応は休戦宣言だ。エミリアナはやれやれと肩をすくめて天を仰いだ。


 エミリアナはお忍び用のワンピース姿で冒険者ギルドへ出向いた。フィデルの提案で冒険者登録をするのだが、貴族とわからないように変装しているつもりだ。

 馬車も家紋がない辻馬車に似た質素なものを用意してもらった。テオドラとフィデルもそれぞれ私服で付き従う。

 テオドラはエミリアナとよく似た色違いのワンピースだが、生地がもっと安くて薄いものだ。フィデルは冒険者用の軽装で剣を携帯してもおかしくない格好だった。

 エミリアナはフィデルが連絡を入れていたので、二階の応接室にすぐに通された。ギルドマスターが揉み手をするかのごとく、満面の笑みでお出迎えだ。


「これはこれはセルダ様、我がギルドで身分証発行をお望みいただき、誠にありがとうございます。

 さあ、こちらで手続きをいたしますので、どうぞお掛けください」

 すでに登録用紙やギルドカード発行の魔術具も用意されていた。

 エミリアナが用意周到さに戸惑っていたら、テオドラにそっと耳打ちされた。

「一応、気遣ってくれてるみたいよお。若い女性が登録してると、ナンパ野郎が寄ってきたりするらしいから」

「そうなんだ」

 エミリアナも小声で返して、ギルドマスターの厚意に甘えることにした。

 エミリアナがナンパに遭ったら、相手が氷漬けにされる予想しかない。ギルドの受付で等身大の氷像ができたら迷惑だろう。


 エミリアナが記入を終えると、登録用紙は水盆に浮かべられた。上から手をかざして魔力を注ぐように指示される。

 言う通りにしたら、用紙が沈んですぐに浮かび上がった。銀色のカードに変化していて、これが冒険者カードだと言われた。

 エミリアナがしげしげと見つめていたら、ギルドマスターが使用上の注意事項を述べてきた。本人の魔力を基に作られたから偽造は不可能で、失くした場合の再発行には倍の手数料がかかる。

 カードに全ての活動が記録されて昇級すると等級に応じた色の縁取りが現れるそうだ。今はF級で縁取りなしだ。

 E級から黄色・橙・赤・茶・金・黒と変化すると説明された。


「S級が黒になるのですね」

 ブラックカードだあとエミリアナは夢の知識を思い浮かべた。

 S級となると高給とりだから、あながち間違いではない認識であろう。

「市井に馴染まれるために身分証をお作りになられるとは、当ギルドとしては誠に光栄でございます。どうか、ご領主様にはよろしくお伝えください」

「ええ、お世話になりましたわ。貴重な体験ができて嬉しゅうございました。父や次期当主の姉によく伝えておきますわね」

 エミリアナが社交辞令の笑みを浮かべて応じる。冒険者登録を済ませて、エミリアナたちは早々に辞去することにした。


 エミリアナがせっかくだから何か簡単な依頼でも受けたいと言い出したが、テオドラとフィデルの二人から却下された。

 今はダンジョンの警戒で忙しない時だ。荒くれ者もギルドに出入りしていたりするから、絡まれると厄介なことになると言われては大人しく引き下がるしかない。

 エミリアナがしょんぼりとなっていたら、フィデルに頭を撫でられた。


「そうしょげるな、エミリ。平民になってからでも遅くないだろう? 俺が付き添うから、一緒に依頼を受けよう。

 ああ、パーティーを組んでもいいかもな」

「でも、フィデルは護衛任務が終わったらB級に上がるでしょう。初心者のわたしとは差がありすぎるよ」

「上級になると、初心者の指導も行ったりするから問題はない。俺のいないところで危険な目に遭ったりしたら、俺の心臓は止まるぞ?

 俺のことを思うなら、ずっと一緒にいてくれ」

「ちょっおおおおっと、二人だけの雰囲気を作らないでくれるう? あたしがいるのを忘れないでよねえ」

 テオドラがぶすうと膨れて会話に割り込んできた。帰りの馬車内で他に人目がないから、エミリアナもフィデルも気が緩んでいる。

 フィデルがちっと舌打ちした。

「二人だけの時間が取れる機会なんてそうはないんだ。少しは遠慮して目をつぶってろよ」

「お嬢様付きのメイドとしては聞けない相談ねえ」

 またもや、二人でばちばちとやり合っていると、馬車が急停止して御者の怒った声が聞こえた。


「おい、門を開けてくれ。エミリアナ様のお帰りだぞ、どうして閉じたままなんだ」

「不審者を通らせるわけにはいかない。痛い目を見ないうちに引き返すんだな」

 御者がやり取りしている相手は門番だ。家紋つきではないが、御者の顔を見ればセルダ家の馬車とわかるはずなのにおかしな対応だった。

 エミリアナが首を傾げて、テオドラとフィデルも顔を見合わせて厳しい顔つきになる。

 フィデルが御者席の小窓を開けて声をかけた。


「一体、どうしたのだ。なぜ、門番は不審者扱いするんだ?」

「それが知らない顔でして。新入りが入ったなんて話は聞いていないのですが・・・」

 御者の戸惑った声にフィデルが顔をしかめた。

「お嬢様、確かめてまいりますので、馬車からは決してお出にならぬよう。

 テオドラ、お嬢様を頼む」

 護衛モードのフィデルにテオドラが頷き、エミリアナも表情を引き締める。

 フィデルは馬車から降りると、さりげなく剣の柄に手を置いていつでも抜ける構えだ。


「お忍びで出かけられたエミリアナ様のお戻りだ。門を開けよ」

「エミリアナ様? 誰だ、それは。

 奥様から閉門して誰も通すなと言われているのだ。部外者はさっさと去れ」

「奥方様はご病気で混乱なさっているのだろう。執事に確認を取ればわかる。エミリアナ様がお戻りだと伝えてくれ」

「だから、エミリアナなんて知らんわ。領主様以外、誰も通すなと命じられたのだ。

 お嬢様とご婚約者様は視察先に滞在なさるから本日お戻りになるのは領主様だけだ。

 おかしな言い掛かりはやめてくれ。あまり、しつこいと警備隊を呼ぶぞ」

「これを見てもそう言えるのか?

 私はライネス家の所属騎士だ。ルイシーナ様の婚約者イラリオ様の配下だぞ、閉め出される覚えはない」

 フィデルが懐から徽章を取り出した。ライネス家の紋章が象られていて、所属騎士の証だ。

 しかし、門番は鼻で笑い飛ばした。


「はっ、そんなもん偽装したかもしれんだろう。信用なんぞできるか」

 門番は頑固者だった。御者がオロオロと困った顔をして、フィデルは剣呑に目を細めた。

「確認を取れと言っているだろう。貴様、クビになりたいのか?」

「わしは奥様の遠縁だぞ、貴様なんぞ若造がクビにできるわけあるかい!」

 門番が強気に胸を張る。フィデルはちっと舌打ちした。

 オクタビアの嫌がらせでエミリアナを締め出すつもりだと気づいたのだ。

 フィデルが門番を締め上げるかと強硬手段を取ろうとしたら、わらわらと警備兵が数人湧いてでた。


「おおい、何を騒いでいるんだ。ご領主様のお邸前で不敬だぞ!」

「おお、ちょうどいいところに。

 こいつら、不審者だ。お邸に押し入ろうとしてるんだ。しょっぴいてくれ!」

 門番の掛け声に警備兵が馬車を取り囲んだ。フィデルが剣を抜こうとするが、エミリアナから待ったがかかった。

「フィデル! 待ってちょうだい。誤解なんだから、相手を傷つけてはだめ。

 警備隊の隊長さんに説明すればわかってもらえるはずよ。きっと、邸に遣いをだしてくれると思うから、ここは彼らに従いましょう」

「・・・かしこまりました。お嬢様の仰せのままに」

 フィデルが渋々と矛先を収めて馬車に戻った。警備兵の先導で馬車は警備隊の詰め所に案内される。


「ああ、もう、なんて地味な嫌がらせなのかしらあ。

 お貴族様って食事に毒を盛るとか、刺客を差し向けるとか、陰湿な真似をするもんじゃないのお?」

「陰謀小説の読みすぎよ、テオドラ。

 今日はお姉様もイラリオ様もいないし、侯爵様も遅くなるからいい機会だと思われたのでしょうね」

 はあっとエミリアナがため息をつく。

 オクタビアに嫌われているのは知っていたが、表立っては何も仕掛けてこないからすっかり油断していた。まさか、こんな地味な嫌がらせをしてくるなんて、まるで子供の癇癪のようだ。


「・・・二人とも気を引き締めてくれ。街中ではなくて外へ向かっているようだぞ」

 窓の外を注視していたフィデルが警告してきて、テオドラもエミリアナも顔を強張らせた。

「おい、この道であっているのか? このままだと郊外に出てしまうだろう」

「それが隊長さんが郊外に出向いているそうでして・・・」

 フィデルが御者席に話しかけると、御者も訝しげだ。

「しばらくは様子見するが、二人とも念の為に護身具の用意だけはしておいてくれ」


 フィデルも装備を確認しながら指示してくる。エミリアナは学園でも身につけていた護身具をバックから取り出し、テオドラもメイド用に配られている痴漢撃退スプレーを懐に忍ばせた。

 三人とも緊張して外を見ていると、馬車は人気のない方向にと進んでいく。

 完全に郊外に出て街灯もない真っ暗な道を先導の明かりだけを頼りにしていると、不意に明かりが消えた。御者が馬車を止めると、叫び声を上げて逃げてしまった。グルルルウと獰猛な唸り声が聞こえて、馬が暴れ出した。

 馬車は御者を失って暴走状態になる。


「二人とも何かに捕まってろ! 馬を凍らせて馬車を止める」

 フィデルが窓から腕を伸ばして馬に向けた。一瞬で冷気が押し寄せてきて馬の氷像ができるが、馬車の勢いは止まらない。横倒しになってから、ようやく馬車は止まった。

「いったああああ・・・」

「二人とも大丈夫かっ?」

 窓枠に叩きつけられたエミリアナはフィデルに助け起こされた。テオドラと座席の肘掛けに捕まっていたはずなのに、倒れた衝撃で思いきり横に飛ばされた。頭をぶつけてしまって視界がクラクラする。


「テオドラ、エミリを頼む。どうやら、敵さんがお出ましだ」

 フィデルがエミリアナから手を離した。エミリアナの視界が回復する前に馬車から飛び出してしまう。

「テオドラ、何が起こってるの?」

「・・・魔獣ではないと思いたいわね。何か獰猛な獣がいるみたい。

 フィデルの足手纏いにならないようにあたしたちは馬車に隠れているしかないわ」

 エミリアナが額を抑えている間にも獣の唸り声と何かの破壊音がしていた。フィデルが戦っているのだと気づいて、エミリアナは青くなった。


「どうしよう・・・、わたしのせいでフィデルが・・・」

「あんたのせいじゃないわよ。フィデルはB級間近の冒険者なんだから信じて待ってなさいな」

 テオドラがエミリアナを支えてくれるが、彼女の体も微かに震えていた。二人で護身具を手に抱き合っていると、ギャンと悲痛な鳴き声がして周囲が静かになった。

「フィデル、大丈夫かな」

「きっと、大丈夫よ」

 小声で囁いていると、馬車のドアから誰かが覗き込んできた。月明かりを反射する金髪の頭で、フィデルではない。 


「おおい、お嬢さん方、大丈夫かい?

 フィデルから緊急連絡が来たと思ったら、魔獣に襲われてるとか。シャレにならんのだが」

「え、ダニエルさん?」

 エミリアナが聞き覚えのある声に顔をあげた。にかっと中性的な美貌の持ち主が豪快に笑っている。

「はいはい、ダニエルさんですよ。いやあ、アーロンから手紙の配達頼まれて先に戻ってきたんだけど・・・。

 エミリアナお嬢サマ、面倒事に巻き込まれていますねえ」

「フィデルは? ねえ、フィデルは無事なの?」

 人を食ったような返答はスルーだ。エミリアナが泣きそうな声を上げると、ダニエルの顔が消えた。彼を押し除けて、黒髪が覗く。


「フィデル!」

「ああ、大丈夫だ、エミリは無事か?」

「うん、ちょっとクラクラするけど、平気。フィデルも大丈夫?」

「おい、こら、後輩。先輩を足蹴にするとはいい度胸だな?」

「足蹴にはしていませんが? 手でのけただけでしょう」

「どっちも同じだろ!」

 緊張感の抜けたやり取りにエミリアナも力が抜けた。すうっと目の前が暗くなっていく。

「え、エミリアナ? ちょっと、大丈夫なの?」

 テオドラの焦った声を最後にエミリアナは気を失ってしまった。

第四章で終了予定です。もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。


いつもお読みいただきありがとうございます。

ギルドカードの色の部分を変更しました。

(変更前)黄色・橙・赤・銀・金・黒 → (変更後)黄色・橙・赤・茶・金・黒

銀色のカードに銀の縁取りはナシだな、と思い直しまして。系統を揃えて茶色にしました。

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